とある魔術の仮想世界[2]   作:小仏トンネル

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第38話 最強 VS 最弱

 

「・・・マズイな」

 

「え?」

 

 

今にも剣と拳を交えようとしている両者を下から見守るシルフとケットシーの中から、シルフ領主であるサクヤが怪訝そうな顔で呟いた

 

 

「あのサラマンダーの両手剣…あれは『魔剣 グラム』だ。両手剣スキルが最低でも950ないと装備出来ないと聞く」

 

「きゅ、950!?」

 

「ああ。あれを装備しているということはアイツが『ユージーン将軍』だろう…実際に本人を見るのは私も初めてだが…知っているかリーファ?」

 

「な、名前ぐらいは…」

 

「その多くの肩書きもさることながら、純粋な戦闘力では全プレイヤー中最強と言われている…!」

 

「全プレイヤー中…最強…!?」

 

「ああ、私にはスプリガンの彼がどういう素性か知らんが…果たして30秒凌げるかどうか…」

 

「・・・上やん君…!」

 

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

 

一方のユージーンと上条は上空で睨み合っていた。この戦いはデュエルではない。よって戦いの明確な始まりを告げるゴングが存在しないが故、互いに隙を探っていた。すると…

 

 

チカッ…!

 

「ッ!?」

 

 

雲の間から差し込めた太陽の光がユージーンの魔剣グラムに反射し、一際眩しく輝いた。その眩しさに堪らず目を閉じた上条の隙を見逃さず、ユージーン将軍は上条に切りかかった

 

 

「でやあああああっ!!!」

 

「クッ!」

 

 

咄嗟の事ながらもユージーン将軍の初動に対応した上条は一歩後ろに退き、自分へと襲いかかる彼の剣の描く軌道の先に盾を構えた。しかし……

 

 

フッ…!

 

「なっ!?」

 

スピンッ!!

 

 

事もあろうに彼の剣が上条の構えた盾に当たる瞬間に非実体化し、彼の盾をすり抜けて来たのだ。上条は戸惑いながらも自身の並外れた反応速度でかわすが、ツンツンと尖った髪の毛の先を切り裂かれた。そして休む間もなくユージーン将軍がもう一度切りかかってきた

 

 

「そ、そんなのアリかよっ…!?」

 

「残念だがアリだ!堕ちろ!」

 

フッ…!ズバァン!!

 

「がはあぁぁっ!?」

 

ドゴオオオオオォォォォン!!!

 

 

もう一度切りかかってきた剣から身を守る為に盾を構えたが結果は同じで彼の剣が上条の盾の前で非実体化し、彼の盾をすり抜け終わったところでもう一度実体化した。その刀身が上条の身体を切り飛ばし、岩壁に叩きつけられた

 

 

「ちょっ!?今のなに!?アイツの剣が上やん君の盾をすり抜けたように見えたけど!?」

 

「あの魔剣グラムには『エセリアルシフト』っていう剣や盾で攻撃を受けようとしても、非実体化してすり抜けてくるエクストラ効果があるんだヨ!」

 

「そんな無茶苦茶な!?」

 

 

リーファの疑問にケットシーの領主であるアリシャ・ルーが答えると、魔剣グラムの規格外の能力にまたしても驚愕の声を漏らした

 

 

「いや本当無茶苦茶だろ…それどうやって防げと…それがスキルに部類されるなら俺の幻想殺しが効くかもしれないけど…非実体化しないだけで消えないからただ右手ぶった切られるだけだよな…」

 

「でやあああぁぁぁっっっ!!」

 

ブォンッ!!

 

「うおっ!?ああもうクソッ!絶対30秒耐え抜いてやる!」

 

 

それから上条はユージーンの魔剣をかわし続けながら隙をついて拳を叩き込もうとするが、防御不可能の魔剣グラムに対する恐れから攻めあぐねていた

 

 

「ふんっ!!!」

 

ズバァンッ!!

 

「どわあああぁぁぁっっっ!?」

 

 

それに加え、どうしても条件反射で襲いかかる剣に対し左腕の盾で防ごうとしてしまう。右肩から脇腹にかけて斜めに切りつけられ上条はバランスを崩しかけたが、背中の翅を目一杯に開いてブレーキをかけ、空中にホバリングした

 

 

「冗談抜きで効くなぁ…おい!もう30秒たってんじゃないのかよ!」

 

「悪いな、やっぱり切りたくなった。要求を呑むのは俺の首を取るまでに変更だ」

 

「おいおい武器もインチキなら装備してる本人もインチキかよ…!」

 

 

ユージーンの宣言により戦闘が続行されるが、 戦況は火を見るよりも明らかであり、彼の剣を防ぐ手段を持たない上条のHPはみるみる内に削られていった

 

 

「厳しいな…プレイヤー同士の実力は互角と見えるが、武器の性能がもはやゲームバランスを逸脱してる…!だがそれ以上に彼はなぜ素手でしか戦わないんだ!?」

 

「それが…上やん君なの…でも上やん君なら…きっともう一度…」

 

 

リーファが祈るように両手をキツく握りしめた。いつだって自分の想像を超え、いつだって自分には出来ないようなことを当然のようにやってのけた彼ならば、きっと目の前の猛炎の将を叩き伏せてくれると信じて……

 

 

(クッソ…もう後がねぇ…このままアイツの攻撃もらい続けてたらいいとこ2、3発が限界だ…どうする…この状況を打破するにはもう「アレ」ぐらいしか…)

 

(でも…本当に「アレ」を人前で晒していいのか?それもこんな大人数に…よく考えろ…テメエの空っぽの脳みそ捻り出してでm…ッ!)

 

 

ユージーンの猛攻を飛び躱しながら策を練る上条。しかし、彼の思考が彼の隠している最大の「禁じ手」を使用するように急かす。だが、そんな思考を振り切り頭を一旦リフレッシュするように頭を振ると、彼の中で何かが閃いた

 

 

(・・・いや、いける…あの方法なら誰にも見られずに…)

 

(やるしかねぇ!もうどっちにしろ背に腹は変えられねぇんだ!お前はこんなところで死に戻りしてる暇なんてねぇだろ!!)

 

 

そう自分の中で己を鼓舞すると、上条はユージーンに背を向けて逃げるのをやめ、飛行速度を翅で殺しながら振り返り、空中でホバリングしながら猛炎の将に向き直った

 

 

「ほう?観念して切腹する気にでもなったか?」

 

「誰が切腹なんてするか。本当の勝負はこっからだ!ついてこい!」

 

ビュンッ!!!

 

 

上条はユージーンを挑発するように宣言すると、ホバリングをやめ、自分たちの決闘を観戦している場所から少し離れた地上に向かって急降下を始めた

 

 

「ほう?地上戦を選ぶか…いいだろう!とことん付き合ってやる!」

 

ビュンッ!!

 

「ッ!見て!上やん君たち地上に降りていくわ!」

 

「それはいいが…果たして地上に降りて形勢は逆転するのか?天地関係なく魔剣グラムのエセリアルシフトは発動するんだぞ?」

 

「・・・あれ?ね、ねぇ見て!あのスプリガンの子!地上に降りて行くに連れてどんどん加速していくヨ!?あのままじゃ着地する前に地面に激突してHP全損しちゃうヨ!」

 

 

「ふん、頭が狂ったのかそれともヤケになったのか…だが逃がさん!貴様は俺がこの手で切り伏せる!!」

 

ギュンッ!!

 

 

そう言うとユージーンは上条を逃すまいと飛行速度を上げる。そしてみるみる内に地面が近づいていくが二人は決してスピードを緩めない。やがて二人の差は5メートルも無くなり、目と鼻の先まで大地が迫ったその瞬間…!!

 

 

「オラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッッッッッッ!!!」

 

ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォッッッ!!!

 

「なっ!?!?」

 

バキバキバキバキッ!!!!!ブオワアアアァァァァッッッ!!!!!

 

 

最高速度を保ったまま地面へと下降し続けた上条はまさに地面にぶつかるその瞬間、大地に向かって右拳を筋力パラメータが許す限りのありったけの力で叩きつけた。すると大地はたちまち地割れを起こし、まるで地震でも起こったかのように揺れ動き、辺り一帯はとんでもない量の砂煙で包まれた

 

 

「うぇっ!?ゲホッゲホッ!これじゃ煙で何も見えないヨ!」

 

「ちょっ!?ゲホッ!彼は一体なんのつもりでこんなことを…!」

 

「まさかあいつ、この巻き上がった砂煙に乗じて逃げる気なんj…」

 

「そんなわけn…!!」

 

バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォッッッッッッッッ!!!!!!!!!

 

「・・・え?」

 

 

あれだけ広範囲に広がり、周りも見えなくなるほど濃かった砂煙が一瞬にして晴れ、視界が鮮明になった。その中でリーファが目にしたのは光の柱だった。自分の目の前にそびえ立つ世界樹と同じく天に向かってどこまでも伸びていく光の柱は、まるでこの世界全体を照らすかのような暖かな光だった

 

 

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