TS転生したからロールプレイを愉しむ   作:ドスコイ

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第五話(裏)学術的興味と言うやつである

《良いかえ? 人間は皆、それぞれ生まれながらに得手とする”属性”を備えているのさ》

 

 五歳の誕生日を迎えたその日、俺の魔女としての本格的な修行が始まった。

 黒板の前でチョークを片手に講義をする師匠の姿は正に熟練の女教師。

 英国あたりの格式ある学園学院の教頭先生ってこんな感じなのかなーって。

 

《属性……性癖ってことですか?》

 

 師匠は無言で俺を張り倒した。

 痛みが後からやって来て気付けば床を舐めていると言う電光石火の平手打ち。

 

《剣士であろうが魔法”モドキ”を使う連中であろうが主婦だろうが絵描きだろうが、皆属性を備えている》

 

 師匠ってどんな下着つけてるんだろう?

 倒れ伏す俺はそんなことを考えていた気がする。無論、性的な欲求に基づくものではない。

 心に逸物を備えているとは言え老婆相手に欲情するような奇特な属性の持ち主ではないのだ。

 ゆえにこれは純粋な好奇心、学術的興味と言うやつである。

 

 ――――そんなこと考えてたらヒールで顔面踏まれました。

 

《痛い痛い痛い痛い!? ごめんなさい師匠! 私が悪かったです!!》

 

 師匠は無言で俺を座席まで放り投げた。

 体罰かよ! 暴力教師かよ! と抗議しようかとも思ったがよくよく考えなくても悪いの俺である。

 

《ルークス、属性とはどう言うものだと思う?》

《え? そりゃまあ……》

 

 真面目に考えるならあれだろう。

 魔女になるための修行してんだからRPGとかでよく使う魔法の属性そのままじゃねえの?

 

《火、水、風、土、闇、光――とかですか?》

 

 とりあえずオーソドックな六つを挙げてみた。

 

《惜しい、光を除けば満点だったよ》

 

 言いつつ師匠は俺の机にキャンディを一つ置いた。

 その場で包装紙を剥がして口の中に放り込んだが師匠がそれを咎めることはなかった。

 

《光は入らにゃいんでふか?》

 

 正直、腑に落ちない。

 火と水、風と土、闇と光、先ほど挙げた六つはそれぞれが対になっている。

 闇が入らないならともかく闇を入れてあるのに光を除くのは……何か据わりが悪い。

 

《んぐ……光と闇とかどう考えても切り離せないっしょ。光がうっちゃんなら闇はナンちゃんじゃないっすか》

 

 もしくは光のきよし、闇のやすしか。

 

《お前が何を言っているかは分からないが、まあ順序立てて説明してやるからお聞きよ》

《Hai!》

 

 元気良く返事をしたつもりだが頭にゲンコツを落とされてしまった……解せぬ。

 

《確かに火や水は対になっていると言う考え方も出来るだろう。

実際に対であることを基礎とした概念も後々教えるつもりだしね。

だが今回の話に限って言えば対がどうとかを考える必要は無いのさ》

 

 言って師匠は黒板の前にキャンバスを出現させた。

 そしてその手には絵筆とパレット……音楽の先生っぽいが美術教師も案外似合うなこのババア。

 

《火、水、風、土、この四つは万物の基礎さ、総ての物質はこの四つから構成されている》

 

 赤、青、緑、黄、パレットの中には四色の絵の具が注がれている。

 師匠はそれらを混ぜ合わせながら多種多様な色をキャンバスに描いていった。

 

《沢山の色が生まれたね。じゃあ、これを全部一緒くたにしてしまえばどうなると思う?》

《そりゃ黒になるっしょ》

 

 小学生の時、絵の具で遊ばなかった人間は居ないはずだ。

 思い付く限り全部の色混ぜたらどんな色が出来るんだ!? すげえ色出来るんじゃね!?

 と期待して混ぜていった結果のガッカリ感を俺は覚えている。

 

《その通り。単に黒を作るだけなら組み合わせは色々あるが……》

《”色”だけに!?》

 

 チョークが俺の額を撃ち抜いた――解せぬ。

 

《話を戻すよ、黒へと至る道は多種多様。何を組み合わせて行っても最終的には黒に至る。

それはつまり黒は総てを内包しているとも言い換えることが出来ると思わないかい?》

《始点であり終点ってことですか?》

《その通り。それが闇の本質さ》

 

 火、水、風、土、この四つは物質の基礎。

 それも含めた形の無い概念ですら内包した原初にして終末の混沌――それが闇。

 始まりであって終わりだが終わりでも始まりでもない。

 そう考えると対も何もあったものではないなと俺は納得した。

 

 おおう、俺の中に眠る中学二年生が疼きやがるぜ!

 

《じゃあ光の立ち位置は? それについては後々説明するとしよう。今日の講義には関係の無い話だしね》

《はーい! それで、何でしたっけ? 人はそれぞれ属性持ってるって話でしたよね?》

 

 先ずは属性についての理解を深め、その後本題に。

 話の流れ的にはそんな感じだろう。

 

《ああそうさ。己の属性を知ると言うのは重要なことでね。

自覚の有無によってその後の人生がガラリと変わる。

火の属性を持つ人間が水の属性に沿った道を進んでも意味は無い。

火の属性を持つ者は火の道を、水の属性を持つ者は水の道を。

何処をどう目指すにしても己の属性に沿ったやり方でなくば大成することはあるまいよ》

 

 ようは向き不向きってことか。

 

《ルークス、お前は火の属性を持つ人間と言われて何を思い浮かべる?》

《えーっと……やっぱ感情の起伏が激しい人とかですかね》

《普通はそう思うだろう? だが、そうとは限らないんだよ。

この話の性質が悪いところは本人の気質と属性が必ずしも合致する訳じゃないってところさね》

 

 あー……確かにその通りだ。

 自分の性に合ったやり方してれば上手く行くなんて分かり易過ぎるからな。

 もしそうなら、誰だって成功を手にしている。

 

《ルークス、お前は最終的に始原の魔女を継ぐことになる》

《Hai!》

《だがその道のりは遠い、千年経っても修行は終わらんだろう》

《Hai!》

《……もう面倒になって来たから前振りは無しだ。本格的な修行を始める前にお前の属性を調べるよ》

 

 その属性に沿って俺を育成する訳か。

 しかし、俺の属性ねえ……イマイチ想像が出来ないや。

 

《Hai! でもその前に一つ、師匠の属性って何なんです?》

《あたしかい? あたしは闇さ》

 

 闇属性のツンデレババアとかたまんねえな!!

 

《クッ! あたしの右腕がギザ震えりんぐ……!!》

《……お前には仕置きが必要らしいね》

《ドンと来い!!》

 

 と威勢よく啖呵を切った俺の額に師匠は人差し指を押し付けた。

 すると、

 

《お? おぉおおお? な、何か身体から力が溢れて……師匠、これどうなってんです?》

《あんたの中に宿る属性の力を暴走させた》

《暴……!? え、ちょ……それって……》

 

 ずずず、と俺の肉体から闇が噴き出した。

 決壊した堤防から噴き出す濁流の如き勢いで青空教室が漆黒に染め尽くされていく。

 

《あたしと同じ闇属性のようだね》

《そ、それは良いんですけどやばくね!? これやばくね!?》

 

 ほーんと暢気かましてる師匠だが俺はそれどころではない。

 何がやばいかは分からないけど本能が警鐘鳴らしっぱなしなんですけど!?

 

《反省しました! ごめんなさい! ホントもう心から悔い改めます! だから……》

《折角だ。お前がどれ程の器なのかを見極めるとしよう》

《はぁ!?》

《暴走させたままにしておけば、自ずと底も見えて来るだろうて》

 

 だろうてじゃないんですけど!?

 

《うっそ、やべ!? これマジで危険な感じなんですけど!!》

 

 空が消えた。

 大地が消えた。

 手足の感覚が消えた。

 音が消えた。

 何もかもが黒で塗り潰されていく。

 

《あばばばばばば……!!》

 

 こうして俺は記念すべき二度目の死を迎えたのである。

 

 

 

 

「(……自分を見失って死ぬ羽目になるとはお釈迦様でも予想出来めえ)」

 

 むくりとベッドから起き上がる。

 随分と懐かしい夢を見たものだ。

 あの後、生き返った俺は五歳児に対してハード過ぎないかと抗議したのだが当然スル―された。

 だがまあ、俺が今こうして魔女を継いでいるんだから師匠の指導は間違っていなかったのだろう。

 

「(あの二人は上手くやってるかねえ)」

 

 シンちゃんもポチも力を欲している。

 だもんで、折角環境も変わったんだしと冒険者になることを勧めてみた。

 俺が鍛えてやれれば良かったんだが、生憎とそのノウハウが無い。

 

 最初は師匠の真似をしてみることも考えたが、それはそれで問題だろう。

 

 第一にあの修行は強くなるものではなく魔女になるためのもの。

 結果として力も身に着くが純粋な強さを手に入れるには遠回りにもほどがある。

 第二に師匠の指導は俺に合わせたもので他人に適用出来るものではないと言うこと。

 まんま同じことをしても多分……いや間違いなく二人は壊れてしまうだろう。

 乙っても蘇らせることは出来るが、その前に心がぶっ壊れる。

 

「(他に俺が出来ることと言えばパラメーターを弄って強くするぐらいだが……)」

 

 流石にそれは身も蓋も無さ過ぎる。

 シンちゃんにはスカー・ハートを与えたけど、あれはあくまであの子の心ありきの代物だからな。

 

「(だったらもう、他人に丸投げするっきゃねえよ)」

 

 心・技・体、シンちゃんの場合は良かれ悪しかれ心は強いが他は未熟。

 体に関してはスカー・ハートで補えるとしても技術に関してはからっきし。

 ポチの場合は体は整っているが他は駄目。

 圧倒的な力で技を押し潰すことも出来るが、格上にはそれも通じない。

 

 各々が欠けている何かを見出せるように俺は彼らの力を封じた。

 強くなりたいと言う意思が本物であれば冒険者達から勝手に学習するだろう。

 そのついでに、僅かなりとも心動く良い出会いがあればとも期待しているが。

 

「(心配なのは問題を起こさないかどうかだが……)」

 

 そん時は俺が尻を拭けば良いだけの話だ。

 

「(しかし、あんな懐かしい夢を見たのは……)」

 

 二人のことがあったから――ではない。

 

 どうやら俺は俺が思う以上に女々しい男だったようで。

 まだまだ師匠との別離を呑み込めていないのだ。

 だから輝ける日々を夢に見てしまう。

 これがただの人間であったなら記憶の整理をしていた、関連付けられる出来事があったから呼び起された。

 

 そう解釈することも出来るが生憎と俺は魔女だ。

 

 人がましい脳の機能なぞとうに喪失してしまっている。

 真っ当な人間の構造では深淵を覗けない。

 世界の理にすら干渉してのける始原の魔女を継ぐ者とはそういう生き物なのだ。

 

「(うっわ、超恥ずかしい……やっべ、俺マザコンみてえじゃん)」

 

 頬が熱くなる……まあ演技力の数値を弄ってるので傍目には分からんだろうが。

 

「…………朝飯でも食うか、時間的には昼だが」

 

 この街で長期滞在するにあたって問題になったのは拠点だ。

 スペルビアの王都に居た際は貴族の屋敷を奪って根城に出来たがここだとそうはいかない。

 まずデカイ屋敷みたいなのが殆ど存在しないし、お国柄なのか気持ち良く奪えそうな相手も……。

 かと言って普通に宿に泊まるのはエレイシア的にNON!

 

 なのでちょぉおおおおっとだけこの街の空間を弄って無理矢理スペースを捻出させてもらった。

 そしてそこに面倒だが一から屋敷を築き生活の拠点に仕立て上げた。

 数年規模の長期滞在を見込み家事用の使い魔も作ったし、生活のクオリティは中々だと自負している。

 

「(オムレツおいひ~♪)まあ、食えぬこともないな」

「……」

 

 エレイシア的な賞賛に執事服を纏った黒猫がぺこりと頭を下げる。

 コイツこそが二人の世話用使い魔とは別途で仕立て上げた俺専用の使い魔。

 名はノクティス、不規則に変化する俺の生活パターンにも対応して世話焼いてくれる優れ物だ。

 どこからどう見てもネコにゃんにしか見えないがパラメーター弄ってやればネコだろうと一流のバトラーに早変わり。

 四足歩行でも魔術もどきを使えるようにしてやれば料理も掃除も問題なくこなせてしまうのだ。

 

 ん? 何でネコにしたのかって? 魔女と言ったら黒猫だろキキとジジ的に考えて。

 

「しばらく工房に籠る」

 

 食事を終え、ノクティスの頭を軽く撫でてから地下の工房へと足を運ぶ。

 まあ、工房と言ってもだだっ広いだけでなーんも無い地下室なんだがな。

 

「(さて、やるか)」

 

 ポチの襲来により一旦棚上げとなったシンケールス侵略計画。

 今は次またポチが現れても退けられるようにと対策を立てているが侵略は必ず行われる。

 だから俺はシンケールスに味方をする口実となるような人間を探すためこの国にやって来たのだ。

 

 とはいえ、計画が再開されるまで最低でも2,3年はかかるだろう。

 

 その間、良さそうな人間を探すことだけに時間を費やすのも勿体ない。

 他にも何か出来ることがあるのではないか? じゃあ何が出来るんだ?

 昨夜酒を呷りながらそう自問自答し……俺は天啓を得た。

 

 ――――NPCを作ろう。

 

 極論、ロールプレイをするために必要なのは他人と演じるキャラクターの設定だけ。

 だがロールプレイを輝かせるのは物語(ぶたい)だ。

 俺や俺と相対する誰かが上がるステージを整えるための手足としてNPCを作成・利用する。

 

「(我ながら罰あたりなことやってんなー)」

 

 部屋の中央から出現した作業台、その上には一糸まとわぬ老人の死体が転がっていた。

 身よりも何もなくスペルビアのスラムで放置され腐り果てるのを待つだけだったこの死体がNPCの材料だ。

 

「(でも、魔女だからね。是非もないよネ!)」

 

 そっと手を触れ力を流し込む。

 すると陸に挙げられた魚のようにビクンビクンと震え始めボコボコと死体が隆起し始める。

 念入りに――それこそ細胞レベルで肉体を改造しているのだ。

 

「(……よし、器は出来たな)」

 

 小柄で枯れ枝のようだった老人の死体が今はどうだ?

 

 若々しい肌、肩まで伸びる艶やかなアッシュブロンドの髪、野性味滲む整った顔立ち。

 180cm半ばほどの長身と、イケメンキャラとして成立するギリギリまで搭載された高密度の筋肉。

 誰がこれを見て爺の死体だと思うのか。

 

 さあ、次は器を満たす中身の封入だ。

 

「ん」

 

 あらかじめ用意していた俺の魂の断片。

 それを口移しで死体に封じ込め命として成立するレベルにまで魂を増幅する。

 人造の魂を用意しても良かったが、造るよりも切り取る方が早いからな。

 魂切り取ったところで魔女である俺にはデメリットもないし。

 後は人格を設定し、必要な能力を弄って――――っと、完成だ。

 

「……」

 

 うっすらと瞳が開かれた。

 生まれたばかりなのでぼんやりとしているようだが、直に一個の人間として活動を始めるだろう。

 

「自分の名前が分かるか?」

「俺は……俺は……ダンテ……ダンテ・マルティーニ……ッ!!」

 

 獣性滲む獰猛な笑みを浮かべ、ダンテは己が名を高らかに謳い上げた。

 設定通りに動いているようだと満足していると、

 

「どうした?」

 

 真顔のダンテがじーっと俺を見つめていた。

 

「……服くれね?」

 

 そういやフルチンだったなコイツ。


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