IS ーインフィニット・ストラトスー 〜英雄束ねし者〜   作:龍牙

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閑話

 IS学園、そこの学園長室で千冬は一つの報告を受けていた。

 

「専用機? 篠ノ之にですか?」

 

 日本国内でISを開発している企業は倉持とDEMだけでなく他にも何社か存在している。ブリュンヒルデたる千冬の専用機『暮桜』を開発した倉持と、世界初の量産型第三世代を開発したDEMが特に有名なだけだ。

 

 政府の指揮の元に、そんな倉持とDEMを除いた他のIS関連企業が共同開発した新型の第三世代機、それを政府から箒の専用機として支給されると言う通達だ。代表候補生でもない箒へ急に用意された専用機。当然ながら通達を受けた学園側……主に千冬や学園長と言った者達は疑問に思う。

 政府側からの説明では、重要人物である篠ノ之束の妹である彼女への自衛手段の支給とある。連絡をしてきた政府からの使者を名乗った男の言葉はそうだった。

 

 突然の政府や複数の企業の動きに疑問には思うが、倉持だけでなくIS関連では後発のDEMの後塵を拝している他の企業としても『新型の第三世代機を開発した』と言う看板は重要なのだろう。例えそれが他の企業との合同であっても、だ。

 何時までも倉持とDEMの後塵を拝して居たくない各企業としては、これを機に念願の第三世代機の開発のノウハウを得て、独自に自社製の第三世代機の開発に成功したいと言う思惑も有るだろう。

 

 付け加えると箒に支給される予定の機体のデータ上のスペックはDEMの代表的な機体であるヴレイブにこそ負けているが、それでも各企業が合同で開発したとされる新型は倉持の第三世代機である白式と黒式に匹敵するスペックが有る。

 

 学園側はその政府からの命令に疑問を抱きつつも、その立場上政府からの命令には逆らえる訳も無く、何より専用機を与えられると言うのはIS乗りにとって一種の名誉でもある。本人の希望も有ってその機体を受理する事になった。

 

(ついに私にも専用機が!)

 

 専用機が手に入る、秋八の隣に立てると言う、そんな歓びを感じながら束に専用機を頼もうと考えていた箒は、姉への連絡も忘れて疑問を抱く事も無く己に専用機が与えられた事実に喜ぶのだった。

 

(これで、私も秋八の隣に立てる! あんな軟弱者に負ける事は無い!)

 

 心の中でそう歓喜の声を上げる箒。自分と四季達との間にある差は“専用機の有無だけ”と考えている訳では無いだろうが、それでも専用機持ち達との間の差が埋まったのだ、嬉しくないはずがない。

 

 だが、“候補”と言うだけに代表候補生は相応の人数が居り、日本国内だけでも代表候補生は相応の人数が居る。その中でも専用機が与えられるのは、代表候補生の中で最も代表に近い立場にある者『次期代表』だけだ。

 新型の機体に対する適正などもあるのだろうが、そんな者達を差し置いて代表候補生ですらない箒に政府から一種の憧れの的である専用機、しかも最新鋭の機体が与えられると言うのは、IS学園に在籍している多くの生徒達から“嫉妬”と言う負の感情を向けられる事になる。(なお、倉持で開発中の候補生の専用機の権利は正式にDEMに譲渡され、対応する為の改良の後に最強機動のコアに生まれ変わるのだった)

 

 なお、専用機が二機ある四季の場合は実力と『企業代表』と言うテストパイロットを兼ねた立場が有る為に周囲から納得されている。本人曰く、DEM製の機体は殆どの機体を真っ先に扱っている。量産機のテストなど最たる例だ。

 一夏と秋八の場合はもっと単純な理由……一種の『モルモット』と言った所だ。付け加えるならば、織斑千冬の弟と言う事も味方している。

 

 そんな箒の様子と今後に不安を覚えつつも、千冬は先日の友人との会話を思い起こす。……束の行動よりも先に動いた何者かによって、一人残らず皆殺しにされていたドイツに有るVTシステムを研究していた研究所……データは簡単なメモ書きに至るまで完全に破壊されたか、持ち出されていたとある。

 ルーンレックスへの変貌はデータを盗み出し、研究所の人間を皆殺しにした何者かが関係していると考えていいだろう。

 

(うん、これはちょっとちーちゃんには見せられないよね)

 

 辛うじて復元できた端的な映像から、そんな事を束が考えていた事は知らない。……荒い映像に映し出されていた……単眼の影の事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は移り会議室

 

「二度に渡る異常事態、そのどちらも解決に導いたのは五峰くんですか……」

 

「……はい」

 

 その部屋の中に居るのは箒への専用機支給についてのやり取りの後、会議室へと移った学園長と千冬を含む学園の教師達。

 クラス対抗戦での未確認のISの襲撃やVTシステムの搭載と発動はまだ良い……良くは無いだろうが、IS学園への表立った襲撃や国際的に搭載禁止のシステムの使用等問題が有るのだが、この際その問題は飽く迄《彼等の常識の範囲内の緊急事態》と言ってしまえばそれまでだ。彼等の常識の範囲で対処できる分マシだろう。既に彼等の常識を超えた問題が立て続けに二度も起こっているのだから。

 

 その議題はクラス対抗戦とトーナメントに現れた常識を超えた異常事態……獣騎士ベルガ・ダラスとルーンレックスからそれらを撃退した四季の事に移っていた。

 

 ……序でに警備が厳重の筈のIS学園の屋根裏ではDEMから派遣されたガンダム忍軍の面々がお茶を飲みながら職員会議を覗き見していた。

 畳が敷かれてポットと急須、茶碗が置かれた其処は簡易ながらも一種の休憩所の体を見せていたりする。ガンダム忍軍にとって其処に自由に忍び込む事は造作も無い事なのだろう。

 

 ルーンレックスと獣騎士ベルガ・ダラスの二機を撃破したモード・デュナスとモード・ロードナイトの姿のヴレイブの写真に視線が落ちる。

 既に血の繋がり以外の縁が切れているとは言え、弟が事件の解決に貢献した事は千冬にはどこか誇らしく思える。……二度も非常事態の際に乱入してズタボロに叩きのめされて異常事態では常に気絶している秋八の事はなるべく考えないようにしているが。…………本人の名誉の為に。

 内心で、一夏共々一度徹底的に鍛えなおした方が良いかと思っている。哀れ、完全に一夏は秋八に巻き込まれた形だ。

 

「学園長、やはりDEM社制の機体は異常です。ですから、彼の機体を没収して此方で選んだ操縦者の専用機として活用するべきです」

 

「却下です」

 

 とある教師の一人がそう提案するが即座に却下する。……実は一度データの少ないゼロ炎について報酬も用意して正式に他の操縦者が使った場合のデータの収集の為のヴレイブとの模擬戦を依頼したのだが、『……最悪、死人が出る』と四季に真剣な顔で言われた事が有る。

 そもそも四季が使うことを前提……と言うよりもそれ以外の者が使って戦闘したら内部から焼死しかねないレベルでシビアなのがゼロ炎の根幹となる炎システムだ。白炎の杖を使っているシステムなので神器の制御に熟れた四季ならば十全に引き出せるのだが。

 ……付け加えると、白炎の杖を内蔵しているので洩れなく所有者はスダ・ドアカワールドからやってきたモンスター達に狙われる事になるが、そっちは黙っていたりする。

 

 少なくとも、日本政府としても学園側としても今DEMと敵対する事は避けたいだろう。……未だ量産型νガンダムはまだ何処にも納入されて居ないのだし。

 いや、四季の入学の一件で特例と引き換えに優先的な購入権こそ手に入れているが、その後の整備や修理などの事を考えると購入した後もDEMしか第三世代機の量産型の開発に成功していない以上、DEMとの決別は避けたい所だ。何気に部分的にはヴレイブよりも高性能な所もあるのだし。

 その為に、目の前に居る教師を物理的、社会的に切り捨てる事と天秤にかけた結果、どちらを選ぶかといわれれば間違いなく、目の前の教師を切り捨てるほうを選ぶだろう。

 

 なお、この三年生のあるクラスの担任教師は元日本代表であったが、思想にも問題が有り世界レベルでは中の下程度の実力しかなく、彼女よりも前に輝かしい成績を残した初代ブリュンヒルデとなった千冬と現役時代から比べられた結果、ろくな結果も出せずに引退して行った過去が有る。

 IS学園に於いて千冬を敵視している『彼女の戦跡は親友である束が対戦相手のコアに細工をした結果だ』等と言う噂を千冬に対する妬みから強く信じ込んでいる少数派の人間でもある。

 

 先ほどの発言も、四季からヴレイブとゼロ炎を取り上げて自分の言う事を聞く生徒に使わせ、彼女等を使って学園内での己の発言力を高めようと考えての発言なのだから、愚かと言う他にない。当の千冬には特に相手にされていないし。

 

 ……『千冬や束に敵意を持っている女尊男卑の思想を持った女』と言う稀有な例では有るが、それに巻き込まれた四季としては迷惑な話である。……もっとも、ISと言う者の恩恵を受けて居るくせにそれを作った束にまで敵意を向けている事は四季にとって普通の女尊男卑の思想を持った女よりも嫌悪する相手では有るが。

 その教師の子飼いの生徒達にとっても幸運な事に少数派である事、千冬の発言力が強い事からヴレイブとゼロ炎が彼女達の棺桶にならずに済んだのでは有るが。

 

 そもそも、幾らIS学園とは言え、数少ないISコアと各国及び各企業の最先端技術の結晶である専用機の没収と他者への譲渡など一教師の権限で出来るわけがない。少なくとも、各国及び各企業がそんな前例など認めるわけがない。

 IS学園が世界的に中立とは言え、日本にある事に変わりなく……その教師・生徒の大多数は日本国籍の者だ。そんな中で一教師が勝手に専用機を没収及び他の生徒への譲渡等してしまったら……他の国がどんな反応するかは想像するのは容易い。

 下手をすれば『日本が他国の専用機を強奪した』等と言い掛かりをつけられかねない。

 

「そもそも、専用機持ちの生徒から専用機を取り上げて、他の生徒に使わせるなんて……対外的にどう説明する気ですか?」

 

「で、ですが、これまでの異常事態に対して、彼は冷静過ぎます! あいつ……いえ、DEMはあの異常事態に対して何らかの情報を握っている筈です!」

 

 先ほどの教師が尚も言葉を続ける。現れた後の対応に関してはルーンレックスのことも獣騎士ベルガ・ダラスの事も四季は最初から知っていた。加えて、クラス代表戦に乱入してきた新たな無人機であるシャッフルガンダムについてもだ。

 

「だとすれば、あの二機にはあの異常事態に対する何らかの対処方法を持っているはずです! それを調べるためにも……」

 

「ですが、別の異常も一夏君の専用機にも出ていますが、其方はどう対処するのですか?」

 

 白式に出た異常……間違いなくルーンレックスの攻撃を防いだ盾の事だろう。本来ならば雪片以外は武装が装備できないはずの白式に表れた新たな武装。それの出現と同時に一時的に修復された機体……十分に異常と言う事態が白式にも起こっている。結果的にそれによってルーンレックスの撃破に繋がったのだが、その後の調査でも白式は以前と変わりなく、何一つ異常が見られなかった。

 

 今後の異常事態に対する対応策を纏めると議題は次に移る。精々幻夢界に飲み込まれないように複数人による遠距離からの攻撃以外に対応策は出なかったが。

 ……獣騎士ベルガ・ダラスもルーンレックスも彼等の理解を超えた所にある相手である以上、敵をISの範囲で考えている限り、まともに対応するなど出来るはずも無いが……。

 

「それでは、次に秋八君への罰則ですが……」

 

 その言葉に周囲の教師達全員から呆れの感情の篭った溜息が零れる。どうも、秋八の醜態については思想に関係なく《呆れ》の感情が浮かんでいるのだろう。……唯一の例外である千冬も頭痛を堪えるように頭を抱えていた。

 

 緊急事態での勝手な行動……許可無くアリーナに飛び込んだ事。

 ……まあ手柄を上げていれば僅かながらの弁護の声も上がったのだろうが、その上二回とも一方的に叩きのめされて何も出来ずに終ったのだから、周囲の感情としては『何しに出てきたんだ、あいつ?』と言ったところだろう。……それでも一時的な時間稼ぎ程度にはなったのだろうが。

 そんな訳で秋八の罰則は臨海学校までの間のISの使用禁止と反省文30枚と決まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……くそっ! 僕が罰則だって! なんで僕がそんな物を受けなきゃならないんだ!!!)

 

 自室の中で今回の事に関する処分で心の中で苛立ちを覚えている秋八の姿があった。それでも近くに箒の存在が有る為に何時もの爽やかな笑顔を崩さずに居たが。

 

(VTシステム程度が相手なら勝てるはずだったのに……本当に、本当に役立たずだな、こいつは!)

 

 使用禁止のための封印をつけられている待機状態のガントレットの形の黒式へと理不尽な怒りを向ける。

 

 今回のVTシステムの暴走及びルーンレックスへと変貌した一件、この事件でも秋八は飛び出して言ったのは良いが、何も出来ずにやられただけだった。

 VTシステムもルーンレックスも結局は四季と一夏によって対処された。ルーンレックスを倒したのは四季だったが、一夏もまたルーンレックスの片腕を切り落とし、四季の危機を救うなどの活躍をしてみせた。……秋八だけが無様な姿を曝しただけの役立たずに終った。その現状を正しく理解してしまったからこそ、秋八は理不尽な怒りを己の専用機へと向けていた。

 

 他人の眼さえなければ苛立ちで叩きつけてやりたいと思っているが、流石に人目が有るのでそれは出来ない。

 

「何故、秋八がそんな物を受けなければならないんだ!」

 

 目の前に居る箒が本人並に激昂している為に怒りが鎮火しているのも、彼が何時もの表情を苛立ちながらも浮べられているのもある。

 

(ああ、その通りだ! ぼくがあいつ等を始末していれば、こんな惨めな思いはしなくても済んだって言うのに)

 

 心の中ではそんな悪態を吐きつつも、表には出さずに言葉を続ける。

 

「いや、仕方ないよ、ぼくが勝手に乱入したって言うのは事実だしね」

 

 心の中で悪態を吐きながらも何時もの爽やかな笑みを浮かべ、書き上げた反省文を纏めている。態々難しい言い回しをして文字数を稼ぐと言う手を使いサッサと書き上げた反省文に反省の色が有るかは微妙である上、当の本人は何一つ反省などしていない。

 

「それに、今度箒にも専用機が政府から支給されたって言うしね、今度は一緒に戦おう」

 

「あ、ああ!」

 

 内心で『予定(第四世代機の紅椿)とは違うけど、上手く利用できる』と思いながら微笑みこみで告げられる言葉に嬉しそうに返す箒。

 

「それで、その専用機って言うのはどんな機体なのか分かるのかな?」

 

「ああ、『紅揚羽』と言う名前で」

 

 政府から渡された専用機のデータ……それを嬉しそうに秋八に見せる箒。説明されても分からない事が多かった箒だが、秋八は軽く資料に眼を通しただけで理解していく。

 

 蝶の翼のようなパーツを持った紅いIS『紅揚羽』。それを見ながら『刀ではなくて槍なのが不満だ』等当人の感想を聞き流しながらスペックを眺めて笑みを浮かべる秋八だった。

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