Fallout:Stray Ranger   作:文月蛇

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三話 Rorschach test

 

「ふむ、身体機能も問題ない。」

 

 

運び屋と自称した彼は身を起こして、身体機能を確かめるため周囲を歩いたりした。数か月寝込んでいたわけではないものの、意識を失って手術で体に負荷を掛けていたからか、運び屋の身体は若干重たい。

 

運び屋は下着姿の自分自身に驚いたものの、着ていた服は血で汚れていて処分したと聞いてため息を吐く。

 

「包帯は取っちゃダメか?」

 

「ダメだ、二・三日はかかる」

 

蓄えた白鬚とは違い、すっかり不毛地帯となった頭部が特徴の町医者「ドク・ミッチェル」は運び屋のカルテを見ながらいろいろと記入する。カルテには先ほど測ったヴィトマテック活力テスターの数値が記載されていた。

 

「この数値を見る限りだと、お主はNCRレンジャーかレギオンの熟練兵か?」

 

「さぁな、それよりも俺の荷物は?まさか手ぶらでモハビの砂漠を歩いていたわけじゃない。追剥されたとはいえ、幾つか残ってるだろう?」

 

ミッチェルは部屋の隅に置かれたスチール製の箱を見やる。箱の上には革製の青いジャンプスーツが置いてあり、ご丁寧にも洗濯され、綺麗にたたまれていた。

 

Vaultスーツ。

 

革製のジャンプスーツであるが、核戦争に際してサバイバル可能な保温・撥水性能。加えて放射能に対する防護能力も備えたそれは、ウェイストランドを生きる者にとってはまさにうってつけの代物だ。ただ、その青いジャンプスーツは自身が「温室で育った」と物語るように目立ち、まさに襲ってくれと言っているような物だ。

 

「あれは?」

 

「あれか、あれは後でのお楽しみとしとこう」

 

「はぁ・・・・」

 

 

文無しの死にかけに治療を施した。それだけでもウェイストランドではお人よしの部類に入るのに、服まで与える。Vault出身者ではない運び屋はミッチェルの施しに戸惑いを隠せない。それどころか、話を聞けば墓穴から掘り出して彼の元に連れて行った人物が居るという。撃たれた彼からしてみれば、撃たれる前に助けて欲しかったとぼやきたいが、多勢に無勢だったのだろう。運び屋は頭に巻かれた包帯を撫で、近くの洗面台の鏡を見る。

 

 

運び屋の容姿はウェイストランドでありがちな白色人種の中肉中背の一般的な体格の持ち主だ。ダークブラウンの短髪、NCR軍で流行するアンカレッジカットされた髪型。まだ、右額にはガーゼが貼られているが、その他にも切り傷があった。

 

 

 

 

運び屋にとってその顔が自分の顔と思えず、怪訝な表情の男が鏡に移る。顔を撫でる様はキザな二枚目が自分の顔を眺めているようで、他者から見れば滑稽に思える。

 

 

「さ、こっちのソファーに座って」

 

 

ミッチェルに言われ、洗面台から離れた運び屋はソファーに座る。近くの椅子に腰かけた彼は鉄製の箱から様々な模様の絵を出した。

 

「・・・・ロールシャッハテストか?」

 

「ほう、良く知ってるな。NCR軍じゃ、Vault-tec適正検査の応用で性格検査をしていると聞くが・・・。やったことあるのか?」

 

「いや、分からん。・・・・記憶がないから判るわけないだろ」

 

ふと、運び屋はロールシャッハテストを顔に付けたスーパーヒーローを思い出すが、それがコミックヒーローだったかは思い出せなかった。そもそもNCRは好きじゃないと、無条件で嫌悪感を示すあたり、反体制派かギャング出身の可能性があると考え始め、運び屋は頭を抱える。それを察したようにミッチェルはマグカップに淹れたコーヒーを渡した。

 

 

「代用品だが、これで勘弁してくれ」

 

「ありがたい、俺は・・・・」

 

「自分が極悪人かもとか思ってるんだろう?・・・確かに記憶を失った人物が後に犯罪者であったり、失った後の人格が変わっていることがある。まあ、大した問題じゃない。現に君はベッドの近くにあった9mmサブマシンガンを取らなかったし、近くのジェットやサイコに興味を示さなかったぞ」

 

―ただ、あれは故障しているがな。

 

とミッチェルは付け加え、バラモンミルクを少量入れてコーヒーを飲む。運び屋は彼の話に納得する。もし、ギャングのような者は武器をすぐに調達するだろうし、薬物中毒者であれば、無意識のうちに中毒症状が出るはずである。

 

ミッチェルに続いて運び屋はコーヒーを飲み、ミッチェルの「では、始めるぞ」という声と共に検査は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

「よし、これで手持ちは全部だ」

 

ミッチェルは持っていたチェック用紙に記入して、vault-tec社が定めた身体機能測定値と各分野の適応力が出る。ただ、具体的な数値が出るにはコンピューターに入力しなければならないらしく、チェック用紙を置く。そして、テーブルに置かれたファイル、カルテを開いた。

 

 

「測定値を割り出すのに時間がかかる。少しグッドスプリングスを見て回るといい。」

 

グッドスプリングス。

 

ニューベガスに向かう旅行者がたまに訪れる場所。綺麗な放射能に汚染されていない豊富な地下水が利用できるウェイストランドでも稀な給水場所として知られる。だが、其れほど発展している訳でもなく、発展していないのはそこの住民がNCRに属したくないという明確な意思とゆったりとしたスローライフを送りたいという願いがあったからだ。加えて、農耕に適する土地や家屋が余分にないことから、戦前とほとんど変わらずにその原型を保っている稀な場所であった。

 

住民間の密接な協力関係と西部開拓時代から続くフロンティア精神が今日まで根付いていたことはグッドスプリングスを大戦争後も生きながらせていた要因だった。

 

「ここから出ていく前にもう一つたのむ。書いてほしい書類がある、君の病歴の書類だ」

 

「・・・・覚えていない」

 

「チェック形式の書類だから、わからなければそれで構わない」

 

ミッチェルから渡されたそれは糖尿病や銃創、骨折といったものから重度の放射線障害。関節を外した経験があるか否かなど様々。既にミッチェル自身も運び屋の身体についての検査は終わっているが、念の為の問診に加えて些細な事から記憶が戻ることもある。運び屋はざっと目を通す。字は読めることから学力としてはまぁまぁであることが判る。記憶がないことを除けば、ウェイストランドで字が読めるとなれば大したものである。NCRでは学制を敷いているが、それでも識字率は50%未満。農村に行くほど、学制が無意味と判断する農民がおり、徴兵された時には二等兵として始まることが多い。しかも、文字がよめることでいきなり伍長や軍曹など、下士官に任命されることもある。

 

運び屋は殆どが「わからない」にチェックを入れると、残っていたコーヒーを口に含む。口にコヨーテの噛みタバコと揶揄されるコーヒー豆にも似た植物の香りと強い苦みが彼の舌に染みつく。運び屋の苦い表情を浮かべたミッチェルは苦笑しつつ、彼の持っていた問診表を受け取った。

 

「よし、ひとまず完了だ。・・・・と、これが君の持ち物だ。担ぎこまれた時に身に着けていたものだ。とは言っても殆どの持ち物は奪われてしまったようだが」

 

ミッチェルは医務室の隅に置かれた鉄製の箱とvaultのジャンプスーツを彼の前に置いた。

 

鉄製の箱の中には、スティムパックが四つと数キャップが入ったバラモン製の財布、古ぼけたヘアピン箱に入った12個のヘアピンと一緒にピッキングに使う工具が一式。そしてモハビ・エクスプレス配達指示書。「A」という赤いスタンプが押され、重要度が高い荷物だったと分かる。そして、おまけなのか、9mm弾のホローポイント弾が込められたハイパワーの弾倉が一つ。

 

運び屋であれば、レイダーの身ぐるみを剥がすなら全ての物を掻っ攫っていくのに。とスカベンジャーのような思考をもつが、カーンズは着の身着のまま旅をする奴らであったことを思い出し、高価なもの以外眼中になかったのかもしれなかった。

「悪いがそのメモを見させてもらった。親族を見つけようとしたんだが、プラチナチップについて書かれていた」

 

「それは構わない・・・・、支社の方で一度報告しなければならないのかな・・・」

 

もしかしたら、俺のことが分かるかもしれない・・・・・。

 

運び屋はモハビ・エクスプレスのことは断片的にしか思い出せないが、物資運搬や重要度の高い荷物の運送を受け持つ仕事だ。社員はリクルーターを使って、腕の立つ傭兵や元軍人などをヘッドハンティングする。そのため、成功率は非常に高く、失敗しても金銭などの補填が利くウェイストランドでも有数の運送屋である。

 

ただ、「A」と記されたスタンプ

 

書類上からみるに、依頼の六番目にあたる荷物。この手の物は重要度が高く、六つのうち五つがダミーであり、第六の運び屋である彼が本命の荷物だった。それが奪われたとなればエクスプレスの信用はガタ落ちであるし、運び屋の業界的な信用も地に落ちたも同然だった。

 

しかも、契約上エクスプレスの傭兵部隊が荷物の回収に動き出すことから、「プラチナチップ」と呼ばれる物品はかなりの品であることが分かった。

 

未だに混乱している頭であったが、ミッチェルはvaultのジャンプスーツと共に携帯型端末を運び屋へと渡した。

 

「まあ、そう思い詰めるな。外に出るつもりなら、こいつを持って行った方がいいな。これはpip-boy。私は戦前造られたvaultで育ったが、住人はこれを付けていた。私には不要だ。君には必要だろう?」

 

「・・・・・いいのか本当に?ここまでしてくれるなんて・・・・」

 

―いくらなんでもお人よし過ぎないか?

 

運び屋の喉から出かかったところでミッチェルは声を遮った。

 

 

「なーに、vault住民は皆親切なんだ。儂も息子が居ればお前さん位の年頃だろうし、ちょっとした餞別さ。次にここに来るときは患者として来るのではなく、客人として来てくれ」

 

と言うとミッチェルはその時コーヒーをご馳走しようと言うが、噛みタバコと呼ばれる豆から挽いたそれを運び屋は好きにはなれず、来たとしても彼が淹れるそれを飲むことになるのかと苦笑する。照れ隠しもあったのかもしれない。

 

ふと、運び屋の脳裏に見知らぬ男女の姿を思い出すが、それは口に出さず、運び屋は感謝の言葉を述べた。

 

「ありがとう、ドク・ミッチェル。この借りは必ず返すよ。」

 

「その時はベガスの上手いワインでも持ってきて旅の話を聞かせてくれればいいさ。あとこれも」

 

ミッチェルは部屋の隅にあった木箱を持ってくる。若干重そうであったが、その箱はその辺にあるような木箱ではなく、旧軍の支給物資のペイントと管理番号が振られている箱だった。開けてみると旧軍のではなく、現在NCR軍が使用する防弾板を入れた布製ベストだ。弾倉を入れるポーチも自由に動かすことが出来るそれには、まだ何も入っていないが、組み合わせ個人の使い勝手に合わせて自由にカスタムできる、旧軍の兵器システム研究所が考案していたらしい新世代の兵装だった。

 

運び屋は知識だけは覚えていたようで、それを手に取って見てみると防弾板が腹と背中に入れられていた。

 

「ミッチェル・・・・これは?」

 

ミッチェルの好意でもらったジャンプスーツとpip-boy。これだけでもかなりお人よしの部類だが、目の前にあるそれはどう見ても医者が自衛のために持っているような代物でなければ、会って間もない文無しに渡す義理もないのだ。ここまでの好意は逆に運び屋が不信感を抱くのに十分だった。表情にはださないが、ドク・ミッチェルがただのお人よしの医者でないことははっきりした。

 

運び屋の心中とは裏腹にミッチェルの口から出たのは意外な一言だ。

 

 

「ああ、これはここに来た放浪者が医療費の代わりに渡してきたものさ。言っとくがタダじゃない。割引はするが、ちょっとしたトラブルがあってな」

 

「・・・・トラブルぅ?」

 

運び屋は思わず、オウム返しで聞き返してしまう。ミッチェルは困ったように笑みを浮かべる。これが運び屋の関わる最初の事件であったとは、この時本人自身、そしてグッドスプリングスの住民は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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