とある魔術の仮想世界[2]   作:小仏トンネル

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第48話 残り火

 

(俺は…負けたのか…)

 

[蘇生猶予時間 600…599…598…]

 

 

リメンライトとなった上条の闇に包まれた視界は少しずつ晴れていき、白黒のモノトーンのような彩度が失われた光景が広がっていた。そして目の前にはシステム的な文字で蘇生猶予時間と減少していく秒数が表示されていた

 

 

(これが0になったら…俺の意識は…どこともしれない世界をさまよい続けるのか…)

 

(・・・ごめん…ごめんなみんな…後もう少しだったのに…あのゲートの奥にはみんなが待ってるのに…届かなかった…)

 

 

上条は意識の中で懸命にドームの天蓋に咲く花に右腕を伸ばそうとした。しかし、そこに残っているのは彼の右腕という概念だけであった。無論その伸ばした腕が届くはずもなく、そんな上条を嘲笑うかのようにガーディアン達は壁に貼り付けられたステンドグラスの中へと帰投していく

 

 

(・・・ちくしょう…ちくしょう…ちくしょう…ちくしょう…ちっきしょおおおおおおお…)

 

 

もはや悔しさを噛みしめる歯や口すらもなかった。そこにあるのはただの小さな残り火。自分に救えなかった人々を懸命に救おうと魂を燃やした少年の、どこか虚ろな最後の灯火だった

 

 

(父さん…母さん…ごめん…俺、二人が死んだ後にいく天国にいけるかどうかも分かんねぇや…いつも迷惑かけてばっかで…心配させてばっかで…本当にごめん…)

 

(カエル顔の先生…ごめん…先生が託してくれたみんなのこと…助けられなかった…俺を信じてくれたのに…ごめん…)

 

(吹寄…ずっと俺の世話してくれて…ありがとう…心配してくれて…励ましてくれて…力になってくれて…ありがとう…でももう…会えそうに…ねぇや…ごめんな…)

 

(・・・美琴…SAOの時より前…学園都市で一緒にいた時から…ずっと俺の支えになってくれてたのに…肝心な時に助けてやれなくて…ごめん。俺たちは会えるのかすら分かんねぇや…だけど…俺は最後に一目…)

 

(お前を…)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「やはりこんなものか…思い返せば実につまらん余興だったな。まるで時間の無駄だ…まぁ、無限の時を生きる魔神にとっては時間の無駄など些細な問題に過ぎないが…」

 

 

そこは世界樹の上かも分からぬ空間だった。オティヌスだけが存在する世界で、その世界で彼女は玉座に腰掛け、立体映像で映し出された世界樹のドームを監視しており、リメンライトとなった上条を一瞥するとそう呟いた

 

 

「さて、長かった苦しみはもうこれで終わりだ…後はヤツの幻想殺しをあの残り火ごと潰し…私は…私が元いた世界へと…」

 

ピコンッ!

 

「・・・チッ」

 

[グランドクエストの挑戦者が現れました <→ Leafa > ]

 

「全くどいつもこいつも往生際の悪い…まぁいい…精々激痛にその身を灼かれるサマを退屈しのぎに見物させてもらおうか…」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ッ!!!」

 

ギュンッ!!

 

 

世界樹のドームの内部へと侵入したリーファの取った行動は至ってシンプルだった。自分の翅が許す限りのスピードで高みへと飛翔し、ステンドグラスから湧き出るガーディアンをことごとく無視して進んだ

 

 

「あれは…上やん君のリメンライト…!?」

 

「ゴガアアアア!!!」

 

「邪魔っ!!」

 

キィンッ!!ビュンッ!!

 

 

天蓋へと翔けるリーファが視線の先に見つけたのは、世界に取り残された一つの黒いリメンライトだった。しかし、その先に一体のガーディアンが立ちはだかり彼女に白銀の剣を振り下ろすが、リーファはそれを長刀で防御すると、それ以上そのガーディアンには目もくれず、黒い残り火に向かって飛んだ

 

 

「上やん君!!」

 

 

シルフの少女は両手を伸ばし、リメンライトとなった上条を包み込んだ。しかし、すでに頂上のゲートにかなり接近しておりガーディアンはこれ以上の侵入は許すまいと、びっしりと密集し幾重もの鉄の壁を作った。しかしリーファは上条のリメンライトを確保した途端、ガーディアンの壁など目もくれず急激にUターンし一直線に出口を目指した

 

 

(もう今はこれ以上ここにいたらいけない…!蘇生時間にはまだ余裕がある!外に出て上やん君を蘇生させてから今度は私も一緒にもう一度…!)

 

ブスッ!!

 

「いづっ!?」

 

 

しかし、そんな彼女を逃すまいとガーディアンは白い光の矢を放った。その矢は正確にリーファの背中に突き刺さり、リーファは激痛に顔を歪めた

 

 

ドスッ!グサッ!ザシュッ!ブスッ!ガッ!ドスッ!

 

「あうっ!ひぎっ!はぐっ!うぁっ!うぐっ!」

 

 

出口に向かってダイブし続けるリーファに向けて放たれる矢の雨が、立て続けに彼女の身体を貫いた。HPがガクン、ガクンと減少していき、もはやその痛みは筆舌に尽くしがたいものだったが、リーファは息を詰まらせながらもその翅を広げ出口を目指した。しかし、そんな彼女を二体のガーディアンが襲った

 

 

ブォンッ!

 

「くっ!」

 

「ゴガアアアアアアアッ!!!」

 

ザシュッッッ!!!

 

「ぁっ………」

 

ドサッ!!ザザザザッ!!

 

 

迫り来る二本の剣をリーファは最初の一本こそかわしたが、二本目を躱しきることは叶わなかった。もはや痛みに声をあげることすら叶わず、間近に迫っていた床に激突した

 

 

ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンッ!!

 

ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!

 

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 

無慈悲にもガーディアンの大群は床に這いつくばった彼女に向けて光の矢の雨を降らせた。彼女の身体はもはや矢で埋め尽くされ、今度は悲鳴をあげずにはいられなかった

 

 

ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

 

[警告!心拍数増大!強制遮断勧告!]

 

 

(痛くない!痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くないっ!!!)

 

 

その小さな身体には余るほどの激痛に現実の桐ヶ谷直葉の心拍数が一気にはね上がり、彼女のアミュスフィアに備えられた安全措置機能が警告を通知するアラートがうるさいほど耳に突き刺さる。しかし、リーファは己の歯を食いしばり痛みを鈍らせようとひたすら心で自己暗示をかけ、警告を力ずくで黙らせた

 

 

ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンッ!!

 

(ここで終わるなんて…そんなの…ダメッ!!)

 

「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 

リーファは震える片手で体を起こすと、最後の力を振り絞り背中の翅を懸命に羽ばたかせた。その勢いで床を転がり……シルフの少女と黒い残り火はドームの外へと飛び出した

 

 

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