隠れ家喫茶ゆるふわ(凍結中)   作:ハマの珍人

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 非難囂々、承知の上!
とりあえず、次の話を考えるまでの小ネタ程度に。 

 なお、怪奇シリーズは投稿後、番外編の章の方に移します。

 暑い夏を吹き飛ばそう!


夏の怪奇シリーズ アメダマ

 飴……と1口に言っても、いろいろありますよね。

そもそも、表記自体が『あめ』、『アメ』、『飴』とありますし。

 ドロップ、キャンディ、ロリポップ、千歳飴や金太郎アメ……のど飴だったり、塩あめ、黒あめ……最近では熱中症対策のクエン酸が入った飴もありますね。

 飴いつ舐めるか……というのも人それぞれ。口が寂しかったり、疲れた時、眠気覚まし、緊張をほぐすなど様々。

 今回はそんな飴のお話――。

 

 

 

 

「杏子(きょうこ)ちゃん、お疲れさま~」

 

「はい、お疲れさまです!」

 

「今日も、バッチシよかったよ~!」

 

「ありがとうございます!」

 

「次の収録の時も、よろしく頼むよ~!」

 

「はい! よろしくお願いします」

 

 

 杏子は俺の担当アイドル。人当たりがよく、誰にでも好かれる。

収録が終わり、楽屋に向かう間に、共演者、スタッフに話し掛けられることも日常茶飯事だ。

 

「杏子くん。お疲れさま」

 

「あ! お疲れさまです!」

 

 おっと、辛口コメンテーターで知られる大御所さんだ。

 

「いやぁ、今日も素晴らしいコメントだったね」

 

「とんでもないです。私なんてまだまだで……」

 

「ところで、このあとどうかね? 食事でも」

 

「申し訳ありません。このあとも仕事が入ってまして……」

 

「そうか……では、またの機会に」

 

「ええ。楽しみにしてますねっ」

 

 俺と杏子は頭を下げて、楽屋に向かう。

 

 

ガチャ

 

「ふぅ~。杏子、お疲れ」

 

「プロデューサー、あれ」

 

 楽屋に着くなりイスに座り、杏子はいつものを要求する。

 

「ほいよ」

 

「んあ……」

 

 カバンから取り出し、渡そうとすると、杏子は口を開けた。

 

「いや自分で取れよ」

 

ふぇー、ふぇんふぉい(えー、めんどい)

 

「仕方ねぇなぁ。ちょっと待ってろ」

 

 除菌シートで念入りに手を拭いてから、袋を開け、中身を杏子の口に放り込む。

 

「ん~、働いたあとのアメは格別だねぇ」

 

 机と一体化しながら、御満悦の杏子。

 

「あんまり長居は出来ないからな」

 

「ハイハイ」

 

 

 人当たりがよく、皆に愛想を振りまくのは仮の姿。実際の杏子はかなりのめんどくさガーリーなのだ。

 

「しかし、このあと予定なんて無いだろう?」

 

「まぁ、そうなんだけどね。ああいう人の行くお店ってカタッ苦しそうでさぁ」

 

「まぁ、言わんとしていることは分かる」

 

 料亭とか高級レストランといったマナーに厳しそうなとこだろう。

 

「アタシは気楽に食べられるとこでいいんだよね」

 

「んじゃ、ファミレスでも行くか?」

 

「魅力的なお誘いだけど、今日はアメだけでいいや」

 

「お前、食うもの食えよ? アイドルは体が資本なんだから」

 

「分かってるよ~。それより、明日は一日オフでいいんだよね!?」

 

「おう、明日はオフだぞ。急遽ピンチヒッターを頼むこともあるかもしれないが」

 

「聞こえませ~ん。よし、早速帰って積みゲーやるぞ~。車を用意してくれたまえ、プロデューサーくん」

 

 ――まぁ、いいんだけどな。――

 

「雪崩だけは起こすなよ?」

 

「善処する」

 

 ――本当かよ。――

 

「ささ、帰るよ。プロデューサー」

 

 やるときは最低限の労力でやる。見返りは(給料以外で)あめ玉で十分。それが杏子だった。

 

 

数日後

 

 

「おっと、あめ玉のストックが切れるんだった」

 

今日は雑誌のモデル写真の撮影。もう少しかかりそうだし、コンビニで急いで買ってくるか。

 

 

イラッシャーセー

 

「ん? 新商品かな?」

 

 見慣れないパッケージのあめ玉を見つけた。

 

――開拓の意味もかねて、これでいいかな――

 

とりあえず二袋買って店を出た。

 

 

「お疲れさまです、プロデューサー」

 

 おっと、未だにこの外面用の方は慣れないんだよな。

 

「おう、お疲れ。撮影終わったのか?」

 

「はい、無事に終わりましたっ。プロデューサーに見てもらえなかったのが、残念ですけど……」

 

 おう、いつもならあめ玉をいくつか献上しなければ絶対に言わないことを平然と言ってくる。

 これが外面用なのか……。

 

「必要なものを買いに行ってたからな。じゃあ、出るか」

 

「はいっ」

 

 

「プロデューサー、アメ」

 

 車に戻るなりスイッチが切り替わるのは、さすがだ。

 

「あぁ、はい」

 

 買ってきたアメを袋のまま渡す。

 

「見慣れないパッケージだねぇ。中身は……ほうほう」

 

 杏子の手元に視線を移すと、全体が白く、上の方が、黒と茶色の不思議な配色のアメだった。

 

「なんていうか、味が想像出来ない見た目なんだが?」

 

「まぁまぁ、百聞は一見にしかず、百見は一食にしかずだよ」

 

 そんな格言聞いたことねぇよ。

 

「ん? おぉ~!!」

 

「どんな味だ?」

 

「一言じゃ言い表せない! 強いて言うならこの世のものとは思えないね!」

 

「いやいや、実際あるじゃないか」

 

「とにかく食べてみてよ!」

 

「お、おう……」

 

 テンション高いな。そこまで美味しかったのだろうか?

 

 信号待ちのタイミングでアメを受け取り、外見を見る

 

「――!」

 

「プロデューサー?」

 

「あ、あぁ」

 

 口に含み、杏子が言わんとしていることは分かった。でも……

 

「これは買い占めに相当するね!」

 

 ――買い占め 杏子が食べてみて美味しいと思ったアメを、その店舗の陳列している分を買っていく行為――

 

「そこまでか?」

 

「むしろ、これを買い占めないで、何を買い占めるの!?」

 

 いつもの杏子からは考えられない憤りだった。

 

「で、どこで買ったの!?」

 

「スタジオ近くのコンビニだけど……」

 

「じゃあ、他店舗にも売ってるね!!」

 

 杏子は上機嫌だけど、俺はイヤだった。アメの見た目が■■に見えてしまったから。

 

 その日から杏子は変わった。

 

 

「最近の杏子ちゃん。ダンスがかなりキレキレだよね?」

 

「前のは、最低限って感じだったもんね」

 

 まず変わったのは、苦手だったダンス。ミスはしなかったものの、『最低限』、『省エネ』と称されていたダンスは比べものならないくらいに、それこそプロダクションで12を争うレベルにまで上がった。

 

「歌も上手になった?」

 

「音程が安定してるし、ノビもよくなったよね?」

 

 何より、表現力が変わった。

外面用が常に貼りついていて、めんどくさガーリーだった杏子はいなくなった。

 

「おはようございます、プロデューサー」

 

「おはよう、杏子。このあいだのドラマの話なんだが……おめでとう。主役に決まったぞ!」

 

「本当ですかっ! うれしいです」

 

「でも、また休み取れそうにないぞ?」

 

「いえ、仕事があることがなによりですのでっ」

 

 前の杏子からは考えられない発言だった。

前だったら――

 

「うわぁ、また休みが減ったぁ~。アタシの年間の数少ないオフがぁ~!!」

 

 と、この世の終わりみたいに嘆いていたのに。

 

「プロデューサー、そろそろ現場に移動しなきゃいけないのでは?」

 

「あ、あぁ。そうだな。じゃあ、行こう」

 

「はいっ!」

 

 

「プロデューサー、そろそろ……」

 

「……あぁ」

 

 そして、仕事の後に舐めていたはずのアメを仕事前にも舐めるようになった。

 仕事の前に舐め、仕事を終えてからも舐める。それがルーティンであるかのように毎回である。

 

「杏子ちゃん、スタジオ入りお願いします」

 

「ん、いいタイミングですね。ではプロデューサー、行ってきますっ」

 

「お、おう」

 

 

 

 当然、アメの消費は2倍になり、すぐさまアメは無くなってしまった。

 すぐさまストックを探しにコンビニを回ったが、どこにも無かった。

 

「プロデューサー、そろそろ……」

 

「すまん、杏子。あのアメは無くなってしまったんだ」

 

「そんなっ!!!」

 

 この世の終わりのように崩れる杏子。

 

「今から急いで買ってくるから先に撮影に行っててくれないか?」

 

「わかり……ました」

 

 覚束ない足取りで行った杏子を見送りながらも、急いでコンビニに走る。

 幸い、今日の現場はあのスタジオだった。

あのコンビニだったら置いてあるはず。そう期待しながら走った。のだが――

 

『テナント募集』

 

「は?」

 

 コンビニがあったはずの場所は、もはやコンビニでは無かった。

呆然としながら、とりあえず戻ろうとスタジオに引き返した。

 

 

 

「杏子ちゃんのプロデューサーさん、いらっしゃいます!?」

 

 スタジオに戻ると、現場が慌ただしかった。

 

「はい! 私です!」

 

「杏子ちゃんが、顔が真っ青になって、倒れてしまって……」

 

「えっ!?」

 

 スタッフに呼ばれ、医務室に行った。

杏子はベッドで寝ていた。

 

「特に異常は見られないんですが……おそらく過労でしょうね」

 

 もはや撮影どころでは無くなってしまった。

 

 

 その後、杏子の調子は一向に優れず、びっしり埋まっていたはずのスケジュールは真っ白になってしまった。

それでもレッスンには来るのだが、全てがヒドイ有様だった。

 音程はズレまくり、ダンスを踊れば転倒ばかり。笑顔すら浮かべることが困難になり、見ているこっちが辛くなるくらいだった。

 それでも杏子は毎日自宅と事務所、レッスンスタジオを往復していた。

そんなある日のこと――

 

「杏子が来ていない?」

 

『えぇ。いつもなら開始15分前には自主練をしているはずなんですけど……』

 

「わかりました。自宅に行ってみます」

 

 トレーナーさんからの連絡で、妙な胸騒ぎを覚え、杏子の部屋に急いだ。

 大事にならなければ良いのだが。

 

 親元を離れ一人上京していた杏子は当初、安いアパートに住んでいたのだが、アイドルになるタイミングで防犯がしっかりしているマンションに引っ越してもらった。

 エントランスでインターホンを鳴らすも、応答がない。もどかしさを覚えながらも、有事の際のことを考えて預かっておいたスペアキーのセンサーでエントランスのドアを開ける。

 

「だぁっ、クソッ!」

 

 杏子の部屋は5階。しかし、エレベーターは15階で止まっているため、急いで階段を駆け上がる。

 

「杏子、俺だ。開けてくれ」

 

 インターホンを鳴らしながら呼びかけるも、返事はもちろん、物音すらしない。

 

 まさか、思い詰めて早まった行動を――

 

「杏子、入るぞ!」

 

 一言告げてノブに手をかける。カギは開いていた。

ドアを開け、部屋に入ると――

 

「うっ!」

 

 何か生臭い臭いが鼻腔を刺激する。きっと、ゴミ出しもしなかったのだろう。

靴を脱ぎ、一歩、一歩と進む。大した距離ではないはずなのに、果てしなく遠く感じる。

 

 リビングに入る。物が乱雑しているものの、杏子の姿は無い。

 

「杏子、いないのか?」

 

 台所、食器が流しを占領している。一応、料理はしていたのか。

 洗面所、洗濯かごの中に服が山積みになっている。洗濯まではする気力がなかったのか。

 風呂場。とりあえず、サスペンス的なお決まりのシーンは見なくて済んだ。残るは――

 

「杏子?」

 

 杏子の寝室。開けた瞬間見下ろしているっていうのは勘弁してくれよ?

と、部屋のドアが開いていることに気づいた。

 

「杏子?」

 

 ドアを開け、部屋に入った途端――

 

「――!!!」

 

 今まで以上の生臭さとともに()()()()()()それも()()()()

 そして――

 

「杏子!」

 

 こちらに背を向け、体育座りをしている杏子を見つけた。

 

「杏子、どうしたんだ? トレーナーさんから来てないって連絡あったぞ? 今からでも行こう。一緒に謝ってやるから。

な?」

 

 そう言いながら、杏子の前に回り込むと――

 

「――!!」

 

 頬一杯に何かを含んでいた。

 

「杏子、何を口の中に入れてるんだ!? 出しなさい!」

 

 ブンブンと首を横に振る杏子。

 

「ほら、出して」

 

 肩に手を置くと、()()()()()()()()()()()()()()()()()抵抗してくる。

 

「杏子、すまん!」

 

 左手を杏子の頭の後ろに回し、右手を口に突っ込んだ。

 

「んんーん!!!」

 

ガリッ

 

「いっつ!?」

 

 その指を噛み千切らんとばかりに力を入れてくる。目がかなり血走っていた。

 それでも、何とか杏子の口からナニカを取り出した。

 

「杏子、どうしたんだ?」

 

 出血している右手を押さえながら杏子に尋ねる。

 

「プロデューサー、アメ、あったよ?」

 

「は?」

 

「あのアメ、近くのスーパーに売ってたんだ。少し大きくて、でも、1個ずつでしか売ってくれないの」

 

「何を言って……」

 

 

 

 

 

 ふと足元から()()()()()()

 

 

 

 

 

「それにね、スーパーの人、間違っちゃったのかな?」

 

 

 

 

 

 足元を見ると、杏子の口から出したものと()()()()()

 

 

 

 

 

「アメなのに、お魚コーナーに置いてあったの。確かに生臭いけど、おかしいよね?」

 

 

 

よく見ると、杏子の部屋のあちこちに()()()()()()()()()

 

 俺は思わず呟いた。

 

 

 

 

 

 

 その時、プロデューサーさんは一言呟きました。「あ、目玉……」

 そう、杏子ちゃんが買ったのはマグロの目玉だったんですね。

 また、プロデューサーさんがアメを見たときにも目玉だと思ってしまったんです。

 

 いかがだったでしょうか? 本日のストーリーテラーは高垣楓がお送りいたしました。

 

 

 

 




 さて、いかがだったでしょうか?冷えました?
次回はまともに書かせていただきます
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