シンフォギアエグゼイド外伝 アルケミストアマゾンズ 作:狼牙竜
シンフォギアエグゼイドの合間に投稿する予定ですが、どうぞこちらもよろしくお願いします。
なお、このストーリーのキャロルは幼女ではなく大人の姿で、一人称も『私』になっています。
感想、評価をお待ちしてます!
夢の中、見ているのは今とはかなり異なる世界。
辺りの建物を見る限り、どうやらこの世界は私が生きている時代から遥か未来らしい。
今の技術よりも優れた性能の銃器を持った兵士達の前に、黒い服の少年と同じく黒い服で、左腕がまるで焼け爛れたように変色した少女がいる。
走り出した少年に対し、兵士達は躊躇いなしに銃を撃ち、無数の弾丸が少年の体を貫く。
痛みに呻きながらも、少年は腰につけたベルトを操作すると…
――――――――――
「……またこの夢か…」
ボロボロの建物での目覚めは最悪だった。
何の気なしに近くのひび割れた鏡を見てみるが…
「…日増しに酷い面になっていくな」
鏡に映っているのはひとりの女性。
鮮やかな金髪が特徴的だったが、今やすっかりくすんでおり、顔色も悪い。
多くの男性が振り向くであろう可憐な顔立ちをしていたが、余りにも鋭い目つきは恐ろしささえ感じる。
彼女の名はキャロル・マールス・ディーンハイム。
10年ほど前に愛する家族を殺され、今はあてもなく彷徨い続ける錬金術師である。
「…それもこれも、あいつらが余計なものを送りつけてきたせいだ」
キャロルはため息混じりに部屋の隅に置いてあった棺を見る。
棺の上半分はガラスでできており、内部が見えるようになっている。
収められていたのは、人間ではない存在。
トカゲのようにも見える生物で、青い体躯に6本の腕。
極めつけは全身に無数の触手が生えている、怪物だった。
この怪物、キャロルに技術や資金提供をしてきた組織、パヴァリア光明結社から送られてきたものである。
何でも、空間転移の術式にトラブルが発生した所出現したらしいが、生体反応が微弱で戦力としては当てにならない。
そのため、格安でキャロルに押し付けてきたのだ。
「断れない私もどうかとは思うが…」
キャロルはこの生物の情報を得るために、彼から細胞片などを回収し、それに封じられている記憶…『想い出』と呼ばれるエネルギーを調べていた。
その結果、いくつかわかったことがある。
まず、この生物は半分が人間、そしてキャロルですら見たことのない未知の遺伝子が検出されている。
「この細胞…随分と妙だな…?」
調べた結果、この細胞はタンパク質を栄養源としており、どうやら人間の肉を一番に好む、人喰い細胞らしい。
『…………ぅ…』
一瞬だが、目の前の生物から声が聞こえた。
「!お前、今…!」
キャロルは生物に呼びかける。
「おい!聞こえるか!?」
『………う……ん…』
確かに、目の前の生物は返事をした。
「お前の名前は、わかるか?」
生物はゆっくりと頷く。
『お……お…れ……ち…ひろ……』
すると、異変が起きる。
突如棺にひびが入り、中からチヒロと名乗った生物が出てくる。
チヒロの体から冷気が出ており、その肉体は怪物の姿から色や形が少しづつ変化していく。
やがて、チヒロは怪物の姿ではなく、18歳ほどの少年の姿になる。
「おい、大丈夫か!?」
キャロルはすぐさまチヒロに駆け寄った。
「……ぁ……ありがとう……」
長い間喋っていなかったからか、声を出すのにも苦悶の表情を浮かべるチヒロ。
「無理をするな。お前が倒れたら、私も大変だからな」
キャロルは近くのベッドまでチヒロを運ぶ途中、話しかける。
「チヒロ。私の名前はキャロル・マールス・ディーンハイムだ。長いからキャロルとで
も呼んでくれ」
――――――――――
チヒロが眠る中、キャロルはチヒロの手を取る。
「…チヒロ。お前は何者だ?」
怪物の姿をしていたかと思えば、自分よりも若い少年の姿になる。
キャロルはチヒロの手を取った状態で、彼の『想い出』を見る。
暗い水辺。幼い少年とまだ若い女性…恐らく少年の母親が居る。
突然、母親が不気味な怪物に襲われる。
暗い上に断片的だが、少年の目の前で繰り広げられる惨劇。
しかし、母親の様子が豹変する。
どこか水母を思わせる異形へと変化し、怪物を返り討ちにする。
すると、銃器を持った兵士達が現れて母親を攻撃。
母親の腕が1本ちぎれ、母親は怪物のまま姿を消した。
そして、水辺に立っているのは赤い姿の異形。
どことなくピラニアを思わせる赤い体躯に、全身には無数の切り傷が刻まれている。
他の異形とはどこか異なるヒーロー然とした姿をしており、腰には何らかの顔を模した形のベルトが巻かれ、目のようなパーツが緑に輝いている。
しかし、何よりもその異形の姿を見てキャロルは体が無意識のうちに震えていた。
確かに、今までの異形と比べればヒロイックな外見のため生理的嫌悪は沸かない。
だが、異常だと感じたのはその『目』。
白く濁った複眼が闇夜で不気味に輝いており、キャロルが今まで感じたことのない『狂気』が垣間見えてしまった。
――――――――――
「はっ!?」
チヒロから手を離すキャロル。
しかし、彼の記憶の中で垣間見えてしまった狂気を思い出し、手が震えていた。
「あの怪物は…?それに、あの子供…」
キャロルは、目の前で眠っている少年を見つめる。
「お前なのか…?チヒロ…」
夢の中の出来事が本当だとしたら、この少年はどれだけ過酷な運命を背負っていたのだろう?
母が怪物に襲われ、挙句の果てに母までもが怪物へと変貌。
そして、彼の記憶に残るあの狂気に満ちた白い目の怪物…
そんな中、キャロルはパヴァリア光明結社から送られてきた荷物のなかに、チヒロに関係あるかもしれない荷物があったことを思い出す。
「もしかして…」
キャロルは渡されていた木箱の中から、この時代には余りにも不釣り合いなものを取り出す。
トカゲのような意匠が施された、赤と銀のベルト。
内部には精密なパーツがギッシリと入っており、非常に高い科学技術で作られたのは間違いない。
もう一つは、何らかの黄色いゼリー状の物質が入った小型の注射器。
すでにこの中身に関してはキャロルは解析を完了している。
特殊なタンパク質をベースにした薬品で、錬金術の応用で幾つかサンプルを作ることはできた。
そして、鳥を模した形の赤と銀の腕輪が二つ。
内側には無数の針がビッシリと並んでおり、二つとも血塗れだった。
しかし、内部構造は大きく異なり、片方は何らかの薬液が充填された注射器の役割を果たしていた物。もう片方は内部構造がベルトと似たようなシステムが組み込まれていた。
(…これは、恐らくチヒロと関係がある物。だとしたら、こいつを解析すれば、チヒロのことがわかるかもしれん…!)
――――――――――
翌朝、チヒロが目を覚ますとそこにはすでに朝食の支度を済ませたキャロルがいた。
「チヒロ。お前も良かったら食べるか?」
「…うん」
互いに椅子に座り、テーブルの上に並べられた料理を口にする。
因みにキャロル、父の代わりに家事全般をこなす家庭的な少女だったためか料理自体はレベルが高い。
ただし、ここまで本格的に作ったのは、父が生きている時以来だ。
「ど、どうだ…?一応、不味くはないと思うが…」
キャロルの料理を口にした瞬間…
チヒロの目からは涙が溢れる。
「ち、チヒロ!?」
「ごめん、キャロル…違う…嬉しくて…」
キャロルは突然のことに困惑するが、チヒロは嬉し涙だという。
キャロルは知らなかったが、チヒロはかつて『まともに食事をしたことがない』。
そのためか、誰かの料理を口にすることができたのが嬉しく、涙がこぼれたのだ。
「そ、そうか…」
その後、朝食を食べ終わったキャロルとチヒロ。
「チヒロ…お前は、これからどうするつもりだ?」
「どうするって…?」
キャロルの懸念の1つは、チヒロのこれから。
「私はお前の過去をまだ詳しくは知らない。だがもし、行く宛がないのなら、私と一緒に来ないか?」
現在のキャロルは世界を旅している。
理由は、彼女の父親であるイザークからの遺言。
『世界を知る』。その言葉の真意を確かめたいがためにキャロルは世界中を旅していた。
「私は、まだ世界がどんなものなのかを理解していない。だからこそ、それを知りたいと思って旅を続けている」
「俺は…」
正直、チヒロは悩んでいた。
母を失い、愛する人を失い、父とその宿敵によって生まれた時から背負っていた原罪から解放されたはずだった。
なのに、またこうして別の世界、別の時代で生を受けている。
今自分がするべきこと。それは…
「俺は…キャロルについて行きたい」
その言葉に、キャロルは一瞬だが嬉しそうな表情を浮かべる。
「そうか…なら、さっさと食べ終えろ。お前に渡すものがある」
キャロルはコーヒーを飲み干し、椅子から立ち上がる。
――――――――――
キャロルに連れてこられたチヒロが渡されたのは、彼が愛用していたリュック。
その中に入っていたものを見て、思わずチヒロはそれを取り出した。
「俺のドライバー…それに、腕輪まで…」
チヒロにとってもはやなくてはならない道具だったベルト『ネオアマゾンズドライバー』、そして腕輪『ネオアマゾンズレジスター』。
「…キャロル。この腕輪、俺に付けてくれないか?」
「これをか?」
流石に、キャロルはその申し出をためらう。
腕輪には無数の注射針が張り巡らされており、装着すればとんでもない痛みがチヒロに襲いかかるのは間違いない。
が、チヒロの目を見てキャロルはため息をつく。
「…仕方がない。だが、暴れるなよ?」
キャロルは腕輪を手に取り、チヒロの左二の腕に当てると、一気に針を突き刺した。
「っ!~~~~~!?」
激痛に悶絶するチヒロ。
「だ、大丈夫か!?」
思わずチヒロに声をかけるキャロル。
「うん…大丈夫…」
そうは言うが、涙目になっているチヒロを見てキャロルは優しく抱きしめる。
「無理するな。幾ら私でも我慢してることくらいわかる」
キャロルの言葉に、チヒロは痛みに耐えながら頷く。
「ありがとう…キャロル…」
痛みが引くまでの間、キャロルの服の裾をギュッと握っていたチヒロ。
やがて、痛みがある程度引いたのかチヒロはキャロルから離れる。
「えっと…ごめん、キャロル」
「何を謝ることがある?この程度、何も問題ない」
やがて、チヒロはキャロルが準備した服に袖を通す。
「さて、これから仕事だ。手伝ってくれ」
「仕事?」
キャロルは錬金術師のローブを纏う。
「他の錬金術師が危険な怪物を作り出したようでな。近くの村から駆除の以来が来ている」
面倒くさそうに歩くキャロル。無理もないだろう。なにせ、目的地まではかなり距離がある。
「チヒロ。お前の力も借りることがあるかもしれないが…良いか?」
キャロルの質問に、チヒロは頷く。
「因みに、今回戦う怪物って、どんな奴?」
「ああ。確か…人を喰らう蟻型の怪物、だったな」
その奇妙な偶然に、思わずチヒロは少し笑った。
(ED DIE SET DOWN)
「……虫、確認。狩り、開始……てね」
「?なんだ、それは?」
チヒロの呟いた言葉に、キャロルが聞く。
「昔、俺が世話になった人の言葉。こういう『狩り』を始める時のね」
チヒロは、外に置いてあった専用マシン『ジャングレイダー』に乗る。
「キャロル。道案内、お願い」
「ああ。任せとけ」
ヘルメットを被り、ジャングレイダーのエンジンを点火。
この時代には似つかわしくないエンジン音が轟き、バイクは走り出した。
――――――――――
NEXT TARGET
「怪物が出るというのは、ここか…」
「タノム…クワセロオオオオオ!!」
「こいつらが村に来たら、大変なことになるぞ!」
「イユ…力を貸してくれ!」
「おおおおお!!!!アマゾン!!」
EPISODE2 覚醒
始まりました外伝、今回は変身しませんでしたが、次回はきちんと変身します!
あと、今作のキャロルの設定を載せておきます。
①キャロル・マールス・ディーンハイム(20)
父が焼き殺されてから独自に錬金術を学び、一流の錬金術師となった。
今では世界各地を旅しており、怪物退治の依頼や錬金術師達の集まりであるパヴァリア光明結社からの仕事で生活している。
ネオアマゾンズドライバーのシステムや腕輪の構造、インジェクターの内容物を見ただけで理解するなど、頭脳に関してのスペックはこの頃から規格外。
世界に対しての憎しみは今のところそれほど大きくない。