「ぱ、ぱられるわーるどぉ?なんだそりゃ?」
リーファの発言の突拍子のなさと、その言葉の意味がイマイチ掴めず、上条の頭の中は軽く混乱していた
「・・・なるほど…確かにまずあり得ないとは思うが…可能性としては捨てきれないな…」
「へ?」
「そうだね…むしろそう言ってくれた方がしっくり来るかも…」
「そうですね…そもそも上やんさんという存在が異質とも言えますし…」
「え、えっ?ちょっ、みんな並行世界ってなんのことか分かってんのか?」
自分だけが周りの空気からズレていると分かると、上条はみんなに並行世界とは何なのかと疑問を投げた
「え、えーっと…なんて言えばいいのかな…並行世界っていうのはつまり…あたしたちが今生きている現実の世界とは別の『あり得たかもしれないもう一つの世界』のことを言うの」
「・・・どゆこと?」
今度はいきなり話のスケールが世界単位になったということもあり、リーファに説明されても上条はその言葉の意味を理解できず、そのイメージが全く掴めていなかった
「つまりこういうことだ上やん。君は今、ある山道を歩いていてるとしよう。やがてその歩いている道が『右と左』の二手に分かれたとする。そうなったら上やんはどっちを選ぶ?」
「あ?世界がなんだのって言い出した後になんだって急にそんな心理テストみたいなこと…」
「いいから。右か左どっちだ?」
「ん〜…右…かな?」
「よし、今上やんは右を選んだ。だけどここで一旦時間を巻き戻してみよう。もし仮に、二手に分かれた道の左を選んでいたらどうなる?」
「どうなるって…そりゃそん時は左に進むんじゃねーの?……あっ!?」
「察しがついたみたいだな。そう、つまり並行世界ってのはまず、世界が一つしかないと捉えているとそこから抜け出せないんだ。でも、自分や世界のみんながありとあらゆる生活を送る中で、ありとあらゆる選択や行動によって世界が変わっていき、同じ時間の流れの中に複数の枝分かれした世界が存在してるって考えることもできる」
「そのいくつにも分かれた世界…こうなってればこういう世界ができた。こういう世界もあったかもしれない。そういった複数あるかもしれない世界の一つ一つが…」
「『並行世界』…ってことか…」
「その通り」
「今の私たちに置き換えるなら、学園都市という街が『ある世界』と『ない世界』。SAOで生き残った『全員が生還した世界』と『上やんさんを含めた2人だけが生還した世界』というように分類できます 」
「付け加えると、SAOをプレイしていたプレイヤーのみんなもそれぞれの世界の人になっていると思っていいな。俺たちのSAOに上やんやミコトさんがいなくて、上やんのSAOには俺たちがいなかった。…まぁ創始者の茅場みたいな例外はいるけどな」
「なるほど…確かにリーファが言った『あり得たかもしれないもう一つの世界』っていう表現がしっくりくるな」
「まぁ…普通はそんなのあり得ない話だから言い渋ったんだけどね。だってこの並行世界の話を信じるってことになると、あたしたちにとって上やん君は宇宙人も同然だよ?」
「う、宇宙人て…別の世界ってだけで同じ地球人だろ?」
「だが、平行世界ってのは別に地球だけじゃない。時間の流れが同じってだけで地球の周りの宇宙全体が違う過去を辿っていて、違う未来をこれから歩むと言ってもいい」
「・・・つまり何か?上やんさんたちの現状はさしてそういうSF系の映画と大差ないと?」
「大差ないっていうか…もはやそんなあり得ないことが起こってる時点で映画に間違いないと思う」
「・・・マジか…今まで何回もあり得ないことにぶつかって大半のことじゃ驚かないつもりでいたが…今回の件は流石に開いた口が塞がらないな…」
並行世界というとんでもないスケールの話に、今まで学園都市で壮絶な日々を過ごしてきた上条でさえも今回の話には驚愕の色を隠せなかった。しかし、間髪入れずにアスナが新たに話題を切り出した
「でも、仮に私たちの生きている世界が並行世界だとしたら、完全に別の世界に生きていることになるわけでしょ?だったらどうして私たちはそもそもこのALOで出会ったの?」
「おそらく…本来枝分かれしているはずの私たちの世界において、偶然にも共通して存在する『ALOという仮想世界』に上やんさんだけが迷い込んでしまう形で繋がったのだと思います」
「それは…私たちの二つの世界はALOだけ繋がっているってことなの?ユイちゃん」
「断定はできませんが…上やんさんの現実世界にはきちんと『上やんさんの世界のALO』があるのだと推測されます。しかしどういう訳か上やんさんだけは『私たちの世界のALO』にログインしてしまった…ということだと思います」
「・・・でも、その原因はわからない…と?」
「そうですね…申し訳ないですが…」
上条にそう聞かれるとユイは本来自分の役目であるサポートを十分にこなせなかったからか、シュンと落ち込んでしまった
「あーいや、気にしないでくれ。むしろここまで分かっただけでもかなり助かった。ありがとうな」
「まぁそもそも住んでる現実世界が違うのにどうやってこっちのALOに迷い込むのかって話だからね…」
「でも言ってしまえば、今までのは全部確証がある話じゃない。どこまでいっても机上の空論だ」
「なに、気にすんなよキリト。それに、何も分からなくても俺のやることは何一つとして変わらないさ」
そういうと上条は店の窓から、天へと向かってそびえ立つこの世界の中心の樹木へと目を向けた
「世界樹に目が覚めない人たちを救う鍵があるかもしれないから世界樹を目指すって言ってたけど…本当にあの上にそんなものがあるの?だってそもそもここは上やん君の世界のALOじゃないんだよ?上やん君が探してる鍵があるとするなら、それは上やん君の世界の方のALOなんじゃないの?」
「普通に考えたらそうかもな…だけど、今の俺にとっちゃこのALOが全てなんだ。それに、あの上にはまだ誰も辿り着いてないんだろう?だったらそれこそ何があるか分かんねぇじゃねぇか。何があるか分かんねぇからこそ確かめに行くんだ。実際に行って確かめるまで、みんながそこに絶対いないってまだ言い切れないはずだ。その証拠に、何も分からないままこの世界に迷い込んじまった俺がここにいる」
「そ、そりゃそうかもしれないけど…」
「だから俺、行くよ。なんで俺だけが目覚めて、なんで俺だけがこの世界に迷い込んだのか、真実はなんなのか。みんなを救う鍵はどこにあるのか、あの樹の上に行けば全部…何もかも分かるはずだ」
そう言うと、上条は一人席を立ち、店の出口に向かって歩き始めた
「ちょ、ちょっと!ほ、本当に行くつもりなの!?一人じゃ無理だってあれほど言ったじゃない!」
「止めないでくれリーファ。無理かもしれなくても行かなくちゃいけないんだ。じゃなきゃ、俺は何も分からないままだし、誰も救えないままだ。そんなのは…もうたくさんだ…」
「上やん…君…」
「だから、ここから先は俺一人で行く。誰かをこれ以上巻き込む訳にはいかないし、みんなはもうこの世界に来た目的を果たしたんだ。手伝ってくれる義理はない。短い間だったけど力になってくれてありがとう。この恩はいつか必ず…」
「なに勘違いしてるんだよ、上やん」
「・・・へ?」
キリトが不意に上やんの言葉を遮った