とある魔術の仮想世界[2]   作:小仏トンネル

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第42話 央都 アルン

 

「・・・『ソレ』をここで振るうとは…よく貴様の心がそれを許したものだな。幻想殺し」

 

 

上条の天叢雲剣が放った光の柱は世界樹の頂上まで伸びており、それを横目で見ていた世界樹の住人、オティヌスはそう呟いた

 

 

「退屈しのぎに外を眺めるのもいいとは思うがね、なんやかんやで完成したよ?」

 

「・・・ほぉ?それは本当だろうな?マリアン」

 

「そこに関しちゃ嘘なんかつけないでしょーよ。ほれ、ソコに」

 

 

褐色の肌にその瞳には眼鏡。銀髪を三つ編みにし、素肌にオーバーオールを着込む彼女「マリアン=スリンゲナイヤー」は世界樹の枝の先にある鳥籠の中に佇む長い棒のような物を指差した

 

 

コッコッコッ…

 

「ついに…ついにこれが私の手に…」

 

 

その『槍』の穂先は、ナイフのように尖った刃ではなく、両刃の剣を無理矢理に接続したような幅広の刃。その刃の根元と槍尾が捻れ狂った黄金の槍という形をしたオティヌスの持つ『無限の可能性』の象徴。それに彼女の手が伸びた瞬間……

 

 

ガシャンッ!!

 

「・・・どういうつもりだ黒小人」

 

「どういうつもりかどうか、一番よく分かってんのはアンタじゃないのか?オティヌス」

 

 

鳥籠の扉が完全に閉まり、オティヌスと槍は鳥籠の中に囚われた

 

 

「よもや仲間を殺されたからなんて世迷言を言い出す気ではあるまいな」

 

「違う違う、アンタは私に与えすぎたんだよオティヌス。そりゃ槍はアンタの莫大すぎる力と無限の可能性を制御するってそれだけの代物だ。だがあの6000人から得られたアインクラッドは違う。私もつい夢を見ちまった…これならわざわざアンタに夢を叶えてもらうまでもないってな。そういうもんだろ?」

 

 

そう言うとマリアンはオティヌスの前に鞘に収まった黄金色に輝く一本の剣を差し出した

 

 

「『戦乱の剣』か…全くどいつもこいつも剣なんて物に魅了されるとは…」

 

「世界を終わらせる剣…この鞘から抜かれた剣の刀身を見たものは恐怖心から自ら死を選ぶ…だがもし仮に、この剣が全ての姿を晒した時、どうなるかなんてのは想像に難しくはないだろ?コイツは概念だけならアンタが求めた槍をも超える逸品さ」

 

「なるほど…ということは『やはり』この槍は偽物か…」

 

「・・・やはり?」

 

ズドンッッッ!!!!!

 

「・・・へ?」

 

 

マリアンの口から素っ頓狂な声が漏れた。何やら胸の方に違和感を感じ俯いて自身の胸を見ると、そこにはぼっかりと穴が空いていた

 

 

「・・・あふっ!?がっ!?な、なんで…!!」

 

コッコッコッ…

 

「舐めているのか貴様は?私は仮にも魔神だぞ。あの棒切れが槍でないなんてことは見なくても分かる」

 

 

風穴の空いた胸を必死に抑えつけるマリアンの背後から籠の中に囚われていたはずのオティヌスの足音が聞こえ、マリアンを見下すように真の『主神の槍』を持った隻眼の少女は褐色の少女の横に立った

 

 

「なっ!?そ、それは本物の槍!じゃ、じゃあ鳥籠にいるアンタと槍は…!」

 

「・・・何を言う、貴様には分からないのか?」

 

「・・・は?」

 

「お前の眼下に広がる世界などもう全て……」

 

「『終わっている』のだよ」

 

 

その一言が魔神の口から発せられた瞬間、マリアンの視界は何分割にも分かれていき、そこでいくつもの世界を見た。そのどれを見ても同じだった。自分の終わりは、今自分が立っている場所だった

 

 

「・・・あ、」

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 

 

ガシャアアアアアアァァァァァ……

 

 

褐色の肌が白い光を放ちながら粉々に砕け散っていった。そう、彼女は自分で気づいていなかった。自分の置かれていた世界が何であるかということを…

 

 

「はははは!!はははははははははははははははははははは!!!!!」

 

 

背中を弓のように反らせて魔神は笑った。自分以外誰もいなくなった世界樹の箱庭の中で、狂ったように笑った

 

 

「ああそうさ黒小人。SAOの6000人の記憶が集まった時には既に私の欲するアインクラッドは完璧なまでに再現され『槍』は私の手に渡っていたのさ。だから貴様は用済みだ、だから世界の輪廻の果てに飛ばしてやった。まぁ喜べ、少しは面白かっただろう?偽物とは言え貴様はどの世界線でも私という魔神を追い詰める道を辿れたんだ。誇るがいいさ…あっはははははははははははははは!!!!!」

 

 

隻眼の少女はその背丈に余る槍を手に高らかに笑う。北欧の神話の大地にそびえ立つ樹木の上で全てを統べた神が文字通り全ての世界を手にしたのだ

 

 

「さて、多少順番は狂ったが後は幻想殺しさえ消せば何も問題はないが…ちまちま戦うなんて面倒臭せぇな。世界でも終わらせてやるk…」

 

ピコンッ!

 

「・・・?なんだ?」

 

[グランドクエストの挑戦者が現れました < → Kirito Asuna > ]

 

 

槍を高く掲げ振り下ろそうとした瞬間、彼女の目の前にあるメッセージを記したウインドウが現れ、その横に世界樹のドーム型になっている内部の映像が映し出され、そこにはスプリガンの少年とウンディーネの少女がいた

 

 

「ほう…此奴らは確か幻想殺しの…そうだな…ちまちま戦うのも面倒だが、あっさり終わらせすぎるのもつまらんな。折角の『ゲーム』だ。神らしく遊戯に浸るのも良かろう…」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「うわぁ〜〜〜〜〜…!」

 

「おお〜〜〜〜〜〜…」

 

 

上条とリーファは長い飛行の末、夜の世界で一際眩しく輝く街を訪れていた。その街を目にした彼女達の瞳も街の光に負けないくらいに眩しく輝いていた

 

 

「ここが世界樹の根元…」

 

「うん、間違いない。ここがアルンだよ!アルヴヘイムの中心…世界最大の都市…!」

 

「ああ、ようやく着いたな」

 

 

上条とリーファは遥かなる星空に向かって伸びた世界樹と夜に煌めく街を、これまでの冒険を思い出しながら感慨深く見つめていた

 

 

「だけどリーファ、そっちにキリトかアスナから連絡来てるか?」

 

「え?私はてっきり上やん君の方に連絡が来るのかと思ってたけど…」

 

「ってことは両方とも何の連絡もなしか…まさかまだコッチに着いてねぇのか?」

 

「うーん、何も起こってなければ普通に着いてるはずの距離だと思うんだけど…ここに来るまでの道で何かトラブルでもあったのかな…」

 

「だよなぁ…もし仮ににアルンに着いてるとしてもこのバカ広い街からあの二人を探すのは骨が折れるぜ…」

 

「とりあえず何か連絡があるまで街の人にお兄ちゃん達を見かけた人がいないか聞いてみましょう?」

 

「そうだな、それが一番だ」

 

 

こうして二人はアルンの街へとくり出し、道行く人にキリトとアスナを見かけていないかを聞いた

 

 

「すいません、ちょっといいですか?」

 

「ん?僕の事かい?」

 

「実はあたし達、はぐれちゃった仲間を探しているんです。スプリガンとウンディーネの二人組で、プライベートピクシーを連れているんです。どこかで見かけた覚えはありませんか?」

 

「スプリガンとウンディーネの二人組かぁ…ごめん、ちょっと見た覚えはないかなぁ…」

 

「そうですか…すいません、ありがとうございます」

 

「あ、ごめんなさい。ちょっといいですか?そこのお姉さん」

 

「ん?どうかしたの?」

 

「実は仲間を探していて。ウンディーネとスプリガンの二人組を探してるんです。歳は丁度高校生くらいの」

 

「うーん、そういうスプリガンとウンディーネの二人組は見なかったかな。明らかに大人のスプリガンとウンディーネの二人は見たけど」

 

「あ、それは多分違いますね。すいません急に呼び止めたりしちゃって」

 

「いえいえ、こちらこそ力になれなくてごめんなさい。それじゃ」

 

「はい、ありがとうございました」

 

 

手を振って別れを告げるレプラコーンの女性に、上条は礼代わりにその後ろ姿にお辞儀をした

 

 

「ごめん上やん君、あたしの方は何も収穫なし。そっちは?」

 

「や、こっちも特にはないかな。しかし流石世界の中心だな。いくら中立域と言えどこんなに他種族に分け隔てなく接してくれるなんて…」

 

「うん、みんないい人ばっかりだよね。ここにいる人達はみんな心の底から自由にこの世界を飛び回ってゲームを楽しんでるって感じがする」

 

「・・・そうだな」

 

「?どうかしたの?」

 

「いや、なんでも。それより早いとこ二人と落ち合わないと…あ、すいませんちょっといいですか?」

 

 

そう言って上条は自分達二人の目の前を通り過ぎかけたノームの男性に声をかけた

 

 

「ん?どうしたんだい?この辺じゃ見ない顔だね、この街は初めてかい?」

 

「あ、はい。それでちょっとお聞きしたいことがあってですね…」

 

「構わないよ。やっぱりここに来た目的は世界樹なのかい?」

 

「はい…えっとそれもあって、ここに到着したら落ち合おうって言っていた二人組みと連絡が取れなくて探してるんです。高校生くらいのスプリガンとウンディーネの二人なんですけど、どこかで見かけませんでしたか?」

 

「ああ〜…そんな感じの二人を僕の友人が見たって言ってたよ」

 

「ほ、本当ですか!?どの辺にいたとか分かりますか!?」

 

「確か30分ぐらい前に世界樹の根本のゲートに入って行ったのを見たって言ってから…多分グランドクエストに挑んだんじゃないかな?」

 

「「!!!!!」」

 

「その友人が言うには、最初はたった二人で挑むなんて無謀だと思ってその後ろ姿を見てたらしいけど、ドームに向かう二人を見てたらなんだか只者じゃないオーラを感じたらしくてね。もしかしたらと思って、20分ぐらい待ってたんだけど一向に出てくる気配がなくて、多分死に戻りしたんだろうと思って待つのをやめたんだってさ」

 

「すいません!その世界樹のドームってどこに!?」

 

「え?えっと…ここを道なりに真っ直ぐだけど…」

 

「ありがとうございます!行くぞリーファ!!」

 

「うん!あ、すいませんわざわざありがとうございました!」

 

ギュンッ!!

 

「え?どわぁぁ!?」

 

 

スプリガンの男性の話を聞くなり、背中から翅を出し、自分の持てる最速で飛び出した二人。その場には烈風が吹き荒び、その風に吹き飛ばされノームの男性は尻餅をついた

 

 

「お兄ちゃん…アスナさん…!」

 

「間に合ってくれよ…!」

 

 

世界樹の根本を目指しアルンの街中を翅を鳴らしてひたすら真っ直ぐに翔んでいく二人。そのまま進んだところ前方に巨大な階段が見えた

 

 

「あの階段を登れば世界樹のドームだな!」

 

「・・・?ちょ、ちょっと待って上やん君!階段の下のところ!」

 

「え?下って……あっ!」

 

「お兄ちゃんとアスナさんだわ!」

 

 

これから今まさに駆け登ろうとしていたその時、リーファが指差した階段の一段目にキリトとアスナが腰掛けていたのを見つけ、上条とリーファは翅を閉まって二人の側に降り立った

 

 

「なんだよ二人とも〜着いたなら連絡ぐらいしてくれよ〜。覗くだけって言いつつ今も世界樹の中で二人だけ残されて戦ってんのかと思ってめちゃめちゃ焦っ……て…?」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「おにい…ちゃん…アスナ…さん?」

 

 

上条は思わず二人に話しかけていた口を閉じた。なぜなら自分が話しかけた二人がまるで路頭に迷ったような暗い顔で俯いたままだったからだ

 

 

「ど、どうしたんだよ二人とも…なんかあったのか?」

 

「・・・ねぇ上やん君」

 

「お、おう。なんだ?」

 

「あれは…あのグランドクエストだけは…絶対に無理だ…」

 

「・・・え?」

 

「話すよ、あの扉の向こうで一体何があったのか…」

 

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