これは2人の愛を取り戻す物語。
これは人類が焼却された未来とヒトの笑顔が絶えない過去の狭間で、ちっぽけな人間がちっぽけな理由から家出して発展させた事件です。
開けた窓から差し込む木漏れ日と、水飛沫が床のタイルを飛びはね立ち上らせる白い湯気のコントラストが、2人の男女のシルエットを浮かび上がらせます。
シャワールームで、一糸纏わぬ姿で肌を密着させ、お互いの身体をまさぐり合ってます。
時おり喘ぎ声を押し殺すような、くぐもった声が洩れます。
女は久しぶりでした。
たわわな果実を何度も押し潰され、その度に戸惑いと恐れと憤りとそれを上回る喜びを相手に悟らせないよう強がってみせています。
微熱で身体が敏感に反応するのです。
熱い吐息が男の耳にかかり、ナニかを懇願してしまうのでした。
ナニかが擦れ脳内でシナプスが迸ります。
ナニかが別の生き物かのように蠢き、その後を追おうとしてしまいます。
女は、女の喜びを思いだしました。
コレが欲しかったのだ、と渇望しているのです。
しかし、この男はロリコンです。
発情しません。
できません。
真顔です。
残念でした。
『クソッタレガ、ニオイが取れねえ……おい、手を止めるな。もっと擦れよ』
『うっさいわね、ちゃんとやってるわよ! というか、アンタさっきからどこ触ってのんよ、この変態……そっちこそ、ちゃんと洗いなさいよこのバカ』
『あ? お前こそちゃんと洗えよ……背中、右の方がかいーんよ』
『は? 何が「かいーんよ」よ。キモっ……ていうか、アンタの粗末なモノが当たってんのよ。マジキモいんですけど……』
『うっせーな、当てたくて当ててるんじゃねーし。つーか、なに、顔赤くしてんの? え、なに期待してんの? え、キモっ……』
『は? してないしっ……自意識過剰なんじゃないの? キモっ』
『あ?』
『は?』
当時のフランスにシャワーがあったかどうかはさて置いて。
現在、先輩とジャンヌ・オルタさんは宿泊したホテルの一室の、シャワールームにいました。
先輩は右手、ジャンヌ・オルタさんは左手を封印されているので、お互いの背中を洗いっこしてあげなくてはなりません。
というのも、目玉が飛び出してる方のジルさんによって、先輩とジャンヌ・オルタさんは呪いを掛けられました。
恋人繋ぎしてフランスをデートして仲直りしないと解けない呪いです。
もし、恋人繋ぎをしなかったらジャンヌ・オルタさんは猫耳が生えて笑い者になってしまいます。竜の魔女の威厳なんてあったものじゃありません。
先輩へのペナルティは猫耳が生えるなんて生ぬるいモノでなく、何かヤバいものを下呂されるそうです。
何か、というのもこちらモニター越しからは確認できませんでした。残念です。
そんなこんなと、取り敢えず寝床に着いた二人でしたが案の定、朝には恋人繋ぎはほどけており、ベッドの上が大惨事になっていたことはシャワーを浴びて身体を洗いっこしているお二人を見るから想像するに、皆まで言わなくてもわかりますよね。
ただ、冒頭のような官能的でエロスは一切なく、アレは私の妄想で、実際は喧嘩の最中というのもあって、睨み合いといがみ合いが続いております。
嫌々、仕方なく、こいつ匂うから、洗ってやってるのよ……です。
『ちっ』
先輩が大きく舌打ちをしました。
『ふん』
それに対してジャンヌ・オルタさんが鼻を鳴らしました。
『ブスっ』
先輩が低レベルで頭の悪そうな暴言で煽ります。
『ぺっ』
ジャンヌ・オルタさんがお返しに唾を先輩の顔面に吐きました。先輩が悪いです。
しかし、この二人仲直りする気あるのでしょうか。
『汚ぇなっ』
『アンタがね』
『あ?』
『アンタのゲロまみれのその口臭の方がよっぽど匂うし汚いわ、つってんのよ。公害って知ってる?』
『オーケーわかった……キスしてやろうか?』
『絶対イヤっ!!』
『だったらこれでも喰らえ。はぁ~』
先輩は千年の恋も近隣近辺の小さな恋もまとめて、ゲシュタルト崩壊待ったなしの恋人公害兵器・息を吹き掛けるを放ちました。
『ちょっとホントやめてよ!』
『ガチで泣くなよ!?』
『だから臭いつってんでしょうが!!』
『あべし!?』
『大体アンタが私をスルーしなかったらこんな大事にならなかったのよ!』
さて、ここからは真面目な話し。
今回の喧嘩の元になった話し合い。
二人が話し合わなければ仲直りもできない問題です。
何故、先輩がジャンヌ・オルタさんを無視したのか彼女は知りません。
先輩も、忙しい時に妨害されましたが、ジャンヌ・オルタさんの気持ちを汲み取ってあげないと駄目だと思います。
だから、公害レベルの悪臭は一旦我慢してください。
『じゃあさ……お前、俺の代わりにエリちゃんのライブ行くか? お前が責任取るか? 死ぬのか? お前、死にたいのか?』
『ぜっ、絶対行きたくないわよ……』
『じゃあ、俺の邪魔するな。意見もするな。脛を蹴るな』
『だけどスルーはありえないでしょ。あんまりよっ!』
『お前はアイツがどんなにライブ楽しみにしてるか知ってるのか? どれだけ練習してきたか知ってんのかって!』
『そ、そんなキレなくていいじゃない………』
『いや、キレるぞそりゃ。エリちゃんの、前回のライブ観客動員数を知ってるか?』
『し、知らないわよ……』
『俺とマシュの二人だけだ』
『嘘っ……』
嘘ではありません。
事実です。
ライブは成功とは言い難い形になりました。
『エリちゃん、いっぱい練習したからってギャラリー増えるはずもないのにバカみたいに夢見て俺に嬉しそうに話してくるんだぜ? 今度は成功させるって』
『………』
………。
『なっ、可哀想だろ?』
『だからアンタはあんなに走り回ってたんだ……今回のライブ、成功させようと……それを私、邪魔しちゃったんだ』
『あ、それは違う。どうやってライブ潰そうか考えながら走り回ってたのをお前が邪魔したんだ』
『は?』
『お前、いきなり明日ライブやります。マスターどうにかして、と頼まれて、はいわかりました、貴女のために死ぬ気で客集めますとか無理だろ』
『それをなんとかするのがマスターじゃないの』
『阿呆か。4、5人頼み込んで悟ったわ。こいつら、人が下手に出れば搾れるものは搾り取ろうとする血も涙もないサーヴァント集団だったってことをな!』
『あっそう……』
先輩が身体を差し出せば全て交渉成立したんですけどね。
『だから俺はライブを潰すことに決めたんだよ。誰もがみんな笑顔になれる最高のハッピーエンドってやつをな!』
格好いいように聞こえますがサイテーな事しか言ってません。
『いや、アンタだけがハッピーになるの間違いなんじゃ?』
『バカいえ、ライブを潰さなきゃまたエリちゃんが可哀想だろ。誰も来なかったら惨めな気持ちになるだろ。じゃあさ、何はともあれ何かトラブルあってライブなくなった方が納得いくだろうが。残念だけど、また今度って………諦めてくれるかもしれねーじゃねーか』
やはりサイテーです、このヒトでなし。
『ん? であれば、私のおかげでライブ中止になったんじゃない? アンタはカルデアを家出してフランスにいるんだし』
『あれ、本当だ!?』
盲点でした。
まさか、もう既にライブの問題は解決しつつあるのでした。
先輩が家出して帰れなくなった状況をカルデアにいるエリザベートさんに説明して諦めてもらうのです。
あとは私の説得次第という訳です。
先輩の言う通り、誰もが笑顔になれるハッピーエンドってやつは、もう目の前まで来ていたのです。
『よかったじゃない。これでアンタはハッピー。エリザベートも現実を受け入れずにハッピー。感謝しなさい』
『ありがとう、助けかったよ邪ンヌ。怒鳴って悪かったな、仲直りしよう』
『私も悪かったわよ。脛、痛かったでしょ?』
『んな、ことねーよ。アレ、実はお前に蹴られてじゃなく躓いて転んだだけだから』
『どんくさいマスターね』
『まぁ、これにて一件落着だ』
外からはを二人を祝杯するかのような、リヨンの街の喧騒が聞こえてきました。
露店を開く店主の怒鳴り声。
果物を盗んで路地裏を駆けていく子供達の笑い声。
陽気な音楽家が奏でる音色。
キャンキャンうるさいワンちゃん。
先輩たちにおめでとうと言ってくださっているような気がします。
ほら、あの建物の上にあるフランスの国旗を見てください。
旗が強風に煽られはためき喝采が…………あっ、旗折れてしまいました。
『じゃあ俺たち仲直りしたってことで、手を離してもいいよな?』
『ええ、私たちは見事ジルの試練を乗り越えたわ。手を離しましょう』
『じゃあ、せーの………で、オロゲェェェ……っ』
『ヽ(;゜;Д;゜;; )ギャァァァ!?』
はい、知ってました。
相変わらずモニターの調子が悪いですが、先輩が下呂しただけはわかりました。
見せかけの仲直りは認められなかったようですね。
先輩。とりあえず、呪いが解けるまで帰ってこなくて結構です。
ご感想、ご質問はカルデア窓口まで(゜ロ゜)