「みこ・・・と……?」
「やっほ、久しぶり。元気してた?」
ドアを開けた先にいた彼女、御坂美琴はそんな軽い挨拶をして上条に手を振った。そしてその当の上条は彼女の出現に呆気に取られ、まるで亡霊でも見るかのような目で彼女を見つめていた
「そんな…そんなハズあるか!だって…だって今お前は…!」
ガシッ!!
「あ」
ビキビキビキビキッ!!!
「!?!?!?なっ!?」
「あーあ、こんな簡単にバレちまうとは…やっぱその右手の前じゃこんな術式はカモフラージュにもならねぇか」
驚愕する上条が思わず乱暴に美琴の肩へと両手で掴みかかると、彼の右手が触れた彼女の左肩から音を立てて彼女の身体にヒビが入った
「お前!美琴じゃないな!誰だ!?」
「やれやれ、結局こうなるのか…まぁ致し方ないか…」
すると御坂美琴という幻想の殻が粉々に砕け散り、その内側から長い金髪に白い肌の、女性的な印象を持つ少年が全身をさらけ出した
「一先ずは『雷神 トール』…とでも自己紹介しておこうかね…」
「雷神…トール…」
トールと名乗る少年は、黄色と黒を基調にしたピッタリとした上着とズボンを着用し、肩には黒のストールを巻いていおり、どこか飄々とした風貌の男だった
「・・・で?その雷神様が一体俺に何の用だ?」
「まぁまぁ一旦そういう話は置いとけって…ところでどうだい?一瞬とはいえ焦がれ続けたみこっちゃんの顔が見れて嬉しかったかい?」
「ッ!!テメッ…!!」
「おっと」
ブンッ!!バシッ!!
トールの言葉にブチ切れた上条は我を忘れ、怒りのままにトールの顔面を右拳で殴ろうとしたが、あっさりとトールの掌で掴まれてしまった
「チィッ…!!」
「おいおい、そうカッカすんなよ。こっちは何も戦争しに来たわけじゃないんだ」
「・・・もう一度だけ聞く。何が目的だ?」
「やれやれ、まぁとりあえず一旦落ち着いて冷静になれって上条ちゃん。ほら、右手も離すから」
パッ…ストン…
「そら、立ち話ってのもなんだろう。そこまで俺の用件が聞きたいなら付いて来いよ」
「・・・望むところだ」
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「・・・何これ?」
一旦宿を出た上条当麻は今、ルグルーの街中にあるハンバーガーショップで遅めの夕食にありついていた。そのこと自体にはさして問題はないのだろう。なぜならキリト達がログアウトした後、自身のこれからの過ごし方の計画の一つに夕食は真っ先に出てきたからだ。しかし、問題になっているのは…
「何って新発売のサルサバーガーセットだぜ?…うえっ、個性を強く出そうとし過ぎて味がメチャクチャ濃いなこれ。ていうか辛い!!なんだかんだでベストセラーのラージバーガーがなくならない理由が良く分かる」
「そうじゃないよ馬鹿じゃないの!?さっきの一触即発の雰囲気はどこにいったの!?あの雰囲気からして俺達っ!超っ!!て・き・ど・う・し!!サシで顔合わせてのんびりご飯食べている構図がおかし過ぎるっ!!!」
「いや、一触即発ってのは正しくないだろ。上条ちゃんが殴ってきた時点でもうそりゃ一触即発の空気打ち破ってケンカに突入してんだよ」
「んな細けぇこたぁどうだっていいんだよ!」
そう、問題となっているのは先ほどまで宿屋でいがみ合っていた雷神トールとこうして2人でハンバーガーを食べているというこの構図そのものである
「なんだなんだ。ちょっと話をしようぜってのがそんなにおかしいかよ?それともアレか?俺がみこっちゃんに化けて出てきたのがそんなに許せなかったのか?もっと背丈が小さくてしかも巨乳の保護欲丸出しの女の子だったらあのまま自室のベッドに押し倒して熱い一夜を過ごしてたかい?」
「舐めているのかね?」
「だからそうならねぇように配慮したんじゃねぇか。わざわざお前の最もよく知る女の子の一人に姿を変えてよ」
「あれ、どういう理屈なわけ?」
「魔術について詳しく語ったって理解できねぇだろ。まぁあれだ。北欧神話じゃ自分の武器を奪われた雷神が、盗人をおびき出すために美貌の女神フレイヤに化けるっつー話があってな。そこらへんの伝承を基に変装術式を組み上げたってわけだ。その関係で女の子にしかなれねぇがな」
「それで美琴に化けた訳か」
「まぁ上条ちゃんの幻想殺しに触れた瞬間に一発でおじゃんになったけど」
「・・・で?俺に対する用件ってのは一体なんだ?」
「ん?ああ、そうだそうだった」
するとトールは手に持ったハンバーガーを包み紙に丁寧に包み直し、お盆の上に置くと、喉を鳴らし真剣な面持ちで上条に向けて言った
「俺は上条ちゃんとケンカしに来ただけだ」
「・・・それで俺が『はい、そうですか。じゃあ一つ拳でよろしく』なんて言うとでも思ったのか?」
「いいや、思うさ。これからする話を聞けばな」
「話?」
「みこっちゃん達が今一体どこにいるのか知りたくはねぇか?」
「!!!!!」
「ついでに俺の身の上話も聞いてもらう。質問も自由にしてくれて結構だ。俺が知ってることで話せることは可能な限り話す。それを上条ちゃんが聞きたいってんなら俺は喜んで話そう。だけど代わりに、俺のケンカに付き合ってもらう。どうだ?」
「ケンカってのは…殺し合いか?」
「そりゃケンカした時と場合によるな」
「・・・分かった。話を始めろ」
上条は少しの間自らの選択を考えると、トールを真っ直ぐに見据えてそう答えた
「まずは、俺たち『グレムリン』の話だな」
「グレムリン?」
「この世界…ALOには俺を含めて3人の構成員だけがログインしている。ちなみに活動拠点は上条ちゃんもお察しの通り世界樹の上だ」
「そうかよ…その話を聞く限り、アルンに転生出来る空中都市があるなんて全部嘘っぱちか…」
「そうだな。そんなのはこのゲームの売り文句に過ぎない。そのグレムリンは俺を含めて…まぁ軽く100人以上はいる魔術師の組織さ。結論から言うなら、このALOっつー世界そのものを作ったのは俺たちグレムリンだ」
「なるほどな…だからこのゲームの魔法は俺たちの世界の魔術と似通ったところがあったのか…」
「そうだな。そして俺たちグレムリンの目的は『オティヌスを魔神として完成させ、その力で自分達の望みを叶えてもらう』ことだ」
「オティヌス?一体誰だ?」
「まぁ簡単に言えばグレムリンのトップ…俺の上司であり魔術を究めた者…いわゆる『魔神』だ」
「『魔神』…ね…要するに魔術の神様ってことか?」
「そこはさして重要でもねえから大雑把に話を済まして先にいきてぇんだが、俺たちがこの世界を作った目的は『主神の槍』を完成させる為だ」
「ぐんぐにる?」
「北欧神話の最高神、オーディーンが扱っていたとされる伝説の槍を模した霊装さ。そんでこっからがかなり理屈めいた話になるんだがいいか?」
「ああ、構わねぇよ」