最初は他の勢力から始まります
十話 Private Military Company
NCR領ディグローからニューベガス、そしてニューカナーンに続く幹線道路インターステート15号線は、現在でもキャラバンが使用する商用道路として利用された。NCR領内における幹線道路は殆どが修復され、NCRの工場にて生産された輸送トラックによって多くの物資が供給されている。
輸送網の発展は社会発展の基礎と言うべきであり、嘗ての産業革命は馬力に次ぐ蒸気機関の発明とその動力による輸送網の発達によるものである。先祖の残したテクノロジーは幾つも失われたが、今でもそれを製造することは少数ながらも可能だった。そして、それを有用だと判断した資本家は多くの資本を投入して速さのある原子力搭載のトラックを使う。大手のキャラバンの殆どはそれを使用し、中小キャラバンは比較的安全なNCR主要道路をバラモンで輸送するが、燃料補給が殆ど要らない原子力車輌と多くの食糧と限られた積載量のバラモンとで比べると、コストパフォーマンスの良い大手が市場を独占していくのが当然だった。
中小キャラバンは一掃され、荒地の販売路の開拓と過疎地帯に商機を見出すのは自然の理に適っていた。外来動物の侵入によって自然動物が限られた閉鎖環境で生き延びるのは人間としても同じであり、優秀な種がウェイストランドで生き延びるのは人でも変わらない。
だが、その閉鎖環境も更に狭まることとなる。
「おーい!止まれ!止まれぇ!」
インターステート15号線の中間地点、NCR領の境であるモハビ前哨基地の南ゲートに数台の車輌が到着する。本来であれば、ここまで声を張り上げず、慣れたトラック運転手ならばゲート横の詰め所に身分証明書と通行証明書を車内から見せるだけで通すものだが、その時の警備兵は久々に砂埃の被った警備棒を振る。
警備兵は見たことのない車両の形に戸惑いを覚えたからであった。
いつもならウェイストランドの廃墟でよく見かける軍用トラックや、軍事施設でちらほら見かける廃棄された
警備兵が見慣れていた復刻版のトラックの面影はない。色も戦前の復刻された濃緑色ではなく、荒地でも視認しにくいようタンカラーに塗装されるそれはもはや復刻版とは言えない形となっていた。一回り大きいタイヤにエンジン部分を防護するための装甲板に左右と下部の爆発に耐えられるように装甲を溶接してあった。そこに居たのがレンジャーだったなら、そのトラックの魔改造ぶりとレギオンの即席爆弾対策の有効策と考えたに違いない。もし、別の世界のアメリカ軍が使用するMRAP ー「Mine Resistant Ambush Protected」と呼ばれる装輪装甲車を知っていれば、「核動力の癖にこの重装甲はないわー・・・・」と感心しながらも、呆れたようなセリフを発するはずだ。
だが、そこに居た警備兵は志願したわけでもなく、転生した不幸なウェイストランド
「なんだこりゃ・・・・」
後続車両を見てみると、先頭の重装甲トラックと同車種の他に通常の輸送トラックや75mm砲を装備した歩兵戦闘車や通常タイプのAPC、エンジン部分に装甲が施されているものの、乗車する兵士の防護策が図られていない非装甲の偵察車輌や赤十字マークが書かれた救護車タイプ、多連装ロケットが装備された面攻撃可能な火力支援車両も見られた。警備兵の記憶にはこれらの車輌が軍にあったという事実はなく、唯一分かるのは双頭の熊が描かれたNCR国旗と鷹がライフルを爪で掴む絵柄の旗とエンブレムが記されている。
そして、その後ろには通常タイプの輸送トラックが荷物を満載しており、車体には「Mojave Express」と描かれていた。彼ら運び屋は飛脚のように腕の立つ運び屋や大量の荷物を運搬するインターステート15号線沿いで幅を利かせる大手だった。
「どうした?入れないのか?」
警備兵に止まるよう言われた
「い、いや何処のキャラバンで?」
「見て分からない?・・・ああ新入りさんかな?イーグルクロウだよ。ここ通らせてもらうよ」
イーグルクロウ警備保障
今のNCRでは知らない者が居ないと言われるほど、巨大化した傭兵派遣会社の一つである。NCR正規軍よりも最新兵器を携えた兵士達は既に私兵部隊としては大きくなり過ぎた存在だった。過去に何度かNCR政府による査察が行われたが、空振りに終わり、更にはイーグルクロウの国有化を目論んだ軍上層部の高官が汚職容疑で拘束される事件が起こるなど、火種は絶えないが火の粉を簡単に振り払うことが出来るほどの力を持ち合わせていた。
その力の源はイーグルクロウが軍事複合企業という軍需と確たる技術力によって成り立っていた。既に加工食品や汚染のない食料品の供給を始めており、既にNCRの工業力の20%を維持している。最早、NCRはイーグルクロウグループの工業力なしでは国家そのものを維持できない程にまで侵食されていた。
その物々しい程に重装備の傭兵部隊に警備兵は噂には聞いていたイーグルクロウの傭兵を目のあたりにし、畏怖にも似た視線を向ける。
「これが許可証と通行証だ。確認してくれ」
「か、確認しました。どうぞ」
警備兵は上ずった声で確認して、渡された書類を返却する。傭兵の手招きと共に車列は前哨基地へと入っていった。
数年前のモハビ前哨基地はこじんまりとしたサービスエリア跡だった。パックバラモンがフェンス越しに鳴き、ボロボロの車輌が放置され、通行の邪魔になっていた。だが、車列の目の前にあるモハビ前哨基地は、その名前に相応しい施設となって生まれ変わっていた。
破壊された車両は前哨基地の壁として積み重ねられ、バリケードとして十分に役立っていた。そして、空いたスペースには物資を運ぶ車両が停車出来るようになっており、人員の増加に伴って旧サービスエリア外にもテントや仮設バラック小屋や建てられた。近くに清潔な井戸があることから、NCR市民であれば無料で使用可能となっている。ウェイストランド基準で言えば「天国」と言ってもいい環境だった。
これも、NCRが国家として動いているからに他ならない。
「ここで大休止を行う。水分補給は各自で行え。1600時に出発する」
輸送隊の専任曹長が隊員に命令を下し、黒の
「こりゃ驚いた。イーグルクロウのワイルドギースはとんでもない玩具を持ってきたな」
「ナイト少佐殿、お久しぶりです」
見物客の中には基地司令のナイト少佐が楽しそうな笑みを浮かべており、
しかし、そんな危険な一面を嗅ぎ付けたのかナイト少佐に挨拶をした傭兵の指揮官は苦笑いを浮かべる。
「・・・・分解して調べたいなんて言わないで下さいよ」
「前哨基地司令の権力でも?」
「勘弁してくださいよ。国家権力の横暴ですよ」
冗談とも本気にも聞こえるナイト少佐の台詞に困った様子の指揮官は今でも呼ばれるナイト少佐の渾名を言う。
「“スクライヴのナイト”は未だに現役らしいですね」
「そういう君こそウィラード大尉、元気そうで何より・・・・ここらへんでそれ言うなよ。」
―元ですよ、元大尉。
と、ウィラード大尉と呼ばれた指揮官は照れくさそうな顔しつつ呟いた。軍人であった大尉の階級ではなく、「中尉」の階級章が襟元から見ることが出来る。そしてナイト少佐は彼のその様子を見て、意味ありげな視線を向けた。
ナイト少佐は別名「スクライヴ・ナイト」・「BOS被れ」・「技術屋ナイト」と呼ばれ、NCR陸軍モハビ方面軍ではかなり知名度のある人物である。彼はいい意味でも悪い意味でも聞こえる渾名はその両方の側面を持つ彼の特性故だった。元々はONIと呼ばれるNCR技術局の軍属技術者としてやってきた。主目標はフーヴァーダムであったが、民間企業への委託ができる状態であったために、彼の本来の仕事である軍事兵器の調査任務が与えられた。それはBOSのヘリオス1の調査だったが、調査中に部下数名が誤って警備システムをオンラインにしてしまい、死傷者数名を出す。それにより、ナイト少佐は管理不行き届きで処分を受けた。ONI支局の実権は文官組であるトーマス・ヒルダーンに握られ、ナイト少佐は実質干された状態になった。
ナイト少佐が干されたことにより、ヘリオスワン太陽光発電所のサルベージ作業は難航し、急きょ新たに入ってきた科学者によって研究が行われているが、まったく進んでいないのが現状であった。
彼は持ち前の技術力はBOSに劣ると言えど、NCRでは上位にいる技術者の一人であり、「ONIマッカラン支局で腐ってるよりは」とマッカラン基地司令のジェームズ・シュー大佐の手回しによってモハビ前哨基地へ配置換えを行った。良い意味での友人関係を築いていた二人は業務内容としてもかなり密接な付き合いがある。モハビ前哨基地はモハビ方面軍補給線の要であり、鉄道路線の使えない現在では前哨基地からのインターステート15号線の陸路からでしか行くことが出来ない。それ故に軍需物資を必要な基地に振り分けるための事務的業務を行わなければならなかった。旧サービスエリアのインフォメーションセンターは警備兵の詰め所の他、軍需物資管理所やマッカランとの通信所などが集中する施設として生まれ変わっていた。
それでも、ナイト少佐の技術者的好奇心が無くなったわけではなかったのだが。
「ではウィラード中尉、部隊の作戦計画書を拝見させてもらおう」
「はい、少佐。こちらになります」
ウィラード大尉改め中尉は脇に抱えたクリップボードに挟んだリサイクル紙で作られた封筒から数枚の作戦計画書とNCR陸軍の許可証が入っていた。
「えーっと・・・モハビエクスプレスの護衛に・・・I15号線の敵勢力掃討?!おいおい・・・」
「航空支援も随時取り付けてあります」
「・・・エンクレイヴのヘリを使えるなんてな。コロラド方面軍に回されているんじゃ?」
「参謀本部の方だと、フーヴァーダムの電力目当てに虎の子のヘリを動かしたいようです」
つい最近、NCRCFの囚人達は支給されていたダイナマイトによって武装蜂起。カリフォルニアから来た看守を皆殺しにすると、「パウダーギャング」と名乗ってI15号線沿いを荒らし始めたのだ。プリムからスローンに至る幹線道路は使用できなくなっており、既にニューベガス周辺では物価の高騰が相次いでいる。NCR陸軍の軍需物資や戦線の物資欠乏に喘ぎ、既にネルソンは失陥して、その他の戦線でも膠着状態が続いている。他の戦線が崩壊しないのはオリバー将軍の手腕ではなく、シュー大佐の物資管理能力の賜物故だろう。
だが、それも限界に近い。イーグルクロウのエンクレイヴ製兵器があったとしても、人は霞みを食べて生きている訳ではなく、補給が滞っている状態では通常の作戦遂行は困難であった。既に士気は落ち込み、ネルソン失陥後は「キャンプ・フォーロンホープ(決死隊駐屯地)」と呼ばれる前線基地を設けたが、逃亡兵が相次いでいる。戦局を打開するには強力な助っ人が必要であった。
ナイト少佐は読み終わると、持ってきていたファイルケースから数枚の書類を取り出し、中尉に手渡した。
「これはここ最近のモハビの様子だ。日付は昨日のから二週間前のものがある」
「恩に着ます・・・この二プトンはどうしたんです?『状況不明』とは?」
「ああ、この先の95号線沿いの二プトンに黒煙が上がっているのが確認された。我々の部隊は駐屯してはいないし、独立地域だから不用意な干渉は避けている。情報部の報告ではパウダーギャングが勢力を伸ばしている地点だが、現状の戦力では進軍はおろか偵察すらままならない状況だからな」
ネルソンはNCRにほど近く、加えて鉄道路線が隣接している町である。以前は独立した町として多くの鉄道労働者やNCRCFの模範囚が保釈扱いで羽を伸ばすことを許可していた。しかし、NCRCFの暴動により、鉄道路線が使用不能となり、町はNCRCFのギャングが牛耳っていたかのように思えた。
だが、数週前には危険を顧みずに販路を広げていたキャラバンの情報では、パウダーギャングを客としつつ、しっかりと独立町として存続していたというのだ。ウィラードは半ば呆れながら、ナイト少佐からもらった書類と基地に到着してからの書類にサインをしていく。
「ではナイト少佐。イーグルクロウ警備保障第6輸送警護隊、現時点より基地での休養に入ります」
「了解した、ウィラード中尉。ゆっくり休んでってくれ」
2人は敬礼し、双方自身の持ち場へと戻っていく。
モハビで起こる戦況の打開。
この地で起こる動乱が幕を開けた瞬間だった。