隠れ家喫茶ゆるふわ(凍結中)   作:ハマの珍人

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 とりあえず、文化祭の話。
修学旅行と文化祭ってどっちが先なんですかね?


文化祭は準備期間が1番楽しい

 街路樹のイチョウやらなんやらが色づいてきて、秋の深まりを感じる今日この頃。

 

 ――過ごしやすい季節が春と秋って言われるけど、近年はどちらも短く感じるんだよなぁ――

 

 温暖化の影響か、年々気温が上がり続けている気さえしてくる夏。5月あたりから暖かい日が続くと思えば、いつ入っていつ明けたかすら定かでない梅雨を通り越し、夏の甲子園が終わり、お盆も明け、夏休みすら終わったのに我が物顔で居座り続ける夏。

 ようやく気が済んだのか気温が下がり始め、山々が色づき始め、秋が来た。

 と思いきや『あれ? まだ早かったかな?』とでもいうようにやけに寒くなり、雪が降り始め、冬が来る。

 

 ――童謡で『ちょっと待って冬』ってあるけど、ここ近年、まさしくそれだよなぁ――

 

「――ってことで、川嶋。いいよな?」

 

「うん。いいと思うよ」

 

 危ない危ない。『外の景色見てて、話聞いてませんでした』なんて言っていられない。なんて言ったって文化祭の出し物の話し合いだ。なんとしても出し物を決めておかねばならない。

うちの学校では、指定された期間までに出し物が決まらなかった場合、入場ゲートや掲示物の作成、混雑時の誘導などの雑務をしなければいけないのだ。

 

 ――というわけで、出し物を決める大事な会議なわけなんだけど――

 

 生返事をしてしまったため、出し物が何なのか分かっていない。黒板に書いている文字を目で追う。

 

 ――お、喫茶店かぁ。どうやら池田の目論見の半分は成功したんだなぁ。『メイド』の部分は猛反対にあったのかカットされているけど、まぁ当たり前だよ……――

 

「はぁ!?」ガタッ

 

 思わず立ち上がる。

 

「どうしたんだよ?」

 

 クラスメイトから訝しげな視線が集まる。

いや、だって……

 

「え? どういうこと?」

 

「いや、さっき返事したじゃんよ」

 

 そこには『責任者 川嶋優也』という信じられない文字が羅列していたのだから。

 

「え、さっきのってコレだったの?」

 

「他に何があるんだよ?」

 

 えぇ~、てっきり出し物のことを聞かれたと思っていたよ。マジかぁ……

 抗議したところで多勢に無勢、しかも1度は返事をしてしまっているので、強く出ることは出来ない。

 

「先生、とりあえず決まりました」

 

 と、進行役が隅の方に座って、腕を組んでいた御館様に声をかける。……あれ? 御館様寝てないよね? 目を閉じてたけど、精神統一か何かだよね?

 

「ん……あぁ。決まったか」

 

 目を開け、黒板を一瞥。

 

「問題ないな」

 

 ――これ、俺の名前だけ見て判断したんじゃないよね?――

 

 とりあえず、出し物と責任者、各担当と担当リーダーを決めて今日の会議はお開きとなった。

 

 

「そろそろハロウィンだなぁ」

 

 洗い物をしていると、マスターが1人呟く。

 

「そーですね」

 

「ハロウィンといえば?」

 

「かぼちゃですか?」

 

 安易なイメージだけど。それか仮装? でもコスプレという意味ではもはやハロウィンに限定されてないし……

 

「というわけで、ハロウィンっぽいメニューが何かほしい」

 

 ざっくばらんなイメージで要求された。

 

「つまり、カボチャ使った何かってこと?」

 

 それならカボチャのプリンとかタルト、少し変化球だと栗の代わりにカボチャを使ったモンブランとかか?

 でも、斬新さはないよな……。

 

「またはハロウィンっぽいイベントやりたい」

 

 ハロウィンっぽいイベント? 例えばジャック・オ・ランタン作るとか? くりぬいた中身をスイーツとかに使えば一石二鳥だけど……。

 

「またはいたずらしたい!!」

 

「おまわりさん、こっちです!」

 

 明らかに他の2つに比べてコレが本音だよな!?

 

「そもそも俺らがお菓子準備する側だからな!?」

 

 大の大人がお菓子を要求するんじゃないよ!

しかもお菓子をあげなければ待っているのはおっさんのイタズラとかいうトラウマものの事案案件とか冗談じゃないよな。

 

「槙ちゃんあたりなら準備してくれそうじゃないかな?」

 

 どうでも良いことだが、修学旅行から戻ってくると、マスターは槙原さんのことを『槙ちゃん』と呼ぶようになっていた。何があったんだろうな。まぁ、いいや。

 

「アンタのせいで槙原さんがバイト辞めることがあったら、セクハラとパワハラで訴えたあとに姐さんにチクってやる!」

 

「すんませんした!」

 

 ハハッ、汚い土下座だ。

 

「とりあえず、メニューなんかを考えていただいたら幸いです」

 

「お、おう」

 

 

 

「お疲れさまです」

 

「あ、お疲れさま」

 

 346プロダクションのカフェで響子さんとの打ち合わせ。

 

「そろそろハロウィンですねぇ」

 

「事務所ではハロウィンに何かするの?」

 

 こう、アイドルがお化けっぽい衣装になってライブを行ったりとか……

 

「ちっちゃい子もたくさんいますから、みんなお菓子を持参してきますね」

 

「万が一足りなかったら……」

 

「それは……イタズラですね」

 

 あぁ、マスターが求めていた理想郷がここにあったよ。絶対に教えないけれど。

 

「主に愛海ちゃんと麗奈ちゃん、莉嘉ちゃんが率先して――」

 

 おい、中学生2人と高校生が何やってんだ!

前者2人がイタズラをする時点で、早苗さん案件と化すだろう。

 

 

 ちなみに早苗さんとは、初対面が最悪だった(ストーカーと勘違いされた)ために偶然プロダクションの廊下で会ったときはかなり、かな~り警戒された。

 誤解が解けたあとは、普通に気の良いお姉さん(けして言えと言われているわけではない)だ。

 

 小関麗奈は料理教室の際に何度かイタズラ(こっそりとわさびを入れたり)してくるが、勝手に自爆(本当はわさび入りのものを彼女のものとすり替えている)している。

 

 棟方愛海は……うん。目に毒だ。彼女自身がではないとだけ言っておこう。

 

 城ヶ崎莉嘉は美嘉さんの妹で、自称カリスマJCだ。

美嘉さんは自分の目標であり、憧れであり、自慢なんだとか。

 普通だったら、劣等感を感じるだろうところを胸を張って自分の事のように誇らしくいることは、すごいことだと俺は思う。

 

 

「とりあえず、お菓子は切らさないでおこう」

 

「そうですね」

 

 愛梨さんやかな子さんはかなり人気なんですよ、と教えてくれた。噂には聞いているけど、さすが346のパティシエール。

 

「意外なところだと周子さんや杏ちゃんも人気なんですよ」

 

 え? 塩見さんはともかく、双葉も!?

 

「あ、意外そうな顔しましたね?」

 

 このおしゃべりな顔を何とかしてほしい。

切実にそう思う。

 

「お2人とも、面倒見がいいですし、お菓子も持ち歩いてますから」

 

「あ~……」

 

 納得した。主に後者が。

 

「話題がそれちゃいましたね」

 

 ペロッと舌を出す響子さん。

 

「ハロウィン、ハロウィン……グループを4つくらいに分けて、それぞれがお菓子を作ってシェアするとか?」

 

 ありきたりではあるけどね。

 

「それもいいかもしれませんね」

 

 ただそうすると、俺たち2人じゃ見きれないわけで――

 

「三村さんと十時さんにも来てもらえないかなぁ」

 

 十時さんとは認識がないけど、どうにかお願いできないかな……

 

「どうでしょう……一応予定確認してみますね」

 

「ありがとう。俺の方も、お菓子の候補絞っておくね」

 

 こうして俺の忙しい日々が始まってしまった。

 

 

 

 

「――であるからして~」

 

 ガンッ

 

「ぐっ!」

 

 頭に衝撃と鈍い痛みが来る。

 

「起きたか? 川嶋」

 

「……はい」

 

 バインダーの角を見事につむじにクリーンヒットさせた御館様はこちらを見やる。

 

「責任者になって忙しいのは分かるが、居眠りは関心しないな。あとで職員室に来い。いいな?」

 

「…はい」

 

 御館様に促され、顔を洗った後、授業に復帰した。

 

 

 

「他の先生からも同様の報告を受けているのだが、居眠りが多すぎるぞ」

 

「すみません……」

 

 昼休み、昼食前に職員室に行き、御館様からお叱りを受ける。

 

「そんなに大変なら他の奴らを上手く使って割り振れ。責任者とは言え、全部を引き受けることはないのだから」

 

「はい……」

 

 御館様は嘆息し、頭を掻いた。

 

「俺も、他の先生も、お前だから心配しているんだ。他のヤツらなら、説教して終わりだ。その辺のことは分かってほしい」

 

「はい」

 

「行って良し」

 

 失礼しました、と職員室を後にした。

 

 

 

 

「――や! 優也!」

 

「はい!」

 

 少しぼーっとしていたようだ。

 

「大丈夫か?」

 

「うん」

 

「5番テーブル、あがったぞ」

 

 出来上がった料理を持って()()()()()()に――

 

「お待たせいたしました、こちらミートソーススパゲッティになります」

 

「え? 頼んでないですけど……」

 

「え?」

 

 あれ? さっきマスターは2番テーブルって……

 

「失礼いたしました。こちらハニートーストになりますっ」

 

 すかさず槙原さんが頼まれていたであろう料理を運んでくる。

 

「優也くん、そのお料理は5番テーブルですよ」

 

 小声で訂正され、急ぎ5番テーブルに運ぶ。

 

「大変お待たせいたしました。こちらミートソーススパゲッティになります」

 

 

「優也、大丈夫か? オーダーミスなんて入ったばっかりの時以来だけど……」

 

「……え?」

 

 戻ってきた俺の顔を見て、マスターはため息1つ。

 

「とりあえず、洗い物しててくれ」

 

「はい……あ」ツルッ

 

 パリン

 

手を滑らせて、コップを割ってしまう。

 

「……休憩入れ」

 

「すみません……」

 

 学校でも怒られ、バイトでも凡ミスで迷惑をかけてしまった。

 

 

 

「優也さん……大丈夫ですか?」

 

 響子さんが不安そうな声で聞いてくる。

 

「うん、大丈夫。問題ないよ」

 

 心配をかけないように務めて明るく返事する。

 

「あの……それは観葉植物ですよ?」

 

「……あれ?」

 

 響子さんの方に向き直る。

 

「って、すごいクマですよ!? ちゃんと寝てないんじゃ……」

 

 まぁ、夜に文化祭でできるメニュー考えたり、ハロウィンメニュー考えたり、お菓子考えたりしてるからなぁ……

 

 

「大丈夫大丈夫、人間3時間寝られれば大丈夫って何かで言ってたし」

 

「さ……それ、全然大丈夫じゃないですよ!!」

 

 両手で俺の頬をパンッとはさみ(地味に痛い)、顔を固定してこちらを見る響子さんの眉が吊り上がる。

 

「ちゃんと寝ないと、いざという時に倒れちゃうんですからねっ!」

 

「あ、はい……」

 

 って、近い! 近いんですけど!! この子多分怒ってるからそっちに意識がいって気づいてないだろうけど、端から見たらコレ、キスする何秒前ってところじゃないか!?

 俺の葛藤をつゆ知らず、響子さんのお説教は続く。

知り合い(未央さんや加蓮さんあたり)が来る前になんとか――

 

 

「ゆうやおにーさん、クマ飼ってるんでごぜーますか?」

 

 幼い声が聞こえ、そちらに目線をやる――

 

「あ、仁奈ちゃん。こんにちは」

 

「こんにちはでごぜーます」

 

 着ぐるみガールの仁奈ちゃんだった。今日はウサギの着ぐるみのようで、ぺこっと頭を下げると、ウサギの耳と彼女の長い髪が垂れ下がった。

 

「ゆうやおにーさん、クマ飼ってるんでごぜーますか? 仁奈にも見せてくだせー」

 

 彼女が思っているクマって、おそらく黄色くて、ハチミツ大好きなおっとり系のクマなんだろうな。

 実際の凶暴なクマや、はては――

 

「ほら、お兄さんの目の下に黒いクマが2匹寝そべってるんだよ」

 

 こんなクマとは思わないだろう。

 

「クマでごぜーますか? おにーさんの目の下が黒くて、パンダみてーでごぜーます」

 

「確かにこれじゃあパンダだねぇ」

 

 仁奈ちゃんと2人でけらけら笑う。

 

「とにかく、ちゃんと寝ないと大変な事になるんですからねっ!」

 

 仁奈ちゃんのおかげで毒気を抜かれたのか、響子さんのお説教は終了し、仕事の時間らしく、去って行った。

 

「響子おねーさん、何をおこってたんでごぜーますか?」

 

「お兄さんがちゃんと寝ないからだよ」

 

「寝ないとダメでごぜーます、大きくなれないでごぜーますよ!」

 

「そうだねぇ」

 

 十分大きいんだけどね、と思いながら仁奈ちゃんの頭を着ぐるみ越しに撫でる。

 その後、レッスンがあるらしく、仁奈ちゃんも去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

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