学校と怪談と人。   作:蒼書生

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※十増間さん


第四夜

 僕は放課後の屋上で、家族を思い出す。お父さん、お母さん……ごめんなさい。親より先に死んでしまって、親不孝ですね。でも、僕はあなた達に二度と会えないでしょう。そして弟よ、あの約束を守れなくてごめん。だけど、僕のことは忘れてもいい。ずっと心に残って、思い出させてしまう兄なんて悲しくて寂しいだろう。ここで君の一生を祈って、大切な息子を見守ってあげるから。

 感傷に更けて、僕は永遠の中学生を30年近くも続けている。生きていれば、愛しい家族が居たのだと思うと、残酷な人生だったんだな。もう転生の出来ない存在として、誰もから忘れた頃が僕の眠れる時かもしれない。

 さて、辛気臭い話は止めておこう。今は彼らと話せる時間を楽しんでおきたい。

 大きな絶叫が聞こえたかと思うと、真が人形の頭を持って屋上に駆け込んできた。そのまま持ってきたと思うと、いささか反応が違うんじゃないかな。そこで怖がっていれば、多少は噂が変わると思うのだけれど。今までやってきたことを考えれば、オカルト少女だと思われても仕方ないような気がする。

 

「心臓に良くないとおもいます! だいたいそんな恐怖ネタ、ホイホイ無いとおもいます!!」

「……そうか……残念だ……お前には期待したのに……。わかった、仕方ない。じゃあ、他のヤツに頼もう」

「えっ、そんな事頼めるヒトがいるんですか?」

「”十増間さん”」

「トマシマサン?」

「お前も知っている通り、この学校には”四ッ谷先輩”という怪談が流れている。昔、その噂を信じ”お供え噺”を異常な執念で集めた生徒が居た。その生徒の名が十増間加奈子。

 学校中……或いは町中……、彼女は取り憑かれたように”怪奇”を集めました。そしていつか”お供え噺”としてではなく、怪奇を”集める”という事自体が彼女の目的となって行ったのです。

 でも、コレではたくさん集められない」

 

 もっと沢山探し回りたいのに、自分の身体はひとつだけ。そこで彼女は思いました。

 

「バラバラに探そう」

 

 そしてーー

 自分の身体を切り刻んでしまったのです。手、足、頭、それぞれを二つに、そして残る胴体。彼女は未だに怪奇を探しながら、2年A組に潜んでいる――」

 僕はその話を聞いて、30年近くも怪奇をしているけど、聞いたことがない。その名前は、存在していないはず。何度も呟いていると、そのカラクリに気付いた。

 四ッ谷を見れば、ニヤリと笑っていたから当たっていると思う。これは完全に、真のことを指していると確信する。

 

『こりゃ、確かにネタが向こうから来るね。意図せずに、どんどんやってくるから困りはしない』

「ヒヒヒッ、アイツは良いネタを持ってくるからな。それより、お前の事だが――名前を弄れば、狐狗狸になるな。だが、人から怪奇になるにはおかしいぞ。短期間でなるなんざ、聞いたことないなァ」

『そうだね、聞いたことないのも仕方ないと思う。僕も殺されたところで記憶は途絶えていて、気付けばこっくりさんの一種になっていたから』

 

 僕はそう言って、紙を取り出した。呼び出すのに使われる五十音と鳥居、『はい』と『いいえ』の書かれた儀式をするうえで必要なモノ。これには、もう一つ意味がある。

 

『人から怪奇になることは、決してありえないわけじゃない。ただ、かなりの年月が必要になるんだ。でも、極稀に短期間で怪奇になる人はいる』

「………」

『それは――血筋なんだ。たまに先祖に妖怪と結婚して、子を成した家系がある。その子どもは両方の血を持っていて、半人半妖だったり片方の血が強いだったりと様々だね。そして、先祖返りで生まれる子どももいる』

「それじゃあ、お前はそうなのか」

『僕の家系は複雑でね、時々生まれることがある。もう気付いているだろうけど、僕は狐の特徴を持って生まれたんだ』

 

 そう言って、術を解くと耳と尻尾が現れる。綺麗な艶のあるモフモフした姿。人によっては、とても興奮するアレ。

 

「これはァ!! お前は凄い怪奇だなァ、気に入ったぞ!!」

『そう言うと思ったよ。普段は隠しているけど、言わないでね。――さて、狗塚さんにもう一つ意味があることは知っているかな?』

「ああ、49枚に破いて校庭の隅にある小さい祠の下に埋めるんだろォ? ああ、十円玉は使い切るんだな」

『そう、人を呪う儀式の手順だね。紙に鳥居が描かれていなければ、効果はない。鳥居は神聖なモチーフで、神を祀る神社を守る結界の要となる。つまりは、鳥居は神社に入る入口なわけで、ここで善悪をふるいにかけるんだ。善霊は通れて、悪霊は弾かれるけど、これは人には効果がないんだ。だって、身体があるんだから』

「だが、そんなことが関係あるのか?」

『よく、歩いていると赤い鳥居のマークが描かれたプレートを見かけないかな?』

「あァ、あるな」

『あれはしてほしくない場所に置くことで、効果が発揮するんだよ。人の意識の奥深い部分には、常に罪悪感というモノが潜んでいる。大抵は無意識に感じるけど、罰が当たるんじゃないか、と考えてしまうんだ。それと一緒で、鳥居が描かれた紙を破ることで、結界を壊すという意味を持つことになる。それを祠の下に埋めるということは、無防備を意味していて、結界を意味する鳥居を壊したから、悪霊にとってはいい巣窟になりうる。細い路地に小さな稲荷を祀る祠があるよね? あれは京都にある伏見稲荷大社から稲荷を来てもらうために建てられたモノだよ』

 

 僕はある手順をしなければ、まだ危なくない怪奇である。けれど、その反面で誰かを呪う時は決まった手順で行えば、確実に呪えてしまえるほどに危険な怪奇だ。これは幸い、誰にも知られていないらしい。まあ、ネットに投稿されていると思うけど。

 それに血筋だけれど父は普通の人間で、妖怪の血がたまたま僕の時に発現して先祖返りで、耳と尻尾を持った状態で生まれた。それから数年後に弟が生まれたが普通の人間で安堵したらしい。まあ、その影響で僕も少し神通力はあるみたいだけど隠すように言われている。今は耳や尻尾を隠すために使っているけども。

 

『狗塚さんをしたあとの紙を破る枚数が決まっていること、使った十円玉を手放すことに意味は持たされている』

「……なるほど、死ぬまで苦しめということだな。そして、十円玉は目印になる」

『破った紙を祠に埋めなければ、害はないから広めるなら頼むね。さて、この話はここで止めておくよ。そろそろ、面白そうなネタが来そうだし、僕は甥を見たいから』

 

 そう言って、2年A組の教室を覗く。柔らかそうな天パの男の子がいた。僕と同じ天パで、顔も似ている。弟はどんな思いだったんだろう。自分の息子が兄に似ていた時は。だからか、真が僕を見て驚いた顔をしていたのか。瓜二つと言っていいほどに、似ていたからね。それにしても、どうして暗い顔をして俯いているんだろう。壁をすり抜けて中に入ると、周りの子たちが何やら話していた。

 

『なるほど、その代理の先生に色々と言われたのか。これは許せないなぁ』

 

 僕は離れると、屋上に向かう。四ッ谷と真が話をしていたので、姿を消して聞いてみた。内容から、なんとなく察しは出来た。それなら、僕はこっそり幻を見せておこうと考える。四ッ谷の語った”十増間加奈子”の怪談の通りに、真にその幻を重ねる感じでいこう。思い込みを利用すれば、おそらくは恐怖を倍増させることは出来るはず。

 放課後になるのを待って、僕は2年A組の教室に隠れる。次々と人が集まり、真の話は始まった。

 

「せんせー、知らないんですか?」

「何をだ」

「四ッ谷先輩は居るんですよ」

「なに……?」

 

 その声と共に、先生のスーツのポケットから紙が落ちた。紙には十増間加奈子と、ひらがなで書かれたとましまかなこと番号。

 

「!!?」

 

 脳裏に浮かんだのは、生徒たちの怪談話である。怪奇ネタを持ってないと殺される、身体がバラバラなんだって、と聞こえてきた内容。そこにゆらりと動く真。

 

「!」

 

 その首には包帯が巻かれている。

 

「せんせー」

「!!?」

「この前”何故、席があるのか”って言いましたよね。……座るからですよ。四ッ谷先輩が座るからですよ」

「そんなバカな事……」

「何年も前、この学校に怪談に魅入られた生徒がいたんです。それが”四ッ谷先輩”。四ッ谷先輩は怪談話を創って、人に聞かせるのが好きでした」

「実在する……? ハハ……そんなこと――」

「でも彼のお噺を聞いて、みんな笑っていうんです――」

「「あるワケがない」」

「!」

「――みんなに怖がってほしいのに、誰も信じてくれない。だから、四ッ谷先輩は自分が”怪談”になろうと思ったんです。自分で、命を、絶って」

「!?」

「四ッ谷先輩が最期に残したことば」

 

 ”2年A組、窓際、後ろ。僕は、ずっと、居るよ”

 ”座るから、ですよ”

 ”四ッ谷先輩が”

 

 ――座るから、ですよ。

 

 真の言葉に、ゆっくりと振り返れば、誰もいなかったはずの席に、俯いた男子生徒が座っていた。

 

「だっ……誰だ……?」

 

 しかし、答えない。

 

「誰だっ」

 

 手を上げ、先生の持つ出席簿を指す。

 

「?」

 

 先生は広げてみて気付き、床に落とした。ページがパラパラと捲られ、2年A組のページを開いた。そこにはいないはずの19番目に、四ッ谷文太郎と書かれている。

 

「2年A組、窓際、うしろ。僕は――」

「く、来るなっ」

「ズット居ますよ。先生。――”怪談なんてくだらない”確かそう――」

 

 この演出はたまらなく怖いだろうね。誰も使っていない席、その席にまつわる噂、そして噂の本人が座っている。それらの要素が合わさり、恐怖はどんどん増していく。

 話の流れから、僕はそろそろ準備を始める。人の思い込みを利用しても、時には違う方に作用してしまう。そこで、僕は思う方へと修正していく。

 

「それじゃあ先生に――”彼女”から質問ですよ」

 

 先生の脳裏に、生徒たちの怪談話が次々と浮かんでくる。ただの怪談、それがもし本当だとしたら。

 

「せんせい」

「!?」

「持っていますか」

 

 その言葉で、僕は真に幻を重ねた。所々破れたセーラー服、血が滲んだ跡、極めつけは首にしていた包帯から覗く切れかかった部分。先生の思う“十増間加奈子”の姿を投影したのである。

 

「もっ!!? 持ってませんんんん」

 

 そう叫び、教室から素早く逃げていった。残された四ッ谷たちはそれぞれ、反応が違う。

 

「ええっ、何!? 先生、チョット待って……。ん!?」

 

 後を追いかけようと、廊下に出た真は床に落ちた退部届を拾う。そこには、桜野春太と書かれている。僕は教室から姿を消して、屋上に現れた。これで、あの子はいつもの日常を過ごせるだろう。少し胸が軽くなったような気がしたけれど、とりあえずは安心した。

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