「ふ~ん、記憶が無いのね。シャイアンがこうまで懐くなんてNCRの軍用犬訓練教官かそれともハウンドドック族のブリーダーかと思った。」
「まさか・・・・あんな野蛮人共と一緒にするなよ」
サニーと運び屋の出会いは悪かった。それこそ、飼い主よりも外から来た余所者に懐かれるのだから、嫉妬心が芽生えることは仕方のないことだった。寧ろ、犬に遊ばれているとも見えるが、舐められることも甘噛みされることもなかったサニーにとっては羨ましいと思ってしまう。反対に運び屋はようやく遊び飽きたシャイアンが離れると、酒場の外にある井戸から水を汲んで顔を洗っていた。
運び屋はその後、サニーから予備のライフルを受け取って射撃訓練を行った。彼は手慣れた手つきで設置したコーラ瓶を撃ち抜き、サイドアームで渡された9mm弾を発射するハイパワーを素早く抜き取って人型の的へダブルタップを食らわせる。サニーはその動きを訓練された人間であることを理解した。最初はNCR軍出身と思うが、その後の運び屋の動きはサニーから見れば、勇猛さで知られるシーザーレギオンの兵士を思わせた。
ゲッコーを捌く雑用を押し付けるため、彼に手製のマチェットを渡したが、ジャムったライフルを捨ててマチェット片手にゲッコーに白兵戦を仕掛けた。その動きはまるで話に聞いたセンチュリオンのような剣捌き。実物を見たことがない彼女だったが、サイドアームの9㎜では貫通しないのが分かると、マチェットでゲッコーの頭を切り裂き、他の群れも屠っていった。その合間に襲われていた新しく入植した女性を助けて幾らかキャップを貰い、ゲッコーの肉を調理する道具の調達も兼ねて、廃墟化したグッドスプリングス小学校に入って昆虫を駆除しつつ、キャップ稼ぎも兼ねて長年放置されてきた金庫をピッキングで開けた。
そして二人と一匹は狩った獲物の肉を焼いて昼食を楽しんでいた。
「・・・・・案外身体が覚えてるもんだな」
「あんたがNCR軍所属だったら、認識票持ってると思うけど」
「それがだな・・・・」
運び屋はvaultスーツの襟首のチャックを少し開け、そこからNCRの認識票と思しき物が出てきた。だが、それは一つだけではなかった。通常、軍の認識票は二枚一組で支給される。戦前には兵士の生体情報をモニターして、戦死したかが司令部に伝わるようなシステムがあった。しかし、大戦争後の影響によってアナログなスチール製の認識票を頼らざるを得ない状況となった。
NCR軍では、名前と、血液型、認識コードがプレスされる。二枚とも同じ打刻がなされ、片方は戦死報告時に。もう片方は遺体回収時に確認される。だが、モハビでは遺体回収はおろか、戦死確認すらできないことがある。
退役後も身に着けることを義務付けられており、退役兵や予備役兵は付けるのが当たり前だった。もし、戦場で戦死すれば、それを元に遺族へ補償金が支払われる。加えて退役兵にも不慮の事故や事件で亡くなっても、遺族に保険金が支払われる。それを目当てに志願するものが多く、戦線を多く抱えるNCR政府にとってはこの制度によって兵力増強が期待された。
だが、運び屋の首に掛けられた認識票は二枚どころか6枚ほどあり、見てみれば全て異なる名前が記されている。
「仲間の死を無駄にしないお守りか、それとも武勲を確認するためか」
「私から見るとどっちも在りえるわね・・・・」
サニーは運び屋を見る。見た目こそvaultスーツにNCR軍が最近使うプレートキャリアと呼ばれる防弾ベストを着ているが、NCR軍のBDUも似合うだろうし、彼がレギオンのアーマーと槍、防弾シールドを持っていてもおかしくはない。
「NCRとレギオンについてどう思う?」
「NCRは資本主義に飲まれ過ぎて民主主義が腐った国家、シーザーはローマ帝国だな。それも崩壊直前の、レギオンは大嫌いだね」
「う~ん、だとするとBOS?」
「あんな目的と手段を取り間違えてるアホと一緒にするな。」
良い色になった、とサニーはフライパンに乗ったゲッコーの肉の焼き色を確認し、水ですすいだ皿にゲッコーを載せる。少し値は張るものの、NCRの岩塩鉱から採掘された塩を掛けて食べる。食感はゴムであり、味は鳥に似た味だったが、富裕層の食べる養殖鶏を食べたことのない運び屋は昆虫系よりはマシかと考えた。
一方、サニーは運び屋の各勢力の評価を聞き、記憶喪失の彼が一体何処の者なのか推測する。判断材料は乏しく、彼女自身グッドスプリングス周辺でしか、仕事をしないため聞いてみた派閥の人間にはあまり関わったことがなかった。
「私はあんたが何処の兵士か分からないわね」
「せめて自分の名前が分かればな」
「プリムのさらに西に前哨基地があるはずだから、そこに行けば何かわかるかもよ」
「そーか、あの場所ならもし俺が軍属なら通った記録や俺の顔を見たことがあるはずだな」
「でもレギオンなら確実にお尋ね者だから、その場で射殺かもしれないわよ」
サニーはバックパックに入っていたウィスキーの入ったスキットルのキャップを開けると、ゴクゴクと音を鳴らしながら、香りを味わうことなく飲んでいく。すると、既に半分以下だったのか、不満そうに空になったスキットルを振り、ため息をついた。
「あー、あなたが来たお陰でウィスキー盗めなかったじゃない」
「俺のせいか。そもそも盗むなよ」
運び屋はゲッコーを切り分け食べていくが、横にいたシャイアンがそれを邪魔する。彼は片腕でシャイアンの首を固め、動けないようにして皿に乗せたゲッコーをフォークで刺し、食べていく。その間、シャイアンにもゲッコーを与えていたが、遊び相手のも食べたくなったようだ。
食事も食べ終わり、血抜きを済ませた残りの身体を二人は担ぐと、命の燃料や命の水とも言える物を飲むためある場所を目指した。
「んで、運び屋って呼べばいいの?」
「まぁ、其れしか思い出せるものがないし・・・・・ああ、ここにエクスプレスの人間が来るだろ。そいつ等に聞けば何かわかるかもしれんな」
ゲッコーの匂いに耐えながらも、ふと運び屋はグッドスプリングスの雑貨店前にモハビ・エクスプレスの配達ボックスがあるのを思い出した。エクスプレスの運び屋はボックスを開けるための認証コードが与えられ、それを打ち込むことによって開く仕組みとなっている。荷物の配達手順はいたって簡単で、送りたい荷物と共に送料を付けて箱に入れるだけでいい。無理に開けようとすれば警報装置が作動するため、強盗まがいなことは出来ない。もし、する者が居たとしても、その場所の居住者が対応する他、場所によってはオートタレットや警備兵によって御用、もしくはその場で射殺される。
今の運び屋は記憶を失っているため、運び屋の仕事はできない。自身を運び屋と呼べと言っているのは色々と矛盾していると、彼自身思うが、深く考えないようにした。
「でも、ここら辺はあまりこないわ。大口の商店もないし、コンボイもこっちにはこないしね」
「コンボイ?なんだそれ」
「え?エクスプレスの運び屋でしょ。知らないの?」
モハビ・エクスプレスの運び屋なら知ってるはずのことを知らない様子だったため、サニーは驚く。もしかしたら自分こそが運び屋を襲撃した人物の一人であり、運び屋ではなかったのか。手元にあるエクスプレスの伝票が自分の持ち物でないのかと頭を過る。
だが、よくよく考えてみると、「記憶」が無いだけで「知識」や「技能」は覚えていた。つまり、自身の知識の偏り次第では自分の素性がわかるのではと運び屋は思う。そうして考えれば、運び屋はモハビ・ウェイストランドのことをあまりよく知っていなかった気がした。情勢も少し記憶があるが、細かいところまでは知らない。
ふと思い出すのはNCR北部の詳しい情報を持っている。ニューリノやNCR首都のNCR(シェイディ・サンズ)の事。モハビについてはそこまで良く知らない。あるのは戦前のラスベガスを復興させた摩天楼、ニューベガスがあり、NCRの富を吸収している。そして、シーザーの魔の手が忍び寄っていること。
それを考えると、モハビに来たのは初めてなのではないか?
「たぶん、俺はNCR領内でフリーランスの何かをやっていたはず。荷物のためにこっちに来たとしたら頷けるだろう?」
「たぶんそうでしょうね。モハビの事ならサルーンのトルーディーに聞いてみて。あの人情報通だから・・・・」
もう帰って来る頃合いかな、と続けようとしたその時だった。酒場に着いた二人は元採掘夫のイージー・ピートが何やら殺気立った雰囲気を出していることに気づき立ち止まる。何時もなら椅子に座ってウィスキーを傾ける老人だったが、ホルスターからすぐにマグナムを抜けるようにしており、鋭い眼光はプロスペクター・サルーンの窓越しから見える男に向けられる。
中からは怒声が聞こえており、只ならぬ様子だった。銃声が聞こえればピートはマグナムを片手に突入するだろう。グッドスプリングスは住民間の結束が強い。他の住民に危害が加えられれば、銃を片手に助けに行くほどだ。
「サニー、裏口から様子見。俺は正面から行く」
「分かったわ、ライフルは返してね。」
ただ、運び屋は閉所で取り扱いが不利になるライフルは使わない。ホルスターに収まった9㎜ピストルのスライドを軽く引き、弾倉内の弾丸が薬室に入っていることを確認した。ピートが彼を警戒した様子で見やる。
「じいさん、ちょっと見てくる」
「死ぬんじゃないぞ、若いの」
ピートは彼の眼を見て確信する。彼は中にいる荒くれ者の悪党とは違う。例えるならば、西部劇の保安官のようだ。彼が今から入る酒場は昔のような両開き扉ではない。戦前の映画であれば酒場での殴り合い、更に発展すれば銃撃戦になるかもしれない。
運び屋が酒場に入ることで何が起こるのか、その時のピートやグッドスプリングスは知る由もない。
誤字脱字ありましたら、教えていただけると幸いです。
まだ、投稿して間もないですが、感想など書いていただけるとモチベーション上がります(笑)