先輩、ATMはカルデアにありません!   作:れべるあっぷ

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先輩と竜の魔女EXⅢ

 先輩、ちゃっちゃとデートして仲直りしてください。

 

 お二人を見ていると、もどかしくなってきます。歯痒いです。

 

 不器用なんですね。

 

 自分の気持ちに素直になれないだけなんだと思います。

 

 先輩、ちゃんと歯磨きしましたか?

 

 口臭バッチリですか?

 

 いざという時は絶対くると思いますよ、マジです。

 

 バッチリであればラブホを出ましょう。

 

 デートに出掛けましょう。

 

 リヨンの街へ繰り出しましょう。

 

 これって誰にでもできるようなことじゃありませんよ。

 

 当時のフランスでデートなど、誰もが羨む特権です。

 

 どれだけ功績を残した著名人もできません。

 

 莫大な富を持ったセレブだろうとできません。

 

 タイムマシンを作れない天才にはできません。

 

 人類最後のマスターである先輩だからこそ可能にさせた物語です。

 

 さて、長いプロローグは終わりました。

 

 本編を楽しみましょう。

 

 そう、ホテルをチェックアウトして、足取りは軽やかに、露店で賑わう広場を通りすぎ、お天気ネタで談笑して、町外れの桟橋を渡って、リヨンの町が小さく、あんなに小さく離れちゃって………

 

『ぐだ男、海魔が出たわ!』

『じゃあ、ひと狩り行こーぜ!』

『ふん。アンタにしては上出来なデートプランね……っ!!』

 

 ………。

 

『邪ンヌ、右から3体親子連れが来るぞ! いや、アレは歳の離れた兄弟だ!』

『何言ってるかわかりませーん。とりま、燃やすわよ?』

 

 ………。

 

『いいから俺の言う通りにしろ。まずは小さい奴。弱者から、チビを狙えば奴らキレるだろ? そこで小学生時代4番エースだった俺が石で一匹煽ってやるから、次はそいつを狙え!』

『うっさいわねー。あんな雑魚共に指示もクソもないでしょうに』

『おいおい、あんまり動くな。俺がついていけないって! そこから一歩も動くな! もう、動くな!』

『はあ!? そんな命令ありえないんですけど!!』

『いいからチビから殺れ。ほら、ファイアーボールだ!』

『そんなダサい技ありませーん! えぇい、メンドクサイ!』

『お前、俺の作戦無視して全部燃やしてんじゃねーよ。俺の存在意義が無くなるだろうが!』

『あぁ、アンタただのお荷物だもんね?』

『そ、そそそそんなことないもん!!』

『まっ、どちらにしろ戦闘終了よ。あんな海魔でも何かドロップしたわ。拾いに行くわよ、付いてきなさい』

『あ、はい』

 

 ………。

 

 ドクター、緊急事態です。

 

 私には処理できません。

 

 私の知ってるデートではありません。

 

 もしかすると、私の中にあるデートの知識が間違っていたのでしょうか。

 

 デートとは男女が一狩りするためにあったんじゃ……

 

 近くにいるダ・ヴィンチちゃんが現実逃避して鼻歌歌って目を合わせようとしてくれませんでした。

 

 あ、また魔力反応多数。

 

 例のタコさんが、1、2、3、4、5…………どんどん増えていきます。わんさか増えております。

 

 その数、ざっと100………大量発生し過ぎです。

 

 先輩達は囲まれました。

 

『や、やべぇ、こいつはやべぇ。何がやべぇってやべぇしか言えない俺のボキャブラリの無さがやべぇ』

『どうするつもりなのよ!?』

『取り敢えずアレだ。コイツら皆殺しにして今日はたこ焼きパーティーしよう。シェフを呼べ』

『あのタコ不味そうなんですけど! それ以前に私たちだけで捌ききれる数じゃないんですけど……っ!!』

『こんな時、ピンチになった時に助けてくれるデオンが登場してくれたらいいなー』

 

 いいなー……じゃないでしょうに。

 

 デオンさんはあの後別行動で、ジルさんの動向を探りに行ったじゃないですか。

 

 今回だけは万に一つあのヒトが現れることはないと思われます。

 

 先輩、とにかく死に物狂いで生き延びて、またカルデアでお会いしましょう。

 

『実はデオンが物陰からこっそり登場のチャンスを窺ってるかもね!』

『そんな都合の良い展開があるわけないでしょうが! ほら、手薄な所を突破するわよ!』

『と、見せかけて罠じゃねーか……っ!?』

『うそ……っ!?』

 

 どうやらタコさんの知能指数は先輩達を上回るようです。手薄と見せかけて包囲網を固めてきました。

 

 ジリジリと近付き、タコさんの触手が先輩の頬をビンタしました。

 

『ぶへっ!? ダイレクトアタックされたぁ……ッ!?』

『ぐだ男、大丈夫!?』

『ごばっ!? って、ちょっと待って。今のは待て。お前、どさくさに一発俺を殴らなかった? 殴ったよな?』

『あっ、ごっめーん。アンタがあのタコみたいな顔してたから、ムカついてつい殴ってしまったわ』

『見間違いではなく……っ!?』

『殴り足りないわ』

『あだっ!?』

『今のは私じゃないわよ? タコさんよ』

『クソッタレガ!!』

『あぁ、仲間割れかしら?』

『んなわけあるか!!』

 

 幾度となく特異点を攻略してきた者たちの余裕というものでしょうか。

 

 これぐらいのピンチはピンチの内に入りません。

 

 ましてや、海魔にビンタされた程度でへこたれる先輩ではありません。

 

 普通のヒトなら首の骨折って終了ですけど。

 

 ジャンヌ・オルタさんだって先輩の人間強度ぐらい把握されているでしょう。

 

 先輩を囮に使うやよし、タコさんの注意を反らして、その隙を付け入れ旗で突きを入れるのです。

 

 突き刺すのです。

 

 振り回しては叩き上げ、凪ぎ払うのです。

 

 でも、どうやらここまでのようです。

 

『ちっ、数が多すぎ……』

『うげー、俺の股間まさぐってきた!?』

『くっ、旗を奪われたわ。もう、私達……おしまいね……』

『そう思えば、俺たちは出会ってからずっと、いがみ合ってばっかりだったよな』

『そうね……あんまりいい思い出がなかったわ……』

『………』

 

 ………。

 

『あーあ、どこかの誰かさんがもっとイケメンでゲロ臭くなくて理解あるマスターが良かったわー』

『悪かったな、ゲロマスターで』

『だけど、ぐだ男……私が囮になるからアンタだけででも逃げなさいな。ゲロは相変わらずでしょうけど、生きてればなんとかなるわ…アンタだけは死なせるわけにはいかないもの……』

『ばーか、フラグを建てるにはまだ早すぎるぜ。これが終わったらちゃんとしたデートしよう。お前と行きたい所は山ほどあるんだからな』

『バカ。アンタの方がよっぽどバカよ……』

 

 ありがとう、マスター……と聞こえないほどの小さな声でジャンヌ・オルタさんは呟きました。

 

 フラグ建っちゃいましたよね。

 

 先輩、近くでサーヴァント反応です。

 

 助っ人です!

 

 映像と音声、確認取れました。

 

 アタランテさんとマルタさんです。

 

『ロリコンマスターはどこだ?』

『あきれた、気味悪いタコさん達の中心で今にも愛を叫びそうな勢いで邪ンヌと見つめあってるわ。何してんだか……』

『今日、アイツは子供達と遊ぶ約束していんだ。それをアイツは放棄したんだ……アイツが子供達の願いを叶えてやらなければ、これじゃ子供達があまりに可哀想だ』

『うん、もう何だか論点ズレてるよね。目が血走ってて怖いんですけど……だから心配だったんだよ、付いて来て正解だった。だけど、ごめんマスター。止められそうにないかも』

 

訴状の矢文(ボイボス・カタストロフェ)……ッ!!』

 

 あっ、と言う間もありません。

 

 何しに来たのかよくわからない……いえ、目的はハッキリしていて、先輩を亡き者にしに来た暴走したアタランテさんの宝具が展開されました。

 

 星が瞬くかのような無数の矢の雨が降り注ぎました。

 

 タコさん達が一掃されます。

 

 ロリコン先輩も死滅したでしょうか。

 

 邪ンヌさんが庇っていれば、或いはですが……

 

『チッ、外したか……』

 

 どうやら凌いだみたいです。

 

 尻餅を付いた先輩の股下に矢が刺さってました。

 

 アタランテさんの舌打ちはスルーしときましょう。

 

『あ、危なかった~……』

『ア、アンタじゃなきゃ死んでたわね。どんだけ強運なのよ……』

『アタランテの奴、粋な登場の仕方しやがって……』

『ポジティブなのはわかるけど、今までに見たことない凄い形相でこっちに来るわ。逃げるわよ』

『いや、待て、その前にドロップした素材と具材をだな……』

『アンタ死にたいの? 死ぬの? いっぺん死んでみる?』

『おっ、レア具材発見~。モツだ!』

『うぇっ……』

 

 ………。

 

 呑気に具材拾ってる場合じゃありませんよ、先輩。

 

 このあと、狂化されたアタランテさんに追い付かれたのは言うまでもありませんでした。

 

『ロリコンゴラァァァァアアアアー……ッ!!』

『ギャー……ッ!?』

 

 なんだかアタランテさん、イキイキしてます。

 

 まる。

 

 

 

 

 ☆―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 拝啓、ドクター。

 

 シャトル積み上げ記録は順調ですか?

 

 不眠不休で積み上げていると伺ってます。あまり無理をなさらずに記録目指してください。

 

 わたくし、マシュ・キリエライトは「狩り」について考えさせられました。

 

 デートで狩りに出掛ける現代人はいません。

 

 まぁ、テレビゲームの「狩り」で恋人と協力プレイするのもデートというのなら、本人達がそう主張するならそうなのでしょうけども。

 

 人類がまだ石を削った武器を握りしめ狩りをしていた時代なら、狩りでデートもあるのかもしれないと想像させられます。

 

 これは先輩からの何らかのメッセージなのでしょうか。

 

 一見、現代人にとって、常識的に考えて、私の中にあるデータベースと照らし合わせて、デートとかけ離れた「狩り」ですが、先輩は私に何を伝えたかったのでしょうか。

 

 ダ・ヴィンチちゃんは鼻歌歌って雑誌読んでばかりです。

 

 スルーされてます。

 

 使えない天才は先輩以下です。

 

 カルデアきっての頭脳が現実逃避されると困ります。

 

 先輩たちの愛を取り戻すための物語は難航しています。

 

 今回のデート一つとして、場所がフランスというのも望ましくありません。ジャンヌ・オルタさんの機嫌を損ねるだけなのは明らかだというのに、ジルさんはとんだ試練を用意したものです。

 

 試練というのならば、「狩り」が第一の試練でアタランテさんを第二の「試練」としましょうか。

 

 先輩は現在進行形でアタランテさんに馬乗りされてボコボコにされています。

 

 仲介役のマルタさんは先輩の限界値を見定めて、取り敢えず静観しているようです。

 

 邪ンヌさんに至っては「スッキリするまで殴らせてあげたら?」と先輩の隣に腰を下ろして、事の成り行きを見守っています。

 

 恋人繋ぎのままです。

 

 あとは、先輩がアタランテさんをどう説得するかです。

 

 ………。

 

 ですが……これは…………ちょっとまってください。

 

 そんなことがあっていいのでしょうか……

 

 私、今もの凄く混乱しています。

 

 開けてはならないパンドラの箱を開けようとしているのです。

 

 だから、先輩は「狩り」のメッセージを私に伝えたかったのでしょうか。

 

 この物語、ただ愛を取り戻すようなハートフルでハッピーエンドで終わる話しではないのかもしれません。

 

 確証はまだありません。  

 

 ですが、ここでのんびりお茶を啜っている場合ではないのは確かなようです。

 

 私にできることをしなくてはならなくなりました。

 

 やはり先輩には頼れる後輩が必要ですね。

 

 ふぅー、やれやれです。

 

 本当にやれやれなので、私は駆け足でドクターの元へ向かって、シャトルを蹴散らしてやりましょう。

 

「ドクター! いつまで現実逃避してるんですかー! カルデアのため、人理継続のため、社会復帰する時間ですよー!」

「ああー!? 血と汗と努力の結晶が……っ!? マシュ、僕はそんな悪い子に育てた覚えはないぞー!!」

 

 私は人理を守るために悪い子になっても構いません。

 

 かしこ。




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