学校と怪談と人。   作:蒼書生

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※旧校舎のかくれんぼ


第ニ夜

 起きた時には外は夜になっていた。僕は旧校舎に向かうと、中に入っていく人影を見つけた。あの特徴のある後ろ姿は四ッ谷と、土屋? こんな時間に何をするつもりだろう。後を付いて行くと、理科準備室の前で止まる。ふむ、特に変な事はないから確認をするために来たのかな。しかし、二人共怪しい。おや、土屋が慌てて帰っていくみたいだけど、四ッ谷は何がしたいのだろうか。ん、あれは学生証? 

 

「狗塚、いるんだろォ? アイツには内緒にしろ」

『――大丈夫、僕は黄昏時の怪談だから何も語らない。聞かれないと答えないよ』

 

 僕はそう言って、その場を離れる。

 今の僕はこっくりさんの派生の一つで、怪異といって差し支えない存在だ。質問されたら、という制約が付くのだけれど僕は長い間、多くの人に呼び出されたおかげで噂は広まり、力が強くなっている。だから、基本は紙の上で文章を作っているが直接話すことも出来る。だが、性質上儀式に使われる紙の方が力を発揮できるから、もっぱら僕は興味のあること以外は紙で呼ばれて質問に答えている。

 次の日、校内で弥生ヒナノの噂が流れていた。旧校舎に”出てくる“のは弥生ヒナノの幽霊だというモノ。行方伊不明になってから、どれくらいの日にちが経ったのだろう。時間が過ぎれば、それだけ噂の信憑性は増して行く。

 さて、僕は一部を除けば何でも知っているが、質問されなければ答えることが出来ない。そうであるように決められ、数十年も先輩から後輩へと語り継がれた怪談。質問したことに的確な答えを出すこと、簡単なモノで安易に召喚出来ることから忘れられることなく、僕はこっくりさんであり続ける。

 放課後、僕は屋上で四ッ谷たちを見ていた。おそらく、弥生ヒナノの件を解決するのだろう。四ッ谷は真にこう切り出す。

 

「弥生ヒナノを隠したのは土屋先輩だな」

「!!! これ……これ……どこにーー!? ヒナノは!!? 先輩!! ヒナノは!? ねェ!?」

「………」

「ーーーーやだ。やだあぁあぁ」

「(僕は知っているけど、性質上言えないからなぁ……)」

 

 何も言わないことで、結構勘違いしちゃうよね。特にこういう感じって、ネガティブに考えがちだからどんどんぬかるみに嵌まるパターンが多い。それと、言い方次第ではさらにドツボに嵌まることもあって、心理誘導の手段としては普通にある。

 

「今回の”聞き手”ははっきりした。怪談の仕上げに行くぞ、手伝え」

「……なんで」

「”真実”見なくていいの?」

「だって、もう、土屋先輩が犯人で捕まるのは時間の問題で!! それで、終わりじゃないですか!!! あたしは結局、何もできない……!! できないまま! 終わりじゃないですか……」

「かくれんぼは終わってねーよ」

 

 真が悲観に暮れるところに、四ッ谷は近寄り喝を入れていく。見つからないと諦める人がいる反面、自分で確認しないと諦められない人もいるから人間は面白い存在だと思う。

 

「今回の怪談は、隠された”弥生ヒナノ”を捜す”中島真”が居なきゃあ成り立たないんだよ。かくれんぼは一人ではできない。お前以外の誰が弥生ヒナノを見つけてやれんの? お前にとってキツイ現実、それを直視しても最後まで親友を捜すなら必ず答えは返ってくる――俺の怪談が始まったらお前はかくれんぼの”鬼”をやれ。”聞き手”は俺が呼び出そう。クライマックスだ。行くぞ、いざ新たな怪談を創りに」

 

 そう言って、四ッ谷は屋上を出ていく。その後ろ姿を見送って、僕は旧校舎に飛ぶ。確か、理化学準備室に弥生さんがいたような。

 

『こんにちは、弥生ヒナノさんですよね?』

「え、ええ、そうだけど……?」

『あ、申し遅れたね。僕は狗塚コウリです。実はずっと真さんが心配していて、よく話していたんですよ』

「え、真が?」

『ヒナノさんが行方不明になってから、色々と捜し回っていましたよ。僕は最近知り合ったばかりで、助けになれそうになかったので』

「でも、どうしてここに?」

『それは、今から分かりますよ』

「――そして、一見穏やかなその少年は、狂犬の様相で少女を追い詰めます……。或いは同じようにもう一人の少女も手に掛けたのでしょうか。迫る狂気……だが、その時不意に――生温い……嫌な風が吹く」

 

 その声と共に、風は強く吹いて木々をざざっと揺らす。そして、四ッ谷が怪談の怪談は始まろうとする。

 

「四ッ谷先輩!!」

「さっきの放送は聞いてもらえたみたいですね、土屋先輩。それじゃあーー怪談を始めましょうか」

 

 夕暮れの旧校舎、ところどころ荒廃して壊れかけている。その中で、周りの空気は一変して静まり返った。

 

「ならば。ならば、なぜ殺したんですか?」

「――なに?」

「どうして、彼女を殺したんですか?」

「殺した……? 一体、何の――ハナシを……!!」

 

 その瞬間、土屋は何かを思い出したのか、理科学準備室に目を向けて、周りを掻き分けながら奥に向かう。カーテンを開けると、そこには広かった赤い液体の中に縛られた少女が転がっていた。その赤い液体は、血に見える。

 

「ッ!?」

 

 土屋が驚き、後ろに下がったその背後に四ッ谷は近寄り囁く。

 

「どうして殺したんですか?」

「僕じゃない……!?」

「どうして、殺したんですか?」

「僕はまだっ……」

「では、あなたは今、何を見たんですか」

「まだ、殺してない!!」

「ならば、その目でもう一度、確かめてみたら良いじゃあないですか」

「――……」

 

 四ッ谷の語りは、相手をじわじわと追い詰めていく。心理を突いて、相手の自白を待つのだろう。そして、心のどこかに罪悪感があるのを自覚させる。

 僕はこの光景をただ、見ているしかない。儀式をしなければ、召喚されず実体を現すにも力を消費する。精々出来るのは、周りに働きかけて雰囲気を作ることだけ。その間にも、四ッ谷は土屋のために創った怪談を語ろうとする。

 それが合図だったのだろう。真は手で顔を隠すと、数を数え始めた。焦る土屋と淡々と語る四ッ谷。そして、追い詰めるように怪談を怪談は粛々と続いていく。ガリガリと何かを引っ掻く音、どんどん増えていく数。終盤へ差し掛かる怪談。

 それは、ついに百に辿り着き、”鬼”であり真が――

 

「もーいーかーい」

「もーいーよー」

 

 鬼が「探していいか」を尋ねる言葉に、返ってきた「探していいよ」という合図。

 何かを感じた土屋は、背後を振り返って見た幻覚に怯え始める。そして、驚いた真は近づいて確かめれば、それは生きているヒナノの存在。思わず泣いてしまえば、それに追い打ちをかけるように放つ四ッ谷の言葉。

 

「俺は一遍も『死んだ』なんて言ってない」

「!!? ーーーーーーー―!!!?」

 

 確かに、一度も死んだとは言っていない。思わせぶりな行動に引っ掛けられ、死んだと思い込んでしまったのだろう。血だと思っていたのは、買い占められたトマトジュースだ。夕暮れの廃校舎は、電気も通っておらず、薄暗いから血に見えただけ。

 

「ヒナノみっけ!!!」

 

 嬉しいのか笑顔で、宣言した真。それは、ずっと行方不明だった友だちが見つかって、とても安心したのだろう。

 

「”旧校舎のかくれんぼ”これにでー―お了い」

 

 四ッ谷の言葉で、怪談は終わりを迎えた。長いかくれんぼは、ヒナノの生存という形で締めくくられたのだ。

 僕は安心して、その場を離れる。桜の木に向かって、枝に座ると空を見上げた。月が浮かび、それを見た瞬間に自分の生前を思い出した。いつもは夜が来ると眠っていたが、今夜に関してはなんでか、起きていないといけない予感がしたおかげで、今まで忘れていたことを思い出せた。

 

『――そうだ。あの日の放課後、僕は誰かに階段から突き落とされて殺されたんだった』

 

 そこで記憶は途絶えていて、気がつけば僕はこっくりという怪談にされていた。それから、誰かしらに呼ばれたことを皮切りに、狗塚さんと呼ばれ、今に至る。そこで、誰が僕をこっくりにしたのか、どうして名前をそのまま使ったのか、どうやって広まったのか。そしてーー誰が僕を殺したのか。疑問は多くあるが、未だに見つからない。

 

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