何気ない日常。毎日、似た光景を繰り返して何事もなく終わる。噂というものは、あっと言う間に広がっていき、人へ伝わるうちにどんどん内容は誇張されていく。七不思議とは、昔から人を惹きつけて止まない。学校ごとに少し内容が違ってくるが、おおまかには同じである。
四ッ谷先輩の存在が学校中に広がり、実在するんじゃないのかと騒ぎが起きていた。屋上には連日、四ッ谷先輩を見ようと多くの生徒が来ている。しかし、屋上に出られた生徒が言うには、何の変哲も無い様子だったらしい。
――また静かになった屋上の扉前、体育館での一件以降、誰も四ッ谷先輩の姿を見た者は無く、校内ではこう囁かれるようになった。
“四ッ谷先輩は本物の幽霊だった”
数週間も過ぎた頃には騒ぎは治まり、またいつもの風景に戻っていった。
僕は校内を歩き回り、長く留まり続けたこの学校を離れようと見て回っている。親しんだ懐かしい旧校舎は前日、校長の放火で半焼により解体された。生きていた頃と違う進化していく便利な時代が羨ましいと思った。
『そろそろ、見納めかな。楽しかったし、これでお別れにしよう。最後に四ッ谷たちを見てからだね』
僕は屋上に向かう階段に向かった。そこには、真と男子生徒二人がいる。真は四ッ谷に会いたいのだろうし、男子生徒二人は冷やかしだと思う。ふむ、このチャラい男子生徒、高校生になれば指導されるんじゃないかな。
「“よちゅや先輩、よちゅや先輩、いらっゃいましたらお出で下さい”っつってこっくりさんかっつーの!!」
「ーーーー……」
「え、何――」
すると、扉が開いて――
「ここへ来たからには――最恐に相応しいハナシを――持っているんだろうなぁぁああ?」
「「きゃあああああああああ!?」」
恐怖に叫んで、走り去っていく男子生徒二人。それも涙目で、一目散に。まあ、あれは怖いと思うけどね。
「うひゃーーっはっはっは!!!! よォし!!!! 俺は“幻の生徒”に戻ったな!?」
「…………は?」
「俺は人前に出過ぎたからな。もういっぺん“四ッ谷先輩”の怪談の創り直しが必要だったんだよ」
「……だから……突然居なくなったんですか……他にも……何も言わないで……!」
「誰かに言ったら必ず、どこかからか噂は広がって行くからな――まあ、一人を除いてな」
そこで、真の様子がおかしいことに気付く四ッ谷。
「…………?」
「……買って来ましたよ……飲むおしるこォォオォ!!」
「!!?」
二人の様子を確認したあと、僕は誰にも気付かれることなくその場から消えた。長い間、色々と体験してきたが楽しかったと言える。様々な怪談の話を聞けて、色んな人を見られて、そしてーー弟の息子を一目見られた。それだけで、とても嬉しくて幸せに満ちる。もう、悔いはない。さようなら。
そして、それからまた時間は過ぎて今――あの中学校に四ッ谷先輩はもう居ない。代わりにあるのは、七不思議――……プラス1。
一、人間になりたいミカちゃん人形
ニ.旧校舎のかくれんぼ
三、呼子桜
四、十増間さん
五、児躯履さん
六.髪切りヨウコさん
七、狐狗狸さん
そして、七不思議を語るという“幻の生徒”四ッ谷先輩。もしかしたら、今でもあの屋上へ、四ッ谷先輩に会いに来る生徒が居るのかもしれないけど、四ッ谷先輩はもう、そこには居ない。本当に幻の生徒になってしまったから。
――そして今日も、あの中学校で誰ともなく囁くのだ。
“ねェ、ねェッ。四ッ谷先輩って、知ってる?”
――――M県W町、某中学校にて。
「――……それでは、怪談“聞き手”の皆々様。ご清聴いただき、まことにありがとうございました。“詭弁学派、四ッ谷先輩の怪談。”此れにて――了」