「・・・え?」
「やっほー!かーみやん!」
「遅いぞ、上条当麻」
「土御門!?それにステイルも!?」
客室の扉を開けて最初に目についたのは、入った扉に丁度向かいになる椅子に腰掛けたステイル=マグヌスと土御門元春だった
「なんだよ土御門!イギリスから来るなら前もってそう言ってくれよ!ステイルもいるならなおさらだぜ!」
「勘違いしないでもらえるかな、僕は別に君と日和に来たわけじゃない」
「おーっと、一番のメインを忘れてもらっちゃ困るぜい上やん」
「へ?一番のメイン?」
「彼女だ。忘れたとは言わせないぞ」
「・・・・・」
「彼女…って…」
椅子の配置の関係で、客室の扉に背を向けている椅子に腰掛けており、客室に入ってからその場に立ちっぱなしだった上条からはずっと顔が見えなかった人物が一人いた。その人物は女性だった。上条が片時も忘れることはなかった純白の修道服に身を包んだ少女…
「久しぶり、とうま。2年ぶりだね」
「インデッ…クス…?」
「えへへ、どう!?流石に2年も経てば少しは大人の女性としての色香も出たと思うんだよ!」
そう言って元から大してない胸を張る彼女はその頭に10万3000冊の魔道書を記憶した「禁書目録」だった。もっとも、2年もの歳月が流れたが故に身長もいくらか伸び、引きずって歩いているように見えた修道服のサイズも丁度良くなり、どこか大人びた雰囲気を纏っていた
「その喋り方!本当にインデックスじゃねーか!久しぶりだな!いやー全然変わってねーな!会えて嬉しいよ!」
「会えて嬉しいのは本当なんだけど全然変わってないって言われるのは嬉しくないかも!」
「ははは、悪い悪い」
「全く。でもそう言う手前、とうまはこの2年間でかなり変わったかも」
「え?俺が変わったって?まぁそりゃ少しは背も伸びたし、寝たきりだったとはいえ成長期なんだから二つも歳とりゃそりゃ少しぐらいは顔つきも…」
「そういうことじゃないんだよ」
「へ?」
「彼女が言いたいのは君のその『面構え』について言ってるんだ。正直二年前も褒められたものじゃなかったが、ことさら酷い面構えだぞ、今の貴様は」
ステイルが上条とインデックスの会話にそう口を挟んだ
「そうか…まぁ…そう言われりゃ…ってか…そりゃそうだよな…」
「・・・とうま…」
そんなステイルの指摘に自分自身で自覚しているのか、加えて思うところがあるのか、必要以上に重く受け止めてしまう上条。そんな上条の顔を心配そうにインデックスが覗きこんでいた
「さて、立ち話もその辺にしよう。とりあえずインデックスが座ってた椅子の横に座れ上やん。今日は別に再会を促す為にわざわざ日本まで飛行機を飛ばした訳じゃない」
「え?あ、ああ…分かった」
そう言ってインデックスは土御門とステイルと机を隔てて逆側に置かれた元の椅子に座り直し、上条はその隣の椅子へと腰掛けたのを見ると、土御門がおもむろに口を開いて話し始めた
「さて、早速本題になるが上やん、俺たちも今の現状は把握出来ている。あのデスゲームと化したSAOがクリアされたのにも関わらず、その時点でゲームをプレイしていた人のほぼ全てが目を覚ましていないこともな」
「だが事態はそれだけに収まったことじゃない。貴様も話の片手間ぐらいには聞いたかもしれないが、学園都市統括理事長であり今回のSAO事件の真の首謀者であるアレイスターがあの『窓のないビル』で既に死亡していた。彼自身もまた一般のプレイヤーと同じようにゲームオーバーになれば現実でも命を落とすという条件の下にSAOにログインしていたと見て間違いないだろう」
土御門に続いてステイルも状況の説明に口を開いた
「お陰様で科学サイドと魔術サイドの勢力図はごちゃごちゃだ。あのイギリスの片田舎で死んだはずアレイスターが生きていたという事実に驚くのも束の間、科学サイドという最大の邪魔者がなくなったのをいい事に魔術サイドでは壮絶な覇権争いが始まった。こうして今日ここに来るまでも俺たちの予定は多忙を極めていた。インデックスの10万3000冊を求めて魔術教会同士の抗争が起こることもしばしばだ。事態は俺たちが考える以上に混沌を極めている」
「・・・・・」
そんな土御門とステイルの話を黙って聞き入る上条。確かにアレイスターが死亡したという事実は自分が目覚めてから数日後には知っていたが、それをもって魔術サイドにも大きく影響していたとは想像もしていなかった
「ところが、その超多忙な予定に穴を開けてまで僕達が君の所に来たのには理由がある」
「・・・俺にその覇権争いの手助けをしろってか?」
ステイルの言う「理由」というのがなんなのかに予想を立て、上条はそんな疑問を投げかけた
「自惚れるな。確かに君の右手は僕達魔術師にとっては脅威だが二年間も寝たきりで身体も鈍りきったド素人を仲間に引き入れるほど僕らも見境いがない訳じゃない」
「そ、それじゃあ一体何のために?」
「これを見てくれ、上やん」
そう言って土御門は二人の間に置かれた机の上に何かを出し、それを滑らせるように上条に投げ渡した
「これは…ゲームのソフトか?」
「『アミュスフィア』…ナーヴギアの正式な後継機でフルダイブ機能に対応したゲームハードであり、ソイツはそのゲームのソフトだ」
「つまり…SAOと同じVRMMOか?」
そう言うと上条は渡されたソフトを手に取り、その目でじっと見つめ始めた
「アルフ…ヘイム…オンライン?」
「『アルヴヘイム・オンライン』と読むらしい。通称『ALO』と呼ばれていて『妖精の国』という意味らしい。コイツはSAO事件が起きて丁度1年が経過した頃に発売したソフトだ」
「・・・妖精の国…ってことはまったり系のゲームか?」
「いいや、これが中々ハードなゲームで、プレイヤー同士の直接戦闘であるPvPが基本…もといPK推奨が前面に打ち出されているVRMMOだそうだ」
「PKか…SAOじゃまずあり得ない話だな…」
「プレイヤーは最初に9つの種族から1つの種族を選んでアバターを作る。そしてその同じ種族を選んだ他のプレイヤーと協力して別の種族と戦い、このALOの世界の中心にそびえ立つ『世界樹』の頂点を目指す…というゲームらしい」
「なるほど…種族間抗争を進んでやってもらう為のPvP、もといPK推奨ゲームって訳か」
「だがこのゲームのハードなところはそれだけじゃない。SAOのようなソードスキルは存在しないどころか、いわゆる『レベル』という概念が存在しない。各種スキルが反復使用によってその能力が上昇するだけで、HPは成長しても大して上がらない。攻撃力と防御力の大半は装備に依存し戦闘はプレイヤーの運動能力に委ねられる」
「そ、そいつぁハードだな…ソードスキルを発動すればシステムアシストで身体が勝手に動いてくれるSAOとは雲泥の差もいいとこだ…」
「それに加え、このゲームには今までにない機能がある。それがこのALOを一躍大人気ゲームに押し上げたんだ。その機能こそが『飛行』機能だ」
「飛行!?飛べんのか!?」
「妖精だから翅がある。『フライトエンジン』なるものを搭載しているようでな、慣れると自由に空を飛び回れるようになるらしい」
「そりゃまたすごいな…ぜひSAO時代に欲しかった機能だ…さぞ戦闘に幅が生まれただろうな…」
「で、ここからがこのゲームをわざわざ見せた本題なんだが、いいか?」
そう言うと、土御門の周りを覆う空気が変わり、サングラスの奥に見える瞳に鋭さが宿る
「・・・おう」
「このゲームのプログラムの基盤になっているのは、SAOサーバーのコピーであり、それに加えてSAOと同じ『カーディナルシステム』を採用している」
「!!!!!」
「基幹プログラム群やグラフィック形式は完全に同一だ。ただ、カーディナルに関しては少し古い。それでもこのゲームがSAOサーバーのコピーであることは明確だ」
「・・・・・」
「これだけでもSAOと関連づけるには十分だと上やんは感じるだろうが、俺たちが着目したところはそこだけじゃない」
「そこだけじゃない?」
「このALOにはソードスキルがないと言ったが、ALOにはSAOにないスキル項目がある」
「そのスキルってのは何だ?」
「・・・『魔術』」
「なっ!?!?」
「厳密に言えばゲーム内では『魔法』と呼ばれているらしいが、どうやらこの魔法には発動時に呪文…つまりは『スペル』を唱えなければならないらしい」
「・・・・・」
「その魔法と呪文が、俺たち現実の魔術師が扱う魔術と似通っている点が多く存在することが分かった」
「現実の魔術と…同じ…?」
「ああ、それに気づいたのは…実はそこにいるインデックスなんだ」
そう言うと土御門は上条から目線を切り、彼の隣に座るインデックスの方に視線を運ばせた
「い、インデックスが!?ってかお前ゲームなんて…!」
「私も一度見てみたかったの。とうまの目が覚めたって聞いた時に、二年間もとうまは一体どんな世界で過ごしてたんだろうって。それでかおりに一杯頼んでやっとのことで1ヶ月くらい前からALOを始めたら…もうビックリしたんだよ!私の中にある10万3000冊の中を探せばいくらでも出てくるようなスペルがいっぱい!これは絶対おかしいって思ってかおりに相談したら、もとはるが色々と調べてくれたんだよ!」
「そうしてねーちんから報告を受けてこのゲームを調べていくうちにその2つの共通項が見つかったって訳だ。SAOと同じサーバーとシステム基盤に、SAOを作ったアレイスターが使いこなしていた魔術…これだけでも上やんにこの事態を伝えるには十分だと踏んだ俺たちは日本に飛んできた…って訳だ」
「まぁ、最終的に日本行きが決定したのは彼女の熱烈なまでの頼み込みがあったからだ。教会のメンツも頭を抱え込むほどにな。精々後で彼女に礼でも言うことだな」
そう言うとステイルはタバコに火をつけ、タバコをその口に咥えその味を嗜み始めた
「・・・つまり、このゲームに隠されてる何かを解決すれば、SAOがクリアされても目を覚まさないアイツらが目を覚ますかもしれないってことなんだな?」
「まぁ、その手がかりがあるとすれば恐らくこの世界樹の頂点だ。さっきも言ったがこのゲームはもう発売してから1年以上が経過してる。大半のエリアはもう明らかになっているが、この世界樹の上だけはまだ明らかになってない」
そう言って土御門はソフトのパッケージの裏面に書かれている世界樹を指差して言った
「それに、SAO生還者を救えるという『可能性』があるってだけだ…確証は持てない」
「・・・それでも…やるだけの価値はある…ようやく見つけたこれだけがたった一つの手がかりなんだ…それならそれに縋り付いてやるさ」
「・・・上やん…」
「土御門、このソフトもらっていいか?」
上条は机に置かれたソフトを再び右手に取り、目の前の土御門にALOのソフトを譲ってもらえないかと頼んだ
「それは俺じゃなくて隣のインデックスに聞いてくれ、そのソフトは元々俺じゃなくインデックスの物なんだ」
「え、インデックスの…?」
「そりゃそうだろう。バカなのか君は?元は彼女が君の後を追って始めたゲームで気づいたおかげでここまで議論が進んだんだ。話を聞いていればそれぐらい分かるだろう、それとも僕達がそんなゲームに本気で興味を持つとでも思ったのか?」
「そ、それもそうか…」
「あれー?いつだったかインデックスがゲームを始めたちょっと後ぐらいに必要悪の教会のメンバー共有の新聞に付属してた電化製品のカタログに目を通してアミュスフィアが掲載されてるページに折り目をつけてたのはどこの誰だったかにゃー?」
「つっ!?土御門!なぜ貴様がそれを…!?」
そんな風にステイルをからかう土御門と顔を赤くするステイルを他所に上条はインデックスの方に向き直り、真っ直ぐな瞳で見つめて口を開いた
「・・・インデックス、お前さえよければこのソフトを譲ってくれないか?俺は目を覚ましてからずっと…こんな機会を探し求めていたんだ…藁にもすがる思いでずっとアイツらとまた笑う日々を求めてたんだ…だから…俺はどうしても…」
「いいよ」
「・・・へ?」
「うん、いいよ。そのソフトはとうまが持って行って」
上条が並々ならぬ決意を語るのを他所に、インデックスは何とでもないというような口調でそう言いながらソフトを持つ上条の手に自分の手を重ねた
「い、いいのかよそんな簡単に…これ言ってもそんな安くねぇんだろ?そりゃ俺としても嬉しい話なんだが…お前だってこのゲームやってたんだろ?だったら…」
「ううん、いいの。私はシスターなんだよ。迷える子羊がいるなら、導いてあげるのが私たちの役目。それに、私そのゲーム始めたのはいいんだけど全然得意じゃなくてもう数えきれないぐらい他の人にやられちゃったんだよ」
「ま、まぁそれはなんとなく想像つくが…」
「それはそれで失礼かも!」
「す、スマン!」
「ごほん!でもね、とうま。これを私から貰うなら一つだけ約束して?」
「約束?なんだ?」
「絶対に短髪や他のみんなを助けてあげること!!!」
「!!!!!」
「確かにとうまが寝たきりになって離れ離れになった時、私もすっごく辛かったんだよ。でも、だからこそとうまの今の辛さが私には分かる。私は待つことしか出来なかったんだよ。でも、とうまはそれじゃダメ。そこに一筋でも希望があるなら、必ずそれを掴み取って。とうまはあの世界でたくさんの人に助けてもらったはずなんだよ。だったら話は簡単。今度はとうまがみんなを助けてあげる番。だから、頑張って。とうま」
瞳の奥に暖かさを秘めて上条に優しく語りかけるインデックス。そんな彼女からの言葉と信頼を受け、上条の胸の内にはとても暖かく、煌々と燃える決意の火が灯されていた
「・・・ありがとうインデックス。約束する。俺は必ずみんなを助ける。そしたらいつかみんなで集まって美味い飯でも食べよう」
「うん!約束だよとうま!指切りげんまん!」
「おう!任せろ!」
そう言って二人はお互いの右手の小指を差し出し、その指を繋いだ
「「ゆーびきりげーんまん嘘ついたら針千本のーます!指切った!」」
しかし、その瞬間悲劇は起きた
「あ」
上条とインデックスは指切りの際に少々腕を大きく振りすぎていた。それはテンションが上がってしまった為まぁ仕方のないことかもしれない。しかし、それはインデックスの身を包む修道服の無駄に広い袖も大きく揺れるということ。その修道服の裾が上条の右手に触れれば当然…
バッサアアアアアァァァァァ!!!
「歩く教会」は破裂する
「きゃああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」
「のわああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」
「とうまの…バカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ガブガブガブガブ!!!!!
「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!不幸だあああああああああ!!!!!」