ダ・ヴィンチちゃんは言いました。
「君の推理は根本的間違ってるよ、マシュ。そもそも、ぐだ男くんは惚れ薬なんか飲んでやしないんだから」
私の推理が間違っている。
にわか探偵はまた推理を外してしまった。
私の聞き間違いでなければ、先輩は惚れ薬を飲んでいないそうです。
ジャンヌさんに骨抜きされてないそうです。酒呑童子さんも笑って転げる待ったなしです。
そうですか。
そうだったんですね。
驚きの、驚愕すべき真実です。
だから、大事なことなのでもう一度驚きましょう。
なん……ですと……!? と、驚かざるを得ません。
え、じゃあ、あのバカップルは……導き出される答えは一つしかないじゃないですか。アレが演技だっただなんて信じられません。
本当に、先輩が関わるとろくでもなく、事件はどんでん返しに予測不可能です。
「アレが演技にしても、先輩もジャンヌさんも悪ノリが過ぎます。どれだけの人達に迷惑をかけたと思っているんやら」
「まぁ、普段奥手の聖女様にも夢を見させてやらないとね。おかげでいいものが見れたよ」
まぁ、確かに先輩をダーリンと呼ぶジャンヌさんなんてレアな光景を見れましたが。
「私は今回の事件を『恋の物語事件』として人理修復した後には本を出そうかと思うんだけど。あとでそのビデオ拝借していいかい? 勿論売り上げの何割かは君の懐に入れてあげるよ。それにこの『恋の物語事件』の全貌を明かそうじゃないか」
「わかりました。それで手を打ちましょう」
「オーケー、交渉成立だね」
英雄をダシに使う天才ダ・ヴィンチちゃん。抜け目ありません。
「さてさて、では私が誰から惚れ薬調合の依頼をされたのか、そして、何故ぐだ男くんと聖女様がバカップルを演じていたのか、順を追って説明しようじゃないか」
さあ、始まります。
『恋の物語事件』の幕開けです。
「とある朝。
何気ない、味気ない、いつも通りの朝。
私の工房に珍しい来客が訪れた。
それは儚げで憂いの帯びた白い少女であった。
『ダ・ヴィンチさん、おはようございます』
『やあ、おはよう。こんなに朝早くから君が訪ねてくるなんて珍しいね。何か良いことでもあったのかい?』
彼女がここに訪れた時、私は悟った。
もう彼女は限界なのだとーーーーーーーーーーー」
などと、話が長くなるのでばっさりカットします。
このダ・ヴィンチちゃんは作家には向いていないこともわかりましたし、もういいです。
☆―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ダ・ヴィンチちゃんの話しによると、その白い少女さんが犯人にあたる人物です。
いえ、犯人だなんて言い方は失礼ですね。
ダ・ヴィンチちゃんに惚れ薬を依頼した依頼主です。
彼女は自分の気持ちに鈍感な(他の癖の強いサーヴァントに脅かされてそれどころじゃない)先輩を振り向かせようと、もう何ふり構っていられない状況まで恋焦がれてしまっていたのです。
だから、惚れ薬を依頼しました。
やっとこれで先輩に振り向いて貰える。ただそれだけの想いだったのです。
ですが、白い少女さんはドジをやらかしました。
惚れ薬をどこかへ落としてしまったのです。
探しても見つかりませんでした。
気付いた時はもう既に時遅しです。
惚れ薬は聖女さまが拾ってしまった後でした。
こうして、白い少女の片想いの恋物語は終わりました。もう諦めて踏ん切りをつけようとしました。
ですが、できませんでした。
先輩と聖女さまが熱々のラブカップルになっていたからです。白い少女はショックでなりませんでした。
そう騙されたのでした。
聖女さまが先輩に拾った惚れ薬をどうするべきか相談されたとも知らずに、惚れ薬の持ち主を炙り出すために敢えてバカップルのフリをしていたとも知らずに……
あの子はずっと先輩を尾行していたのです。
これが、ダ・ヴィンチちゃんから聞いた話しです。
オチがありません。
そう、まだ完結していない物語だったのです。
そして、モードレットさんが先輩を連れてやってきました。先輩をボコボコにしたようです。
「マシュ、マジやべえぞ。父上たちが……!」
はい、モードレットさん。ついにアルトリアさん達にシバかれる時がきましたか。
「いや、そっちのじゃない! 謎の父上が白い父上に決闘を申し込んだんだ! このままだと白い父上が殺される……っ!」
「もうモードレットさんったら……何の冗談ですか?」
「冗談じゃねーよ! 惚れ薬なんて不正は正義をかざすための格好の大義名分だろうが! 謎の父上はそれを狙っていたんだよ! セイバーを抹殺するための絶好のチャンスだ!」
あぁ、だからあのヒトは尾行して、時に煽っていたんですね。
まったく、アサシンネットワークなんて使って何しているかと思えば……
初めからこれを狙っていたんですね。
「オレじゃ落ち込んだ白い父上をどうすることも出来なかった。元気付けることも勇気付けることも……それに! コイツに頼んでも止めてくれないし、あとはマシュに頼るしかねーんだよ! 頼むよマシュ!」
「俺は……何もできない役立たずです……」
はい、先輩は役立たずです。
「わかりました、モードレットさん。急ぎましょう!」
「サンキュー、マシュ!」
最終決戦の地はカルデア・シミュレーションルームです。
さあ、『恋の物語事件』はクライマックスです。
☆―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ですが、時既に遅しでした。
私の助手であるワトソンXくんが白い少女を完膚なきまでに叩きのめしていました。
セイバー・リリィさんを竹刀で滅多うちにしていました。
竹刀であろうとやり過ぎるとどうなるかは目に見えてます。
獲物が竹刀での決闘ならリリィさんも受けるでしょう。竹刀程度ならリリィさんを亡き者にすることも可能でしょう。
『どうしたんですか? もう終わりですか? 貴女の本気ってこんなもんなんですか?』
『ま、まだ終わっていません……っ!!』
モニター越しで行われるやり取り。その光景に焦燥し早くリリィさんを庇ってやらないと、もう命がありません。
ですが、
「全令呪を持って全サーヴァントに命じる。この決闘は黙って見守れ……頼む」
「マスター、てめぇ……っ!?」
「先輩、何故でですか!?」
これでは助けに入ることができません。
三画も使ってしまえば、いざという時に謎のヒロインXさんを止めることができません。
ですが、裏を返せば先輩は謎のヒロインXさんを信じているということになりませんか。
『言っておきますけど、貴女がいくら頑張ろうとも私には勝てませんよ』
『そんなことやってみないとわからないじゃないですか……っ』
『本当に? まだそんなこと思えるだなんてめでたい頭してますよね。あぁ、そうでないとマスターの気を引こうとしませんよね。可哀想に、再基霊臨も三段階で忘れられるようなサーヴァントでセイバーで同じ顔をしてるだなんて同情でもしてあげましょうか?』
『そんな同情はいりません』
『ですけど、私は聖杯を使われてレベル100ですよ。この差が何を物語っているかわかりますか? 周回さえ連れて行って貰えないお荷物サーヴァントさん』
『そ、それは………』
サーヴァントが増えて育成が追いきれないのは、よくある話しです。
ですが、リリィさんには堪える事実でしょう。
あの課金中毒者はリリィさんそっちのけでガチャを回していたのですから。
謎のヒロインXさんはショックを受けて動けないでいるリリィに突きを放ちました。
それも顔面にです。
リリィさんは反応が遅れて思わず尻餅をつきました。
そこへ容赦なく腹部に強烈な一撃が入ってしまいました。
勝負は決まりました。
本当に決まりました。
だから、これ以上彼女を傷つけないでください。
『レベルも違う。実力もレイシフトに連れて行って貰った回数も違う。女としての価値も違う、マスターからの寵愛も受けて無い。貴女はサーヴァント以下のサーヴァントですよね。誰が見たってそう言いますよ。カルデアに残る意味あるんですか? もう楽になった方がいいんじゃないですか? このままじゃ貴女、ずっと辛い思いしますよ?』
『ですが、私はマスターを信じます……』
『いやいや信じきれなかったから惚れ薬なんかに手を出したんでしょうが! こんな騒動を起こせばマスターが気にかけて同情でもしてくれると? 冗談じゃない! そんな考えだからマスターに相手されないんですよ! 引っ込み思案のこのネクラ女!』
『わ、私がネクラ……っ!?』
………。
ワトソンXくん。貴女、まさか……
『あーあ、残念ですよ。最初に葬るセイバーがこんなつまらないセイバーで本当に私はつまらない』
『………』
『もう貴女の負けです、私の顔をしたリリィさん。ゲームオーバーってやつですね。せめて、私と同じその顔は綺麗なままにして死んでくださいっ!!』
『まだ、私は……ッ!!』
助手のワトソンXくんは宝具を展開しました。
『無銘勝利剣エックス・カリバー―――――――ッ!!』
2本の竹刀によるダブルカリバーといったところでしょう。
ただ竹刀であろうとワトソンXくんが放出した魔力によってコーティングされた獲物です。凶器です。もはや兵器ですらあります。
もれなくセイバー特攻も付加されるでしょう。
最早、リリィさんに残された勝利の可能性すら奪い取るセイバーは絶対殺すマンでした。
リリィさんのその華奢な体は吹き飛ばされ壁に衝突して力なく倒れました。
『私は……まだ、終わりません…………』
ですが、リリィさんはHP1で耐えてみせました。
『あ、ありえない……な、なんで……何でライフ残ってんですか?』
『私は、ここで終わっちゃいけないんです……』
『いやいや、私は手を抜いていない。竹刀だけど全力で全急所を狙った。なのに……貴女、まさか…………っ!?』
『私、まだ……マスターに自分の想いをちゃんと伝えてないんです……だから……こんなところで、ふざけた格好をした貴女に殺されるだなんて死んでも死にきれないんです!!』
リリィさんが立ち上がりました。
あんなボロボロの身体なのに、最後の力を振り絞り竹刀を握りしめました。
なるほど、霊装によるガッツの付与持ちだったのですか。
これは私も予想していませんでした。
私たちは本当に彼女を下に見ていたのかもしれませんね、ワトソンXくん。
彼女は最後の最後まで勝利を諦めていませんでした。
宝具の展開を確認しました。
『私はマスターのことが大好きです! もっと私のことを見て欲しいんです!! もっとお話しもしたいんです!! 一緒に修練したりレイシフトにも連れて行って欲しいんです!! 私はもっともっと、マスターと一緒にいたい!! だから、選定の剣よ、力を! 邪悪を断て! 勝利すべき黄金の剣カリバーン―――――――――ッ!!』
その姿は、あの「騎士王」そのものでした。
ワトソンXさんもニヒルに笑い向かえ撃ちます。
『お見事です! ですが、それでも私の方が強い……星光の剣よ。赤とか白とか黒とか消し去るべし! ミンナニハナイショダヨ! 無銘勝利剣 (エックス・カリバー)…………ッ!!?』
『いえ、私の勝ちです!!』
はい、その通り。セイバー・リリィさんの勝ちです。
ワトソンXくんは魔力切れで宝具が撃てません。少し見栄を張っていただけ。というか、最初の宝具に全力の魔力を費やしたのが敗因だったのです。
貴女は恋する白の少女に負けたのです。
『あはは、まさか本当に私が負けるとは……凄くショックです』
『ご、ごめんなさい』
『別に謝ることではないですよ。寧ろ私に勝ったんですから胸を張ってください』
『で、ですが……っ!!』
ワトソンXくん、改め直しまして、謎のヒロインXさんが粒子になって消えそうなんですが……
リリィさんの宝具を喰らった打ち所が悪かったんですか。本当に全魔力使い切ったんですか、貴女は。
確かに、カルデア内で起きた問題視すべき事件になってしまいました。
『あぁ、それよりも……やっと言えましたね、セイバー・リリィ。やっと、自分の気持ちを言葉にしたんです。後はアタックし続けるのみです。ガンバッ』
『謎のヒロインXさん……!!』
『ふっ、私のことは気にしなくて結構。あいるびーばっくですから』
『え?』
こうして、私の助手は謎の言葉を残して、座へ帰って行きました。
え? あいるびーばっく?? もう嫌な予感しかしません。
☆―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
さて、今回の『恋の物語事件』の後日談というかオチです。
「リリィ、今まで放ったらかしにして、ごめんよ。もうお前に寂しい思いなんてさせないから。今度一緒に冒険へでかけよう。フランスでワイバーン狩りデートとかどう? というか、今日は一緒に寝ような……うん、そうしよう」
「あ、え、いきなり急展開過ぎませんかマスター!!?」
ロリコンも大概にしてほしいですが、どうやらセイバー・リリィさんは先輩とちゃんと話し合って絆を深めていくようです。
私は、私の心の中に住まう大怪獣モヤモヤXが暴れ出しそうです。
というか、モヤモヤが止まりません。
別に目の前でイチャつかれて妬いているわけではありませんから。
ジャンヌさんはほっぺたを膨らまして芋を焼いていますが、貴女は昨晩随分とハッスルしたんでしょうが。
だから、文句は言えません。
勿論、今回の騒動で迷惑を被り犠牲になった方たちも、皆さんが納得のいく形で先輩と話し合いいろいろ交渉にありつけたみたいですから。
そんなことよりもです、先輩。
私がモヤモヤしているのはカルデアからいなくなった謎のヒロインXさんのことです。
別にもういなくなったヒトのことでとやかく言う事ではありません。一応、リリィさんも罰を受けて、先輩はいつも通りお仕置きされたのですから、あまり強く文句も言えませんが……
いえいえ、そうじゃなくて!!
「じゃあ、リリィ。ガチャの時間だ! 張り切って行こーう!! マシュ、財布の準備だ!!」
先輩、カルデアにATMはありません!!
先輩、たとえ謎のヒロインXさんピックアップ期間中だからといって、狙って引き当てれるはずがありません!!
そんな上手い話があっていいはずがありません!!
ですが……
まさか……
そんな……
そういえば先輩は女性限定でしたサーヴァント召喚できませんよね? 男性サーヴァントが召喚されない分、確率は2%ぐらいはあるかもですが……
というか、その聖晶石もどこから入手したのか気になります……
「コードネームはヒロインX。昨今、社会的な問題となっているセイバー増加に対応するために召喚されたサーヴァントです……という前置きはもういいですかマスター? こうなることも私は計算済みでした! そして、マスターの横でアホみたいに口を開いて呆けているセイバー・リリィ!!」
「は、はい!!」
「私が再び参上したからには貴女には頑張ってもらわねば!! 1人でも多くのセイバーを抹殺……もとい彼らの実力を超えるよう、本物の『騎士王』になれるようビシバシ行きますから!! 覚悟しといてください!!」
「はい、X師匠!!」
いや、もう勝手にしてください。
ですが、もしかしたらの話、本当の彼女たちの物語は始まったばかりなのかもしれません。
宇宙的なアレですよ。
まる。
ご質問、ご感想等はカルデア窓口まで(>_<)