Fallout:Stray Ranger   作:文月蛇

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ちょっと話が長くなりました。














九話 Ghost Town GunfightⅢ

 

 

ジョー・コップという男は凶悪な男である。それは旧世界の法律に照らし合わせても、NCRの法律に照らし合わせても同じことだろう。

 

 

 

 

 

武装強盗に暴行・殺人・麻薬所持・強請・強姦・反乱……数え上げればキリがない。NCRがそんな彼を許すはずもなく、逮捕。射殺されなかっただけ、運が良かったと言える。ニューリノでの犯罪撲滅キャンペーンによって、逮捕・送検された彼はNCRCFに連れていかれた。一応、罪人にも人道的な扱いを心がけているNCRであるが、必要な労働力として囚人を利用した。

 

 

 

 

幾つかある矯正収容所の一つがグッドスプリングスとスローンの近くにある旧ネヴァダ州立刑務所であった。戦前は軽犯罪を犯した囚人が収容されていたのだが、現在ではなりふり構わず、この刑務所に収監されていた。

 

 

 

 

Mr.ハウスから破格の値段で購入した刑務所には、NCRから連れてきた多数の犯罪者が収容され、NCR鉄道輸送網構築のための労働力として扱き使われた。しかし、NCR治安警察から派遣された刑務所長の判断ミスによって、全てが変わってしまった。スローン近辺の鉄道施設のために使うダイナマイトが囚人達に強奪され、近隣に駐屯する看守部隊を一掃。囚人たちの反乱により、NCRCFは犯罪者達の手に落ちたのだ。

 

 

 

 

 

彼らは自分たちのことを「パウダーギャング」と呼び、I-15号線は完全に遮断され、そこをキャラバンが通ろうものなら、ダイナマイトと弾丸が吹き荒れることになる。今回の一件もパウダーギャングの彼らがリンゴ達クリムゾンキャラバンを襲撃し、仲間を殺されたから仕返しにグッドスプリングスまで追いかけてきたのだ。

 

 

 

 

 

まともな人間ならどちらが悪いのか察しがつく。グッドスプリングスの住民は中立的な立場であったが、出来ることなら弾丸の雨を降らせてやりたい。しかし、彼らパウダーギャング達は多く、敵対すれば逆に滅ぼされかねないのだ。

 

 

 

 

 

ただ、状況は変わりつつある。リンゴがもたらした情報によると、NCRがNCRCF鎮圧のために部隊を差し向けるらしく、I-15号線の掃討作戦を始めるらしい。なので、ジョー・コップのグループを皆殺しにすれば、NCRの部隊が来るまでの合間を稼ぐことが出来るだろう。

 

 

 

 

パウダーギャングとしても、逃亡のための物資を確保する必要があり、軍備や補給が整っているNCR軍と一戦交えようとは更々なかった。

 

 

 

 

「よし、リンゴがいようがいまいがあの町は俺たちのもんだ。男は殺して女は犯せ。」

 

 

 

 

「OK、ボス。俺はあの赤毛を頂くぜ」

 

 

 

 

「いいぜ、俺はあのババぁが泣きわめく姿が見てぇからよ楽しみだぜ」

 

 

 

 

リンゴはトルーディーの泣き叫ぶ姿が見たいと思い、持っていたNCR工廠で製造されたM16にマガジンを差す。チャージングレバーを引き、次弾を機関部に装填すると、ジョーは噛んでいた噛みタバコを地面へ吐き捨てる。

 

 

 

 

「フランシス!今何時ぐらいだ?」

 

 

 

 

「11時前でさ、だんな早くやっちまいましょうぜ」

 

 

 

 

ジョー・コップ率いるパウダーギャングの一派。まだ名前は決まっていないが、本隊とは連携を取りつつも、NCRの増援部隊によって鎮圧されていることが分かっているため、ジョーは見晴らしの良いグッドスプリングスを拠点にしようと考えていた。防衛にも適しており、出ていくなら四方向から行ける。グッドスプリングスは彼らにとって格好の餌食であり、新たな拠点として最適だった。

 

 

 

 

看守が装備していた戦前の防弾ベストとNCR陸軍払い下げのM16、通称サービスライフルは木製ストックの精度の悪い安物だが、5.56mmの小口径ライフル弾を使用するそれはピストルやショットガンと違って扱いやすい。

 

 

「よぉし、お前ら!行くぞ!奴らをFuckしてやるぜぇ!!」

 

 

下品な雄叫びを上げながら、グッドスプリングスの中心へと勇み足で進む。総勢十数名のパウダーギャングは、スカイダイビングの集合場所から歩いていき二手に分かれると、コップは入口の看板に到着した。

 

 

 

 

「おい、なんか変だぞ」

 

 

 

普通なら、縛られたリンゴとこちらを警戒するグッドスプリングスの住人がいるはずであった。交渉しようとした瞬間、2方向から強襲して略奪する手はずである。だが、グッドスプリングスはまるで死んだように静まり返っていた。

 

 

 

 

「誰もいないとはどういうことだ?」

 

 

 

 

ジョーは近くにいた男二人を偵察として前進させた。だが、酒場あたりでうろちょろしたあと、雑貨店と酒場に一人ずつ入っていくが、何も反応が無くなってしまう。

 

 

 

 

「あいつら独り占めしてるんじゃないだろうな?」

 

 

 

 

「そうだったら奴らの腕ぶった切ってやるさ」

 

 

 

 

ジョーの怖いところは仲間の囚人でさえ、容赦なく殺すところにあった。仲間を殺されれば容赦せず、執拗に追い詰めて残虐な殺し方を好んでいた。だが、その残虐性は粗相をする部下や仲間にも向けられ、抜け駆けした部下を容赦なく撃ち殺したりすることがあった。それゆえに、恐怖によって他の囚人を縛り付けていた。

 

 

「よし、おまえら。あの二人が抜け駆けしてたら殺せ。村人が居たら知らせろ。どうせ、どっちかで籠城してるんだろうさ」

 

ジョーは他の小学校から攻めるグループに攻撃の命令をだし、近くにいる仲間たちにも号令をかける。

 

 

 

だが、その号令をかけた瞬間、目の前に何かが弾け、視界が赤く染まる。

 

「なん…だ?……これ…」

 

べっとりとついた液体を拭うと真っ赤に染まり、ゆっくりと額に触れる。そこにあった皮膚には穴が開き、ゆっくりとジョーの意識は途切れる。そして、彼の傍の地面が噴火する。

 

 

 

 

 

ニトログリセリンなどの爆発物を混合させ、さらに殺傷能力を上げるために鉄球や金属を巻き付けたそれは、爆発力によって周囲に飛び散り、彼らの身体を抉る。一瞬にして六名前後のパウダーギャングは文字通りミンチ肉となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当、あなたがいてくれて助かったわ」

 

 

 

 

「俺はちょっと爆弾を作って、奴らが来そうなポイントに人員を配置しただけだよ」

 

 

 

 

「まああなたが居なくても何とかなったかもしれないけど。もしそうだったら、仲間の死体がそこらに転がっているわ」

 

 

 

 

プロスペクター・サルーンにはグッドスプリングスの住人が多く集まっていて、その中心には事件を解決に導いた運び屋の姿があった。ジョー率いるパウダーギャングの一派を全滅させ、グッドスプリングスの住人を一人も死なずに済んだのだから、祝わなくて何をするのだろうか。

 

 

 

 

 

トルーディーはラジオが直ったことに加え、今回の騒動の解決によって店の驕りとした。デスクローの討伐と同じような熱狂ぶりが久しぶりにやってきたとあって、グッドスプリングスの小さな酒場は宴会場となった。

 

 

 

 

何人かの農夫はビール片手に腕相撲をおっぱじめ、あるビッグホーナー飼いはビリヤード台を占領していびきを掻いていた。ドッグミッチェルはかつてのvaultでポーカーを齧っていたため、数人の農夫相手にキャップを巻き上げていた

 

 

 

 

 

「運び屋さんはもっと自分に自信を持ってくださいよ。それにジョー・コップをヘッドショットして、ダイナマイトを吹き飛ばしたのなんて神業!」

 

 

 

 

 

「・・・いや、ウリエル。お前のほうがすごいと思うぞ・・・・4人いっぺんにサムライソードで()()()にしちまうんだから」

 

 

 

運び屋の狙撃のセンスは卓越したものであった。地面に仕掛けられたダイナマイトを酒場の屋根から狙撃したのだから。だが、ウリエルも凄まじい。小学校方面からやってくる六人組のパウダーギャングを白兵戦で斬り倒していったのだ。ロボットがここまで早い動きをしたのは見たことなく、更にサムライソードでパウダーギャングの奴等を鱠切りにしたなど、目を疑うような光景だったと近くにいた農夫はビールを片手に武勇伝を語り出す。

 

 

 

「で、運び屋さんはどこに行くの?チェック柄の男を追うつもり?」

 

 

 

「当たり前だ、モハビ・エクスプレスの傭兵は本気(マジ)でヤバいからな」

 

 

 

サニーはウィスキーを傾けながら運び屋に問いかける。彼女の顔は自身の赤毛に近い程赤くなっており、小柄な体ではアルコールを分解できていない様だった。

 

 

 

「そんなにヤバいの?」

 

 

 

「とある人が言った『エクスプレスの傭兵と戦うなら、BOSの機甲兵の方がまし』」

 

 

 

「何それすごい」

 

 

 

BOSの機甲兵。戦前の歩く戦車であるT51bパワーアーマーを着て、重機関銃や光学兵器を使う彼ら。50口径(キャリバー)の弾丸でさえ弾く装甲は、NCR歩兵からは悪夢とされる。ただでさえ、コストの高い対戦車ミサイルやロケットを使わなければ倒せない奴らであり、背後のパワーモジュールや頭の光学サイトを破壊するのが効果的だ。それでも、攻撃能力は凄まじい。そんな化物よりも、モハビ・エクスプレスの傭兵達のほうが恐ろしいとは如何なるものか。

 

 

 

 

「他にもレギオンに荷物を売ろうとした奴がいて、売った運び屋と取引に応じようとしていたレギオンのセンチュリオンをもフルボッコにしたとか・・・・」

 

 

 

 

「凄いわね・・・・じゃあ、プリムで色々するわけか。土下座とか腹切りとか」

 

 

 

 

「いや待てジャパニーズヤクザな事したくない」

 

 

 

 

運び屋がふと浮かんだのはニューリノのヤクザ達。彼らはそれこそ侍のような仁義だとかを大切にする奴らだが、エクスプレスはそうではないと思う。そうではないと信じたい。

 

 

 

 

ふと、侍と聞いて思い浮かべるのはウリエルだが、あの剣術は何処で習ったのか。ロボットならそうしたプログラムがあるはずで、どこでインプットしたのだろうか。

 

 

 

 

嘗ての大戦争前、前哨戦ともいえる日本と中国の戦争があった。その時、多くの日本人がカリフォルニアに難民としてやってきたことがある。資産家や研究者は持ち前の技術を米政府に提供したが、難民としてきた貧困層は細々と生きるしかなく、ヤクザなど反社会組織が根を広げたのだ。もし、その時渡ってきた剣士が剣術をプログラムに書いたのであれば、ウリエルは西海岸から来たことになる。

 

 

 

 

「おい、ウリエル!お前何処から来たんだ?」

 

 

 

 

「私ですか?」

 

 

 

 

器用に自分の顔に指をさすアサルトロンはドックミッチェルからもらった核分裂バッテリー片手に運び屋に歩み寄った。

 

 

 

 

「ははぁん、さては私の魅力に気づいたんですかぁ?」

 

 

 

 

「ああ、お前の身体が気になってな・・・」

 

 

 

 

「え!私、心の準備が・・・・・!」

 

 

 

 

 

「そうじゃねぇ、色情ロボット。お前は西海岸から来たのか?そうなると剣術を教えたのは日系の奴らか?」

 

 

 

 

「酷いですね、人をそんな呼び方で呼ぶなんて。そうですね、一応私の製造は東海岸ですよ」

 

 

 

 

「東海岸・・・・・?お前の剣術を教えたのは誰だ?」

 

 

 

 

 

「あ~それについてはデータガハソンシテマス」

 

 

 

 

 

「おい、いきなり棒読みにすんな」

 

 

 

 

明らかに知っているのに言わないような声で話し、あたかも視線を逸らす素振りはいかにも人間らしく、芸達者。だが、そんなウリエルを運び屋は推理する。

 

 

 

 

 

東海岸で製造?だとすれば、侍のような刀捌きはどうやって習得する?東海岸にはテロ攻撃をさせないためにアジア系を住まわせないような法律を立てていた。ともすれば、プログラムをインストールしたのは西海岸の日系人コミュニティーか?

 

 

 

疑問符を頭に浮かべる運び屋であったが、その答えはその本人からすぐ告げられた。

 

 

 

 

「私には師匠がいるんですよ。百戦錬磨の侍が」

 

 

 

 

「?」

 

 

 

 

運び屋はウリエルの意味ありげな答えに訝しげな表情をするが、その答えは出なかった。

 

 

 

 

「まぁまぁ、そんな難しそうな顔しないで飲んで飲んで!それ一気一気!」

 

 

 

 

 

「ちょ!おま!」

 

 

 

 

ウリエルの掛け声と共に口に流し込まれるウィスキー。続いてウォッカやビールなど。

 

 

 

 

酒の強い運び屋でも、流石にきつい。だが、グッドスプリングスの宴は終わることはない。空が明るく霞むまで続くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

グッドスプリングスの戦いの後、住民による住民のための酒宴が行われることになったが、終わった後は死屍累々の野戦病院と化していた。どういうことかというと、唯一の酒場であるプロスペクターサルーンの店内は人類の不治の(二日酔い)が蔓延していた。それはもう、カウンターには農夫が半裸で寝そべり、昨日運び屋が救った入植者の女性はビールを抱き締めてソファーに横になって寝息を立てている。酒場は何度アルコール臭のする酔っ払いが居ただろうか。大戦争前にもこうした光景があったかもしれないが、ウェイストランドとなった今、その光景が見られるのはNCRでも治安の良いシェイディ・サンズかVaultシティーだけとなっている。もし、治安の悪いエリアであれば、そのままモールラットの餌になっていたかもしれない。グッドスプリングスが住民間の信頼の上、こうした酒場で酔いつぶれるという行為が出来るのだ。

 

 

 

 

 

一方、店の外には酔いつぶれた住人を尻目に運び屋が出発の準備を整えていた。

 

 

 

 

「どんちゃん騒ぎしたのは何時ぶりだ?・・・・・懐かしいと思えると言う事はレギオンではないな・・・」

 

 

 

 

酒やドラッグを認めていないシーザーレギオン。酒を飲んだどんちゃん騒ぎをやるのはNCRなどの比較的に緩い地域だけだ。BOSという線もあるが、レギオンという過去の人道的見地からして最悪な組織の人間でない事を知り、運び屋は昨日の事を感謝した。勿論、二日酔いが若干抜け切れてないことを除けばだが。

 

 

 

 

 

「そう、それなら良かったわ。レギオンの糞共だったら、私の対物ライフルが火を吹くから」

 

 

 

 

 

「あー、レギオンじゃなくて良かった」

 

 

 

 

 

トルーディーの冷や汗の出る台詞に苦笑いをする運び屋。手にはジョー・コップが持っていたM16が握られていた。運び屋はウッドストックとハンドガードを撫で、懐かしさを覚えるが、NCR陸軍の刻印が消え「New California Republic Correctional Facility」(矯正収容所)のマークが焼き印で上乗せされている。見た感じ、軍の支給品であったが、旧式として倉庫にあったものを引っ張り出したのだろう。ストックに書かれた管理番号を同じ色のペンで二重線を引き、違う管理番号を上書きしている。

 

 

 

 

運び屋は妙にそのライフルを懐かしく感じ、やはり自分はNCRの人間であったと納得した。

 

 

 

「記憶がなくても、何かあったらここによればいいから。いつでも歓迎よ」

 

 

 

 

「ありがとう、トルーディー。・・・・あれ、昨日送りだすって言ってたリンゴは?」

 

 

 

 

運び屋は見渡すが、リンゴらしき男は見当たらない。パウダーギャングを掃討してからというもの、彼に感謝して会社から預かったキャップをお礼として渡そうとした。運び屋は大手のクリムゾンキャラバンとのコネがあればと思い、今度で良いと断った。リンゴはならばと明日見送ろうと話していたのだ。

 

 

 

「あ~、酔いつぶれているわ」

 

 

 

「何やってんだか」

 

 

 

呆れる運び屋はスカーフで口と鼻を覆い、使い古したスカベンジャーキャップを被る。防塵ゴーグルがしっかりと使えるかどうかチェックしつつ、水筒と予備のポリタンクも背嚢に収まっていた。

 

 

 

運び屋は彼女も同じように呆れるかと思ったが、予想に反して彼女の表情は同情の色が見える。

 

 

 

「あの子、同じ同僚だった仲間の名前を呼びながら、泣いて呑んでたわ。仕方ないわよ」

 

 

 

「…………」

 

 

 

彼女の言葉に運び屋は胸が締め付けられるような思いになる。何故だかわからないが同情にも、後悔にも似た泥のような負の感情が胸に渦巻くように感じた。それは丁度5枚の認識票のある胸元であったが、彼は気づかない。

 

 

 

 

そしてトルーディーも亡き親しい人を思い出し、微かながらも悲しい表情をする。荒廃しきったこの世界でも、一緒に旅をして苦楽を共にした仲間。それは血のつながり以上に家族のような存在だからこそ、アルコールによって心が落ち着いた瞬間、生き残った喜びは失せ、家族を失った悲しみが押し寄せたのだ。

 

 

 

「………いずれ癒えるさ」

 

 

 

「そうね、私達が彼らの分まで生きなくちゃね。」

 

 

 

2人は笑顔を取り戻し、トルーディーは思い出したかのようにバックからあるものを取り出した。

 

 

 

「そうそう、これこれ。餞別代りにあげるわ」

 

 

 

 

渡されたのは酒を入れるスキットルであった。それはご丁寧にもグッドスプリングスの入口の看板と同じロゴがプレス加工で再現されており、トルーディー曰く、町の酒好きなら皆持っているものだ。元はグッドスプリングスのお土産だったらしいが、サニーや酒好きの人間はよくそれに入れていたりする。しかし、運び屋はあまり酒を嗜まない。強いものの、判断力を鈍らせるものであり、安心できる所でなければ自ら進んで飲みはしない。

 

 

 

 

だが、ここでは違った。ここで飲んだのはグッドスプリングスが安心できる場所だったからだ。人が良過ぎるドックミッチェルを始め、可愛げのあるサニーやその相棒の駄犬シャイアン、守銭奴ながらもしっかりと町のために物資を提供したチート、グッドスプリングスのリーダー的存在の頼れる女トルーディーなどなど、ここまで安心できたのは初めてではないか?運び屋は記憶を無くなっていると言えど、ここまで安心できる場所はそうそう見つかるものではないと考える。そして涙腺が緩くなったのか、視線を伏せる。

 

 

 

「どうしたの?砂でも入った?」

 

 

 

「・・・ちょっとゴミがはいった」

 

 

 

別れを惜しむ悲しみか、それとも安心できる場所を旅立つ悲しみか。それは運び屋にも分らなかった。ただ言えるのは、グッドスプリングスにまた来たいという思いだった。

 

 

 

「トルーディー、ありがとう。また来るよ」

 

 

 

「いつでも帰っておいで」

 

 

 

 

ドライだった他の町違いを覚えているのか、グッドスプリングスが故郷のように覚え、町の住人としての人生を歩んでいたかのように思えた。記憶を失ったからだろうかと、運び屋は思うが何故そう思ったか考えようとは思わなかった。別れを告げ、先の戦いで小さいクレーターを横切り、砕けたアスファルトを蹴飛ばして道なりに進む。グッドスプリングスの看板を抜けて、ふと振り返る。

 

 

 

 

 

砂の混じった強風によって霞む家々。短い滞在だったはずなのに、長くいた居心地を覚えた運び屋は焼き付けるようにそれを見つめた。

 

 

 

 

 

 

「また来よう」

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと歩みだす運び屋。目指すは南にあるプリム。準備運動(チュートリアル)は終わり、本当の旅が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~、皆さんアルコール弱かったですね~!」

 

 

 

「うわぁ!お前、一体どこから沸いた!」

 

 

 

 

意気揚々と歩き始める運び屋の目の前に現れたのは、グッドスプリングスの住人をアルコールでノックアウトさせた張本人、アサルトロンのウリエルだった。突然現れた彼女に対して、滑らかな動きでサービスライフルを構えるが、彼女はまるで人間のように手を上げ、武器は持ってないと両手を振ってアピールする。

 

 

 

 

「ちょっと待ってください!ここで待ってたんですって」

 

 

 

「まってたって、道の真ん中でか!」

 

 

 

「そうです、太陽光発電も兼ねてここで待機していれば運び屋さんに遭えると思って」

 

 

 

 

「いや、さっきまでそこにはなにも・・・・」

 

 

 

 

「私の装備には長時間光学迷彩、いわゆるステルスフィールドが使えまして、こうして待ち伏せしてドカーンとするわけです」

 

 

 

 

ウリエルは体育座りをすると、ステルスフィールドを起動させて、見えなくする。運び屋は驚くが、よく見れば若干空間がゆがんでいるようにも見えるため、目を凝らせば見ることが出来た。

 

 

 

 

「ね、すごいでしょ!」

 

 

 

 

「凄い待ち伏せスキル・・・・んでお前何の用?」

 

 

 

 

 

「何って!そ!れ!は!・・・・運び屋さんに惚れちゃいました~!」

 

 

 

 

 

「帰れ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

An agreeable companion on the road is as good as a coach.(よい道連れは馬車も同然)

 

 

と英語にもあるように、『旅は心世は情け』

 

 

一人旅より二人旅。さすれば心強く、仲間が自身の助けとなる。

 

 

 

 

記憶を失った運び屋とよく分からないアサルトロンは荒野を歩く。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

一人と一台がグッドスプリングスの坂を下り、丘が邪魔で見えなくなるまでグッドスプリングスの医師、ドックミッチェルは彼らを見続けていた。比較的高台にある診療所兼自宅の寝室にある窓からは先ほどまでみえていたものの、テーブルのコーヒーを取る頃には見えなくなっていた。ミッチェルは大きく息を吐き、そのコーヒーをソファーのあるリビングへと持っていく。

 

ミッチェルは出発した彼の資料を纏めている途中だったため、書類仕事をしながらコーヒーを嗜もうとしていたのだ。だが、リビングが見える位置に立つと、そこには見覚えのない男が立っていた。叫んで驚くようなことはせず、スチール棚に置いてあったショットガンをその男に向けた。

 

 

 

「貴様!そこで何をしている!動くと撃つぞ!」

 

 

 

「ふむ、第一関門突破と言った所だろうな」

 

 

 

「何?」

 

 

 

そこには嘗ての米軍上級将校のコートを着た男がいた。見間違えるはずもなく、真新しいその服装にミッチェルは寒気を覚えるものの、その男は淡々と話し始める。

 

 

 

「やはり、あの男を候補者にしたのは間違いじゃないようだな。ハウスに推薦しておいて助かったよ。この分析は良くできている」

 

 

 

 

忌まわしきVault製のマークの入ったそれは「G.O.A.T.」。Generalized Occupational Aptitude Test(一般化された職業的適性検査)というテストを改良したものだった。もっともこれは細部に至るまで改良されており、原型を留めていない。記述式や選択式などの解答欄があるが、専門的な知識が必要とされており、G.O.A.Tよりも正確な測定が可能となっていた。加えてグッドスプリングスの一件を記録したホロテープを分析したことにより、ほぼ確実な運び屋の基本情報が記録できた。

 

 

 

「ハウス?それは・・・・」

 

 

ミッチェルはニューベガスの権力者の名前を聞くが、その続きの言葉は男によって遮られる。

 

 

 

「ドクター、関わるのは感心しないぞ。死にたくなかったら何も聞くな」

 

 

 

「・・・・」

 

 

 

独り言みたいなものだ、と男は続ける。ドックミッチェルはショットガンを構え続けているが、いつの間にか手術室やキッチンからレーザーポインターが自身の身体にあてられていることに気が付いた。

 

 

 

なぜ、こいつは私の家に?

 

 

 

 

 

その疑問はまっとうな理由だったが、つい最近の患者で訳アリが一人。あの運び屋の関係者であることを悟ったが、目の前に嘗ての米軍将校の服を着た男がいるとは、何の冗談かとミッチェルは冷や汗をかく。

 

 

 

「まあ、聞きたくなるのも分かる。焦らないでくれ。礼を言いたいんだ」

 

 

 

「礼?」

 

 

 

男の言っていることが分からなかった。

 

 

 

そんなミッチェルの気持ちに答えるように男は話す。

 

 

 

 

「彼を治療してくれたことに礼を言いたい。こちらも不手際があってね、こちらの用意した戦力では難しくて困ったものだ。せっかく特注で作らせたと言うのに・・・・電子機器破壊のための兵器を携帯していれば、戦いたくないと思うのも分かるのだが」

 

 

 

「・・・医者としての本分だ。これは曲げられんよ」

 

 

 

 

「亡くなったご子息と歳が近かったからか?」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

気持ちを見透かす様な台詞。ミッチェルは妻子がいたが、息子はNCR領内で死に、妻は旅の途中で怪我をして、それがもとで亡くなった。グッドスプリングスはその怪我のために寄った村に過ぎない。今住んでいる家で医療品をかき集めて妻を治療したのである。懸命の努力は実らず、彼女はこの家の最初の患者であり、最初に亡くなった患者の一人となった。彼女の遺体はグッドスプリングスの丘の墓地に埋葬されていて、月に一回ほど花を供えている。その後、ミッチェルはグッドスプリングスの医者として住むことになるが、グッドスプリングスの住人には息子がいることなど言ったことはない。どこでその情報を知ったのか、ミッチェルは切り詰めた水平二連散弾銃に力が籠る。

 

 

 

 

男はその言葉が失言だと思ったのか、申し訳ないような表情をする。

 

 

 

 

 

「すまない、少々悪いことを言ってしまったな」

 

 

 

 

「そう思うのなら帰ってくれ。この家に武装した兵士と健康そうな指揮官を置く余裕はない」

 

 

 

 

「一応、報酬を用意した。・・・・病院が一件立ちそうな額のキャップだ。」

 

 

 

 

男の後ろにはあまりお目にかかれない密閉型の金属製収納箱だった。放射線を遮断し、爆発や誘爆などを避けることのできる画期的な多機能型万能収納箱。最終戦争前に米軍が支給品保管の為に供給を始めたが、あまり出回らなかったらしく、重要物資のみ収納されていた。過去にエンクレイヴが大量に生産していたこともあり、俗に『エンクレイヴボックス』と呼ばれる箱だ。ミッチェルはその箱を見るなり、驚愕というような表情を露にした。

 

 

 

 

 

40~50年前に西海岸で猛威を振るっていたエンクレイヴ。他の航空機がいない空をベルチバードが飛び交い、パワーアーマーを着た銃火器兵が降下する。彼らのために多くのウェイストランド人が土に還ったことか。

 

 

 

その光景を覚えていたミッチェルは目の前の男の服装や荷物、そして周囲に息をひそめている兵士はかつてのアメリカ政府の亡霊いえるエンクレイヴなのだと理解してしまう。

 

 

 

そう思ったミッチェルは後ずさりしていき、周囲の兵士を見る。NCR軍でも使用する黒のプレートキャリアと黒のBDU(野戦服)。彼らの手にはカスタムされたレーザーライフルとプラズマライフルを持っていた。彼らの部隊章は翼を広げた鷲が足で円盤らしきものを掴むという部隊章だ。

 

 

 

 

やはりこいつらはエンクレイヴに違いない。なぜここに?あの運び屋はエンクレイヴの人間なのか?

 

 

 

ミッチェルの疑問は尽くことはなかったが、その答えは件の男によって答えられた。

 

 

 

「我々はエンクレイヴ・・・・ではないと言いたいが、否定は出来ないな」

 

 

「あんたらはエンクレイヴだろ?あの運び屋も!」

 

 

 

「いや、彼は元レンジャーだ、凄腕のな。彼には荷物の運搬だけのはずなんだけどな。今回、パウダーギャングとグレートカーンズさえ、居なければ丸く収まるはなしだったんだ」

 

 

 

ミッチェルの追及はそれだけではなかったが、一人の銃を持った兵士が士官服を着た男に報告する。

 

 

 

「・・・・ああ、了解ね、すぐ戻るか」

 

 

 

ミッチェルは再びエンクレイヴよる戦争が行われるのではないかと思い、ならばその訳を知りたくなり、帰ろうとする男を呼び止める。

 

 

 

「待ってくれ、君たちはここで何をする気だ・・・?」

 

 

 

喉から苦しくも出たその言葉は男に伝わり、少し考える。一つ間違えても何も起きないだろうが、彼らがモハビに再び舞い戻った目的……それは………?

 

 

 

 

「ベガスで勝ちに行くんだよ」

 

 

 

清々しいまでの笑みと、これからのゲームが楽しみだと言わんばかりの男の顔はにやけていた。それは、是から来る得戦乱に対する笑みなのかもしれない。

 

 

 

すると、男の身体に何やら光の輪が多いはじめ、閃光と共に男は消滅してしまった。

 

 

 

ドックミッチェルは目の前の光景に目を疑い、これは夢なのではと頬を抓る。痛みはあり、起きていることを理解しても、目の前にいた男が消えた場所近くには、「報酬」と言っていたものが入っているはずだ。

 

 

 

ミッチェルはゆっくりとその箱を開けることにした。そこには山住にされたキャップと金塊が入っており、腰を抜かすところであった。

 

 

 

 

一瞬にして消えたエンクレイヴらしき男。グッドスプリングスの不思議として語り継がれるのは別の話であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







これにてグッドスプリングス編は終了です。

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