「まぁなんで槍が必要かって話になるんだが、そもそも魔神の力ってのは強大過ぎてな、オティヌスの力を整えるために槍が必要なんだよ」
「強大過ぎるって…どう言う理屈だ?単純に魔術の神だから魔神なんだろ?魔術を究めてんなら、霊装なんかに頼らずにそれを制御できてこその神なんじゃないのか?」
「それがそう簡単にもいかねんだなこれが。オティヌスは魔神であるが故に『無限の可能性』を持ってんのさ」
「無限の可能性?」
「まぁやろうと思えばなんでも出来る…程度に思ってくれりゃ結構だ。だが、無限の可能性を持つってことはとんでもなくリスキーなことでもあんのさ」
「はぁ?なんでだよ?何でも出来るんだろ?それのどこがどうリスキーなんだよ」
「それがジレンマなんだよ。無限の可能性があるってことは、あらゆる物事に対して『成功する可能性』も『失敗する可能性』も均等に持ち合わせちまってんだよ」
「・・・なるほど、無限なだけであって100%の望んだことが出来るわけじゃねぇってことか」
「そうだな。そしてその失敗の可能性を取り除き、オティヌスの魔神としての力を制御するのが…」
「主神の槍…ってことか」
「へー?察しは人並み以上にいいな?流石はアレイスターからSAOの真実を聞いてヤツをぶっ飛ばしただけのことはある」
「・・・それでそっちの身の上話は終わりか?」
「まぁとりあえず一区切りだな。まだ話せることはあるが」
「なら一つ質問だ。なぜ俺たちのことをそこまで知ってる?」
「あぁ〜…その説明をするにはまた面倒なんだけどよぉ〜」
「オティヌスはな…その魔神の力と魔術でもって『位相を好きなように改変出来る』」
「位相を…改変する…?」
「ああ、上条ちゃんも気づいてんだろ?このALOは上条ちゃんが生きてきた世界のALOじゃねぇ」
「・・・・・」
「そう、このALOは正真正銘、オティヌスが作った『位相』で、ついでに言うと上条ちゃんのツレが住んでる現実世界はオティヌスが作り変えて出来た上条ちゃんの世界とは異なる世界だ」
「なっ!?」
「だけど、オティヌスだって最初にいた『元いた自分の世界』っつーのがあるわけだ。だけどな、自分の力を使ってやたらめったらに改変し続けてた結果、ある日『元の世界』を思い出せなくなって、その世界に戻れなくなったのさ」
「そして試行錯誤の結果、『元いた世界とほぼ完璧に同じ世界』を作りあげたんだが、いかんせん魔神ってのは完璧な存在だ。『ほぼ』なんてもんじゃ納得できなくてな、その世界にどこか違和感を覚えた。その過程で出来ちまったのが上条ちゃんのツレたちの現実世界だ」
「・・・・・」
「だから今度は『完璧な元の世界を作る』為に自分の無限の可能性を制御する槍を求めたのさ。つまるところ、オティヌスの目的は『元の世界に帰る』。ただそれだけなんだよ。SAOに囚われてた上条ちゃんならその気持ち分からなくもないだろ?」
「・・・で?俺の質問にそろそろ答えてもらおうか」
「そりゃー勿論、上条ちゃん達が槍を作るのにに必要だったからだ」
「俺たちが…必要…?」
「何か思うところはなかったか?望んだものを作り出すことが出来る文字通り『万能の位相』…ありとあらゆる理論を超越した…『鋼鉄の城』」
「ッ!?アインクラッド…!」
「そ。だから都合が良かったんだ。オティヌスの無限の可能性を制御する槍は、オティヌスと同等の無限の可能性を持っていなきゃならねぇ。だから望んだものをありのままに作り出すことの出来る『アインクラッドそのもの』を利用して槍を作り出そうと考えたのさ」
「だけど…アインクラッドはもうなくなったはず…」
「確かに上条ちゃんとアレイスターの決着と共にアインクラッドは崩壊を迎えた。だがそこにはアインクラッドを生き延びた6145人がいたろ?」
「は?人がいたところでアインクラッドなんて元に戻らねぇだろ?」
「正確にはアインクラッド自体が必要な訳じゃねぇんだよ。本当に重要なのはアインクラッドを創り上げる『要素』だ。だからオティヌスはアインクラッドを生きた人々のアインクラッドに関する『記憶』を槍に組み込む為に、上条ちゃんの世界のアインクラッドで生きた6145人の意識をこのALOって位相に幽閉した…って訳だ」
「ッ!!テメエッ!!」
「まだだ。話は終わってねぇ、まだ殴りかかるのは早いぜ上条ちゃん」
「・・・クソッ…」
そう短く吐き捨てると上条は殴りかかったた拳を解き、立ち上がりかけた椅子に再び腰掛け直した
「さて、じゃあなんで上条ちゃんの世界のALOはノータッチで、ツレの世界のALOに俺たちがいると思う?おかしいとは思わないか?」
「・・・言われてみれば…なんでだ?なんで俺たちの世界じゃなくわざわざ二度手間になるようなことを…」
「そんなの簡単さ。このALOって世界はSAOを生きた連中を幽閉しやすいようにSAOのシステムを参考にオティヌスが作ったもんだからさ」
「・・・意外だな、魔術師ってのはそんな機械仕掛けなことも出来んのか」
「『十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない』なんて言葉がある。逆もまた然りさ」
「・・・なるほど」
「付け加えるなら『合理的な規模を超えた物は存在した時点で魔術的意味合いを帯びてしまう』ってとこだな」
「・・・『宇宙エレベーター』と同じか」
「ま、そんな感じだ。まぁ多少足りない部分は魔術で補わさせてもらったけどな」
「・・・で?話を戻せばなんでそもそも俺がいた世界のALOはノータッチでわざわざこのキリト達の世界のALOでそんなことを始めたんだよ。別にわざわざ他の世界でやんなくても俺たちの世界側でやりゃ良かっただろ」
「そりゃ上条ちゃんの世界のALOはこっちの世界で俺たちがALOを創り上げる前に、SAOとはなんの関係もない『ただのゲーム会社の社員の誰かが作った正真正銘ただのゲーム』だったからだ。だから別の世界でやろうってことで上条ちゃんのツレの世界に白羽の矢が立ったわけだ」
「はぁ!?それこそおかしいだろ!こっちの世界のALOには前にインデックスが来てんだぞ!?」
「おいおい知らねーのか?今や上条ちゃんの世界じゃ魔術サイドは覇権争いの真っ只中なんだせ?」
「そ、そりゃインデックス達から聞いて知ってるが…それとこれとで一体なんの関係が…」
「アプローチの仕方は違えど、俺らグレムリンも魔術組織の端くれだ。その覇権争いに参加しないと思うか?」
「!?ま、まさか…!」
「ああ、今の混沌とした魔術サイドの状況なら、イギリス清教にスパイを送り込むなんざウチの魔神様の采配をもってすれば造作もないことだ。禁書目録のALOのソフトをウチらのALOにログインするソフトにすり替えさえしちまえば、後はほっといても俺らのALOにログインするって寸法だ」
「SAOに囚われた人達だけじゃなくインデックスまで…!」
「そしてこっちの思惑通り、禁書目録のALOが上条ちゃんの手に渡り、招かれるべくして上条ちゃんがこの世界に来た…ってことだ」
「・・・・・」
「だが、そうした後で手違いが起こってな。上条ちゃんには元からその右手があるからこっちの世界に無理やり引きずり込めないのは分かってた。その他にもう1人、SAOの世界でシステムや世界の理…位相の枠を超える力を持ったヤツがいた。ソイツだけは正直迂闊に手を出せなくてALOには幽閉できなかった」
「・・・なるほど…それが俺の他に世界に戻ったもう1人…さしずめ…一方通行か?」
「ああ、ご名答。だがそのALOに幽閉できなかった学園都市第一位の力が嬉しい誤算だった。SAOプレイヤーの記憶からアインクラッドを再現していく過程で、75層のエイワスと一方通行の戦闘の痕跡が掘り起こせた。そして上条ちゃんも知っての通り、アイツはの力は、アレイスターがSAOの世界そのものを肯定させる『ピース』だった」
「おかげでその『天使の力』をも超える力をそっくりそのまま組み込まれた槍は完成に大きく近づいた挙げ句、布石を打っておいた後で上条ちゃんの幻想殺しはお役御免になった訳だ」
「・・・で?もはや俺の幻想殺しはあらゆる世界の基準点になる邪魔な物でしかないから潰しに来たってか…?」
「ま、そんな感じだ。スパイを送り込んでまで打った布石は無駄足になっちまった。だがその右手をそんなに疎ましく思うなよ上条ちゃん。上条ちゃんがこの世界に来た時、最初っからステータスがバカみたいに高かっただろ?」
「ああ…SAOをクリアした時のステータスと全く同じだった」
「あの理屈は結構簡単でな、上条ちゃん今学園都市の病院のメディキュボイドでログインしてるだろ?」
「!?な、なんでそれを…!」
「そりゃそのステータスが何よりの証拠さ。上条ちゃんはSAOにログインするためのナーヴギアの電源をずっと病院から引っ張って病室のベッドで寝てたよな?」
「ああ」
「だからナーヴギアのセーブデータ自体は病院のコンピュータに残ってんのさ。そらそうだろ?あの病院は何人もSAO患者を抱え込んでんだから電源もデータメモリも一括管理した方が都合がいい」
「それで同じ病院のメディキュボイドにログインしたから病院の管理するデータに保存されてる俺のSAO時代のデータが引っ張られてきて、SAOサーバーのコピーであるこのALOにそのまま上書きされたってことか…」
「ひゅー♪これまたご明察。まぁそうじゃなきゃ俺たちも困るんだがな。ただの一般プレイヤーの上条ちゃんが来ても俺たちには何の得にもならねぇからな。『幻想殺し』を持った上条ちゃんをALOにログインさせるにはそれが一番手っ取り早かった。まぁでもいいだろ?最初っからそんだけ強いんだから面倒な育成もしなくてすんだろ?」
「なるほどな…まぁお前のいう通りステータスがそのままなおかげでALOでの冒険は余計な手間が省けた」
「まぁ、って訳で…粗方の事は話し終えた。約束通りいっちょ俺と殴り合ってもらう」
「・・・言われなくてもそのつもりだ。表に出ろ、拳で語りてぇことが有り余ってる」
「ヒュー、こりゃ想像よりも楽しいケンカになりそうだ」
こうして上条とトールはハンバーガーショップを後にし、ルグルーの町外れへと向かっていった