IS ーインフィニット・ストラトスー 〜英雄束ねし者〜   作:龍牙

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25話『日常への帰還』

「それにしても……」

 

 IS学園の地下施設、そこには待機状態の白式と、ルーンレックスだった部品の幾つかが安置されていた。

 ルーンレックスとの戦闘でかなりのダメージを受け、同時にクレニアムモンとの一時的な融合……不完全ながらDEMの技術によるところの特種形態移行(フォームシフト)を行なった結果、幸いにも異常こそ起こらなかったものの大規模な修理が必要になった。

 幸か不幸か白式には二機の兄弟機がある。秋八の専用機である黒式と、使用者の居ない蒼式の二機だ。

 蒼式のパーツを移植する事で一日と掛からず白式は再使用が可能になるらしいが、一つだけ問題があった。ルーンレックスとの戦いで一夏が利用した武装……クレニアムモンのアヴァロンの事である。本来、白式とその兄弟機である二機は雪片以外の武装は装備でき無いと言う欠点を盛っていたはずだ。だが、あの瞬間のみ本来の仕様に無かったはずの武装が追加され、現在は消えてしまっていると言う不可解な事象がある。

 

「白式自体にはなんら異常がありません」

 

「だったら、あの武装は何だったと言うんだ」

 

「それは分かりませんが……」

 

 真耶の言葉に千冬は頭を抱えながら呟く。VTシステムの搭載されていたドイツの代表候補生の専用機と言うのも問題だが、ルーンレックスの姿は異常すぎるとしか言えない。VTシステムが過去のモンド・グロッソの優勝者の戦闘データを再現するのは……言って良い事かは疑問だが、《正常》だ。

 だが、ルーンレックスへの変貌は《異常》としか言えない。……何より、ルーンレックスは明確に《自我》と言う物を持ち、操縦者であるはずのラウラさえも取り込んで自らが動くための核として扱っていたのだ。…………彼女達の常識から考えて、ルーンレックスと言う存在は異常としか言えない。

 調べ様にもルーンレックスは最後の四季の一撃によって完全に破壊されている。残されているのは無傷のコアと僅かなパーツのみだ。そこから調べて分かる事など有るはずも無く、その為同じく原因不明の事態の起こった白式を調べるしかないのが現状である。そして、その白式にも異常は一切存在して居ない……そう、追加された武装も存在して居ないのだ。

 

「やはり、VTシステムかコアを調べるしかないが……」

 

「流石に国家が所有しているISコアを此方で其処まで詳細に調べるわけには行きませんし……」

 

 ルーンレックスに変貌した際に四季が粉々に破壊した為に、既にシュバルツェア・レーゲンは学園内の作業室で修復作業に入っているそうだ。最も、既に元々のパーツはコアだけなので予備パーツで新規製作されている様なものだが。

 

「VTシステムの方は此処まで粉々では解析は不可能か」

 

「そうですね」

 

 そう言うと千冬は軽く溜息を吐く。千冬は知らない事だが、その二つの脅威の名は、獣騎士ベルガ・ダラスと聖機兵ルーンレックス。

 この短期間に二度も強大な力を持った敵が学園を襲撃して来た……正確に言えば後者は学園内のISが暴走・変貌したのだが、本来ならば一年に一度起こるか起こらないかと言う様な事件が、だ。今まで犠牲者が出ていないのが不思議なくらいだ。

 二度の学園の行事が既に続け様に中止になってしまっているのは、対外的にも拙いだろう。特に二度目のトーナメントは外部からの来賓も来て居たと言うのに、だ。最も、データ取りの為に後日一回戦だけは全試合行なわれるが。

 

「それにしても、五峰くんもDEMの専用機も凄いですよね、二度の事件を解決した中心人物は彼ですからね」

 

「ああ、そうだな」

 

 内心では複雑な心境の千冬だった。既に血縁上の繋がり程度しかないとは言え、弟である四季が活躍する姿は姉として嬉しいが……四季の中には自分が与えられた物が何一つ存在して居ない事に一抹の寂しさを覚える。

 

(……今更だが、四季(あいつ)にとって“姉”と言うのは束の方だったのかもしれないな……)

 

 だからこそ、せめてISだけでも与えてやりたかったが、四季の元は既にヴレイブとゼロ炎の二機があった。与えたかった蒼式も既に白式の修復に使われ、残されたのは一振りの武装だけだ。……せめて、これだけでも受け取って貰えないかと考えずには居られない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園某所……

 

「くそっ!」

 

 苛立ちを隠す事無く秋八は拳を壁に叩き付ける。

 

「このぉ、役立たずが!!!」

 

 周囲に人影が無い事を良い事にガントレット状の待機状態の黒式を秋八は地面に叩き付ける。

 

「この役立たずが、ガラクタが、屑が!!! お前が欠陥品だからボクがこんな目に会っているんだよ!!!」

 

 四季のヴレイブの様に完璧じゃないのか、一夏の白式の様に力を発揮できないのかと、己の機体に対して苛立ちを、全ての不満を叩きつけていた。

 はっきり言って秋八が己の機体に対して向けている不平も不満も実際は的外れだ。ヴレイブは完璧などではなく、四季と共にある為に作り出された不完全な機体であり、一夏の白式が発現した力はクレニアムモンの力だ。

 

 今回のトーナメントでも秋八はルーンレックスどころか、VTシステムの前に完膚なきまでに負けてしまっていた。幸いにもあの時アリーナに居た一夏達しか其処には居なかったが、またも『こいつ、何しに出て来たんだ?』と言う目で見られていた。

 

「……チッ! こんな物でもボクが本来持つべき機体を手に入れるまでは大事な繋ぎなんだ……」

 

 地面に叩き付けた黒式を拾い上げると整備室へと向かって行った。使え無いと言うのならば仕えるように改良すればいいと考える。

 

(この世界の主人公はボクの筈なのに……なんで四季の奴ばっかり活躍しているんだ!? それもこれも、黒式が役立たずなのが悪いんだ!!! 強いISが有ればボクだって……ボクならあんな奴よりも活躍できるはずなんだ!!!)

 

 秋八は心の中で絶叫する。

 

(倉持技研に相談しないとな……。あいつらだって、DEMに負けているって言うのは気に入らないはずだ。それに一夏の白式にあんな機能があったなら、ぼくの黒式にだってあるはずだ……)

 

 秋八は黒式のスペックさえアップすれば四季に負ける事は無いと考えている。自分と四季の差は所詮機体の差だけだ、と。その為にも現在の黒式のスペックを上げ、その上で白式と同じ様な機能を使えるようにすれば良いと考えていた。

 一夏が単なる盾ならば……自分が使えばもっと己に相応しい強力な武器が手に入るだろうと考えていた。

 

(……次は暴走した軍用機……そいつさえボクの手で叩き潰せば、ボクの力を示せるはずだ!!!)

 

 “ボクが考えた最強の追加武装”を持った黒式のスペック、己の持つ操縦技術と才能の前に撃墜される次に戦う敵の姿を夢想する。

 箒だけでなく多くの者に賞賛される自分の姿を。

 

(序でだ……あの屑も一緒に始末してやる。……その為にもあいつの戦闘データを見ないと……)

 

 整備室に向かう前に千冬に頼んで四季の戦闘映像を貸して貰おうと考える。“今度こそ”と考えている以上、秋八としても絶好の好機を逃すわけには行かない。

 

 ……そこで秋八は始めて獣騎士ベルガ・ダラスと聖機兵ルーンレックスを見ることになって、驚愕する事になるのだが……それはまた別の話である。……だが、これだけは言っておこう、秋八はSDガンダムの事は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園の保健室……

 

「……これって何だ?」

 

 そう呟いて意識を取り戻した一夏はルーンレックスを倒した後から何時の間にか持っていた物を眺めていた。白い玩具のような使い道の分からない機械……それを四季が見れば甲応えていただろう、『デジヴァイス』と。

 

 何時の間にか手の中に有った使い方の分からない玩具のようにも見えるそれは何処か大切な物にも思えてくる。

 

『私と君を繋ぐものだ、我がパートナーよ』

 

「っ!?」

 

 突然聞えてきた声に驚いて周囲を見回すが誰も居ない。明らかに女性では無く男性の声……それも殆ど男の居ないIS学園に於いて聞き覚えの無い声だ。

 

『此処だ。私は此処にいるぞ』

 

「うわっ!」

 

 一夏の手の中に在る機械の液晶画面からホログラムのように現れている半透明の小さなクレニアムモンの姿に驚愕を露にする一夏だが、そんな一夏の反応に思いっきり落ち込むクレニアムモンの図。

 

『……其処まで驚くような事か?』

 

「い、いや、ほら! 行き成り出てきたから驚いただけだって!」

 

『そ、そうか……それならば仕方ないな』

 

 気を取り直して、と言った様子で再び話を再開するクレニアムモン。ブラッククロンデジゾイドの守りは本当に精神まで影響していない様子だった。

 

『改めて自己紹介しよう。私の名はクレニアムモン。デジタルワールドを守護するロイヤル・ナイツの一人だ』

 

「えっと……織斑一夏です」

 

『ああ、これからよろしく頼む。我がパートナーよ』

 

「なあ、パートナーとかデジモンとかどう言うことなんだ?」

 

『一から説明させて貰おう。デジモンのことも、パートナーについてもだ』

 

 そう言ってクレニアムモンは簡単にデジタルワールドとデジモンの事を一夏へと説明する。

 そして、あの時はクレニアムモンが白式のコアから力を与える事で、破損した白式を一時的に修復させ己の持つ武具である魔盾アヴァロンを貸したと説明した。

 今は跡形も無いが、白式の装甲を補ったのはブラッククロンデジゾイド……残っていたら、確実に地球上に存在しないはずの超金属が発見されていた事だろう。

 

「え、ええと……」

 

『直ぐには飲み込めないようだが、これだけは覚えておいて欲しい。私は常に君とともにあり、そのデジヴァイスは私と君を繋ぐ物だと』

 

「な、なあ、一つ良いか?」

 

『ああ、構わない』

 

「……なんでオレなんだ? あんたはデジモンの中でも特に凄いデジモンなんだろ? オレは……」

 

『私が君を選んだ理由は、君の思いだ。今はまだ未熟だが、真に守るべき者が見つけられたとき、その思いは本物になるはずだ。己を信じろ、焦る事は無い』

 

 クレニアムモンの励ましの言葉は自然と一夏の中に染み込んで行った。

 

『今後とも宜しく頼む、一夏』

 

「ああ、こっちこそ宜しくな、クレニアムモン」

 

 こうして一夏とクレニアムモンのパートナー関係が決まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……また、気絶していたか」

 

 目を覚ましながらフォームシフトを使うたびに気絶するのは勘弁して欲しいと改めて思う。流石に被害の事を考えると獣騎士ベルガ・ダラスや聖機兵ルーンレックスを教師部隊に任せる訳には行かない。確実に人的被害が出ることだろう。

 

 先ずは現状把握と、まだ披露の残る体を無理矢理起こすと、今までずっと看病してくれて居のであろう、四季のベッドにもたれ掛かって眠っている詩乃の姿を見つけ、此処がDEMの施設だと知って安堵すると僅かに気が抜ける。手元には大気状態のヴレイブが無いが此処がDEMの施設ならば既に修理に入っている事だろう。

 

「ごめん、心配かけて」

 

 眠っている詩乃の頭を撫でる。きちんとケアをしてある肩位までのショートヘアは何の抵抗も無く四季の指の間を流れて行った。

 今更ながら情けなさを覚える。守るなどと言っておきながら何度彼女に心配をかけているか分からないのだから。

 

「本当に、オレは弱いな」

 

 少なくともIS学園入学後はこれで二度目だ。一夏あたりが聞いたら『何処がだよ?』と突っ込みを入れられる台詞では有るが、それでも既に二回も倒れているのだから、大切な恋人に入学以来ずっと心配をかけ続けている。

 まあ、獣騎士ベルガ・ダラスも聖機兵ルーンレックスも簡単に勝てる相手では無い事は理解しているので、倒れる程度で済んでいる事自体は幸運だと思っているが。

 

(……これで二回……。奴等の手下がオレを狙ってきたのは)

 

 敵の狙いも大体理解できているのでそれは良いが、当然ながら不安も残る。敵が狙っている四季の持つ炎のエレメンタルの神器である白炎の杖の他に土、水、風のエレメンタルの神器も存在している。

 

(このままオレだけを狙っていてくれればいいけど)

 

 何れは他の神器の所在に気付かれる危険もある。今は四季と白炎の杖を囮に敵の注意を集めているのだから、今は狙い通りと言えるだろう。

 

 ベッドから降りて疲れて眠っている詩乃を抱え挙げると彼女を起さない様にゆっくりと彼女をベッドに寝かせる。

 

「おや、起きましたか?」

 

 丁度四季がベッドから起きると騎士ガンダムが医務室に入ってくる。

 

「騎士ガンダムさん?」

 

「彼女は本当に心配していましたよ。これで二度目ですからね、何故そんな風になったのか分かっていますが、あまり必要以上に恋人に心配かけるものでは有りませんよ」

 

「はい」

 

 自覚していたが、改めてこう言われると反省する点は思っていた以上に存在するのも事実だ。

 

「そう言えば、これは父君からの報告書です。起きたのなら目を通して置いてくださいね」

 

「さっきまで倒れていた人間に対して厳しいですね」

 

「まあ、お見舞いの品は武者さんが用意すると言っていたので、私は先にお見舞いに着たんですよ」

 

 報告書は来る途中で受け取ったんですよ、と続ける騎士ガンダム。そう言われて報告書を受け取って目を通す。

 

「ヴレイブの修理はもう終っているか。ブレードは人造クロンデジゾイド製の物に変更って……」

 

「ええ、今回のルーンレックスとの一戦で破壊されてしまった事を考えると、そう言う相手に対する対抗策も必要になってきますからね。元々の予定は日本刀型のブレードの予定だったそうなんですが」

 

「七星天剣流とガンダム流剣術がどちらも使える今までのブレードを採用って訳か……」

 

「そうなったそうです」

 

 ヴレイブには残念ながらゼロ炎と違って強化案がまだ存在しないため、武装強化に重点を置いている。

 そんな報告書を読み勧めていくと次の一文に目が止まる。

 

「って、これは!?」

 

「ええ、その通りです」

 

 『打鉄・弐式の開発権を倉持研より譲渡された』と言う一文に思わず声を荒げてしまう。その機体の使用者の事を考えると四季の判断以外でそれが採用されたのは驚きである。

 更識に対する因縁が有る以上、義父がこの話を呑むとは思わなかったが……。

 

「一体……」

 

「それは後の方にも関係していますが、例のデュノア社の一件であの会社が倒産しました」

 

「おい!」

 

 思わず突っ込みを入れる。……その後で大声で詩乃が起きないか心配になって振り向いた姿は結構マヌケだったが。

 

「それが原因でフランスの警察の査察が入ったそうです。その際、IS学園に娘さんを女装させてスパイ行為を行なわせた事や……その、言いにくいのですが」

 

 添付してあるシャルロットの写真を指差し、

 

「彼女の母親……社長の愛人であった女性への殺人も社長夫妻の罪状の中に含まれていたそうです」

 

「そうか」

 

 予想していた事であり、飽く迄他人事であるが、シャルロット・デュノアの母の命を奪ったのは直接ではないと言う可能性が有るとは言え、実父が関わっているかもしれないと言うのは彼女にとって辛いだろう。

 

「ええ、社長夫婦の逮捕と本社の破壊……フランス政府の動きも早く、倒産に追い込まれた結果……ラファールの製造施設と製造権がDEMに譲られました」

 

「は?」

 

「その結果の交換条件が新型の第三世代機の開発だそうです」

 

 よほどフランスも切羽詰っているのだろう。一応海外企業であるDEMに縋ってでも第三世代機を開発したいと言う事は。

 

「第三世代機ね……それって」

 

「一応、企業代表の専用機と言う扱いでも良いそうです。そして、シャルロット・デュノアのスパイ未遂はフランス支社の企業代表と言う扱いで有る限り」

 

「見逃してもらえるって所か」

 

「そうなりますね」

 

 つまりはシャルロットの身柄とラファールの製造ラインの譲渡と引き換えにフランス初の第三世代機を作り上げる事を引き受けたらしい。

 

「なるほどな、日本の代表候補生の専用機の権利の譲渡は……」

 

「フランスの国家代表になるであろう者に対抗する為、と言う事になりますね」

 

 世界に先駆け量産型νガンダムと言う量産型の第三世代機の開発に成功し、従来とは全く違うアプローチ……操縦者のためのワンオフ型専用機と言う思想の元で完成した第三世代機は、その高い性能を世界に知らしめた。

 

 IS発祥の地である日本のIS技術は世界トップと証明した……と言いたい所だが、実際の所DEMは根本的に日本政府……一部の古参の政治家とは仲が悪い。その原因となったのが更識家の現当主よりも二代前の当主が原因なのだが……。その当てつけの様に海外にはしている技術提供も日本には行なっていない。

 

 序でに千冬に無理を言われて四季用に用意した機体は欠陥品と言われ使われる事無く白式の修理の為に使われ、デモンストレーションでは自社製品の打鉄を量産型νに負かされた倉持研としてはメンツを潰されたところに、今回半ば無理矢理政府からの命令で打鉄・弐式の開発権をDEMに譲渡されてしまった。倉持としては面白くない事この上ないだろう。

 

 政府としては、日本代表候補生の専用機開発元として倉持に見切りをつけ、改めてDEMに依頼……その事についての報酬については現在交渉中では有るが、正式に引き受けたわけである。

 

「……小規模な改造でトライオンシステムに対応させるか、改めて新型を作るか、のどっちかだろうな」

 

「私もそう思います」

 

 最初からトライオンシステムの方で話を進める予定だが。元々通常ISの強化がトライオンシステムのコンセプトなのだ。

 

「現状で動きが有ったのはその二つですね。機兵の方は人型重機として安定して売れていますし」

 

「その内機兵犯罪なんて起きないと良いけどな……パトロール機兵小隊が警察に作られないと良いけど」

 

「『グランレックス』でも売る心算ですか?」

 

「外見も大事だしな」

 

 呆れたように呟く騎士ガンダムと己がDEMを受け継いだ頃の未来の商売をイメージする四季の図。四季がDEMを受け継いだ場合、間違いなく詩乃さんが社長秘書に採用されるだろう。

 

「それでは、私はこれで失礼します。貴方が起きた事を皆に知らせなければならないので」

 

 そう言って一礼して騎士ガンダムは医務室を後にする。

 

『しかし、ロードナイトモンとクレニアムモンまで此方に来るとはな』

 

 騎士ガンダムが立ち去って言った事を見計らっていたのか、デュナスモンがそう口を開く。

 

「……そう言えばデュナスモン、ロードナイトモンは何処に?」

 

『奴なら選ばれし子供の一人が作った擬似的なデジタルワールドの方に居るぞ』

 

「ああ、光子郎が作ったって言う」

 

 ……『泉 光子郎』。知識の紋章に選ばれた選ばれし子供の中の一人。かつてデジタルワールドを太一達と共に旅した四季の仲間兼友人である。……一つ年下の後輩である。

 小規模ながら世界を一つ作り上げた、四季曰く、『『篠ノ之 束』に順ずる天才』と評価している相手である。……将来のDEMへのスカウト対象(重要)。

 

「それに、クレニアムモンって言う奴は……?」

 

『お前の兄をパートナーに選んだ様子だ』

 

「なるほど、一兄がパートナーデジモンを……」

 

 デュナスモンの言葉に四季は納得する。恐らくだが、一夏ならば上手くやっている事だろう……秋八のほうと違って。その後も武者ガンダム達やコマンドガンダム達もお見舞いに来た。

 

「んっ……」

 

 先ほど最後にお見舞いに来たG-アームズの『ガンダイバー』と武者五人衆の『武者仁宇』の二人が出て行った頃に詩乃が目を覚ます。

 

「あっ、目が覚めたか?」

 

 先ほどお見舞いに来てくれたガンダイバーの持ってきてくれたリンゴを剥いている四季と目が合う。

 

「……普通逆じゃないの?」

 

「いや、オレが目を覚ましてた時には詩乃が寝ていたし」

 

 先ほどまで寝顔を見られていた事が恥かしかったのか、毛布で口元まで隠すと恥かしそうな目で睨みながらそう言う彼女に、皮を剥き終わって一口サイズに切って小皿の上に置いたリンゴに爪楊枝を差し出す。

 

「……ありがとう」

 

 二人で仲良くリンゴを食べている二人。顔を真っ赤にしている詩乃は四季の顔をジト目で睨む。そんな様子も四季には『可愛い』と言う感想しか浮かばないが、そんな表情をしている意味を考えると浮かぶ感情は一つだ。

 

「ねぇ、四季……何か言う事は無いの?」

 

 彼女のその言葉に四季は手に取ったリンゴを口の中に放り込むと、

 

「……心配かけてごめん」

 

 そう言って謝る。そもそも、先ほどまで二度に渡って医務室に運び込まれたのだ……心配をかけていないわけがない。寧ろ、それで心配して貰えないのなら本気でショックで一ヶ月くらいは落ち込む。

 

「分かってるなら許してあげる」

 

 そう言って彼女は顔を伏せる。

 

「分かってなら、もう心配かけないで」

 

 弱々しくもはっきりと物言う最愛の少女の言葉に余計に申し訳なさを覚える。

 

「悪いけど、『極力』としか言えない」

 

「それは分かってるわ……けど」

 

「それに、オレだってそうそう何度も運ばれたくないし、心配かけないように気をつける」

 

「……今はそれで許してあげるわよ。でも」

 

 『心配かけたお詫びに買い物に付き合って』と言う彼女に思わず苦笑する。そろそろ臨海学校の時期なので買い物に行く必要も有るだろう。この間の一件で潰れてしまったデートの埋め合わせにも丁度いい。

 

「それで何処に行きたい? どこでも良いよ」

 

 買い物の予定からその日のディナーまでしっかりと準備しておく。当然ながら代金から荷物持ちまで受ける心算ではあるが、

 

 そんな四季の言葉に詩乃は暫く考え込むと……ニヤニヤしながら口を開き、

 

「じゃあ、ラン……」

 

「すみません、其処は勘弁してください」

 

「どこでも良いって言ったじゃん」

 

「あそこは健全な男が入って良い場所じゃないので」

 

 拗ねた様に言う彼女に全面降伏する四季。まあ、本人も冗談だった様子でそんな四季をクスクスと笑っている。彼女にしてみれば心配かけた罰……と言う事なのだろう。

 

 そうして死闘を終えた蒼き勇者は己の戻るべき日常へと戻ったのだった。


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