リアルで忙しかったり、事故って車おじゃんにしちゃったりいろいろありまして、執筆スピードが遅れてしまってます。スミマセン。
拓海姐さん――向井拓海と出会ったのは俺が中学生だった時。一般的に反抗期真っ只中なのに加え、親父に対してはかなり反抗していた。年ごろの女性が
「お父さんと一緒に洗濯しないで!!」
って言うけど、俺の場合は同じ空間で空気を吸いたくないレベルだ。
それに加え学校ではあることないこと噂された。面倒なので、詳細は割愛する。気分のいい内容では無いしね。
そんなわけで気持ちが荒んでいた。学校に行きたくないと思ったこともあったが、登下校時は運転手の送迎だ。
これに関しても羨望と嫉妬が混ざったような眼差しで見られもしたが、実際はそんないい物ではない。
登校時には予習と家庭教師からの宿題をこなし、下校時には家庭教師とのレッスン。まるで監獄だった。
送迎なので、遅刻は当然無く、欠席も許されない。
何度『車が故障すればいいのに』と願ったことだろう。
唯一の抜け道は早退だった。
仮病を使って、度々早退した。運転手には
「今日は迎えはいらない」
と言っておけば、杜撰な彼のことだ。1回分の仕事をしなくてすむと喜ぶだろう。
その日も早退して当てもなくブラブラ歩いていた。制服で歩いていると補導されるかもと思い、ジャージに見せかけて持ち込んでいた私服に着がえている。
「はらへった……」
そう言えば何も食べていなかった。とりあえず近くのコンビニで弁当か何かを買おうと思い、ポケットの中の財布を握りしめる。
かーどじゃないのかって? 社長の子供だからってみんながみんなカードを使うわけじゃない。もちろん野口さんもいらっしゃるし、小銭も持っている。カードなんて、WA○N、nanac○、P○ntaとかでいいんじゃないか?
おっと……
コンビニの駐車場でいかにもたむろってますよ~感を出している集団が。
――あちゃー……今日は厄日か――
複数のバイクに特効服。絵に描いたような暴走族だった。
別に偏見は持っていないんだけど、俺の見た目からしてケンカを吹っ掛けられることもしばしば。円滑に揉め事を回避するために野口さんや樋口さん。時には福沢さんにも移籍してもらったこともあった。
――今日のお財布には野口さんが何人いたっけかなぁ――
早くも移籍することになる野口さんのことを考えると、気が重くなった。とりあえずバレないように気配を消して通り抜けよう。
「なぁ、お前」
はい、無理でした。さらば野口さん。あなたの犠牲で私は今日も生きていきます。
振り返ると、目を引く黒髪ストレート、勝ち気な目、さらしを巻いてはいるが、しっかりと主張している一部分。
「ずいぶんシケた面してるな。ま、座れよ」
これが拓海姐さん、向井拓海との初遭遇だった。
※
「いやぁ、あん時の中坊が立派になったなぁ」バシバシ
あの後、店内での混乱を防ぐため、3人を引き連れ準備用に間借りしていた教室に引っ込んだ。もちろんクラスの連中がいたが、とりあえず静かにしてもらった。
「あ、あの、拓海姐さん。痛いっす。それとそのセリフおば「なんか言ったか?」いえ! 何にもありません!」
おおぅ、さすが元特攻隊長で現アイドル。笑顔で威圧して黙らせるとは……。
まぁ、拓海姐さんがアイドル活動していることも驚きなんだけどね。
「拓海ちゃん。笑顔が怖いよ? ほら、口角上げてスマイルスマイルっ!」ニコ~
さすがユウ。映る写真が大体笑顔なだけあって様になっている。
「拓海さん。笑顔ですよっ!」ニコッ
そして、我が愛しの妹も一緒に笑顔を浮かべる。
ああっ、これだけで今年の文化祭は大成功だと言えよう。
「こ、こうか?」ニコォー!!
おぅ……何故笑顔なのに青筋立てているんですかね。
『生たくみんのたくみんスマイルだぞ』ヒソヒソ
『ありがたや~、ありがたや~』ヒソヒソ
一部では好評らしい。ってか拝むな。
『ってか、あっちは夕美ちゃんだよな?』ヒソヒソ
『何で川嶋といるんだ?』ヒソヒソ
『何でも川嶋くんと夕美ちゃんが姉弟だとか』ヒソヒソ
『それも両親の連れ子同士だってさ』ヒソヒソ
『ヒュー、マンガみたいなこともあるんだな』ヒソヒソ
あらら。ユウが言った嘘話が事実として語られちゃってるし。収拾つかなくなるぞ~。
『たくみんとの関係は?』ヒソヒソ
『舎弟じゃないか?』ヒソヒソ
『こっちが実の姉弟だったりして』ヒソヒソ
おぉい、火のないところから大炎上しそうなんだけど!?
『あっちの女の子は?』ヒソヒソ
『アイドル候補かな?』ヒソヒソ
俺の妹がアイドル候補なわけがない。
まぁ、アイドル2人といるんだからそう思われても仕方ないよね。
『そういえば、川嶋くんと幼女が一緒にいたって一時期噂になったよね?』ヒソヒソ
『じゃあ、もしかして、川嶋の本命!?』ヒソヒソ
ガタッ!!
無言でこちらを睨まないでほしいかなぁ~。
さて、フロアの方で頑張ってるメンバーにも悪いし、そろそろ誤解を解いておこうかな。
そう思い、声を出そうと――
「あのっ!」
したところでさえぎるように声を出したのは、クラスではおとなしいイメージのある子だった。
そんな子が声をあげたことで、当然視線はそちらに移る。
一方で図らずとも注目を集めてしまった子は、あわあわとしだし、視線を足下に落とし、
「1枚……写真、いいですか?」
消え入りそうな声で言った。
場違いだとは思ったのだろうけど、文化祭にまさかのアイドルが2人も来たのだから気持ちは分かる。
そして、この2人はそんな願いを無碍にするようなことはしないことも。
ユウと拓海姐さんは顔を見合わせてニヤッと笑うと、
「いいよっ」
「よしっ、スマホでいいのか?」
「あ、じゃあ私撮ります!」
未希がスマホを受けとり、カメラを起動する。
2人は女の子をはさむように座る。
「はいはい笑って~」
「おーい、顔あげろ~」
と2人が笑いながら声をかける。
女の子は嬉しさ半分、恥ずかしさ半分といった感じに顔を真っ赤にしていたのだが、やがてはにかむような笑顔を浮かべた。
「はいっ! いただきました。もう1枚いきましょう!」
天使兼アイドル候補(仮)の未希がカメラマンにもなっていた。
その様子を見ていたクラスメートが、俺も私もと集まってきて、記念撮影が始まった。……何故か未希まで一緒になってるんだが。
ポンポン
「川嶋……」
肩を叩かれ、振り返ると、クラスの男子の1人がいた。
何かを言おうとして、でも止めようとして、視線を足下に落とし、意を決したかのようにこちらを見据え――
「一発……殴っていいかな?」ポキポキ
指を鳴らしながら近づいてくる。
「ダメです♪」
騒ぎが一段落したところで、3人を引き連れて外に出た。人がこんだけ多いと、意外とバレないんだね。
まぁ、文化祭にアイドルが来るなんて、誰が思うだろうか。
「で? どこに行くんだ?」
「そうですねぇ。何かあったときにすぐ戻らなきゃ行けないので、この辺をブラブラしようかと……」
一応責任者なのだが、前科があるために休憩とかこつけて追い出されてしまった。まぁ、何かあったら電話来るし大丈夫だろう。
「まずは楽しむために、軍資金を稼ぎに行きますか」
「「「軍資金?」」」
「いらっしゃっ……出禁つったろ」チッ
訪れたのは野球部が出し物をしているグラウンド。
客対応しようとして、こちらを見るや不満を隠そうともせず、むしろ露骨すぎるほど醸し出す先輩。
「いやいや、少しは対応しましょうよ」
「お客様、お帰りはあちらです(棒)」
驚くほどの棒読みだった。P○pp○rくんの方がまだ感情がこもってるレベルだ。
「ねぇ、出禁って何したの?」ヒソヒソ
「ん? 去年タダ券貰いすぎちゃった」
去年は孤立していたこともあって、時間をかなり持て余していた。何もしないのももったいないし、人並みに楽しもうと思ったところに見つけたのが野球部の『ストラックアウト』。パーフェクトならタダ券贈呈という謳い文句に誘われ、やった結果――
「パーフェクト出しちゃったんだね……」
呆れ顔でつぶやくユウ。
そこで止めておけばよかったのに、盛り上がるオーディエンス、プレー料金を取り返そうとした先輩に、『料金2倍、距離2倍でタダ券2倍!』という条件を出された。
「それでもパーフェクトだしたのね……」
「(勢いで)カッとなってやった。後悔はしていない」
でも、軍資金が取れないのはキツい。
「と、いうわけで今回は2人に任せようかと」
野球部も俺が連れてきた人物が誰なのか気づいてざわついている。
「よしっ! じゃあアタシからだな」
さすが元特攻隊長。気合い1つ入れると、参加費を払って持ち玉12球を受け取り、マウンドへ――
「姐さん姐さん。こっちの方が良くないですか?」
マウンドより的に近いラインを指差す。どうやら女性はここから……ということらしい。
「ここはガッツリ一攫千金だろ!」
去年のことを踏まえて、距離が2倍なら景品も2倍になるようだ。料金は据え置きみたいだけど……解せぬ。
「そもそも届くんですか?」
「バカにするなよ? 友紀直伝のフォームでパーフェクトしてやる!」
ユキというのは、アイドル仲間だろう。何度か名前を聞いたことがある。たしか野球好きというのも聞いた。
直伝、ということはそれなりに投げられるのだろう。
「おっ!」
野球にそんなに詳しくないが、そのフォームは様になっていた。
振りかぶり、左脚を高く上げ、踏み込み、右腕を振るう。
スパーン!
放たれた白球は見事に的の1枚を貫いた。
「へへっ! どうだ!」
「お見事です!」
ただ、撃ち抜いたのは的だけではなかったようで――
「スゲぇな、あれ」
「半端ねぇよ」
「威力強すぎだろ」
振りかぶるたびに強調される胸、ショートパンツを履いていたことにより、露わになっている脚。脚を高く上げることにより強調される尻……それらは野球部の連中にとって、姐さんが投げる球より破壊力があったようで、数名は前かがみになるほどだった。
「かぁーっ、ダメだった!」
結果は5枚。距離が伸びたことで強めに投げたらしいのだが、上手くコントロールが出来なかったようだ。
「じゃあ、次は私だねっ! 拓海ちゃんの仇はうつよ!」
次はユウ。ボールを受け取ると、姐さんとは違い、マウンドの手前の線へと向かう。
「ユウ、当てられんの?」
「バカにしないでっ、私も友紀ちゃんから教わったんだからっ」
「おっ、おう。そうか」
先ほどの拓海姐さんのフォームを見る限りは大丈夫何だろう。あまりユウが剛速球投げるところをイメージ出来ないが。
ボールを握って振りかぶる。スカートを履いていたため、そこまで高くはないものの、多少脚を上げる。
「えいっ」フワラー
「は?」
かけ声はよかったが、そのへっぴり腰で投げられた球は先ほどの姐さんの剛速球とは違い、山なりに放たれた。
いやいや、こんなんで当たるわけが――
パスン
「やったっ!」
「……うそーん」
予想を覆し、的を射抜いた。しかも2枚抜き。
「夕美ちゃんかわいい」
「投げる球もかわいい」
「へっぴり腰もかわいい」
「夕美ちゃんはへっぴりかわいい」
俺が驚き、野球部が癒やされる中、バスバスと的を射抜いていく。
「パーフェクトだよっ!」
野球部員から無料券を受け取ると、飛び跳ねながらやって来た。
「夕美ちゃんがぴょんぴょんしてる」
「心がぴょんぴょんする~」
「夕美ちゃん、いいにおいした」
「お前うらやま。少しよこせ」
さて、野球部がもめてる間にお暇――
「キミもやってみない?」
「あ」
野球部の1人が未希にも声をかけていた。
「やってもいいけど~……もしパーフェクトだしたら~、2倍ちょうだいっ」
「えっ……それは……」
「ダメかなぁ? お兄ちゃんっ」ウワメヅカイ メ、ウルウル
「よっしゃ、3倍、いや5倍にしてあげよう!!」
「本当!? 約束だからね? お兄ちゃんっ」
あぁ、遅かった。悪魔の誘いに乗ってしまったんだね。言っとくけど、ソイツ――
スパーン!
「「「……」」」
「2枚抜き♪」
俺の妹だから。
この後野球部が悪夢を見る中、俺たちは文化祭を楽しんだ。