学校と怪談と人。   作:蒼書生

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※人間になりたいミカちゃん人形


第一夜

 僕は30年前に殺されて、ずっと幽霊として彷徨っている。基本的には学校から出られないが、その代わりに学校の敷地内ならどこでも現れることが出来るのだ。けれど、いつもは旧校舎で眠っていることが多い。

 今日はなんだか起きていた方が良さそうな感じがして、新校舎に向かう。最近、狗塚さんをする子どもたちが多いのだけれど、その危険性を知っているのだろうか。僕はそういう存在になってしまったから、嫌でも知ってしまうほどに分かる。

 ふと、屋上に誰かがいるような気配がする。怪談が好きだという感情が聞こえた。それと人の何かも好きだという大まかなモノを感じる。それが何なのかは、僕には感じ取りづらい。近づいて、観察してみた。

 

『おや、卒業し損ねた子じゃないか、独特な語りと怪談は作るモノだと豪語していたから印象に残るんだよね』

 

 僕は今までの中で、一番印象の残っている子どもを思い出す。そういえば、いつも怪談を作っては周りを怖がらせていたなと。結構、気持ちいい悲鳴が聞こえてワクワクした。

 そんなことを思っていると、彼に気付かれたようだ。

 

「ん、お前は誰だ?」

『僕は狗塚コウリ。君が懐かしいから、たまたま近づいてみただけだよ』

「んあ? お前、俺の知る何かだなァ」

『――そうだよ、君の知る怪談だから。でも、誰も僕のことは知らないし、知ろうともしない』

「なるほどな、お前――最近噂になっている狗塚さんかァ。何故、俺の前に現れた?」

『ある意味での信仰は危険なモノだからね。僕は他の怪談より安全だと思われているけどその実、術者の精神を削って昏睡に陥れる危険なモノだよ』

 

 僕はそう言って、十円玉を落とす。呼び出す時の媒体、術者の指を固定する重要なモノ。どこにでもある一般的な硬貨で、入手のし易い銅貨。それゆえ、誰でも安易に手の出しやすい儀式。

 彼は拾って、何度も見直すと不思議そうに見てくる。その表情は自分の知らない、理解の及ばないことが面白く、とても楽しみにしているようだ。

 

「これは面白いなァ! 狗塚、どんなネタを持って来た!?」

『これから、ある少女が君に助けを求めに来るよ。少女は君の助手として、怪談を集めてくれるから話を聞いてあげてね』

「ほう、それは"最強の怪談"に相応しいハナシが聞けるのか!」

『それは君の活動によるね。あくまで、これは聞かれたから答えただけだよ。僕の予言は必ずしも当たるわけでもない』

 

 僕はそう言って、着ていた旧制服を最近の新制服に変えた。長く怪談をしていれば、それなりに力は強くなるから大体のことは出来るようになる。ただし、あくまで学校内だけに限定されるけれど。それに使えば使うほどに力は消費されていくので、あまりしたくない。といっても、休んでいれば回復はするが疲れは消えない。

 

「四ッ谷先輩、四ッ谷先輩、いらっしゃいましたらおいでください。どうか、どうか、ヒナノの行方を教えてください!!」

 

 おそらく噂を聞いて、助けを求めに来たのだろう。これはいい噺を聞かせてくれると思う。現に四ッ谷はとてもいい顔をしているのだから。さて、僕も久しぶりに複数の人と会話出来そうなので、準備をすることにした。とはいえ、今も姿を見せるために力を使っているのだけれども。

 

「それは、”最強の怪談”に相応しい……話なんだろうな?」

『いらっしゃい、僕にも聞かせてもらえるかな』

「!!? っ!!! どアァーーーーッ!!!」

「ひゃーっはっはっはっは!!! お前、イイ悲鳴だな。全ての悲鳴は!!! 俺のモノ」

『さて、そこで話すのも悪いから、奥に行きなさい』

「え、あ……」

 

 僕は後ろから彼女に話しかけて、どんどん奥へ進ませる。先ほどから、彼女の反応が面白くて驚かせたくなるよ。まあ、今は僕のことはいいかな。人の趣味は誰にも否定出来ないしね。

 

   *

 

「……い、今この辺りで起こっている事件……知っていますよね!? その事件の話と一緒に気になる怪談が流れていて――……」

 

 彼女は事件と怪談の二つを語り、彼を伺うように見つめている。事件はともかく、怪談については僕も少しは知っているけれど、その怪談は内容が少し変わっていた。おそらく、語られていくうちにどんどん変化していったのだろう。ミカちゃん人形は人間を襲わないはずだけど。

 

「――生徒達の間で話題の”人間を襲うミカちゃん人形”、ミカちゃんが人間を襲う”本当の理由”をご存知でしょうか? それは捨てられた事に怨みを持ったからではありません。彼女、は人間になりたがっているのです。だから、人間の身体が欲しくて仕様がない」

「そして、人形は自分の手足を人間の手足と取り替える事で人形から人間へ成り代ろうとしているのです。新しい手足、自分にぴったりの少女達の手足……左手、右手、左足、四肢全てを人間と取り替えるまで、あと一本」「ただ襲うのではなく、自分の手足を人間のものと取り替える。それがミカちゃん人形が人間を襲う”本当の理由”です。――そして人形は、最後の右足を探して――『アナタの右あシ、わタシと、』とりかえてェェェ!!」

「おぎゃあぁあああ!!?」

「イイッ、イイなッ!! お前の悲鳴、気に入った!!」

 

 中々に面白い怪談を創ったねぇ。この僕でも聞き入ってしまうほどに『語』の声は素晴らしい。噺家みたいだ。僕はこっそりと霊体に戻ると、彼らを見つめて消える。さて、ちょっと仕掛けをして、召喚に応じるとしよう。この学校は、こっくりさんをする生徒が多くて中々に忙しい。

 ある日の放課後、僕はいつもの旧制服姿になって廊下を歩くと、家庭科室から声が聞こえてきたので、壁をすり抜けて中に入る。そこには怪しい事を呟く人がいた。冷蔵庫の中を覗いているようで、気味が悪い。まあ、僕も怪しい存在だけど。

 屋上に行くと、二人共いた。おそらく、先ほどの光景に関係することだろう。僕はそれを流し聞きしつつ、やっぱりあの子達を呼ぼうか考える。あ、ちなみに仕掛けはちゃんと機能したらしい。校内に噂が広がっているから、あの人形がいい効果をもたらしたのかもしれない。

 おや、これから怪談を語るようだね。よし、いいタイミングであの子達に恐怖心を煽ってもらおう。

 

   *

 

 薄暗い部屋。縛られた少女に刃物を振り落とされそうになった時、四ッ谷は変な笑い声を挙げて、変な体勢でドア枠に凭れかかっていた。

 

「成程ねェ! 『着せ替え人形』ならぬ『付け替え人形』!!! 僕らが自分に合わせて服を選ぶように、アナタは服にナカミをあわせるわけだ」

「君は……生徒か……? 生徒は――もう帰る時間ですよ……?」

「まだ帰れません! 怪談に似合うのはやっぱり、放課後ですから」

 

 四ッ谷はそう言って、ドアの鍵を閉めた。

 

「怪談? あの下らない怪談を広めたのは君か? 生徒が肝試しに来て困るんだよ。もうすぐ最後だっていうのに」

「いいや、アナタの作品はここまでです。ミカちゃんが手足を取り替えちゃったら、怪談が面白くなくなるじゃないですか。彼女は永久に最後の一本を求めて彷徨う、そういう”怪談”なんですから。――でもね、この怪談にはもう一つの結末があるんです……。それをアナタに直接語りたくて、来たんですよ針子先生」

 

 緊縛とした雰囲気が漂い、空気は重苦しくなっていく。外では彼女が待っており、僕は宙に浮いて傍観している。基本、自分に関わるモノ以外は触ることが出来ず、姿を現すことはあまりしない。

 

「さァ、語ってあげましょう!! あなたのための怪談を!!!」

 

 そこから、四ッ谷の独壇場となった。雰囲気、語り、動作など様々な要素が合わさり、創られた怪談はより一層と恐怖を際立たせる。四ッ谷の怪談を聞かされている針子先生は、どんどん怯えていく。些細な音にまで敏感になり、恐怖は膨れ上がっている。

 そして、四ッ谷の仕上げにより怪談は現実味を帯びていった。 

 

「――アナタの手足を合わせれば、四本ありますから」

 

 その言葉を合図に、僕はあらかじめ呼んでいた彼女達を向かわせた。針子先生の手足にしがみついて、彼女達は淡々と話しかける。

 そこに裏口から入ってきた彼女は、人形の足を持っていた。そこで僕は彼女達を止めると、早く行くように言う。復讐は終えたのだから、これでいいだろう。あとは生まれ変われるように祈るだけ。

 その場を離れて、僕は校内を徘徊する。誰にも呼ばれない日は、色んな場所を歩いて情報を探す。成仏することも出来ず、怪談の一つに成ってしまった。誰が最初にやったのだろうか。僕を怪談にしたのは誰なのか。

 あれから数十年も学校を彷徨っているけれど、分かったのは僕の名前が関係していることだけだった。

 次の日、彼らは屋上にいるのを僕は見かけた。多分話が聞けそうなので近付くことにする。

 

「はぁぁ〜っ、女のコ無事でよかったですねェェ〜! ……でも、ヒナノの事は何もわかんないな…。そういえば、見たことない人が近くにいませんでした?」

『それは僕の事ですか?』

 

 そう言って、彼女の耳元に(ささや)く。振り向いた彼女に手を振って、笑いかける。

 

「ひゃあああああああああああああ!!」

「ひゃっーはっはっはっはっはっは!!!」

『とてもいい悲鳴ですね。少し力が上がりました』

「な、なななんですか!? さっきまでいなかったはずですよね!!?」

「確かにいなかったなァ。だが、危害は加えてこねェから安心しろ」

『君は怖いと思うけど、僕も怪談の一つだよ。元は僕も人間だったのだけど、気付いたら怪談にされて、ずっと多くの人に召喚されているんだ。あ、名前を言ってなかったね。どうも、狗塚コウリです。おそらく、名前で分かると思うよ』

 

 僕はそう言って、何もない空間に紙と十円玉を出した。それを地面に置くと、手で示す。

 

「わ、私は中島真です! え、えっと……友だちが言ってた狗塚さんですか!!?」

『そうだよ、その狗塚さん。降霊術の一種で、質問すれば答えてくれる怪談だね。答えられないモノは一部を除いて、ほとんどないと言われているよ。けれど、代価なしに答えてくれると思わない方がいいかな。僕も怪談だから、術者に危害を与える存在だね』

「ぎょええええええええぇーっ!!! じゅ、十円玉が勝手に動いてる!?」

「おい、狗塚はコックリの派生だぞ。動くのは当たり前だろ」

「そうなのか……」

『じゃ、呼びたい時はいつもの口上を言えば来るよ。君たちは特別に何も代価はいらないから、安心してね』

 

 僕はそう答えると、その場から消えた。いつも眠っている旧校舎に戻る。さて、少し眠るとしよう。

 

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