コッ…コッ…コッ…
冥土帰しと吹寄は病院内の地下へと続く階段を降りていた。その移動の間に冥土帰しは吹寄に上条がいかにしてALOにログインしているのかの事情を話していた
「じゃあ…上条はこの病院のメディキュボイドという機械でALOにログインした…ということですね?」
「そういうことになるね。理解が早くて助かるよ」
「それで私…嫌な予感がしたんですけど…上条は大丈夫なんですか?」
「・・・結論から言おう。彼の身に異常は何も見られなかった」
「・・・へ?は…はぁぁぁ…良かったぁぁぁ…思い過ごしかぁぁぁ…」
吹寄は冥土帰しの言葉に一瞬驚いたが、上条の身に何も起こっていないと分かると、深く安堵の息を吐いてその胸を撫で下ろした
「・・・けれど、その嫌な予感は決して的外れというわけではないんだね」
「・・・え?」
「君も上で見ていただろう?ウチの職員が目まぐるしく動き回っていたのを」
「え?は、はい…でも上条がいるのはこの下なんですよね?だったら上の状況と上条との間に一体どういう関係が…」
「実を言うと、僕もただならぬ予感を自分の肌で感じとったんだよ。それでついさっき地下にいる彼の様子を見てきたんだが、彼には何の異常どころか変化も見られなくてね。ただの自分の思い過ごしだと思った…だが、僕の恐れていた予感は、外れるどころかより悪い形で現実に表れた…」
「より悪い…形って…」
「病院に入院している意識不明のSAO患者全員の心拍数と脈拍が原因不明のまま急激に低下し始めたんだ」
「!?!?そ、そんな…!」
「それをもって彼らが亡くなるというわけではない。だが、もし仮にこのまま彼らの容体が好転しなければ…」
冥土帰しは自らの言葉をそれ以上続けることはなかった。しかし、その言葉がそれ以上続いていれば最悪の事態が告げられていたであろうことは想像に難くなかった
「なんとか…なんとかならないんですか先生…!」
「残念だが…僕らの手ではどうすることも出来ない。加えて、奇妙なことにこの事態はこの病院に限ったことじゃない。どうやら世界中で意識不明になっているSAO患者全員が全く同じ症状を見せているらしい」
「せ、世界中…!」
「電話で連絡を取り合っている病院の医者の人たちは口々にこう言っている…『まるで見えない何かに生命を吸い取られているようだ』…とね」
「み、見えない何かって…一体どんな…」
「・・・分かることはただ一つ。そんな状況でも必死に自分の出来る限りを為し、戦い続けることだ…目の前の彼と同じようにね」
「・・・上条…」
会話を続けながら歩いていた2人は、気づけば自分たちが目指す部屋にたどり着いていた。ガラス越しに見える部屋の向こうには、巨大な白い直方体の機械を頭に装着した上条がベットに寝そべっていた
「普通ならこのメディキュボイドは終末期医療を受ける患者が使うべき代物だがね、今回だけは特別に僕が彼だけに使用許可を降ろした。彼ならば、今上で苦しんでいる患者のみんなを救ってくれるものだと信じて…」
「・・・ッ…」
吹寄制理は胸が痛んだ。目の前の彼の姿が見舞いに通い続けていた当時の彼と重なって見えたからだ。頭に装着している物こそ違えど、事実上寝たきりの状態の彼を見ると思い出してしまっていた。しかし、吹寄は何かを払拭するように頭をぶんぶんと振り回すと、ガラスの向こうの彼から冥土帰しの方へと視線を戻した
「・・・もう大丈夫です。上に戻りましょう」
「・・・え?僕は別に構わないが…彼から離れてしまっていいのかい?確かにこの部屋は普段は滅菌されていて入室は叶わないが…彼の場合は別だから特段入っても支障はないよ?」
そんな冥土帰しの言葉に、吹寄は首を横に振った
「ええ。大丈夫です。きっと今も彼は戦っているんです。そんな時に彼の心配だけしていたら…きっと起きた時に怒られてしまいます。だから、私も今自分が出来ることをしたいと思います。この病院の患者さんの為に私が出来ることはありませんか?お手伝いさせてください」
「・・・分かった。そういうことなら頼りにさせてもらうんだね。上に戻ったら先の受付嬢君に指示を仰ぐといい」
「はい!ありがとうございます!」
「では、早いところ上に…」
「あ、ごめんなさい。少しだけ待って下さい」
トンッ…
吹寄は上条の眠る部屋のガラスにそっと右手を置いた。そして祈るように目を閉じると、ガラス越しの彼に話しかけるように話し始めた
「・・・気張りなさい上条当麻。こっちのことは全部任せておきなさい。だからお前も…精一杯ぶちかましてきなさい…!」
「・・・・・」
「・・・すいませんお待たせしてしまって。今度こそ戻りましょう」
「・・・そうだね。そうしよう」
そう言って冥土帰しと吹寄は彼の部屋を後にした。その時の吹寄の表情にはもはや一抹の不安すらも残されてはいなかった