隠れ家喫茶ゆるふわ(凍結中)   作:ハマの珍人

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 天国と地獄
温泉ガチャにて、無事にあーちゃんを無課金で引けました。
 なお、デレフェスは連敗記録更新中。
あーちゃんに愛され(?)フェスに散々嫌われている私です。

 さて、一夜明けて、です。どうぞ


兄と義姉と

 まだ空が白む頃、珍しく目が覚めた。

10月にもなると、朝晩の冷え込みで目覚めることはあったのだが……今日に限っては寒くて起きるということは無かった。

 

「よかった。寝てるみたいだ」

 

 隣で寝ている藍子を見て、自然と笑みがこぼれる。

最近では泊まりに来ることに躊躇(または遠慮?)がなくなったのか頻繁に泊まるようになった。

 最初のうちはアイドルがそんなことでいいのかと言って説得したこともあったが、最近は諦めている。

 ……もっとも、一番最初に泊めたのは俺だけれど、やむを得ない事情であったと言い訳しておく。

 そんなこともあり、自分の中では最後の抵抗、というか防護線のつもりで寝具を購入して(未希用の布団しか無かったので)同衾だけは断固阻止していたのだが……

 

 ――気づいたら同じ布団の中にいるんだよなぁ――

 

 毎回注意しようとは思うものの、藍子の寝顔を見ると、まぁいいかと思ってしまう。

 

「すぅ~、すぅ~」

 

 規則正しい寝息と穏やかな寝顔。柔らかそうな頬。

 

 ――触りたい――

 

 ちょっとしたいたずら心が頭をもたげてくる。

でも、忙しい中でのゆっくり出来る時に俺のワガママのせいで起こしてしまうのも申し訳ない。

 

 ――この寝顔を見られるだけでも幸せだしなぁ――

 

 ファンも知らないであろう彼女の寝顔をじっくり眺める。

 しかし、なんでだろう。人が寝ているのを見ると、眠くなってしまうのは。朝早かったのもあるだろうけど、寝ている時の藍子のゆるふわオーラは2倍、いや3倍くらいある気がする。

 

 ――今日はバイト休みだけど……藍子はオフなんだっけ?――

 

 昨夜は修学旅行の思い出話から始まり、卯月さんとの長電話の件、奈緒さんとの行動の件を問われ、包み隠さず話した。

 俺に非があったので、謝罪し、俺にとっての藍子の重要性を語り、お土産(新選組の羽織と、塩見さんに勧められた京雑貨)を渡し、御用改めしてもらった。

 で、そのまま寝てしまったわけだけど……

 

 ――泊まったってことは少なくとも午前中はオフなんだよな。とにかく、朝食を……作らな……きゃ……――

 

 睡魔さんとゆるふわオーラに襲われ、意識を刈りとられた。

 

 

 

 

 ガチャガチャ

 

『開かない……ってことは留守かな? 修学旅行から帰ってきたって聞いたから来たんだけどなぁ~。鍵~、鍵~。じゃじゃーん』

 

 ガチャリ

 

『おっ邪魔しま~す! ってあれ? 靴あるじゃん! ん? 女物の靴? 誰か来てるのかな?』

 

「ん~……」

 

 藍子の寝顔を見ながら二度寝してしまった。

時間は……あちゃー、8時半だよ。朝食の準備しなきゃ……

 

 ガタン

 

「ん?」

 

 物音が聞こえ、辺りを見渡す。何か落ちたのかと思ったけど、何も落ちてはいないようだ。

 藍子は……

 

「すぅ~、すぅ~」

 

 うん、まだ夢の世界にいるみたいだね。静かな寝息をたてている。そっとしておこう。

 他の部屋の物が落ちているかもしれない。藍子を起こさないようにベッドを抜け出す。温もりが名残惜しいけど、気になるしね。

 

 ドアを静かに開け、廊下に出る。さて、原因は――

 

「お兄ちゃ~ん!!」バビューン

 

「ドベラァッ!?」ドスッ!!

 

 不意打ちも不意打ち、軽車両に轢かれたかの衝撃を受けた。……轢かれたことはないけど。

 

「み、未希……来たのか」

 

 いつかと同じ様に俺の腰にしがみつく未希。そして、いつかと同じ様な後頭部の痛み。

 

「うん! 修学旅行から帰って来たって聞いたから来たよ!」

 

 嬉しそうに報告しながら、俺の腹に頭をゴシゴシこすりつけてくる。その癖、抜けないかなぁ~。

 

「で、兄ちゃんに何か言うことないかな?」

 

 ニッコリと笑って尋ねる。頭ごなしに怒っちゃいけない。大丈夫、悪いことしたら謝ることが出来る子だから。

 

「お土産ちょうだい♪」

 

 ニッコリ笑って両手を差し出す未希。

うん。タイミングが悪かっただけだよな。

 

「他に言うこと、ないかなぁ~?」

 

「あ、そうだよね」

 

 お、気づいたか。そうそう、お土産要求する前に言うことがあるよね。

 

「お帰りなさい、お兄~ちゃん♪」

 

 手を後ろで組んでにこやかに言った。ポイントは少し首をかしげているところだろう。

 

「うん、そうだね。そうだけどちょっと違うかな~」

 

 確かにそれも言うべきことだけど、他にあるんだよね。さぁ、考えてみよう。

 

「うーん……あ!」

 

 やっと思い当たったのか、明るい顔をしてポンと手を打つ。そう、それだよ。さぁ、口に出してみよう。

 

「妹にしがみつかれて嬉しいんだろ? 変態兄貴」

 

「もちろんさ!」グッ(サムズアップ)

 

 そうそう、兄貴を罵ること――

 

「って、ちっがーう! 兄ちゃんにいきなり飛びついたら危ないでしょうに!」

 

 そもそも、そんな言葉遣いどこで覚えたのさ! 兄ちゃんはそんな子に育てた覚えは……多少……わずかながら……ない……とは言えない。

 

「でも、お兄ちゃんは嬉しいんでしょ?」

 

「まぁ、うん」

 

「じゃあ良いじゃん」

 

 7つも下の妹に言いくるめられてしまった。

最近、口でも勝てなくなってきたなぁ~。

 

「あ、ところでお兄ちゃん」

 

 さっきまでのにこやかな笑顔とは違い、笑顔には笑顔なのだが、どこか背中がゾクッとするような笑顔を浮かべる未希。

 これはヤバい。例えるなら、お説教前の藍子が浮かべる、有無を言わせない様な笑顔である。

この笑顔の時に言われることはろくなことにならないのだ。

 

「さっきげ――」

 

「未希、朝食まだだろ? 今日はたまには外で食べないか? 朝からや「人の話を聞きなさい」はい……」

 

 話をきりだされる前に何とか話題を変えてこの場を離れようとしたが失敗した。

 未希の背筋が凍る一言に、俺は押し黙るしかなかった。

 

「で、玄関に置いてあった女物の靴。誰の?」

 

 さて、どうごまかすかなぁ。これが傘とか帽子なら『この間、友達が来て忘れていったんだよ』で済むけど、靴はなぁ~。まず靴を忘れる人はいない。履いてきたなら履いて帰るのが当たり前だし。酔っぱらいぐらいだよな、たぶん。

 かといって、『俺の私物だよ』なんてごまかそうものならガチの蔑みが待っている。さすがにそこまでしたくないし。

 本当のことを話すのはいろいろ騒がしくなるから無理。

 『友達が来てる』ことにしてなんとか上手く隠し通すか? 無謀だけど1番安パイな気がする。これでいくか。

 

「未希、実はな――」

 

「優也くん?」

 

「「あ」」

 

 間が悪いことにごまかそうとしたタイミングで俺の部屋のドアが開いて、寝ぼけ眼の藍子が出てきてしまった。

 しかも、着ている私服ならまだなんとかごまかしようがあったかもしれないが、可愛らしい(ここ重要)パジャマである。

 まだ未希の存在に気づいていないのか、目をこすりながらトテ、トテ、とおぼつかない足取りでこちらに歩いてきて――

 

 ポスン

 

「えへへ~」

 

 俺の背中にしがみつき、にへらと笑う。え、何このかわいい生物。

 

「すぅ~」

 

「うそっ!?」

 

 安心したのかまさかの寝落ちに、藍子が崩れ落ちる前に咄嗟に支えた。

 

「未希~、未希さんや~」

 

「はっ!」

 

 目の前で起きた光景に頭が処理しきれなかったのか、フリーズしてしまった未希に声をかけ、復帰させる。

 

「な「あ、起きると悪いので、小声でお願いします」んであーちゃんがいるの?」ヒッソー

 

「えっと……話せば長くなるんだけど、とりあえず部屋のドア開けてもらえるかな?」

 

 こうなったら正直に話すほかないのだけど、まずは藍子をベッドに寝かせてあげたい。俺も少しキツいし。

 いや、藍子が重いということは決してない。

時に、意識の無い人を運ぼうとしたことがあるだろうか? 『運ばれてたまるか!』とばかりに力を入れている人より運びにくいのだ。

 よく、マンガとかで気絶した人がいたのでお姫さまだっこして運ぶというのがあるが、無理せずに担架を使って運ぶべきだ。

 とにかく、藍子が重いなんていうことはない! むしろもう少し食べてほしいんだが……。まぁ、そんなこと言うと、藍子はもちろん他の人にも怒られてしまうんだけどね。

 

 

「さて、じゃあお兄ちゃん? 何か言い残すことはあるかな?」

 

「待って、いきなり死刑宣告はおかしいから」

 

 藍子をベッドに寝かせ、未希を伴ってリビングにて事の顛末を話す……はずだったんだけど……

 

「あ、そうだった。それで、お兄ちゃんとあーちゃんはどういう関係なの? 明らかにただの友達じゃあないよね?」

 

 ――妹の追求が怖い。信じられるか? これで小4なんだぜ?――

 

「えっと……まぁ、恋人同士……です」

 

「ギルティ!」

 

「待って!」

 

 ――早い、早すぎるよ! 裁判でももう少し内容を明らかにするだろう――

 

「疑わしきは処刑せよ! だよ、お兄ちゃん」

 

「中世の魔女裁判じゃないぞ!」

 

「もっともお兄ちゃんの場合、真っ黒も真っ黒なんだけど」

 

 事実だけに何も言い返せなかった。

 

「じゃあ、鎌倉に来たときにはもう?」

 

「うん」

 

「そっかぁ」

 

 腕を組んでニコニコしている未希。うん。後ろにトラが見える気がする。

 

「ところでお兄ちゃん、あたしおなか減ったなぁ~」

 

 朝ごはん食べないで来ちゃったからなぁ~、と言いながらチラッ、チラッとこちらに目線を送ってくる。

 まぁ、時間も時間だし、作ろうと思っていたから別に構わないが……まぁ、口止め料代わりになるか分からないが作るとしよう。それでも足りなきゃ、買い物なりなんなり付き合ってやるさ。

 

「んじゃ、朝飯作るから少々お待ちください」

 

「40秒で支度しな!」

 

 昨日のロードショーの影響を受けたであろうセリフをぶちまける。

 

「無茶言わさんな。40秒じゃトーストすら焼けねぇよ」

 

「そのくらいの意識でやってってことだよ!」

 

「へいへい」

 

 片手をひらひらさせて返事して準備をする。

 

 

 

 side 藍子

 

 目が覚めたら、優也くんのベッドでした。

まぁ、お泊まりしたので、それは当たり前なんだけど……

 

「今何時だろう?」

 

 置き時計を確認すると、9時近くだった。

今日はオフだから気が抜けてたのかな。少し寝坊だ。

隣を見ると、優也くんもいないし……。

 休みの日の優也くんは起きる時間がバラバラ。朝早く起きる日もあれば、お昼近くまで寝ているときもある。

今日は前者の方みたい。

 

「優也くんに運ばれた気がしたんだけどなぁ~」

 

 夢なのか現実なのか分からないけど、優也くんに運ばれてベッドに寝たような気がする。気のせいだろうか。

 寝起きの頭で考えながら着替えをして、洗面所で軽く身支度を整える。

 

「おはようございま~す」

 

「あ、あーちゃん。おはよう」

 

「あ、未希ちゃん。久し、ぶ、り」

 

 どうしよう、どうしよう、どうしよう。

お泊まりして起きたら、彼の妹、未希ちゃんとはち合わせしちゃった。

 

 きっと私の顔は青ざめてひどい状態だったのだろう。

 

「あーちゃん、落ち着いて。はい、深呼吸」

 

 吸って~、吐いて~と未希ちゃんの掛け声にしたがって深呼吸する。

 ちなみに優也くんは朝食の準備でこっちに気づいてないみたい。

 

「落ち着いた?」

 

「はい……未希ちゃん、実は」

 

 意を決して、真実を告げようとすると、

 

「あ、お兄ちゃんに聞いてるよ」

 

「……え?」

 

 張り詰めた空気と、私の決心があっという間に萎んで霧散していく。

 

「鎌倉に来たときには、恋人同士だったんだね」

 

「ごめんなさい……」

 

 隠していて、という意味と、大好きなお兄ちゃんを盗ってしまって、という意味を込めて謝る。

 

「ええっと、その……」

 

「?」

 

 何か言いたそうにしている未希ちゃんだけど、目線が泳いでいる。どうしたのだろう。

 

「私ね、お姉ちゃんが欲しかったの。あ、お兄ちゃんに不満があるわけじゃないけどね。

 でも、女同士じゃないと分からないこととかあるしさ。だから、あーちゃんがお兄ちゃんの恋人って聞いて嬉しいんだ」

 

 そう言うと、姿勢を正して、私の目を見て――

 

「お兄ちゃんのこと、よろしくお願いします」

 

 ハッキリ言って、頭を下げた。

 

「っ! はい! こちらこそよろしくお願いします」

 

 嬉しくて、思わず涙が出そうになった。

 

「それと、私のこともよろしくね。お義姉ちゃん」

 

 今度はいたずらっぽく笑って告げたのだった。 




 リアルが忙しく、残業、休日出勤のオンパレード。
出来る限り書きますが、ただでさえ遅い更新がさらに遅れるかもしれません。
 とりあえず、2週に1回のペースで上げていくつもりです。
 待っていてくださる方(いますかね?)には申し訳ないですが、ご容赦、ご了承いただければと思います。

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