残業フェスも残り1週間……
−346プロレッスンルーム内−
ベテトレ「渋谷ッ!1人だけテンポずれているぞ!」
凛「…ハァ、ハァッ……すみません……!」
ベテトレ「少し休憩を取る。今のお前ではレッスンにならん。」
凛「……はい。」
レッスンルームにトレーナーさんの怒号が響いた。
いつもはテンポがずれるなんてミスはしない。
でも、なんだか今日はレッスンに身が入らない。
このままではダメだ。ライブまであと1週間に迫っているのに……。
卯月「凛ちゃん!大丈夫ですか?」
未央「しぶりん調子悪いよー?ライブ近いし無理しちゃダメだぞ?」
凛「うん……2人ともごめん。ちょっと顔洗ってくる。」
私のせいで未央や卯月に迷惑をかけてしまっている。
優しい2人は私を心配してくれてるけど、今はその優しい言葉が辛い。
情けないなぁ……私。
トイレで顔を洗ってレッスンルームに向かう途中、自販機の前で談笑している2人を見かけた。美嘉と……唯だ。
別に2人と喧嘩した訳でもないのに、自然と私の歩調が速くなる。
まるで2人から逃げるように。
今は迷惑かけている分レッスンに集中したいから、と自分の中で勝手に理由づけながら、2人に気付かれないように通り過ぎようとしたらそんな私に唯が気付いた。
唯「あっ!凛ちゃんだー!レッスン中かな?」
美嘉「凛〜、お疲れサマ♪調子どう?」
凛「……お疲れ。まぁまぁかな。」
唯「凛ちゃん達なら大丈夫!ライブ、頑張ろうね!」
凛「うん……じゃあ、休憩終わるから行くね?」
唯「ほーい!またねー♪」
2人との会話を早々に切り上げ、私はレッスンに戻る。
その時の唯の眩しい笑顔を私は真っ直ぐ見れなかった。
美嘉「……まぁまぁって、明らか調子悪そうに言う?」ボソッ
唯「ん?どしたの?」
美嘉「なーんでもない。私達もライブ頑張ろうね★」
唯「そだね!早くライブやりたいよ〜!」
凛「……ハァ。」
レッスンを終えた私はトボトボ歩きながら事務所を出た。
あの後レッスンに戻った私は、それからもボロボロだった。
トレーナーさんにはこっぴどく怒られて、未央と卯月にはかなり迷惑かけてしまった。
こんなんじゃライブにも出れないかも……。
そんな考えばかりが頭に浮かぶ。
何故こんな状態なのかは分かってるつもり。
先日の毅との事だ。
毅は何も悪くないのに、私が一方的に自分の嫌な感情を押し付けてしまった。
……あの感情は、たぶんヤキモチ。
でもそれが仲の良い友達に対してなのか、それとも……想い人に対して抱くものなのかは、まだ分からない。
私は今まで恋をした事が無い。好きになった人すらもいない。
だから、この気持ちがどういうものか答えが出ない。
しかし、友達や想い人に抱く感情にせよ私は酷く、
面倒くさい女だ。
昨日の夜、毅から電話がかかってきても全て無視してしまっている。
一言ごめんと言えばいいのに、それが出来ない。
……私は何がしたいのかも分からなくなってきた。
自己嫌悪に陥りながら信号が青に変わるのを待っていると、急に背後から誰かに声をかけられた。
美嘉「よっ、お疲れサマ★あ、このセリフ2回目だね♪」
凛「美嘉?……お疲れ。」
美嘉「疲れてるとこ悪いんだけど、ちょっと寄り道していかない?」
凛「え?……う、うん。」
美嘉に連れられてやって来たのは駅前のカフェ。
そーいえばここは未央と卯月と毅の4人で来たことあったな。
……なんだか懐かしい。
注文した飲み物が来て美嘉がそれを一口飲んだ後、口を開いた。
美嘉「……ねぇ、凛ってさ今好きな人いる?」
凛「へ!?き、急に何!?」
美嘉「ただの恋バナじゃん♪ウチらJKだし★」
凛「……いない、と思う。たぶんだけど。」
美嘉「じゃあ、毅クンのコト狙ってもいい?」
凛「ーッ!だ、ダメ!……あっ」
美嘉「教えてくれてアリガト♪」
美嘉の言葉に咄嗟にダメと言ってしまった。
本当に無意識にだった。
凛「……誰も異性として好きとは言ってないよ?」
美嘉「じゃあ質問を変えるね?凛は毅クンと一緒にいてドキドキした事ある?」
凛「それは……ある、かな。」
美嘉「一緒にいるだけで幸せって思った事は?」
凛「ある、かな?ていうかちょっと恥ずかしいんだけど?///」
美嘉「じゃあもしこれから毅クンに会えなくなったらどう思う?」
凛「そっ、そんなの絶対やだ!」
美嘉「それなら、もう答えは出てるんじゃない?」
凛「えっ……」
美嘉「凛が毅クンに抱いてるのはね、恋心ってやつ♪」
凛「えぇ!?」
この気持ちは恋……なの?
急に顔が熱くなってきたが、まだ確証が持てない。いや、自信が無いのかもしれない。
毅に恋をして、今までの関係が壊れることが怖い。もう一緒にいれなくなるかもと考えてしまう。
不安になっている私に、美嘉が優しく声を掛ける。
美嘉「人を好きになるのってさ、本当にすごく素敵なことだと思うよ?恋をしてその人の為にもっと頑張ろう!って思えたりして。そうやって、女の子はもっと可愛いくなると思うんだ。」
凛「でも……」
美嘉「凛が今一番会いたくて、一緒に居たい人は誰?それでその人はどんな人かな?」
私の心がトクンと脈を打った。
同時に頭の中は毅のことでいっぱいになる。
目付きがちょっと怖くて、道に迷ったりするドジなとこもあって、意外に料理も上手くて、寝顔やたまに見せる笑顔がちょっとだけ可愛いくて、ハナコにすごく懐かれてて、なにより……私なんかにいつも優しさを与えてくれる。
そんな毅に会いたい。ずっと一緒に居たい!
そっか、私は今……恋をしてるんだ。
胸の中が締め付けられるような、切なさで苦しいような、言葉に出来ない事が起こっている。
でも、不思議とその感覚は嫌じゃない。むしろもっと感じていたい。
初めての感覚に浸っている私に、美嘉がニヤニヤしながら言葉をかける。
美嘉「いや〜あのクールな凛も、やっぱ中身は恋する乙女だね★」
凛「そうだったの、かな?なんか美嘉に気付かされたのはちょっと不覚だけどね」
美嘉「まぁそこはカリスマJKの経験ってヤツよね!」
凛「じゃあ百選練磨のカリスマビ◯チ美嘉さんにこれから色々相談しないとね?」
美嘉「誰がビ◯チよ!?アタシはまだしょz…ンンッ!なんでもない!」
凛「ふふっ、冗談だよ。ありがとね?」
美嘉「やっと笑ったわね?女の子は笑顔が武器!覚えといてね?」
凛「勉強になるよ、先生。」
それからは美嘉に毅とのこれまでの事を色々話した。
ちょっと恥ずかしかったけどね。
私の話を美嘉はニコニコと聞いていた。本当にありがとう、美嘉。
話を終えて、店を出ると外は真っ暗になっていた。
夜風が涼しくて心地良く、空を見ると星空が広がっている。
美嘉「じゃあまた明日ね!相談ならいつでも乗るから♪」
凛「うん、頼りにしてるからね?」
そう言って美嘉と別れたが、何かを思い出したような美嘉がこちらに振り返ってまた近づいてきた。その顔は先程とは打って変わり真剣だった。
美嘉「あのね、今の凛は初めての恋で余裕がないだけだと思うけど……唯のこと、嫌いにならないでね?」
凛「……確かに、唯に対してヤキモチ妬いちゃったけどそんなことにはならないよ。むしろ、唯にも友達としてちゃんと話したいんだ。それで、唯の気持ちも聞いてみるよ。」
美嘉「もし唯も凛と同じ気持ちだったら?」
凛「その時は祝福するよ。今なら友達と一緒の人を好きになるのって素敵だと思えるんだ。でも……負けるつもりもないよ。」
美嘉「凛……!今のアンタ、すっごくイイ女だよ♪」
凛「ふふっ。そこは前からって言って欲しかったかな?」
私の言葉に安心した様子の美嘉と別れて、私は帰り道を歩く。
今日の出来事、日付けも私は一生忘れない。
私が生まれて初めて恋をした大切な記念日。
ケーキでも買って帰ろうか?何か特別なことがしたい気分だ。
でも、まずはやらなければならない事がある。
私はスマホを取り出し、電話をかける。
コールが3回鳴った後、電話が繋がった。
毅「もしもし?凛?昨日はーー」
凛「毅、昨日は本当にごめんなさい。私、ヒドイこと言っちゃって……」
毅「え?お、おう。大丈夫だ、気にしてねーよ。」
凛「良かった……。ねぇ、今日私すごく良い事があったんだ。」
毅「良かったじゃん。何があったんだ?」
凛「……内緒♪」
毅「なんだそれ!?そこまで言ったなら言ってくれよ!」
凛「とにかく、私は今機嫌が良いんだ。だからお願い聞いてくれる?」
毅「それって普通俺のお願い聞いてくれる台詞だよな?」
凛「今から毅に会いに行っていい?」
毅「……ダメだって言っても来るんだろ?」
凛「よく分かったね?」
毅「流石に危ねえから俺が凛の家まで行くよ。」
凛「ホント?じゃあ待ってるね。」
毅「また連絡するわ。」
電話を切ると、帰り道を歩く速さが先程と比べて速くなった。
早く帰ろう。今直ぐにでも毅に会いたい。
早足になったせいか、それとも毅の声が聞けたからか私の鼓動も早くなっていた。