とある魔術の仮想世界[2]   作:小仏トンネル

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第57話 神の一撃

 

「・・・・・」

 

ヒュウンッ…!

 

 

オティヌスは何も口にせず、甲高い音と共に周りの空気を切りながら槍を軽く振った。そして物々しい表情でその槍を両手で持ち直した

 

 

「『主神の槍』」

 

ゴウッッッ!!!!!

 

「ッ!?!?」

 

 

オティヌスがその『槍』の名を告げ、術式を発動した。その瞬間、まるで周囲の空間が捻じ曲がるかのような圧倒的な威圧感に包まれ、上条は思わず息を呑んだ

 

 

「言っただろう?一撃だと」

 

 

曰く、その一撃は神代の一投。北欧神話より語り草となっているその槍には、いくつかの役割が存在する

 

一つ、その槍の本質は投げ槍である

 

一つ、その槍を投げれば必ず標的に命中する

 

一つ、その槍は途中で撃ち落とされることも、破壊されることもない

 

一つ、その槍は標的を貫いた後、必ず持ち主の手へ返る

 

 

そしてーーーーーーー

 

 

一つ、その槍は人間の権威の象徴を打ち砕く

 

 

おそらくこの一点が、主神の槍にとって最大の力であり、北欧の主神の持つ最も重要な意義とも言えるだろう。つまり、この槍の要素が意味するのは……

 

 

「『人は神に勝てない』」

 

 

あまねく『神の力』を象徴した必殺必中の槍は、闇の世界で輝く一筋の光となり、オティヌスの手を離れた

 

 

 

「さらばだ。この世界もろとも消えて亡くなれ」

 

 

ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッッッッッッ!!!!!!

 

 

その瞬間、時間は止まった。空間は圧搾された。ALOという位相をまるごと破壊しながらその槍が上条に迫る。常人であれば垣間見ることさえも許されぬその一投。しかし畏れ多くも上条当麻は、自分の両手で握った黄金の剣で黄金の槍を迎え撃った

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

 

『主神の槍』と『天叢雲剣』がぶつかり合った。周囲を包むのは眩いばかりの閃光。その衝撃に剣を支える上条当麻の全身は悲鳴をあげていた

 

 

「ッ!?!?…あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

ぶつかり合うのは『無限の可能性』と『10000人の願いの結晶』。どちらが大きいのかと言えば、数字で見るならもはや比べるまでもない

 

火花を散らすのは『神の一投』と『人間の一刀』。もはや比べることすら烏滸がましい。それが齎す結果は、明確な『神』の勝利と『人間』の敗北

 

 

「・・・フッ…」

 

 

オティヌスは勝利を確信し、微かに笑った。この瞬間に自らの悲願が果たされることを信じて疑わなかった

 

 

しかし、次の瞬間彼女が見たのはにわかには信じられない光景だった

 

 

「・・・・・?」

 

ピシッ!!!

 

「ッ!?ば、バカなっ!?そ、そんなはずが…!?」

 

 

不躾な音とともに『主神の槍』にヒビが入った。その事実にオティヌスは驚愕せずにはいられなかった。そして、そのヒビが段々と広がっていき『主神の槍』は音を立てて崩れ始めた

 

 

バキッ!バキバキッ!!バキバキバキバキバキバキバキバキッッッ!!!

 

「だ、ダメだ…やめろ…やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

バキイイイィィィィィンッッッ!!!

 

 

『主神の槍』が粉々に砕け散った。その金色に輝く破片が黒一色の世界に飛散していく。『人の願い』が『神の意向』を打ち破った

 

 

「ぁ…あぁ……ああああ……!!」

 

 

隻眼の魔神は、その片目を潤わせながら金色の欠片へと手を伸ばす。しかし、無情にもその欠片たちは彼女の手から漏れていき、その一片を掴むことさえも許されなかった

 

 

「・・・お前は間違えたんだ、オティヌス」

 

「・・・間違…えた…?」

 

 

上条は黄金の剣を背中の鞘に納めた。黄金に輝く剣はその光を失い、元の見すぼらしい始まりの剣に戻った

 

「お前の願いは独善的な物なんだよ。『元の世界に戻りたい』なんてそれはお前から見た世界でしかない。まして、そこに戻りたいのはお前だけだ。いくら神様だなんだなんて肩書きを並べても、そこにSAOにいたみんなを巻き込んでいい理由にはならない」

 

「そ、そんな願いは貴様らSAOプレイヤーだって同じではないのか!?仮想世界に囚われ、現実の…元の世界に戻りたいから必死に足掻いたのではないのか!?その願いの結晶がその剣なんじゃないのか!?」

 

「違う!!」

 

「!?」

 

「確かに俺たちは必死に願ったよ…元の世界に戻りたい。そう思って戦った…だけど!それはお前の願いとは違う!俺たちは受け入れたんだ!仮想世界をもう一つの現実だと受け入れて戦ったんだ!別の世界を違うものだと切り離して自分だけが元いた世界を求めたお前とは違う!!」

 

「そんな弱いヤツに…そんな一人よがりの願いなんかに!俺たちの10000人の願いは負けない!あの『槍』がアインクラッドそのものだとしても!あの世界を乗り越えた俺たちが負けるはずがない!」

 

「ッ!!」

 

 

上条当麻の言葉はどこまでも真っ直ぐだった。その眼光はオティヌスの片目を真っ直ぐに見つめていた。そして、彼女の心に突き刺していくように語り始めた

 

 

「その世界に自分が生きているなら…それは間違いなく本物なんだ!俺たちはそうやってSAOを…アインクラッドを生きた!」

 

「仲間とバカやって、冗談を言い合って笑うのは…楽しかった」

 

「どっかの店で食う飯も、自分で苦労して獲った食材を使った飯も…たまにみんなで食卓を囲んで食う飯も…美味いと感じた」

 

「優しくしてくれたり、世話を焼いてくれたり、心配してくれたりした人の心は…温かかった」

 

「自分の知らない景色や誰かの幸せを見れば…感動した」

 

「強敵や強いボス、何より自分の恐怖と戦うのは…辛かった」

 

「自分や自分以外の誰かがピンチになって死と直面するのは…苦しかった」

 

「大切な人や何かを失って、泣いている誰かを見るのは…悲しかった」

 

「例えどんなに不幸でも、あの世界で生きて仲間と過ごした日々の全てが…幸せだった」

 

「だから本物なんだ…例え誰かに作られた世界でも、日は昇って沈んで、時間は過ぎていく。そのかけがえのない時間を共に過ごしたみんなも…何もかも本物なんだ!」

 

「だから…生きろよオティヌス。元の世界だけを望むんじゃなく…今ある世界を受け入れてみろ!今ある世界を生きてみろよ!パン屋さんだってお花屋さんだっていい!今自分が生きてる世界を…一生懸命に…後悔しないように…」

 

「笑って生きろ!!!」

 

「!!!!!」

 

「それでも…もし挫けそうになったり、もうダメだと思ったら…また俺が何度でも救ってやる!」

 

「違う世界を受け入れてみて、それでもやっぱり自分の元いた世界がいいって思ったならそれはいい!また違う方法で自分の元いた世界を追い求めろよ!」

 

「けどな…作っただけで大して見向きもしないで他の世界を否定して、元いた世界に縋り付くなら…俺はお前を止め続ける!!」

 

「ああそうだよ…例えどんな世界でも根底にあるのは何も変わらないんだよ…自分の生きた世界に大切な物があるから…大切な人がいるからその世界をこれからも生きたいと思うんだ!」

 

「だから俺はこの右手で拳を握り続ける。俺の現実は…俺の世界はSAOで生きた人たちを取り戻さなきゃいつまでたっても始まらねぇんだ!!」

 

「だからオティヌス…お前が自分のいた世界だけが本物で他の世界が偽物だって言い続けるなら…」

 

 

 

 

 

 

「そんな幻想は!俺が何度だってぶち殺す!!!」

 

 

 

 

 

 

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