隠れ家喫茶ゆるふわ(凍結中)   作:ハマの珍人

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 近ごろ寒くなってきましたね。
投稿してない間にお気に入りが増えてびっくりしております。ありがとうございます。
 ただ、投稿した途端に減ったりするので、期待に応えられるよう頑張ります。

 いまだに『新着感想』が来ると、「あぁ、今度は何がダメだったのかな?」とビビる筆者ですが、感想お待ちしております!


京都土産と言えば生八ツ橋と木刀

「えっと……あぁ、こっちかな?」

 

 清水寺を出発し、スマホの地図アプリを頼りに案内通りに京都の街中を進む。

今回は迷うわけにはいかないので、珍しく地図アプリを使っている。コレを使えば方向音痴の俺でも迷わずに目的地に行ける。ドヤァ

 

「いや、そう思うならいつも使えよ」

 

 と、奈緒さんから鋭いツッコミが入る。

 

「だっていつもはそんなに急いでないし」

 

 それに――

 

「歩いていればいつかはたどり着くだろう」キリッ

 

「優也ってバカだよなぁ~」

 

 奈緒さんの会心の一撃! クリティカルヒット!

おう、ちょっと下半身がガクガクするわ。言霊って本当にあるんだな。

 だって、目的地が海外ならともかく、日本だったら歩いていればいつかは着くでしょう? 北海道は青函トンネル通れば行けるだろうし、四国は瀬戸大橋とか明石海峡大橋とかあるし……沖縄は……あ~

 

「ごめんなさい、沖縄県をなめていました」

 

「いきなりどうした!?」

 

 沖縄県さんマジ半端ないっすわ~。いや、人間の限界を思い知りましたね。世界なんて見据えている場合じゃない。我々の第一歩は沖縄県からだ!

 

 

 まぁ、冗談はさておき今は京都観光である。

京都土産といえば、まず何を思い浮かべるだろうか?

 まず、八ツ橋だろう。

ただ、この『八ツ橋』は本来焼き上げるお菓子で、みんなが想像するもちもちした生地で餡子が包まれているものは『生』八ツ橋というのが正確らしい。

 スタンダードなニッキと餡子から、抹茶やチョコ、変わったものだとラムネやブルーベリー、マンゴーなどもあるらしい。和菓子も異文化化しているのだろうか。

 

 次に宇治茶。京都府、奈良県、滋賀県、三重県の一府四県で収穫されたお茶を京都の宇治の製法に則って加工されたもので、静岡茶、狭山茶と並び日本三大茶とも呼ばれているらしい。

 その宇治茶を使用したお菓子もお土産として人気らしい。

 

 他には、新撰組グッズも人気だとか。お馴染みの浅葱色にだんだら模様に誠の文字。鬼の副長もまさか自分たちの羽織や旗印が遠い未来に人気グッズになるとは思わないだろう。なんというか、複雑だろう。

 

「あ、奈緒さん。木刀売ってるよ?」

 

「買わないからな!」

 

 お土産屋さんで木刀を見つけ、奈緒さんに報告するも、ばっさり断られた。

 

 ――え? 買わないんですか……?――

 

「いや、なんだよ。その『買わないんですか?』って目は!」

 

 ――おやおや、顔に出てましたか。僕の悪い癖――

 

「いや、奈緒さんならなんとなくで買うかなぁっと思ったんだけどね?」

 

「っ! か、買わないからな!」

 

「木刀はいいよ~。振れるし、差せるし、(身を)護れるし」

 

「いや、どんだけ勧めたいんだよ!?」

 

 隣でご主人がうんうん頷いている。

 

「まぁ、洞爺湖って書いてないんだけどね」

 

「……書いてあったって買わないよ!」

 

 ――えぇ~、本当でござるかぁ? 今の間はなんでござる?――

 

まぁ、木刀でいじる(意味深)のはこれくらいにしておこうかな。

 

「じゃあ、この羽織、試着してみません? 奈緒さんの今の髪型的に合いそうな気がするんですけど!」

 

「な、なんか今日の優也、積極的すぎないか?」

 

 今日の俺は、積極的だ! 一発で買わせてやんよ!

 

 

「女には新撰組なんて無理だと言われながらも、男所帯でメキメキと力をつけていき、隊長の一角に成り上がった新撰組の紅一点、刀とツッコミのキレが冴えわたる、女剣士、神谷奈緒……ってとこでいかがでしょう?」

 

「ま、まぁ悪くないな! うん。悪くない」

 

 ――ちょろ~ん――

 

 口ではそう言いながらも、まんざらでもないご様子。

ご主人に許可を取って、木刀を渡すと、ポーズまでとってくれる始末である。もちろん撮影しましたとも。

 

「買ってしまった」ズーン

 

 修学旅行の不思議なテンションってスゴいよね~。

冷静に考えたらいらないものでも、行ったことない場所でってだけで買ってしまうんだから。

 

「ついでに凛さんと加蓮さんのも買えばいいのに」

 

「んなことしたらいじられるだろ!」

 

 そうかなぁ。確かにいじられるとは思うけど、加蓮さん次第じゃないかなぁ?

加蓮さんを上手くのせること出来れば、あとは凛さんを押しきるだけだし……

 

「てか、優也も買ったんだな」

 

「藍子の分も買っちゃった」

 

「はぁ!? 藍子着るのか?」

 

 奈緒さんが驚き半分、呆れ半分で聞いてきた。

 

「まぁ、着て欲しいという願望かな。これ着て、朝寝てるところに『御用改めです!』って来て欲しい!」

 

「お、おう……お前の妄想もそうなんだけど、藍子のサイズを把握しているお前がヤバイな」

 

 奈緒さんが引いている気がするけど、気にしない。

 

 ――あ~、改められてぇ~――

 

「ん? でもさ、新撰組って、法度破ったら、切腹だよな?」

 

 たしか、士道不覚悟ってことで切腹だったね。だから隊士の1番多い死因はソレだったとか。

 でも――

 

「恋人に隠し事は不要! 腹割って話すべきだろう」

 

「腹割って話すどころか、腹切って物言えなくなってんぞ!? 男らしい以前にお前の愛は重すぎる!」

 

 いやぁ、奈緒さんのツッコミは刃こぼれ知らずだね。時々こうやって試し斬りすることでさらに冴えわたるんだよね。

 

「じゃあ、藍子にもそれを強要するのか?」

 

「ばっ、お前さんよ。バカ言っちゃあいけないよ! 藍子のあのすべすべのお腹にどうして傷がつけられよう。それなら代わりに俺が腹割るわ!」

 

 かの新撰組の隊長の一人、原田左之助も酒の席で腹を切ったものの、生きていたらしい(諸説あり)俺も原田左之助になれば出来ないことはない。

 出来ないことはないんだ!

 

「待て、なぜ藍子の腹がすべすべしていることを知っているんだ?」

 

「……」

 

「おい!」

 

「さて、少し時間かかってしまいましたが、目的地はここじゃないんですよ。では、着いてきてくださいね~」

 

「おい! 答えろよ!」

 

 やれやれ、修学旅行の謎のテンションは余計なことまでしゃべってしまう。やっかいなヤツだ。

 

 ちなみに移動中に先ほどの画像を加蓮さんに送っておいた。どんな反応が返ってくるか楽しみだ。

 けして仕返しとかじゃないからね?

 

 

 

「あ、ここです……ね」

 

 うん。話には聞いていたけど、これは予想外。

 

「あぁ。やっぱりここだったのか」

 

 奈緒さんは奈緒さんで気づいていたようだし……

 

「いや、京都に仕事で来たことあったし。その時にな」

 

 ――なんとぉ!? 知ってて俺を弄んだというのか――

 

「弄んでないからな!? お前が目的地言わなかっただけだから! それで途中で気づいたけど黙ってだけだし」

 

 ――えぇ~。本当でござるかぁ?――

 

「本当にこのテンションなんだよ! 面倒くさいなぁ」

 

 まぁ、冗談はさておき――

 

「なんか想像と違うんだけど……」

 

 目的地――塩見さんの実家の和菓子屋に来たんだけど……

 

「いや、ここ周子さんの実家で間違いないぞ」

 

 和菓子屋っていうから、和菓子をメインに売りつつ、誕生日ケーキも承りますよ~、っていう町のお菓子屋さん的なのを想像してたのに、目の前にあるのは、『老舗、創業○○年』って感じの純和菓子屋だった。

 

「奈緒さん、帰りましょうか……」

 

「はぁ!? いやいや、何しに来たんだよ!?」

 

 俺の提案に驚きの声を上げる。まぁ、ごもっともだよね。方向音痴が地図アプリまで使って目的地に来たのに目的も果たさずに帰るなんて。

 

「いや、お土産買うついでに塩見さんのご両親にご挨拶でもと思ったんですけどね……」

 

 さすがにこれは予想外。菓子折に黄金色の菓子を仕込まないと失礼にあたるレベルなのではないだろうか……

 

「いや、気持ちは分かるけどさ……とりあえず挨拶は別の機会にしてお土産だけでも買ってくべきだろ」

 

 というか、お前は他にご挨拶に行くべきところがあるだろうとつっこまれたが、聞かなかったことにした。

 

 

「おろ、お2人さんいらっしゃ~い」

 

 店内に入ると、見覚えのある人物が出迎えてくれた。

 

「あれ? 塩見さん? どうしてここに?」

 

 料理教室の生徒であり、先ほどまで話題にあがっていた塩見周子その人である。

 

「だってここ、あたしの実家だし」

 

 まぁ、そうなんだけどさ……仕事はいいのかな?

 

「あぁ、昨日こっちの仕事でしたっけ?」

 

「そうそう。いやぁ~、始発だったから大変だったよ~」

 

「大変でしょうね。紗枝とプロデューサーさんが」

 

「おっと、手厳しい~」

 

 2人の会話が理解できず首をかしげていると――

 

「おっと、川嶋君がついてこれてないねぇ」

 

 ごめんごめんと謝る塩見さん。 

 

「あたしと紗枝はん――小早川紗枝ちゃんのユニット、『羽衣小町』は知ってるかな?」

 

「えっと~……」

 

 必死に思い出そうとする俺を見て、奈緒さんは深くため息をついた。

 

「知らないか~」

 

「すみません」

 

 たははと笑う塩見さんに謝る。

まだ勉強が足りないなぁ。

 

「こいつ、藍子関係以外のユニットは知らないからなぁ~」

 

 奈緒さんがニヤニヤしながら塩見に告げた。

どうやら先ほどお土産屋さんで弄ったお返しのようだ。

 

「へぇ~、ふ~ん」

 

 塩見さんもニヤニヤと意味ありげな笑顔を浮かべながらチラチラと俺を見てきた。

 とりあえず、こんなことにならないようにちゃんと他のアイドルのことも勉強しようと思った。

 

「周子~、店の中で何騒いどるん?」

 

 と、お店の奥から色白、黒髪の女性が出てきた。

どこか塩見さんの面影がある女性だ。もしかして――

 

「あら? お友達?」

 

「こちら同じアイドルの神谷奈緒ちゃん」

 

「こ、こんにちは」

 

「あら? 前回もお会いしましたねぇ」

 

「は、はい」

 

 奈緒さんとは面識があるようだ。さっき来たことあるって言ってたし、そういうことだろう。

 

「それでこちらが――」

 

「あら? あらあら?」

 

 塩見さんが俺を紹介しようというタイミングでその女性は俺をまじまじと見つめる。それは360度グルッと。

 そして――

 

「お父さ~ん、お父さん。周子が男の子連れてきたわよ~」

 

 お父さんを呼んだ――って!?

 

「その呼び方は……」

 

 誤解を招きますと続けようとしたが

 

「……」ズーン

 

 遅かった。暖簾をくぐって入ってきたるはいかにも職人といった風貌の気難しそうな方だった。

 

「「!?」」

 

 ほら、奈緒さんなんか涙目だよ。もうプレッシャーがはんぱないもの。

 ハハッ、先にトイレに行っておけば良かった。

 

「立ち話もなんですし、お上がりください」ズーン

 

「は、はぃ」

 

 何故だろう。歓迎されてるんだよね? 死刑宣告にしか聞こえないんだけど。

 とりあえず、塩見さんの案内で客間に通された。

 

「どうするんだよ?」

 

「正直に言うしかないよね? 帰りたい~」

 

「なんかゴメン」

 

 お父さんを待つ間3人でひそひそと話す。

これ、明らかに俺被害者だよね!? 俺に非はないよね!?

 

 ガラッ

 

「「「!?」」」ビクッ

 

「お待たせしてすみません」ズーン

 

 何故だろう。言ってることと醸し出す空気がここまで合ってないってのは……本当におなか痛くなってきた。

 

「自己紹介がまだでしたなぁ。周子の父です」ズーン

 

 ただの自己紹介のはずなのに、首に刀突きつけられているような感覚に陥る。事故照会じゃないよね?

 

「はじめまして……川嶋優也と申します」

 

 のどの渇きを覚えながらもなんとか言葉を紡ぐ。

頭を下げたのは良いが、正直あげたくない。目の前の人物と相対するのが怖い。

 まるで品定めするような視線が刺さる。

 

「それで? うちの娘とはどういった関係で?」ズーン

 

「おと「周子は黙っとき!」……はい」

 

 塩見さんの助け船も一喝で沈められた。

塩見さんは黙って下を向いた。

これで塩見さんの援助は期待できない。奈緒さんが口を挟むことも当然ながら許されないだろう。

と、すれば俺自身が説明するしかないのだが――

 

 ――関係を説明するのは楽なのだが、果たして信じていただけるか――

 

 俺が喫茶店のバイトで、346プロで料理教室の講師をしているのは事実。それは奈緒さんも塩見さんも知っていること。

 でも、塩見さんのお父さんはそんなことを知らない。

先ほどの説明で『塩見さんを誑かしたどこの馬の骨か分からん若造』としか思っていないだろう。第一印象からして最悪だ。それを説明出来るのはプロデューサーさんだけ。だけど――

 

 ――そんな都合のいいミラクルは起きないよなぁ――

 

「黙っとっても分かれまへんえ?」ズーン

 

 痺れを切らしたお父さんからの追撃がくる。

腹をくくるしかないかぁ~。俺は悪くないのになぁ~。

 

「えっと、お父s「君にお父さんと呼ばれる筋合いはない!」…はい」

 

 お決まりなんだけど、泣きそう……心折れるわ。

 

「塩見さんのお父さん、信じていただけるかどうか分かりませんが、聞いていただけますか?」

 

 真実を語るために塩見さんのお父さんの目を真っ向から見据える。絶対に視線は離さない。

 

「実は」

 

 ガラッ

 

「こんにちは~って、川嶋君、何しとんの?」

 

 せっかくの覚悟を決めたタイミングでやってきたのは羽衣Pさんだった。

 

 

 

 

「いやぁ、川嶋君も災難やったなぁ~」

 

「もう帰りたい……」

 

 羽衣Pさんの運転するレンタカーの車中、Pさんは爆笑してるけど、俺は気が気じゃなかった。

 結局、Pさんのおかげで疑いは晴れ、塩見さんのご両親(お姉さんだと思った女性はお母さんだったらしい)にも謝られ、お土産とともに、

 

「これからも娘をよろしく」

 

 と言われた。うん。料理教室でって意味だよね。分かってますとも。

 

「あたしも生きた心地がしなかったんだけど」

 

 奈緒さんも後部座席で膨れていた。

まぁ、奈緒さんは完全なとばっちりだもんね。

 

「俺のおかげで助かったんやから、感謝してや~」

 

 事実なんだけど、完全な冤罪だからなんともなぁ~。

 

「ありがとうございます」

 

 でも、ホテルの近くまでは乗せてくれるので、そのことに関しては感謝する。

 

「ところで優也。今さらだけど、班の人と連絡とらなくて良いの?」

 

「とりあえず、ホテルの近くで落ち合うことにはなってるから」

 

「じゃあ、あたしの班と一緒か」

 

 あ、もう一つ忘れてた。

 

「奈緒さん、夜に少し時間もらえるかな?」

 

「……はぁ!?」

 

 奈緒さんがかなり驚いていた。

 

「おいおい、夜這い宣言かぁ? 川嶋君もやり手やのぉ~」

 

 あ、そっちの意味でとられた!?

 

「いや、『あのこと』を説明しなくちゃなぁって」

 

「あ、あぁ。そうだな。分かった」

 

 もう一つ腹をくくらなきゃいけない案件があった。

最も、それを行うためには様々な問題をクリアしなければいけないんだけど……仕込みはあるし、あとは時を待つだけだ。

 

 

 




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