TS主人公がロリコン仮面と出会ったら~ 作:バウよりカッコいいMSはいない
全く……軟弱者なんだから……
「地球?」
これは学校後、いつものように使用人に遊ばれていた私に父さんが話しかけてきたことから始まる。
この日父さんの帰りは早かった。
コロニー、地球を問わず飛び交い、幅広い交易を主とした企業、リーベル商会。その社長である父さんにしては早い帰りだったのだ。
部屋へと入り、真っ黒の外套を使用人に預けながらこちらにむけて話す。その姿はどこか緊張していた。
「ああ、そうだよアズハ
きみはまだ地球に行ったことが無かっただろう?
ほら、小さいころからよく地球の事を聞いてきていたし、興味はあるんだろう?」
ぎこちない笑みとともに紡がれる言葉は、俺の思考を停止させるのには十分だった。
そうとも知らず、父さんは続けて話し出す。
「だから……いちど旅行で行ってみないかい?
地球はコロニーとはまた違っていて、とても綺麗な世界だぞ」
父さんの顔を見ながら俺は硬直した。
嫌だからではない、唐突で驚いたわけでもない。
そればかりか、とても魅力的な話だ。
いや、まあ外から見たこと無くても知ってはいるんですけどね。それでも今生では初めての地球だ。わくわくするのは当たり前だった。
「アズハ?」
「……あっ」
しばらく何も言わずただ父さんを見つめていると、母さんが父さんの横に立って俺を撫でてくる。
暖かい手のひらの熱が伝わってきた。
「ふふ、あなたったら……アズハは地球に興味津々なんですから
そんなに急かして混乱させたらいけませんよ」
「はは、そうだったな」
反応の無い俺に混乱しているのかと勘違いしたらしく、母さんは緊張している父さんを諌める。
その言葉でようやく俺の状態に気づいた父さんも、後頭部を擦ると苦笑いでそれに答えた。
ここで漸く俺の飛んでいた思考が戻ってきた。
「あああ、いや、うん!
とっっても楽しみだよ!
いつ?いついくの?どれくらい泊まるの?」
おおはしゃぎである。
なにせ11年振りの地球。
自然に作り出されたバランスの悪い風、 この時代にも解き明かされる事のない広大な海、そして青く表情の多い空。
(なんて……なんて楽しみなんだろう)
「あらあら、アズハ落ち着きなさい
まだ一ヶ月も先の話よ?」
「ふっ、こんなに喜ばれるとはな……計画して良かったよ」
そんな風にはしゃぎながら質問していると、今度は父さんまで頭に手を置いた。
部屋の出入口に立つ使用人たちも微笑ましそうに三人を見つめている。
「ありがとう!お父さまお母さま!」
コロニーから地球へと渡るためには、そこそこまとまったお金がかかる。それに加えて、最近ニュースで取り上げられていたサイド3で起きた事件も関係して、旅行先としてはとても難しい選択肢だったはずだ。
それなのに、小さい頃からしきりに地球について話していた、俺の心を汲んでくれたのかもしれない。そう思うと少し申し訳ないが……今はとにかく嬉しい。
二人に目をむけると、喜ぶ俺を見つめ二人ともとても嬉しそうに頬を緩ませている。
「さあ、落ち着いたらあちらでの観光の話をしましょう?
きっと見たこともない景色に感動するわよ」
差し出される母さんの手は優しく、暖かい。そこにあるのはたしかに、何の偽りのない普通の家庭の幸せだった。
喜ぶ一人娘、それを見て嬉しそうに微笑む両親。
この時ばかりは、日頃の苦悩も忘れただ喜ぶ。
一ヶ月も先の話だというのに、少女と母親は地球の話で持ちきりで、この夜この家にしては珍しく、家族そろっての夜更かしとなった。
「ほう」
──地球。
「ムンゾの技術官が地球へ?」
「ああ。どこぞの兵隊気取りがあろうことか我らの膝元までわざわざ足を運ぶようだ」
深夜にも関わらず煌々と明かりの灯る部屋。
広々とした部屋。見ただけで一級品だと分かる質のいいイスを、肥えた身体が軋ませる。
そこには五十を超えた男が数人顔を付き合わせ、時折表情を変えつつも談義をおこなっている姿があった。
「名は……ふむやつはムンゾ──いや、ジオン公国の銃火気類を扱う技術高官だったな
たしか、裏では反連邦組織と共謀しているとの噂も……」
「そんな輩がこの地球、それも連邦軍本部のある地まで近づいてくる……この理由が分からぬ我々でもあるまい……つまり」
「テロ……ですかな?」
「まさしく
最近発生した、学徒が起こしたあの『テロ』の例もあるからな
たしか、サイド3を離港後、サイド1を経由するんだったはずだ……
……さて、どうする?」
「……当然、」
その男が見るものを不快にさせる笑みを浮かべると、周りにいた男たちま続々と席を立ち部屋を後にする。
そして、
「フッ……」
残された唯一の男が小さく笑い部屋を出ると、もうその部屋に響く音は廊下から響く足音だけだ。
静まり帰った部屋の最奥、連邦組織の旗が怪しく揺れる。
風もなく揺れるそれは、混迷するこの世界の象徴の様を表しているよう。
戦争への一投はすでに投げられた。
その戦争とは、多くの人民を失う事となった後に語られる一年戦争である。
音もなく忍び寄る死の風は、いままさに幸せな家庭にも牙を剥かんとしていた。
関係ない話なんですけど……オリジンで池シャアが、『僕』という一人称を使った時(セイラが熱出したシーン)、「!」となったのは僕だけですか?