構想を大まかに考えているものの、ちょこちょこ外伝的なので書いてしまっているため、クリスマス、お正月、バレンタインデーはカットになるかもしれません。
無事に期末テストも乗り切り、クラスは冬休みまでのカウントダウンに入っている。
冬休みに家族と行く旅行の計画を練る者、友達と遊ぶ予定を立てる者、冬休みを楽しむためにこなす課題の計画を立てる者、期末の追試という現実から目を背ける者。
そんな彼らを尻目に学校を出て、事務所へ向かう。
「せんせー。変な顔してるけど、何かあったのー?」
生地を混ぜててい、薫ちゃんに指摘された。
「変な顔? してるかな?」
混ぜている手を止めて、むにむにと自分の顔を触って確認する。
「どきどき日菜子おねーさんがしているような顔してるよー」
「え!?」
まさかの妄想プリンセスと同じ様な表情って言われてしまった。
ってことは、俺もむふふ状態なのか……
ペチペチと自分の頬を叩く。
「まぁ、テスト明けだから禁断症状でもでてるのかな……」
「きんだんしょーじょーって?」
「ん~……何て説明したらいいかなぁ……我慢しなきゃいけない、やっちゃダメ! って頭では分かっているんだけど、体がついつい無意識にやってしまうこと……かなぁ?」
「?? そんなことってあるのー?」
今の説明では理解出来なかったのか、薫ちゃんが首をーーというか体もーー傾げる。不思議と頭の上にクエスチョンマークが見えそうだ。
(小さい子に説明するのって難しいなぁ)
自分の分かっている事を自分より年下の子に分かりやすく説明しなきゃいけない難しさを感じつつ、頭をひねる。
「例えば……学校の先生が『静かに』って言ったときに、笑ったり、笑わせようとする子とかいない?」
「うん! いるよー!」
静かにしなきゃいけない状況なのに、静かにすると不意に笑いそうになったり、誰かを笑わせようとするヤツが一人二人はいるものだ。
そして、そんな子を諫めるために真面目な子が「シーッ」て言うんだけど、自然とそっちの声の方が大きくなるんだよね。
結果、静かにしなきゃいけないはずの空間で「シーッ」が木霊してるんだよな。
「まぁ、あんな感じかなぁ」
「じゃあ、せんせーも……えっと……きんだんしょーじょーなの?」
「まぁ、そうかな。一応自分の分のご飯は作ってたけど、今までみたいにたくさん作ってたわけじゃないしね」
※
今回のテストは、今までと比べてさらに真剣に取り組んだ。
というのも、『346のお兄さん』、『料理のお兄さん』として346プロと契約をすることになった。その方がギャラだったり何だったりが楽なんだそうだ。まぁ、言ってしまえば大人の都合だ。
そんなわけで、仮とはいえ芸能界に身を置くことになってしまったため、先生にその事を話しておかなければならない。
とはいえ、仕事自体は学校終わりだったり休みの日にあるので学業に支障をきたすことはない。では、何が問題なのかといえば成績だ。
早い話が、「芸能活動をしたから成績が下がったなんて許さない」とのことらしい。
「お前のことだから心配はいらないだろうが、まぁここらでお前の覚悟を見せてくれ。とりあえず、学年一位とってくれれば文句はないから」
とさらっと言ってのける御館様。
とはいえ一位をとれなかったら即アウト、ということでもなく、あくまで努力の形が見えればOKらしい。ベストなのが学年一位なのだが。
そんなわけで、マスターと槙原さんの協力のもと、おそらくバイトを始めてから初めてのテスト休みを使い、勉強を教えながらも自分自身も徹底的にテスト勉強を行った。
※
「大変だった?」
「まぁね。気づくとペンじゃなくてフライパンか包丁握ってるし、数式解いてるつもりがレシピの分量書いてたり……」
「一体なんの話ですか?」
気づくと、橘ちゃんたちチルドレンが来ていた。
「えっと……きんだんしょーじょーのはなしだよー!」
「優也さん。ダメ! 絶対ですよ!」
「いや、薬じゃないから」カチャン
確かに禁断症状って聞いたら一番最初に思いつくのはドラッグだろうけどさ。小学生でもそういう授業はやるだろうし。
……ん?今何か手元で音がしたような……
目線を自分の手元に落とすとーー
「て、手錠!?」
普通の生活をおくっていれば、無縁なはずの代物。身近でお目にかかるとすれば、刑事ドラマの世界だろう。
そんな鋼鉄のわっかが俺の手を拘束していた。
「ドラッグの所持、及び使用で逮捕ね~」
そんな俺の手に手錠をかけながら、右手で鍵をくるくる回しているのはーー
「早苗さん!?」
見た目は子供(に見えなくもない)年齢は大人、頭脳は飲んだくれ。
その名も片桐早苗(敬称略)。
元警察官という変わったーー346、315では割と普通のーー経歴を持つ彼女。そんな彼女は346プロでも秩序を守っている。いるのだがーー
「冤罪です!」
「被疑者はみんなそう言うのよね~」
「そもそもドラッグなんてどこにもないじゃないですか」
「そこの白い粉は?」
「ホットケーキミックスです」
「ふ~ん……」
興味無さげに生返事をすると、回していた鍵を右手に収める。
「続きは署で聞こっか」
(話聞く気ねぇ~)
first contactが最悪なだけに、早苗さんは俺の話を信じてくれない。というか、署って何処だよ。
「早苗おねーさん。せんせー、クスリなんてやってないよ?」
「薫ちゃんは優しいわね。でも大人はね、時に責任を取らなきゃいけないことがあるのよ」
薫ちゃんに目線を合わせながら優しく薫ちゃんを諭す。
「でも、せんせーは薫たちにホットケーキを焼いてくれる嵩だよ?」
「……」
こちらを振り返り、口パクで『本当?』と聞いてくる早苗さん。
「だからさっきから言ってるんですけどねぇ?」
…………
「そうならそうとハッキリ言ってよ~」
「いや、早苗さんが疑ってきたんじゃないですか」
そもそも、いきなり手錠って……
「疑われる方が悪いのよ!」
「おい、元警官」
まさかのいじめッ子理論だった。いじめられる側に原因があるという謎理論。
『李下にて冠を正さず』とは言うけれど、今回に関しては李下でないどころか冠を正してすらいない。
「アタシ交通課だったし」
「そこじゃないです」
そもそも子供の手本ともなるべき大人が、しかも元警察官が間違いを認めず、かつ開き直るってどうなんですかね。
こっちとしては謝っていただければ許すところなのに、謝らないなら考えがある。
(元裁判官か検事のアイドルっていたっけ?)
弁護士なら315にいる? こっちが原告だからいらない。
「早苗おねーさん、、間違ったら謝らなきゃダメでごぜーます」
「薫も悪い子としたら謝るよ?」
「うっ……」
と、ここで純粋な子達の援護射撃。早苗さんに大ダメージ。
「ごめん……なさい」
「分かればいいんですよ~」
ガチャ
「う~す、ここがヴァルハラと聞いてーー」
早苗さんが手錠を外そうとするタイミングでドアが開き、セクギルPさんが乱入。俺と早苗さん、俺の手の手錠に目線を動かしーー
「あっと、お楽しみ中だったか。でも、子どもに見せるのはどうかと……」
「ーーにを」
「へ?」
「何を勘違いしてんのよー!!」
「やべっ!」
早苗さんのあまりの剣幕に逃げ出すPさん。誤解を解くためか、はたまた怒りに任せてかPさんを追走する早苗さん。
ただ、悲しいかな。手錠を外す前だったため、俺の両手は拘束されたまま。鍵は早苗さんが持っていってしまった。
「うそーん」
手錠をしたまま早苗さんを追いかけるわけにもいかず、早苗さんが来るまで途方にくれるのだった。
リハビリを兼ねているため、短めですみません。