とある魔術の仮想世界[2]   作:小仏トンネル

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第46話 兄妹

 

「・・・上やんのヤツ…今ごろ上までたどり着いたかな…」

 

「・・・どうだろうね」

 

「ユイ、世界樹の中の事情は分かるか?」

 

「いえ…申し訳ありませんパパ…流石に内部の事情までは詳しく分からないです…」

 

「・・・そうか」

 

 

上条がグランドクエストに挑んでからおよそ20分が経過していた。上条の後ろ姿を見送ることしか出来なかった彼らは、リーファが祈るように世界樹を見つめ続け、世界樹へと続く階段にキリトとアスナは未だ腰を下ろして落胆していた

 

 

「・・・上やん君…」

 

 

リーファは世界樹へ一人で挑んだ少年のことを思い、その胸の前でキュッときつく手を握った

 

 

「・・・やっぱりあたし、あそこに行ってくる」

 

「!!よ、よせスグ!どうやったって無理なんだ!!」

 

「だからって!このまま上やん君を見殺しにしろって言うの!?」

 

「・・・ああ、そうだ」

 

「〜〜〜〜〜〜ッ!!」

 

スパァンッ!!

 

 

階段を上ろうとしたリーファを止めるためにキリトがリーファの前に立ち上がった。そして彼女に現実を突きつけるようにそう告げた。リーファは自分の唇を噛み締めると、キリトの頬に平手打ちを見舞った。周囲に乾いた音が鳴り響き、彼の頬が赤く染まっていた

 

 

「最っ…低っ!!お兄ちゃんだって…お兄ちゃんだって分かってるでしょ!今世界樹を上ってる上やん君の肩にはどれだけの人の命が預けられてるのか分かってるでしょ!?」

 

「・・・ああ、分かってる…それでも…それでも俺はスグをあの痛みに晒す訳にはいかない!俺には…目に見えない世界の6000人の命よりも…目の前のスグの方が大事だ!!」

 

「ッ!!そう…悪いけど…だったらあたし…お兄ちゃんのことぶった切ってでもその先の道通るから…!」

 

シャキィンッ!!

 

「ッ!!そうか…悪いけど俺も譲らないぞ…たとえ何があってもこの先にスグを通すわけにはいかない…!」

 

ブォンッ!!

 

 

世界樹へ続く階段に立ち塞がるキリトに向けてリーファは腰に据えた鞘に納められた長刀を抜き、同じくキリトも重低音と共に空を裂きながら背中の大剣を抜いた

 

 

「ちょっ!やめなよ二人とも!そんな…そんなことしたって何の意味もないよ!!」

 

「止めないでくれアスナ。これは…俺たち兄妹の問題なんだ」

 

「キリト君!!」

 

「・・・ふふっ…あたしたち『兄妹』の問題…ね…」

 

 

キリトのそんな言葉を聞いたリーファは、突然顔を下に俯かせ乾いたような声で微かに笑った

 

 

「・・・え?」

 

「ねぇ、お兄ちゃん…あたし…知ってるんだ。あたしたちが本当は…血の繋がった本物の兄妹じゃないってこと」

 

「ッ!?な、なんでその事をスグが…!」

 

「知ってるの…あたしもう知ってるんだよ!あたしはその事をもう2年も前から知ってるの!」

 

「2年も前……ッ!…そうか…俺がまだSAOにいる時に…」

 

「そう…お兄ちゃんがSAOにいる時にお母さんから全部聞いた…でもお兄ちゃんはずっと前から知ってたんでしょ?お兄ちゃんが剣道をやめてあたしを避けるようになったのは、それが原因だったからなんでしょ?」

 

 

リーファの言葉は何一つとして間違っていなかった。全ての言葉が図星を突かれていたからこそ、キリトは何も言い返すことができず、彼女から視線を逸らした

 

 

「あたしが本当の妹じゃないって知ってたからあたしを遠ざけてたんでしょ…だったら…だったらなんで今さらになって私に構うのよ!」

 

「ッ!!」

 

「あたし…お兄ちゃんがSAOから戻ってきてくれた時…嬉しかった…小さい頃みたいに仲良くしてくれて…すごく嬉しかった…仮想世界をもう一つの現実だって受け止めて…アスナさんを探し続けたお兄ちゃんを…誰よりもカッコいいと思った…」

 

「スグ……」

 

「リーファちゃん…」

 

「でも…今のお兄ちゃんなんかに…今のお兄ちゃんなんかに分かるわけない!!自分の目の前の人が何度声をかけてもなんの反応もしなくて…待ち続けることしか出来なかったあたしの気持ちなんて!上やん君を見捨てた今のお兄ちゃんに理解出来るはずなんかないっ!!」

 

「!!!!!」

 

 

激昂するリーファの頬には涙が伝っていた。感情が昂ぶりすぎたため、涙腺から流れる雫に歯止めが効かなかった。それでもなお、彼女はキリトに向かって感情を投げ続けた

 

 

「だからあたし…上やん君の気持ちが…痛いほどよく分かった…待ち続けることしか出来ない気持ちも…探し続けた手がかりをやっと見つけて自分から誰かを助け出せるって分かったなら、そこにどれだけ全力をかけたくなるかなんて…上やん君を見ただけで分かった…」

 

「助けてあげたいと思った…出来るなら一緒に戦ってあげたいと思った…上やん君がお兄ちゃんと同じに見えたから!仮想世界を同じもう一つの現実だと思って!その世界を全力で生きようとしてた!あたしはそんな世界で戦う上やん君を助けたいと思った!!」

 

「でも…違った…お兄ちゃんは…お兄ちゃんは上やん君を見捨てた!上やん君にとっての現実を…あたしたちにとってのもう一つの現実世界を…無関係だって切り捨てた!」

 

「ち、違うんだスグ!俺はただ…!」

 

「あたしに傷ついてほしくない?痛みを感じてほしくない?笑わせないでよ…お兄ちゃんがいつの間にかどんどん自分から遠ざかっていくあたしの心の痛みも分からないくせに…あたしの気持ち勝手に分かった気になって…」

 

「今さらになって兄貴ヅラしてあたしの邪魔しないでよっ!!」

 

「!!!!!」

 

カランカランッ…!…カラン…

 

 

リーファの言葉の終わりとともにキリトの顔は血の気が引いていき、顔面蒼白になった。そして全身の力が抜けていき、その手に握られた大剣が音を立てて地に落ちた

 

 

「・・・もういいでしょ。あたし、行くから」

 

「リーファちゃん!」

 

「・・・ごめんなさい、アスナさん…それでも私…行かなきゃ…行かなきゃいけないんです」

 

ギュンッ!!

 

 

リーファの名を叫んで手を伸ばして彼女を止めようとするアスナだったが、リーファはその手が自分を掴むよりも早く背中から翅を出すと、世界樹を目指し飛び立った

 

 

「ッ!?スグ!!」

 

「リーファちゃん!!」

 

「リーファさん!!」

 

ゴオオオオオオオオ!!!

 

「待っててね上やん君…今助けにいくから!」

 

 

空を切りながら飛ぶリーファはあっという間に階段を上りきり、ドームに続くゲートを開け放ち、ドームの中に飛び込んだ

 

 

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