先輩、ATMはカルデアにありません!   作:れべるあっぷ

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先輩、いつもの三人衆からは逃げてください

 まだ正午を少し過ぎた頃。

 

 眩暈がしてきました。

 

 2人のファラオに令呪を使ったあの愚行を思い出すと立ち眩みさえします。

 

 ちょっと私、疲れてるんでしょうか。

 

 えぇ、疲れましたとも。

 

 あの後、オジマンディアスさんを召喚する儀式を終えた先輩は、ファラオ達にリンチされたのは言うまでもありませんが、それの仲介とかで私疲れました。

 

 そして、先輩はイジけてどこかへ去って行きました。

 

 とてもめんどくさい展開になりました。

 

 いつものことですが、先輩を探し当てるまでイジけて出てきませんから……お昼ごはん、ちゃんと摂っていたらいいのですが。

 

 今はニトクリスさんとクレオパトラさんに協力してもらい手分けして先輩を探してもらってます。助かります。

 

 まぁ、彼女たちが負い目感じることないのですが。なんだかんだマスター想いの良きサーヴァント達です。ちゃんと先輩も彼女たちと真正面から向き合わなければなりません。

 

 今後の課題がまた一つ増えました。

 

 ただ、何か見落としているような……何か用事を忘れてるような……まぁいいでしょう。それより先輩が最優先事項です。

 

 早いこと先輩を見つけてあげなくては、小鹿のような先輩は震え上がって肉食系サーヴァントに拾われ食べられてしまいます。

 

 とりあえず、まずはいつもの三人衆のところへ向かってみるとしますか。できれば手遅れになる前にあの三人衆の誰かが先輩を拾ってくれていると話は早いのですが……

 

「あら? マシュさん。マスターとご一緒されてませんでした?」

「あ、頼光さん……」

 

 言ってるそばから、あちらから登場してくれました。三人衆の1人、源頼光さんです。

 

「いえ、それがですね頼光さん、先輩はいつもの発作といいますか、いつものをアレを発祥させまして。はぐれてしまいました」

「あらあら、いつものですか。それは母として心配ですね。早く探し出して抱きしめてあげなくては……うふふっ」

「そ、そうですね」

 

 この方も古参サーヴァントです。先輩のためなら溶岩だろうがすいすい泳ぐ恐ろしいサーヴァントです。母(バーサーカー)のハグは小鹿な先輩にはちとダメージ大です!

 

 あ、でもそれはありかもしれません。

 

「ですが頼光さん、あまり先輩を甘やかさないでください。今回のことの発端は先輩の暴走から始まったのですから。キツいお灸を据えてあげないと先輩のためにもなりません」

 

 令呪二画を無駄に使用した件はまだ話が終わってませんから。このヒトはたまに暴走しますが息子を叱ることもできる母親(バーサーカー)です。

 

 私は頼光さんに今回の経緯を説明しました。

 

「わかりました。今回は息子を見つけ次第、マシュさんのところに連れて行きましょう。そして、私もマシュさんと一緒になって叱ってあげますわ」

「たいへん助かります」

「はい。それで反省したら思いっきり抱き締めてあげてお風呂に入れてあげて一緒のお布団に入って親子の絆を深めなければ」

「え、何故そうなるのですか……!?」

「うふふ、凄く昂り………いえ、楽しみですわ♪」

 

 言い換えた意味とは。

 

 やっぱり逃げてください先輩。頼光さんから逃げてください!

 

 鼻歌を歌うほどに上機嫌な頼光さんよりも先に先輩を見つけ出さなくては……私はダッシュで次の目的人物を探し回りました。

 

「もしかしてマスター……??」

「………」

 

 あ、いました。

 

 いつもの三人衆の1人、静謐のハサンさんです。

 

 彼女は今、廊下の端に置かれた段ボール箱を先輩と呼んで声をかけていました。え、なにこのヒト怖いです。

 

「静謐さん? どうかされました??」

「マシュさん……別に何も問題ありません」

「いや、今先輩を呼んでませんでした?」

「きっと気のせいです」

「………」

 

 このヒト、怪しいです。目が泳いでいます。何か隠してます。それも先輩絡みで。

 

「名探偵マシュはこう推理します。

 静謐さんが先輩と声をかけた大きめのこの段ボール箱はなんなのか………よく観察してみると、表記された文字はひっくり返っています。

 誰かが段ボール箱を運んでうっかり落としてひっくり返ったようにも見えますが、うっかり落としてソレに気付かないはずがありません。

 気付かないのであればその人は馬鹿です。優秀なカルデアのスタッフがそんなバカなはずがありませんから。

 では、これは明らかに誰かが故意に置いたのでしょう。誰かわざと置いたとも言え変えれます。

 例えば、女性サーヴァントにリンチされてイジけてしまった誰かさんとか!」

「………っ!?」

「先輩とか!!」

「な、なんのことでしょー………」

 

 あ、このヒト、シラをきるのが下手です。口笛吹くのが物凄く下手くそです。

 

 挙動不審です。

 

 そして、まさかこんな新手なイジけかたがあるとは思いませんでした。

 

 呆れて言葉もでません。

 

 とにかく世話のかかる先輩です。

 

「先輩、こんなところでイジけてどうするんですか。とりあえず説教のお時間です」

「あっ」

 

 静謐さんの制止もスルーして、私は段ボール箱を取っ払いました。

 

「………」

 

 でも、先輩は中に入っていませんでした。

 

 私の名推理は見事にハズレました。恥ずかしくて私が段ボール箱の中に隠れたいぐらいです。

 

 代わりに段ボール箱の中に入っていたのは加藤段蔵さんでした。

 

「こ、こんなところで何してるんですか段蔵さん?」

「あ、いえ、これはマスターの指示でして……」

「あ、それは言っちゃ駄目なやつ……」

「せ、静謐さん、どういうことか説明してくれますか?」

 

 なるほど、この2人は先輩の手先でした。

 

 先輩に飼いならされた忠犬ハチ公でした。失念してました。

 

「あの、いじけたマスターは段ボール箱を廊下に置いてその中でイジけたいとおっしゃったんですけど、それで廊下の端に一つ置いても怪しくてバレるだろうから、私達にも同じようなことを命令しまして」

「撹乱作戦ですね、わかります。それで? まさか令呪は使ってないですよね?」

「それはないです。というか、マスターがそんなくだらないことで令呪使うはずないじゃないですか」

 

 いや、そんなくだらないことにも令呪を使うヒトですよ。あの先輩は……

 

「でも、静謐さんは段ボール箱をかぶってないのですね??」

「それは……マスターから大切なミッションを受けた私は指定位置に着きました。けれど、マシュさん達を撹乱させるために、もっと効果的な場所があると思い、マスターに報告しようと思ったら……もう、マスターいなくて」

「そうなんですか……」

「だから、私は片っ端から廊下に落ちてる段ボール箱に声を掛けていきました。でも、マスターは返事してくれませんでした」

「そりゃそうでしょうけど……」

 

 ドジっ子、静謐さん。需要はあるのでしょうか。

 

 それよりも、今の会話に引っかかりを覚えました。

 

「ちょっと待ってください。静謐さん、今の言い方だとデコいの段ボール箱は先輩や段蔵さんが隠れているやつ以外にもあるということになりませんか!?」

「ぎく……っ!!」

「ギク……ッ!?」

「2人揃って擬音で返答しないでください」

「うっ、そうです。もう白状しますけど、私や段蔵さんの他にもマスターに協力したサーヴァントがいます」

「というか、あの子供たちはコレが新手のかくれんぼってことになってますけど」

「もしかしてもしかしなくてもジャックちゃん達ですか!?」

「「はい」」

 

 めんどくさい話になってきました。

 

 とりあえず、先輩を探そうにもカルデア内にある段ボール箱を片っ端から探すハメになるとは思いもよりませんでした。

 

 そして、その段ボール箱はヒトが見ていないと動くものもあるそうです。

 

「たとえば、あんな感じで廊下を通り過ぎていきます」

「もしかしたら、先輩かもしれません! 失礼します!!」

 

 段蔵さんが指差した十字路で横切っていった動く段ボール箱を追いかけることにしました。

 

 そして、追いかけて、結構早い速度で動く奇妙な段ボール箱をキャッチしては取っ払いました。

 

「貴女まで何してるんですかニトクリスさん!?」

「あの不敬者がまた令呪を使ってきたんです!!」

 

 やっぱりこんなくだらないことにも令呪使ってしまったんですね、先輩。

 

 知ってました。

 

 ニトクリスさんは、涙目になりながらことの経緯を説明してくれました。

 

 曰く、ニトクリスさんはイジけていた先輩を見事発見したそうですが、捕まえようとして令呪を使われたそうです。

 

 余談ですが、その時、クレオパトラさんも名指しされて、きっと今頃はデコイの段ボール箱の中にいるだろうとのことです。

 

 もう、カオスです。

 

 令呪三画も使ってしまってどうするんですか。敵が攻め込んできたらどうするんですか。

 

 私は最後の望みを託すために、あのヒトの元へ向かいました。

 

「ますたぁ? あぁ、ますたぁーはどこへ行かれてしまったのですか……」

「清姫さん、流石にダストボックスの中にはいません!!」

 

 いつもの三人衆が1人、バーサーカである清姫さんがゴミ箱の中を漁ってました。まさに狂気です。そして、アテが外れました。

 

「あぁ、マシュさん。ますたぁが私のすとーきんぐを振り切ってしまいました。どこへ行ったのでしょう……」

 

 それはたいへん喜ばしいことでもあるのですが、今回だけは困りましたね。清姫さんのストーキング術を期待していたのですが。

 

 こうなってくると、自力で探すのがさらに面倒になってきました。

 

 あまり騒ぎを大きくすると他のサーヴァント達が我先にと先輩を探し出してしまう恐れがあります。それすなわち、先に見つけたサーヴァントが先輩を好きにしていいという謎のルールによって、哀れ先輩は肉食系サーヴァントの餌食になるのでした。

 

 めでたしめでたし。

 

「しかたありません。今日はますたぁのお布団を暖めて帰りを待つとしますか」

「いや、一緒に探してください」

 

 お布団というかベッドを暖めるのも、できればこのマシュ・キリエライトにお任せください。

 

 あ。

 

 今、たいへんなこと思い出しました。

 

 添い寝→お布団→先輩のベット→先輩の部屋で思い出したことがあります。

 

「ジャンヌさんのこと忘れてました」

「ジャンヌさんがどうかしたんですか?」

「すみません清姫さん! 先輩はきっと段ボール箱の中でイジけているはずです! デコイには気をつけて!」

「ちょっと、それはどういう意味です……っ!??」

 

 すっかりジャンヌさんのこと忘れてました。

 

 放置してました。

 

 どれくらい時間たったんでしょうか。

 

 そこは考えることをやめました。

 

「あ……」

 

 駆け足で先輩の部屋へ戻りましょう。

 

 ジャンヌさんが可哀想なので戻りましょう。そして、一緒に先輩を探してもらいましょう。

 

 そして、そして………

 

 目の前に不自然すぎるほどに怪しいダンボール箱がずりずり動いてました。

 

「もしかして先輩ですかー!!」

 

 勢いよくダンボール箱を取っ払ってみました。

 

 が、

 

「クレオパトラさんー!?」

「パト~」

 

 ファラオたちにとっては「今日はなんて日だ!」になったに違いないです。

 

 まる。

 

 

 

☆―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 ジャンヌさんには開口一番に謝罪しましょう。

 

「ジャンヌさん、遅れてすみませんでした。これには海より深い事情が………」

 

 ジャンヌさんのことを忘れていただなんて、決して口が裂けても言えませんけども。

 

 しかし、先輩の部屋に戻ってみるとその謝罪の言葉は杞憂に終わったみたいです。

 

「あら?」

「マシュさん、マスターはどうやらお疲れみたいです」

「ぐっすり眠ってますね」

 

 先輩がいました。

 

 普通に。

 

 ベッドの上で、ジャンヌさんに膝枕してもらって、すやすやと眠っています。

 

 ジャンヌさんに頭撫でてもらってます。

 

 こちらの苦労も知らないで、憎らしいほど穏やかな寝息を立ててます。

 

 なんだか、あっけなく見つかりました。

 

 あぁ、私は先輩に嘘の情報を掴まされたわけですか。結果的に見れば苦労することなく先輩を見つけることができましたが、本来であればデコイの段ボール箱をひたすら探し回って取り越し苦労になっていたのでしょう。

 

 まあ、今回はいつもの三人衆ではなくジャンヌさんの手元に置いてあるので安心できるでしょう。

 

 ジャンヌさんには先輩を任して、私は三人衆や子供たち、ついでにファラオ達にかくれんぼ終了のお知らせを伝えるために、またカルデア内を探し回るハメになるんだと思います。 

 

「それではジャンヌさん、先輩のことよろしくお願いします」

「え、あ、はい。任せてください!」

 

 邪魔者は退散するとしますか。

 

 全てが片付いたら説教ですよ、先輩。

 

 それまで、しばし甘い時間を。




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