文化祭が終わり、『お前ら、楽しむだけ楽しんだよな? じゃああとは分かってるよな? ん?』
とでもいうかのようにいつもの日程に戻りつつある。
いや、むしろ準備期間中に授業していなかった分を取り戻すかのように駆け足気味になっている。
パパッと説明したかと思えば、
「はい、ここ期末に出すからな。言ったぞ?」
というパターンが大半だったりする。寝ているヤツは……ご愁傷様だ。まぁ、文化祭が終わった途端にこれだし、現実逃避したい気持ちは分かる。
『文化祭は準備中が楽しい』って言われるのって、こういう部分もあるんだろうな。
まぁ、なんであれテスト期間に入ることで部活だったり、バイトだったりが制限されることとなる。
ちなみに俺の場合は『家業の手伝い(有償)』と言いはってシフトこそ減らしてはいるけど、バイトをしているのは暗黙の了解だ。
もっともそのかわり、教師陣の要求レベルを超えなきゃいけないんだけどな。
「川嶋さん! ここが分かりません!!」
そんな俺は現在、自分の課題をやりながら勉強を見ている。人に教えれば自分も身につくっていうしさ。
「ここは、この公式を使って――」
「なるほど!!」
ただ、他校のだから果たして俺らの高校では出るという保証もない。でも、同じ学年ならワンチャンあるよね? 高校ごとの授業の進度やら難易度やらあるとは思うけど、そんなに大きく変わらないよね?
数日前のこと。シフトの相談を兼ねて店の一角を借りて課題をやっていたのだが、そこにカレーむす……もといポジパが来店。テストを忘れていた日野さんに頼まれて勉強を見ることになった。
さすがに店の中で長時間やるのもどうかと思い、人目を気にすることなく、誰にも迷惑がかからない場所を相談した結果、俺の部屋ですることになった。
何故だろうな。確かにファミレスとかでやるよりは人目にはつかないけど、バレたら一発アウト。迷惑って意味ではバレたら各方面に迷惑がかかるだろうし、第一に部屋の所有者(賃貸だけど)の俺に迷惑がかかるんだけど……
というのを本田さんに言ったら、
「いつものことじゃん」
と一蹴された。理不尽だと思ったけど、前例(小日向さん)があるので否定は出来ない。
ともあれ、日野さんとともに本田さんと藍子も加えて勉強会を行うことになった。
「よし、終わり!」
「えっ!? もう終わったの!?」
本田さんから驚きの声が上がる。
「まぁ、授業で使ってたノートをまとめてただけだしね」
あとで小テストでの苦手範囲、先生の出題傾向を考えれて重点的に復習すればなんとかなるだろう。
さて――
「本田さんと藍子は分からないところある?」
学年は違えど、先輩だから一応はやってきたことだろうし教えられるところもあるかもしれない。
「う~ん。私は大丈夫かな」
「私も。今のところは……」
2人は心配無かったようだ。まぁ、本田さんは意外と勉出来るの知ってるし、藍子は時々教えてるから大丈夫だろう。
「……かっしー? 今失礼なこと考えなかった?」
「そんなことないです」
やはり本田さんは侮れない。勘が良すぎる。
「かっしーが分かりすぎるだけだからね?」
ジト目で抗議してきたけど、スルーした。
「さ、日野さん。そろそろ見せてもらおうかな」
「お、お手柔らかにお願いします」
「やりとりだけ聞いてると、いかがわしく聞こえるんだよね~」
言いたいことは分かる。そんなつもりは毛頭無いんだけど、日野さんが恥ずかしがってるものだから傍から見たらそう見えても不思議ではない。
顔を赤らめ、モジモジしている日野さんを見ると俺も不思議と罪悪感が湧いてくる。いつもとのギャップが半端ない。
「余計なことを言うんじゃありません」
せめてもの反抗としてそう言い返すものの、大した効果は無い。
というか、そこの頬を膨らませてる謎の生物。本当にいかがわしいことは無いんだから、こちらを睨むのやめなさい。可愛いだけだから!
ありもしない誤解を招きながらも日野さんに頼んでいたものを受け取る。
「なにそれ?」
「前回のテストの問題用紙と答案、それと小テスト」
今回の勉強会を開くにあたって、テストの答案と問題用紙、過去の小テストを持ってくるようにお願いしていた。
日野さん自身の学力と学校のレベル、出題傾向を知りたかったためである。
「茜ちんの点数を確認したかったの?」
「いや、点数なんてのは教師が問題に割り振った数字に過ぎないからね。点数は重要視してないかな」
配点が高いのは大概が文章問題だろうし、そう言った問題に求められるのは基礎と読解力だろうし。多少当たってれば部分点位はもらえるだろうし。
閑話休題
(基礎は出来てるけど、引っかけ問題は悉く引っかかってるね)
なんというか、こんなところまで性格が出るのかと思ってしまった。
(とりあえず基礎と……この辺が出るのかな? この先生、こういった問題が好きなのか? 小テストで割と出てるし……)
「かっしー? 難しくて固まっちゃった?」
ん? 何度か呼ばれたのかな? 真剣に考えてて気づかなかった。
「あ、ゴメン。先生の出題傾向考えてた」
「えっ、そんなこと出来るの?」
本田さんが胡散臭いものを見るような目で見てくる。
まぁ、普通に考えたら眉唾ものだからな。
「少なくともウチの高校のなら大体分かるかな」
1年の付き合いは伊達じゃない。小テスト、課題、過去問やらで先生の出題傾向を割り出しつつ、自分の苦手範囲を徹底的に潰す。それが俺の勉強法。
「嘘ぉ!?」
「これが嘘じゃないんですよね」
藍子が苦笑いで応える。
まぁ、藍子には教えてるからなぁ。その上で苦手範囲克服のために勉強するからズルではないしね。
とりあえず日野さんには課題をやってもらって、その間に簡単な問題集を作ってしまおう。
「ところでかっしー。テレビデビューするんだって?」
握っていたペンがテーブルの上を転がる音だけが虚しく響いた。
「噂には聞いてたけど、その反応を見る限りは本当なんだね」
「えっ!? 初めて聞きました」
藍子も驚きの声を上げる。無理もない。正直言われた俺も驚いたくらいだし。というか――
「俺、一般人なんですけど、いいんですかね?」
むしろ普通の高校生だし、346プロ所属でもない。まぁ、簡素な、本当に簡素な契約を結んでいるから346プロ預かりと言えなくもないとは思うけど。
「あのディレクターさんがいいって言うなら大丈夫だと思うけど……わりとあの人ノリが軽いし」
端的に言えば、『とときら学園』の打ち合わせに来ていたディレクターさんに某プロデューサーさんがポロッと料理教室の事を話してしまったらしい。
それを聞いたディレクターさんが
「JS、JCアイドルがなれない手つきで料理するとか最高じゃないの!! うちの番組内でやりましょう! アイドルの成長を感じられるしね」
と乗り気に。プロデューサーさんもプロデューサーさんで一緒になってゴーサインを出してしまった。
某洋画だったら口を縫い合わせるところだ。
「そもそもアイドルと一緒にテレビ出て大丈夫なのかな? これ」
「それ以前にアイドルと付き合ってるじゃん」
「うっ」グサッ
「文化祭とかお祭りにも行ってますしね!」
「グッ」グサグサッ
「自宅にも来てますし」
「……」グサグサグサッ ピニャー
今日の3人……なんかキツいや……
「それはそうとかっしー。期待していいんだよね?」
本田さんがウキウキを隠せないように聞いてきた。
「何のこと?」
本田さんに期待させるようなこと、何かあったっけ?
「え?」
「え?」
本田さんは意味が分からないとでも言うようにこちらを見てくる。自分の顔が見れるわけじゃないけどきっとかなりのアホ面だろうに違いない。
本田さんと見つめ合うこと数分。来月のイベントをひとつひとつ思い出す。
(年末は……音楽番組に出突っ張りだろうし、クリスマスもライブがあるだろう。そもそもそのあたりの約束はしてないはずだし……冬休み……他に12月といえば……ん?)
「あ、本田さんの誕生日!」
忘れてた。そういえば凛さんと島村さん、藍子からも相談があったっけ。
「まぁ、思い出したならいいか」
呆れられているけど、機嫌を損ねなくてよかった。
ともあれ、今は日野さんのための問題集を作ることに専念しよう。