TS転生したからロールプレイを愉しむ   作:ドスコイ

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第一話(表)や、野郎! ぶっ殺してやる!!

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 鬱蒼と生い茂る木々の隙間を縫うように疾走するマリー。

 その背後からは彼女の何倍も大きい、身体のあちこちに植物を生やした猪型のモンスターが迫っていた。

 

「ブモォオオオオオオオオオオオオオ!!」

「何か私、走ってばっかなんだけど! 走ってばっかなんだけど!?」

 

 勾配もあれば障害物もある野山だ。

 全力疾走するには、し続けるには向いていない環境。

 それでも速度を緩めずに走り続けていられるのは経験ゆえか。

 少しでも孤児院の食卓を豊かにするためにと野山に入っていた経験が今のマリーを支えているのだ。

 

「まあでもあの時と比べたら全然だけどね!」

 

 何故、モンスターに追われているのか。

 以前のように已むにやまれず――と言う訳では、勿論ない。

 れっきとした依頼である。

 始まりの街エデでマリーらが冒険者稼業を始めてから三ヶ月。

 そろそろ小慣れて来たし、少し実入りの良い依頼を受けようではないかと言う話になった。

 実入りが良いと言う事はそれだけ危険度も高いと言う事だが、足踏みをしていたら前には進めない。

 三人は熟考の末、ある依頼を受諾し、街から半日程の場所にある山へと踏み入った。

 

 そして現在、その依頼を果たすため必死に囮をこなしているのだ。

 

「(まだかな?)」

 

 背後から突き刺さる殺意の数も質も、あの時と比べると段違いだ。

 とは言えそれでも一歩間違えば死ぬ事に変わりはない。

 肌がひりつくような感覚を鼻歌交じりにこなすには、まだまだ経験が足りていなかった。

 

「来た! 合図だ!!」

 

 仲間達からの合図が空に浮かぶ。

 するとマリーはその場で急停止からのターンを敢行。

 迫り来るモンスターと真正面から向かい合い、そのまま背後へとすり抜けて行く。

 突然の方向転換、短い四本足ではそれに対処出来ずモンスターはマリーにかなりの距離を稼がれてしまう。

 

「よし、よしよし……おいでおいで」

 

 モンスターが諦めてどこかへ行ってしまわないよう、視認可能な距離を保つ事を心がける。

 そうしてマリーの体力の底が見え始めた頃、ようやっとゴールが見えた。

 200m先で、地面に描かれた魔法陣の上に立ち杖を構えるマレウス。

 ジャンヌの姿は見えない、だがそれで良い。

 

「(私とマレウスは真っ直ぐ、直線上に並んでる。だから後は……!)」

 

 マレウスとの距離が20mを切ったところでマリーはモンスターから見て左へと飛び退いた。

 

「!!」

 

 モンスターの瞳がギョロリとマリーを追うも、

 

「オラァ!!!!」

 

 反対側の草むらから飛びだしたジャンヌが勇ましい掛け声と共にその横っ面へバトルメイスの一撃を叩き込む。

 耳が痺れるような轟音が木霊するも、モンスターは健在。

 

「!?」

 

 左方のマリー、右方のジャンヌ、前方のマレウス。

 ターゲットが一瞬にして三つに増えた事でモンスターの気が散らばってしまう。

 本能に従い再起動を果たすまでのほんの少しの完全制止――最早詰みだ。

 

「穿て! ライトニング・ネェエエエエエエエエエエエエエエエエイル!!!!」

 

 マレウスの持つ杖の先から放たれた紫電の槍がモンスターの脳天を穿った。

 他の部位に当たっていれば、今少し暴れまわれたかもしれないが的確に急所を貫いた事によりモンスターは即死。

 小さな嘶きを上げ崩れ落ちた標的の姿を確認し、三人が安堵の息を漏らす。

 

「か、勝ったんだよね……? 私達」

「はい……はい……これで死んだ振りとかだったら、もう打つ手なしです」

 

 メディスンボア、今回標的となったモンスターの名だ。

 身体の表面に多様な薬草を自生させ、内臓の幾つかも薬効として使える事から見た目と合わせそう名付けられた。

 それなりにやれる冒険者であれば、倒すのは容易だがまだ駆け出しの域を出ない三人にとっては別だ。

 急所を正確に射抜く以外ではまず勝ち目がないだろう。

 

 と言うのも、メディスンボアは傷を負った際、表面の薬草を体内に取り込み効果のある薬に変え自身の傷を癒す習性があるのだ。

 通常攻撃でダメージらしいダメージを与えられるのは力持ちのジャンヌだけで、それにしたって微々たるもの。

 どう足掻いても削り切る事は不可能だ。

 そんな相手を標的とするのは無謀かと思うかもしれないが、無論勝算あっての事。

 三人の勝算、それは先程マレウスが使ってのけたライトニング・ネイルだ。

 

「ま、まあ私達にかかればこんなものよ!」

 

 ライトニング・ネイルはマレウスが使える魔法の中で一番威力と貫通力がある技だ。

 しかし、発動のためには詠唱だけでなく地面に魔法陣を書く必要があり、尚且つ一直線にしか飛ばせない。

 熟達すれば手を放れた後でもコントロール出来るのだろうが現段階では不可能。

 ゆえに少女らは一計を案じた。

 

「主に頑張ったの私だけどね!」

 

 先ずはマリー、その役目は囮だ。

 メディスンボアの巣に単身で喧嘩を売りに行き、準備が完了するまで散々に引っかき回す。

 準備が整ってから囮をすると言う案も出たが……それでは万が一がある。

 縄張りに敏感なメディスンボアが準備をしている真っ最中にやって来るかもしれない。

 そうなれば準備どころの話ではなくなる。最初からその行動を握っている方が(マリー以外は)よっぽど安全だ。

 

「いや、私も頑張りましたよ? 動けない間、マレウスの護衛してたの私ですし……ま、敵は来ませんでしたが」

 

 ジャンヌの役割は二つ。

 一つはライトニング・ネイルの発動準備に取り掛かっていて無防備になっているマレウスの護衛。

 二つ目はマリーが誘引して来たメディスンボアの横っ面に不意打ちをかます事。

 これによってメディスンボアの意識に空白を作り、

 

「し、仕留めたのは私よ!?」

 

 そこをマレウスがズドン! と言う寸法だ。

 

「……美味しいところを」

「……目立ちたがり」

「ハッキリ言いなさいよ!!」

 

 顔を合わせ聞こえるようにヒソヒソ話をする二人に青筋をおっ立てて叫ぶマレウス。

 緊張の糸が切れたからだろう、こんなやり取りが出来るのは。

 

「冗談冗談。私達の三人の勝ちだって分かってるよ!」

「っとにもう……ほら、さっさと解体するわよ」

 

 生きている状態のメディスンボアには三人の装備では刃一つ通せないだろう。

 だが死体となった今ならば話は別だ。

 どう言う仕組みかは解明されていないが、死ねば途端に耐久力が普通の猪と変わらなくなってしまうのだ。

 猪を解体した経験もある三人は手際良く毛皮を剥ぎ取り、その腹を裂く。

 

「納入しなきゃいけないのは睾丸、心臓、それと……ああ、こっちは私がやるから二人は……」

「毛皮の表面に自生した薬草の採取ですね? 分かってます」

「私達で使う分とお金に変えちゃう分で分けなきゃねー」

 

 てきぱきとした手付きながらも、サイズがサイズだ。

 中々作業は終わらない。

 本来ならもっと安全な場所でやりたいのだが、この巨体を移動させる手段がなかった。

 周囲に気を配りつつ黙々と作業をしていた三人だが、ふとマリーが口を開く。

 

「これ、お肉は食べられないの?」

「食べられるわよ。何? 食べたいの? でも宿じゃ焼き肉なんて出来ないし外でやる事になるわよ」

「女三人で肉を囲む光景と言うのは……何とも言えませんね」

「いや、それもあるけど孤児院にさ。送れないかなって」

 

 距離が距離だ。

 流石に生肉をそのまま送る事は出来ないだろうが干し肉にすれば日持ちさせられる。

 ただでさえ肉が食卓に上がる事の少ない孤児院だ。

 干し肉であっても喜んでくれる事は想像に難くない。

 

「あー……そう、そうね。うん、良い考えだわそれ」

「血抜きして、お肉を小分けにすれば……何とかいけそうですね」

 

 三人が腰につけているポーチはギルドから冒険者に支給されるもので、これが中々優れ物だったりする。

 ちょっとした道具を詰め込めば直ぐに限界が来そうなものだが、このポーチは見た目通りの容量ではない。

 ポーチの口を通す事さえ出来れば、かなりの容量を詰め込む事が出来るのだ。

 更に入れた物を取り出す際、意識して手を入れればちゃんと望み通りの物を取り出す事も出来たりする。

 

「三人で分担すれば何とか……持ち帰れるかしら?」

「じゃあ決まりだね。作業は増えるけど頑張ろう!」

「「おおー!!」」

 

 作業が追加された事で時間は更に伸び、三人がエデに帰る頃には夜になっていた。

 マリーもジャンヌもマレウスも、かなりの疲労が蓄積しているものの、その表情は満足げだ。

 ギルドで依頼の品を納入し報酬を受け取り、薬草も売り払う頃にはすっかりホクホク顔になっていた。

 

「結構お金も貯まりましたし……これはそろそろなんじゃないでしょうか?」

 

 興奮気味にジャンヌが切り出した。

 

「うん……うん! 初の仕送りだね!? 皆きっと喜んでくれるよ! あ、お金だけじゃなく私達の活躍も手紙にしなきゃ!」

「活躍と言う活躍はしてませんが……ああでも、例のアレは話のタネにはなりそうですね」

「ちょい待ち」

 

 テンションを上げる二人にリーダーのマレウスから待ったが入る。

 

「何? まだ貯めるつもりなの? ある内に送っておいた方が良いと思うんだけど」

「ですね。手元に置いておくと使ってしまいそうですし」

「仕送り自体は良いわ。でも、単にお金を送るだけじゃ芸がないわ」

「いや、仕送りに芸なんて求めてないと思うよ?」

「言葉のあや! そこはスルーなさい!!」

 

 と突っ込みを入れ咳払いを一つ。

 マレウスは二人を手招きし、顔を近付けさせる。

 

「……アンタ達、CVシリーズって知ってる?」

「何それ? 人名?」

「それとも歌ですか?」

「な訳ないでしょ。通称気狂い野菜って言ってね、とある錬金術師が開発したものなんだけど……」

 

 痩せた大地で作物は育たない。

 育っても小さかったり味が悪かったり量が少なかったりと散々だ。

 だが、どんな条件も無視して豊饒な実りを得られる作物があるとすれば……どうだろう?

 

「味は普通だけど、苗を一つ植えるだけでも一度の収穫で孤児院の子供達全員をまかなえるぐらいの量が確保出来る」

 

 そしてそれが最低でも十年は続くのだ。

 貧乏人にとってはありがたいなんて代物ではない。

 

「……そんな凄い野菜がホントにあるの? 私聞いた事ないよ?」

「同じく」

 

 怪訝な顔をする二人にマレウスが補足説明を入れる。

 

「そりゃ御禁制だもの。餓えてる人には好都合だけどそうじゃない人らにとっては別」

 

 詳しい事は省くが様々な立場の人間が利権を護るためにその存在を闇へと押しやったのだ。

 更に世に出たのが何十年も前の事だ。マリーらが知らなくても無理はない。

 

「製法も難しくて一度に出回る数が少ないってのもあるわね」

「ふぅん……それで? その苗を見つけたの?」

「ええ、この間裏町に足を運んだ時にね。品種はカボチャとジャガイモ、確保出来ればかなり助けになると思わない?」

「まあ、そうかもしれませんが……それ、本物なんですか?」

「って言うか一人で裏町行ったの!? ギルドのお姉さんも危ないから女の子は近付いちゃダメって言ってたじゃん!」

 

 裏町、官憲の目が届き難い治安のよろしくない場所。

 それなりに規模の大きな街ならば大抵は存在していて、エデもその例には漏れていなかった。

 

「そりゃ普通の子はそうでしょうけど、私らからすれば見慣れた光景よ。それと、真贋についても問題はないわ」

「でも、お高いんでしょう?」

「うん。私らが貯めた仕送り貯金の八割が消し飛ぶわ」

 

 貯金の中にはマリーが身を呈して救った隊商からの謝礼金も入っている。

 三人からすれば目玉が飛び出るような金額で、仕送り貯金の大半がそれだ。

 

「高ッ!!」

 

 だが御禁制の代物なので当然と言えば当然である。

 

「私は現物とお金の両方で仕送りをしたらどうかと思うんだけど……二人はどう思う?」

「良いんじゃない? お腹いっぱい食べられるってそれだけで嬉しい事だし」

 

 満腹感と言うものを知ったのは冒険者稼業を始めてからの事だった。

 その時は三人揃って感動に震えたものだ。

 マリーとしてはその感動を弟妹達にも是非知ってもらいたかった。

 

「私も異論はありません」

「じゃあ今からお金下ろしてそのまま裏町まで行きましょ。一応、昨日までは売れ残ってたけど、確保するなら早い方が良いわ」

 

 銀行に向かい貯金を下ろし、三人はその足で裏町へと向かった。

 だが裏町へと続く人気の少ない路地でお約束とも言えるガラの悪い男達に絡まれてしまう。

 

「やあ、ちょっと良いかな?」

 

 へらへらと下卑た笑みを浮かべる男達。

 それを見てマリーは確信した。

 

「……これ、あれだよ。私達に乱暴する気だ」

「いや、しねーよ。出方次第で痛め付けるつもりだが、嬢ちゃんが考えてるような”乱暴”はしねーよ」

「ああ、肉が無さ過ぎるよな」

「あの眼鏡の子はまー……及第点だが他二人はな。あれに手を出したら普通に変態だもの」

 

 マリーとマレウスの胸は平坦であった。

 

「や、野郎! ぶっ殺してやる!!」

 

 男達の心無い発言がマレウスの逆鱗に触れた。

 その髪よりも顔を真っ赤にし、殴りかかろうとする友人を羽交い締めにしジャンヌが説得を試みる。

 

「落ち着いてくださいマレウス! しょうがないです、栄養状態が改善したのは最近ですし! 未来は明るいです!!」

「うっさい! 何で同じ物食べてるのにアンタだけ……うぎぎぎ!」

 

 火に油を注いだだけのようだ。

 

「じゃあ美少女三人組に何の用なの?」

「美少女って……いや、まあそこは置いとくが。金だよ金」

「君ら、不用心だよね? 金下ろすにしても、もっと周り見なきゃね」

 

 それなりの額を引き出すところを目撃され、尚且つその相手が裏町の方へと向かったのだ。

 彼らからすれば美味しい餌以外の何ものでもなかった。

 

「今回はその勉強代って事で大人しく渡してくれると、手荒な真似はしないで済むんだがな」

「「「……」」」

 

 三人は顔を見合わせ、

 

「「「死ねバーカ!!」」」

 

 男達に中指を突き立てた。

 

「警戒心もなけりゃ、身の程も知らねえ。ちょっと痛い目見なきゃ駄目らしいな」

「ああ、こんなんじゃこの先やってけねえ」

「先輩として優しく教えてやんねえとな」

 

 得物を取り出す男達。

 三下臭い態度を取ってはいるが、その実力は一人一人を見てもマリーらより上。

 その上数まで揃っていて三人は重い疲労を抱えている、状況を打開するのは絶望的と言っても良い。

 それでも三人は決して諦めるつもりはなかった。

 

 こんな奴らに家族のために使うお金を渡してなるものかと心を奮い立たせ戦闘態勢に移行しようとしたその時である。

 

「――――大の男が情けないにも程があるね」

 

 空から聞こえた軽蔑しきった声に全員の視線が上を向く。

 建物の屋上、その縁に月光を背負い佇む影が一つ。

 

「これ以上の醜態を晒す前に腹を切る事をお勧めするよ」

 

 三人を庇うように影が降り立つ。

 フード付きの外套を纏っているせいでその表情は窺えないが、不快感を露わにしているのが分かる。

 

「ま、君らのような手合いに言葉は意味を成さないんだろうけど」

「誰だテメェ!?」

 

 憤る男達と突然の事で呆気に取られる少女達。

 そんな彼らの耳にキィン、と澄んだ音が響いたかと思うと――――

 

「んな!?」

 

 男達の得物、そして身に纏っていた防具や衣服がバラバラに切り刻まれたのだ。

 

「これは警告。次はその首を貰う」

 

 殺意が乗せられたその言葉に男達は一瞬唖然とし、直ぐに蜘蛛の子を散らしたようにこの場から逃げ去った。

 

「ふぅ。怪我は……うん、無いみたいだね」

「あ、ああはい。えっと、ありがとうございます!」

 

 一番早くに立ち直ったマリーが頭を下げると残る二人もそれに続く。

 

「どういたしまして――それより、マリー・スペーロさんって言うのは誰かな?」

「え? わ、私……ですけど、あなたは……?」

 

 エデに来てジャンヌとマリー以外の知己も増えたが、外套の彼に心当たりはない。

 声からして男――年齢は自分達と同じか少し上ぐらいだろうなと言うのは分かるが……やはり思い当たる人物はいない。

 

「ああ、これは失礼。先ずは名乗るのが礼儀だよね」

 

 少年がフードを外すと、三人は期せずして同時に息を呑んだ。

 珍しい黒髪黒目、整った顔立ち、物憂げな表情――陳腐な表現だが王子様のようだった。

 

「――――僕の名前はリーン・ジーバス」


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