とある魔術の仮想世界[2]   作:小仏トンネル

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第59話 目覚め

 

ガチャンッ!!

 

「・・・つぁ〜〜〜…終わったか…」

 

 

ALOから生還した上条当麻は頭部に装着したメディキュボイドのヘッドギアを外すと、ベットから起き上がり思いっきり上半身を伸ばした

 

 

「オティヌスのやつ…最後の最後で…///」

 

 

現実世界に帰る直前にオティヌスの唇が当たった頬に手を当て、そのまま赤面する上条。仮想世界での出来事のはずなのに、何故かその感触や唇の熱が残っているような感覚を感じた

 

 

「っと、今はそうじゃないな…誰もいないのか…えっと時間は…」

 

 

そう言って上条はALOにログインした3日前から着替えていないズボンのポケットに突っ込まれているスマホを取り出すと、電源を入れて現在の時間を確認した

 

 

「朝の6時半か…そりゃ誰もいるわけもないな。とりあえず先生を探しに出るかな…よっと!」

 

 

スタスタスタスタ…ガチャ!

 

 

ベットから立ち上がると、上条は自分の入っていた部屋のドアを開けて廊下に出た。そしてしばらく廊下を歩いて上に続く階段を上り、またしばらく歩くと病院のロビーに着いた

 

 

「えっと…受付…閉まってんな。そりゃそうだろうな。そういうことならとりあえず先生の部屋を…おわっ!?」

 

「すー…すー…」

 

 

上条は受付窓口に目をやったが、なにしろ時間が早すぎるため案の定シャッターが閉まっていた。諦めてカエルによく似た顔の医者の部屋を目指そうと思い、ふとロビーの周りを見回した。すると、待合所のソファーに吹寄制理が横たわっており、気持ちよさそうに寝息を立てながら眠っていた

 

 

「えっと…なんで吹寄がこんなとこに?てかなんでこんな時間に?」

 

「すー…すー…zzz…」

 

「えーっと…吹寄さーん?朝ですよー?上条さんですよー?分かりますかー?」

 

ペチペチ…ペチペチ…

 

 

一先ず眠っている吹寄を起こそうと思い立った上条は、ソファーの前に跪き彼女の頬を軽く叩いた

 

 

「んっ…んー…あさ…?」

 

「あ、起きた。吹寄ー?こんなとこで何してんだー?」

 

「・・・かみ…じょう?」

 

「はーい。上条さんですよー?こんなとこで何してんだー?」

 

「・・・えっ!?上条!?なんでお前こんなところに!?」

 

「そりゃこっちのセリフだ。なんでお前の方こそ病院のロビーn…もんがっ!?」

 

グニグニグニグニ…

 

「平気なの!?大丈夫なの!?どこか痛むところとか…!栄養ドリンクとか健康食品ならあるけど何かいる!?」

 

ペタペタペタペタ…

 

 

目が覚めてソファーから起き上がった吹寄は上条の顔を認識するなり、彼の言葉を遮って彼の頬や顔をぐにぐにとこねくり回し、その身体をペタペタと触り始めた

 

 

「だ、大丈夫!大丈夫だって!どこも痛むとこもなんにもねーから!水も食い物も今はいーって!」

 

「そ、そう…はぁ…よかった…」

 

 

彼の言葉を聞くと、吹寄は彼の体から手を離し、ほっと息を吐いて胸を撫で下ろした

 

 

「って!それはそうと!貴様が起きてきたってことは!全部終わったのね!?みんな助かったのよね!?」

 

「・・・ああ、全部終わったよ。大変だったけどみんなのお陰でどうにかなったよ。でも、もう全部元通りだ。今まで迷惑かけたなふきよsッ!?」

 

ギュッ!

 

「よかった…本当に…本当に…本当によかった…」

 

 

言葉の終わりを待たずして吹寄が上条の身体を思いっきり抱きしめた。そしてその瞳から大粒の涙が次々に溢れ出した

 

 

「ふ、吹寄…し、死ぬ…生きて帰ったけどここで死ぬ…」

 

「・・・はっ!?///ち、ちちち!違うのよ上条!?これはあくまでも貴様をずっと心配してたが故の抱擁であって決して邪な思いがあったというわけではなくて!///」

 

「ぶはっ!?だー死ぬかと思った…」

 

「ご、ごめん…///」

 

「ったく…ほら、返すよ。これ」

 

「え?あ、私のヘアゴム…」

 

 

上条は自分の左手に通したヘアゴムを外すと、吹寄に手渡した

 

 

「そのヘアゴムのお陰もあってか、無事に帰って来れたよ。吹寄には感謝してもしきれねぇよ…ありがとな」

 

「ううん、私の方こそありがとう」

 

「はぁ〜…まったく、昨日あんなに働き回ってたというのに随分と元気だね、君」

 

 

上条と吹寄が騒がしくしていたのを聞いていたのか、ロビーの奥の廊下の方から頭を掻きながら冥土帰しが歩いてきた

 

 

「あ、先生!おはようございます!すいません病院のソファーで勝手に眠ってしまって…!」

 

「いやいや、こちらこそ君のような熱心な働き手がいてくれたおかげで病院としてもかなり助かったんだね。それよりも…」

 

 

冥土帰しは自分を見るなり必死に頭を下げる吹寄を片手で制し、礼を返すと、上条を一瞥し口を開いた

 

 

「君が目覚めたということは…全てに決着が着いた…といことだね?」

 

「はい。先生の協力もあったおかげです。本当にありがとうございました」

 

 

そう言って上条は今一度息を深く吸い直し、世話になった冥土帰しへ深々と頭を下げた

 

 

「そうか…やっと…やっと終わったのか…いやこちらこそ礼を言わせてもらうよ上条当麻君。僕の患者を救ってくれて…本当にありがとう」

 

「いや、俺が何も心配せずに仮想世界で戦えたのは先生の貸してくれたメディキュボイドがあったからです。この病院でログインしたおかげで色々助かったこともありましたし…本当にありがとうございました」

 

「?なんのことかはよく分からないが…決して僕だけの力ではないんだね。そこにいる彼女も昨夜は君のためにこの病院の職員と一緒になって頑張ってくれていたんだね?」

 

「え?そうなのか吹寄?」

 

「別に大したことはしてないわよ。呑気に寝ていた貴様には分からないだろうけど、昨日は男子寮の貴様の部屋を訪ねてみてももぬけの殻だったからこの病院に来てみれば、もう職員総手の大忙しでね。私も機械出しやら片付けやらを手伝ってたのよ」

 

「呑気に寝てたってひっでぇな…俺だって頑張ったんだぞ?」

 

「ははは、まぁここはみんな頑張っていたということで手を打とう。さて、SAO患者のみんなが今ごろ起き始めるだろうね?これからまた忙しくなりそうだ…」

 

「あ!先生!私も手伝います!」

 

「んー、それはいいんだけどね君」

 

「へ?」

 

「今日は月曜日だね?大学の方は大丈夫なのかい?」

 

「・・・上条、今何時だ?」

 

「えーっと…さっき起きた時に時間見たら6時半だったから…大体7時ぐらいじゃないか?」

 

「・・・1限遅れるーーー!!!」

 

ダダダダダダダダダッッッ!!!!!

 

 

上条から時間を聞くなり吹寄は血相を変え、そばに置いておいた自分のカバンを乱雑に掴むと、一目散に病院のドアから飛び出し自分の家に向かって走り出した

 

 

「車に気をつけんだぞー?」

 

「もう多分聞こえてないね…まぁ彼女なら心配せずとも大丈夫だろう。それより上条君?」

 

「はい?」

 

「多分これからきっとまた病院内は慌ただしくなる。そうなると面会に時間を割くのは難しくなるね?そうなる前に『彼女』に会いに行ってて来たらどうだい?」

 

「ッ!!!」

 

ダダダダダダダダダッッッ!!!

 

 

冥土帰しの言葉を聞くと、上条は血相を変えて病院のロビーから廊下に向かって駆け出した

 

 

「全く…君の方こそコケないように気をつけるんだね?正直今日はあまり病人が増えてほしくないからねぇ…まぁ患者がここに来る以上、僕は誰であろうと救うがね…さて、まずは昨日寝泊まりしてくれた職員を起こしに行くとしよう」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 

上条は廊下を走るスピードをそのままに階段を駆け上がると、御坂美琴の病室の前に辿りついていた。そして病室のドアに手をかけると、彼女の笑顔を想像しながら、期待を胸に勢いよくそのドアを開けた

 

 

ガラガラガラガラッ!!!

 

「美琴ッ!!!」

 

「・・・・・」

 

ピッ…ピッ…ピッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かの悪い夢だと上条は思った。ドアを開けた先で彼が見たのは、今までと何も変わらない光景だった。ベットで眠ったままの少女。その頭部には黒いヘルメットのような機械。そして部屋に響くのは彼女の鼓動を無感情に伝える機械音。上条は現実を受け止めきれず、その身体から血の気が引いていくのを感じた

 

 

スタッ…スタッ…

 

「な、なんで…なんで…なんでだよ…」

 

ガタンッ!!!

 

 

上条は顔面蒼白となり、虚ろな表情で彼女の眠るベットに近づいていく。しかし、彼女の表情は変わらない。やがて上条は美琴の眠るベットの前にたどり着き、彼女のベットに向かって崩れ落ちた

 

 

「目を…目を開けてくれよ美琴…俺は俺は…一体何のために…何のために頑張ったんだよ…お前が起きてくれなきゃ意味なんかないんだよ…美琴…美琴…」

 

「美琴ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

ついに上条の瞳から涙が流れた。その涙は彼の頬を伝い、御坂美琴の右手の上に落ちた。上条の喉は嗚咽を繰り返し、やがて涙は彼女の右手だけでなく、ベットにも染みを作り始めた

 

 

ピッ…ピッ…ピッ…

 

「うっ…くっ…ううっ…」

 

ピッ…ピッ…ピッ…

 

「・・・・・ぷっ…ふっ…」

 

「うっ…………え?」

 

「ふふっ…くふっ…ふふふふふ…っ」

 

 

美琴のベットに縋り付いて泣いていた上条が何かに気づいた。誰かが笑ったような声だった。それに気づいて顔を上げると、御坂美琴の肩が小刻みに揺れているような気がした。それを注意深く見つめていると次の瞬間…

 

 

バッフォォォォォ!!!!!

 

「あっはっはっはっはっは!あーはっはっはっはっはっは!もう無理!ウケるー!あははははははははは!!!」

 

 

御坂美琴が掛け布団を蹴飛ばし、その勢いで飛び起きると大声で腹を抱えて笑い出した

 

 

「・・・・・へ?」

 

「はは、あははは…あー笑った。お腹痛った…」

 

「・・・・・は?」

 

 

そう言って彼女は一頻り笑い終えると、その頭を覆っていたナーヴギアを取り外し、少し伸びた髪の毛を頭を振って整えた

 

 

「ふぅ、すっきりした…だからいい加減気づきなさいよ。ドッキリよドッキリ。アンタの足音聞こえたから寝たふりしてたってわけ」

 

「・・・・・」

 

「そしたらアンタ急にベットに縋り付いて私の名前叫んだと思ったら急に泣き出し始めて…本当何歳よアンタって思って…ぷっ!」

 

 

「・・・テメェゴルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

「え!?ちょっ!?きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?///」

 

ドッサアアアアア!!!!!

 

 

上条当麻は激昂の叫びと共に、鬼の形相を浮かべると美琴のベットに飛び乗り、勢いそのままに彼女の両腕を掴んで強引にベットに押し倒した

 

 

「あのなぁ!俺が一体どんだけ心配したと思ってんだお前はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

 

「ふぇぇぇぇぇっ///!?ちょっ!?ちょっとタンマ!冗談だってば!顔…顔近いんだってばぁぁぁぁ!!!//////」

 

「知るかそんなもん!大体俺がSAOクリアしてからどんだけ悲壮感にまみれた日々を過ごしたか分かってんのかお前h…!」

 

ガラガラガラガラッ!!!

 

「お姉様、先生からお姉様が目覚めたと聞いて参りました。と、ミサ…」

 

「「あ…」」

 

 

上条が美琴を無理やりベットに押さえつけていると、急にドアが開き御坂美琴と瓜二つの少女、軍用クローン妹達の10032号が病室に入ってきた。しかし、ミサカ10032号は部屋の惨状を見るなり、言葉を失った

 

 

「・・・なるほど。そういう雰囲気でしたか…これは失礼しました。と、ミサカは何も見なかったことにして部屋を後にします」

 

ガラガラガラガラ…バンッ…

 

「ちょおっとおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?御坂妹さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!?!?誤解だからね!?誤解なんだからねぇぇぇ!?」

 

ダダダダダダッ!!!ガラガラガラガラッ!!ドドドドドドドドッ!!!

 

「あっ!ちょっと!行っちゃった…まぁいいか…よいしょっと!…んーーーっ!」

 

 

上条がミサカ10032号を追いかける後ろ姿を見送ると、御坂美琴は身体に少し力を込め、ベットから立ち上がり腕を上げ思いっきり伸びをした

 

 

「んーーーっ!!うぁーーー…やっぱ二年も寝てただけあって鈍ってるなんてもんじゃないわね…まぁそもそも普通は栄養失調の上に筋力も衰退して立ち上がるどころじゃないんだろうけど…そこは流石の学園都市の医療技術ってとこかしら…」

 

 

そう言いながら身体の感触を確かめながら、ふと病室の窓の外に目を向けた。すると窓からは気持ちのいい風が吹き抜け、清々しく輝く朝日が学園都市を照らしていた

 

 

「・・・ただいま」

 

 

美琴は窓に手を当てると、眼下に広がる学園都市に向かってそう呟いた。そして…

 

 

「嬉しかったわよ…最初にアンタの顔が見れて…」

 

 

その言葉は誰に届くでもなく、五月の風に運ばれて飛んでいった。そして彼女の赤く染まった頬を、朝日が優しく温めていた

 

 

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