常闇の深淵を覗いたような真っ黒な暗闇。
そこに居るのは何発もの銃創と裂傷、火傷を負ったNCR兵士。レンジャーの使う量産型のパトロールアーマーだが、幾つもの攻撃によってボロボロになり、血がべっとりと染みついていた。
「テレサ……何で俺を一緒に連れて行かなかった……」
「俺を一人にしないでくれ」
男は項垂れ、天に問いかける。だが、その問いの答えはない。暗闇が晴れていき、其処は黒煙の昇る市街地の姿となる。
弾痕と血潮、悲鳴に罵声、爆音と肉の爆ぜる音、腐臭と排泄物の噎せ返るような異臭。
死に絶えたNCR兵やハチの巣にされたレギオン兵がまるでゴミのように捨てられ、誰にも埋められずに放置される。
「待ってくれ、行かないでくれ!」
男は叫ぶが、生きている者はだれ一人としていないのか、反応が無い。彼の手は血が滴り、力尽きたのか、男は膝を着く。天を仰ぎ見るように絶叫する。
血が沼のように広がっても男は叫びつつける。血はやがてフーバーダムに劣らぬ程水のように溜まっていき、男の頭をすっぽりと覆う。だが、男は声が枯れ、気管が塞がろうとも叫ぶ。まるで、戦場の哀しみが彼に集まるかのように。
血はやがて世界の全てを覆いつくす。それは気化して赤い雲を作り出し、血の池が気化して消えてしまう。
男の立つ場所はその戦場になかった建造物がそびえ立つ。丘の上には豪華なビルが白のように聳え立つ。そして、その城下には血塗られたスペインの建築様式の街並みが広がっている。
男の立っていた場所は噴水が出来ており、噴水には青白い女が立ち尽くしていた。
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「…………さん!起きてってば!」
「……あ?何だよ、敵襲か?」
運び屋が目を覚ますと、絶世の美女ではなく、米軍標準迷彩を施したアサルトロンのレーザースコープ併設型カメラがじっと彼を見つめていた。
「………ウリエル……」
「え、そんな風に名前を呼ばれると……」
「美女じゃないのが残念」
「んだとコラ」
ロボット、はたまた女性とは思えないような声を出すが、運び屋は笑いながら、ウリエルの肩を掴んで寝袋から這い出る。動かさなかった肩や腰の筋を伸ばすように動かして、筋肉を解していく。身体からでる変な音と痛みを快感と認識する運び屋にウリエルは不貞腐れるかのようにコーヒーの代用品であるコヨーテ噛みタバココーヒーを淹れたマグカップを突き付ける。
「目覚ましのコーヒーです。デリカシーが無いですね」
「あとはトースターと熱いシャワーが欲しいかな」
「アメリカンドリーム、いえ旧世界の夢のみすぎですね」
呆れる彼女は運び屋が「苦い」と口にすると、してやったりと表情を変えるように両肩を上下して再び呆れるようにして、コヨーテステーキらしきものを綺麗にした皿に盛って運び屋に差し出した。
「残念ながら、昨日狩ったコヨーテのステーキです。昨日と同じですけど、NCRの支給された安物ワインで酸味をつけました」
「朝から肉とは……中々腹に答えそうだな」
「あとは200年前の新聞要ります?」
「要らない……寝ている間に何かあったか?」
「いえ、ああ!夜の12時過ぎにNCR陸軍と傭兵部隊の車輌が通過しましたね」
ウリエルは新たに淹れたコーヒーポットを空になった運び屋のマグカップに淹れようとしたが、運び屋はそれを制す。
「どこの所属か分かるか?」
「いえ、生体センサーと音感センサーを併用したレーダーを駆使してましたが、I-15号線をそのまま北上していきましたよ。」
運び屋はウリエルの無自覚さに呆れ果てるが、運び屋の頭の中にある情報は古いか、損傷して使い物になっているか考える。
「う~ん、NCRが重い腰を上げて自動車師団を投入したか?」
自動車師団
第二次大戦中には機械化師団など、装甲車や輸送トラックなど機動力を優先した師団規模の部隊を指すが、自動車師団もそれに該当する。第二次大戦後には多くの歩兵を伴う部隊は機械化され、機械化師団と言った括りは殆ど消え去った。車輌による移動は必要不可欠であったためだ。大戦争後には、稼働する自動車はほとんど破壊され、生産拠点の殆どが灰に帰した。だが、NCRでは、生存するグール化した技術者や科学者、保管された稼働する工作機械によって少数ではあるが、生産拠点が確保された。
軍隊の強さは展開する機動力にあり、車両による移動力は軍隊において必要なものだ。生産された車両はNCR建国後に軍に回され、それを専門とする自動車師団を創設。パワーアーマーを主軸とする機甲師団と並んで、NCR国内外における緊急即応部隊として編制されている。未だ、ロサンゼルス近辺ではBOSの活動もあり、ゲリラ攻撃を仕掛けられる可能性もあることだから、NCR政府は緊急展開可能な自動車師団を国内に置いておきたい考えなのだ。
ニューベガスに展開するのは、殆どが歩兵師団。機械化の殆どが補給部隊に回され、専ら兵士は自身の足で行軍しなければならない。
「いえ、多分あれはモハビ・エクスプレスと契約したイーグル・クロウ警備保障の装甲車輌でしょう。Mr.ハウスの自動化自動車工場で少数生産されたのもありますし」
「モハビ・エクスプレスかぁ……」
運び屋はため息と共に自分が嘗て務めていた仕事の名前を挙げる。プリムでの一件以降、その名前を聞いてあまり良い印象を持たない運び屋は自身の身分が分からなかったことに悲しさを覚えた。普通ならば支社で問い合わせれば分かるはずだったのだが、肝心な所はまったく分からなかったのだ。
『あの積み荷か?そもそもあの依頼はどうも怪しかったんだ。』
『重要度の高い積み荷ならダミーを持たせるのが普通だろ?』
『いや、六つの運び屋を雇い、五つのダミーを運ばせるなんて儂が現役でもお目にかかったことはない………それに、アイツがやりたくないと蹴ったからな』
『アイツ?』
『お前さんの引継ぎで運ぶはずだった六番目の運び屋だ。最も、モハビ前哨基地で彼に手渡すはずだったのに、あんたはプリムにもよらずに行ってしまったからよく覚えているよ』
『………それで俺の登録名分かったか?』
『機密度と危険度の高い運び屋は個人情報がロックされてるよ。モハビ・エクスプレス本社のサーバーネットワークで最もセキュリティーの固い所に保管されとる。儂の権限じゃ、お前さんが受けた依頼の番号と社員番号しか請求できなかったわい。ダミーの運び屋は大抵、名前で登録されていたが、お前さんの場合は秘匿性故に持ってると教えているようなものだがな』
運び屋はジョンソンから依頼されていたらしい六番目の依頼の紙に彼の社員番号を記した。その番号を知っていれば、身分照会してくれるとの事で運び屋の身分は保証された。ただ、本人確認は取れていない以上、モハビ・エクスプレスの本社へ赴かなければならない。だが、幸いなことに荷物を強奪した男の一人は服装からしてニューベガスのファミリーの一人であることは間違いない。
「本社に行っても自分の名前が分からないのは困るな……」
「多分ですが、その心配はないと思いますけど」
「どうして?」
「………大抵は必ず情報を残しておくものですし」
運び屋はコヨーテステーキを平らげ、敷いてあったNCRCFの刻印の入った寝袋を丸める。元々はプリムを襲撃した囚人が看守から奪ったものだが、状態の良いものとジョンソンから買った背嚢に括り付けて、前哨基地まで歩いてきた。途中でI-15号線のハイウェイパトロール分署を見つけ、中に居たジャッカルギャングのレイダーを掃討し、幾つか目ぼしい物品を見つけて再び前哨基地を目指した。
だが、途中で日が暮れて、ポセイドン・ガソリンスタンドの売店にて一泊することになった
「目と鼻の先にあることだし、さっさと向かうことにするか」
運び屋はそう言い、荷物を纏めて売店を後にした。