カフェの中に入った俺達の間には現在重苦しい空気が流れている。
俺と隣にいる未央は下を向いて俯いていたり、正面に座る卯月はオロオロしている。可愛い。
そしてこの空気の発信源である卯月の隣に座っている般若…凛の方をチラッと見ると先程からずっと俺を睨みつけながらアイスコーヒーを啜っている。ヤバい。今日俺死ぬわ。
短い人生だったなと半ば諦めていると未央が耳元で囁いてきた。
未央「……ちょっとタケっち?なんでしぶりんはあんなに怒ってるの?あんな顔初めて見るよ?」
毅「いや俺も心当たりがないんだが……。」
未央「ホントに?タケっち以外考えられないよ?」
毅「そう言われてもなぁ……もしかしてサプライズが失敗したのか?」
未央「サプライズ?」
毅「ああ。凛を驚かそうと未央と卯月が来るのは黙ってたんだよ。」
未央「……ん?それじゃしぶりんは今日タケっちと二人で遊ぶと思ってたの?」
毅「そうだよ。何がいけなかったんだ?」
未央「……あーあ。犯人ここにいたわ。死刑に値するよ。」
毅「は?なんで俺なんー…」
凛「ちょっと?さっきから二人で何コソコソしてるの?」
未央と小声で原因を突き止めていると凛が冷たく低い声で言ってきた。……マジ怖い。
未央「え、えーと……しぶりん?今日はホントごめんね?タケっちがちゃんと伝えてたのかと思ってたからさ!」
毅「ちょ、未央!何俺のせいにしてんだよ!」
未央「うっさい!このバカちんがぁ!タケっちがサプライズなんてアホなことしなきゃーー」
凛「二人とも?他のお客さんに迷惑だから少し黙ってね?」
未央&毅「はい……。」
凛が笑顔で俺達を注意してきたが凛の目は笑っていなかった。
卯月はまだオロオロしている。可愛い。
俺と未央が項垂れていると凛がハァとため息をついて俺達を見る。
凛「……もういいよ。未央も毅も私を思ってしてくれたんだし。今日は4人で遊ぼっか。」
卯月「凛ちゃん、今日はごめんなさい。」
凛「卯月は気にしなくていいよ。悪いのはそこの2人だから。……ね?」
俺&未央「すんませんでしたぁー!!」
俺と未央は机に頭をぶつけながら謝罪する。
どうやら許してくれるらしい。未央なんか今にも泣き出しそうな顔で喜んでいる。安心しろ、俺も泣きそうだったから。
凛に許しを貰った後、俺達は4人でショッピングモールに向かっている。未央と卯月も買い物がしたかったらしいので俺の最初の案が採用された。
未央と卯月はこれから何を買うか色々話しながら歩いている。その後ろを俺と凛が付いて行く。
しかし、カフェを出てから二人と話す時は終始穏やかな顔をしているが、俺が話しかけると凛は「ふんっ」とそっぽを向く。
許してくれたんじゃないの?
このままじゃ話しもできない。そう思った俺は凛に改めて謝罪をする。
毅「なぁ凛、今日は黙ってて悪かった。やっぱ除け者にされたと思うよな。ごめん。」
凛「……はぁ。もういいってば。やっぱり毅には分からないよね……。」
毅「分からない?何が?」
凛「なんでもない。ほら行くよ?二人に置いてかれちゃう。」
凛が早足で俺の前を歩く。
なんとか話しは聞いてもらえたが、まだ不機嫌そうだ。
どうやら凛が怒っているのは、除け者扱いを受けた事に対してではないらしい。
考えるが……分からん。答えが出そうにも無い。
とりあえず俺も凛の後を追った。
未央「おぉ!人がゴミのようだ!」
卯月「未央ちゃん!そんなこと言っちゃいけませんよ!」
凛「でも本当に人がいっぱいだね。皆、はぐれないようにね?」
GWという事もあってモール内は人でごった返している。
たくさんの家族連れや学生などが俺達の前を行き交う。これは本当にはぐれないようにしないとな。
未央「じゃあまずは服見に行こ!未央ちゃんのファッションショーだ!」
卯月「ああ、未央ちゃん!待ってくださーい!」
未央が先陣切って動き出し、それを卯月が追いかける。危ないぞ?
毅「はぁ……疲れた。」
あれから2時間程経って俺はショップの前のベンチに座っている。
女の子の買い物ってすごいのな。店を回る効率なんか考えず、目に映る店に入ったり一度見た店に戻ってみたり。これだけ経っても全然進まない。
店内にいる未央と卯月は楽しそうに服を見ている。アイドルの体力恐るべし。
俺がグッタリしていると隣に凛が飲み物を持ってやって来た。
凛「まだ全然見てないのにだらしないよ?はいこれ。」
毅「なんでお前ら余裕なんだよ……。サンキュ。」
凛から貰ったジュースを飲む。ああ、疲れた。
チラッと隣に座っている凛を見る。カフェを出た後よりも随分と機嫌が良くなっている気がする。今日は凛の顔色を伺ってばかりだな。
社会に出ると上司にこういう感じなのか?と考えていると、目の前の店から買い物袋を下げた未央と卯月がヒソヒソ話しながら出てきた。
なんか俺と凛をチラチラ見てくるし。
未央「しぶりーん!私達ちょっと買いたい物あるからタケっちのことよろしくねー?」
凛「へっ?」
卯月「凛ちゃん!また後でね!」
凛「ちょっと!……ほら、着いてくよ!」
毅「へいへい。」
ベンチから立ち上がろうとすると、未央が俺の腕をぐいっと引き寄せて耳元で囁く。
やめろ。いい匂いするから。
未央「タケっちはしぶりんと二人で買い物しなさいな。」
毅「なんで?一緒に行けばいいだろ?」
未央「いいから、つべこべ言わず行きなさい!また後で連絡するね♪」
そう言った未央は卯月と一緒に歩いて行った。どういうつもりだ?
凛「ねぇ、未央はなんて?一緒に行かないの?」
凛が若干焦りながら聞いてくる。
俺も分かんねーよ。
未央達の方に目を向けると、人混みの中に消えてしまったらしく姿が見えない。探すのも一苦労だし、このまま行くか。
毅「しゃあない。凛、一緒に回ろうぜ。二人は後で合流するってよ。」
凛「……二人で?毅と?」
毅「他に誰がいんだよ。それに元々今日は二人で来る予定だっただろ?」
凛「その予定を黙って変更してたのは誰だっけ?」
毅「いやホントすみませんでした。」
クッソまだ根に持ってやがる……!何も言えねーけどな!
頭を下げている俺を見て凛がクスッと笑う。Sかコイツ。
凛「よし、じゃあ行こっか。ちゃんと付いて来てよ?」
毅「任せろ。絶対はぐれねーからな!」
そう言って俺は凛の手を握る。凛が「あっ」と小さな声を出し驚いている。
ヤバい、いくら凛相手でもマズかったか?
不安に思っていたが、凛もぎゅっと握り返してきた。
……なんか恥ずいな、これ。手汗掻いてないよな?
少し緊張しながら歩き出し、ふと隣の凛を見る。
心なしか凛の顔がほんのり赤くなっているように見えた。
鳴り止め俺の心臓よ!
それから俺達は色んな店を回った。凛が服を試着したり、アクセサリーを着けてみたり、ペットショップで犬や猫を見たり……。
その時の凛はとても嬉しそうに見えた。そして毎回店を出る時に何も言わず、どちらからか手を繋ぐ。それだけで俺も疲れなんて忘れていた。
どれくらいの時間が経ったか、現在凛がトイレに行っているのを待っているとポケットの中のスマホが震えた。未央からだ。
見ると1Fの入り口で待ってるとの事。凛が帰ってくるとその旨を伝え一緒に待ち合わせ場所に向かった。
その時は手は繋がれなかった。
未央「今日は楽しかったねぇー!また皆んなで遊ぼうよ!」
卯月「はいっ♪凛ちゃんも毅くんも今日はありがとうございました!」
凛「うん。また行こうね。」
俺達はモールから出て帰り道を歩いている。今日は何だかんだ楽しかった。3人も楽しそうに話している。
しばらく歩いて未央と卯月と別れた後、今は凛を家まで送っている。
会話は無い。だが、朝に比べてなんだか心地よく感じる。
すると、凛が近づいて来て俺の手を握った。
少し驚いて凛の顔を見る。凛は何でもないように平然としていた。
そして俺も手を握り返す。二人の間には変わらず沈黙が流れていた。
凛の店の前に着いて凛の手を離す。細く綺麗な凛の手を離すのは名残惜しかったが、凛の両親に見つかったりすれば面倒だ。絶対いじられる。
毅「今日は楽しかったな。二人にもお礼言っといてくれ。」
凛「うん。私も楽しかった。また一緒に遊ぼうね?」
毅「おう。今度は隠し事しないからな。」
凛「はいはい。」
少し呆れたように凛が笑う。いや、反省してます。
すると凛が少し照れたようにしてバッグの中から小さな箱を出した。
凛「はいこれ、今日のお礼に。貰ってくれる?」
毅「え、マジ?……実は、俺もあるんだが。」
そう言って俺もポケットから紙袋を取り出す。
凛「嘘っ!?いつ買ったの?」
毅「凛がトイレ行ってた時に。」
凛「……ふふっ。なんだ、同じこと考えてたんだ。」
俺からのプレゼントは今日のお詫びと、CDデビューのお祝いを兼ねたものだ。
まさか凛からもプレゼントを貰えるとは思わなかったが。
プレゼントを交換し、中身を開ける。凛がくれた箱にはシルバーにブルーのラインが入ったブレスレットが入っていた。
凛らしいチョイスだな。
凛が紙袋を開けると中から水色と白のシュシュが出てきた。
店を手伝う時に凛は髪を結んでいる。その時に着けてもらおうと思ってプレゼントした。色のチョイスは頭の中で凛を想像してみると、この色が一番似合っていたから。
すると、凛はシュシュで髪を頭の後ろで縛りだした。所謂ポニーテールになった凛が「どう?」と感想を求める。
ヤバい、めっちゃ似合う。か、かわいいなオイ。
凛「そ、そう?……ありがと。大事にするからっ///」
目の前の凛の顔が赤く染まる。どうやら声に出ていたようだ。
だが今更否定はしない。正直にそう思ったから。
俺もブレスレットを左手首に着ける。普段は時計以外着けたことないが、凛からのプレゼントだ。ずっと着けとこう。
毅「俺の方こそありがとな。大事にするよ。」
店のライトに反射して光るブレスレットを俺はジッと見つめた。
その時、店の中からニヤついた顔をした凛の両親が顔を出す。
まさか見てたのか?
俺は凛に一言別れの挨拶を済ませてすぐに帰路につく。
からかわれるのはごめんだ。
後ろを振り返ってみると。凛の方は二人を睨みつけていた。
前もこんなんあったなー……。
思い出し、笑みがこぼれる。この楽しい日常がいつまでも続きますように。俺は夜空を見上げ、そう願った。
仕事が残業フェスに入り更新ペースが遅くなるかもしれないので、今回は気持ち長めに書いてみました。
なるべくペースを落とさないように気をつけます。