TS主人公がロリコン仮面と出会ったら~   作:バウよりカッコいいMSはいない

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うーむ、あまりにも展開が早足すぎますね。(だって前置きなんて退屈なんだもの…)
でも違和感がすごいので、改稿する時には前話との間に一話挟むと思います。
では、どうぞ。

誤字報告ありがとうございます!そしてすみません!
修正いたしました!!


第三話 零れおちる熱、そして、覚醒

 

 

 

 一時の幸せとは、文字通り長く続かない。 

 

 そもそも、あのふざけた存在が、わざわざ送り込ませた世界が優しくなんてあるはずもなかったのだ。

 

 それをあの日、はしゃいでいた自分は忘れていたのだ。忘れてはいけないことを……この世界は死の蔓延る宇宙世紀だということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いき…なさ、い」

 

  

 視界が揺れた。

 世界が熱を帯びて父さんと母さんが赤い炎に消えていく。

 轟音が地面を軋ませ、亀裂とともに崩壊してさらに揺れる。

 その亀裂から暗闇へと飛ばされた私は、勢いのまま遠ざかっていく船を見つめ、ただ軋む身体で真空を流れた。

 

 

 ──これは、俺の罰だ。

 

 『こう』なる前、二人が自分たちよりも優先して回してくれた防護宇宙服。

 

 願ってしまった地球への旅行。

 

 一瞬でも受け入れていいのかと錯覚した、この世界。

 

 産まれてしまった自分という異物。

 

 二人を失ってなお、生き延びてしまった事も──

 

 ──これは俺の、()への罰だ。

 

 

 

 

 『たった今入ったニュースです

 サイド1を離港した民間旅行船、リフォーが正体不明の爆発をおこした模様

 繰り返します、サイド1を離港した民間……』

 

 悲しげ、焦りといった表情のわりに抑揚の無い声が状況を読み上げていく。

 

 少女の目に映るのは、青く澄んだ惑星の姿と小さく火花を散らしながら、墜ちていく船──

 

 『きみ!大丈夫かい?!

 たのむ、返事をしてくれ!』 

 

 そして近づいてくる救助隊の人々。

 何を話せというのだ。何を話せばいいのだ。

 自分はきっと助からないほうがいいとでも伝えればいいのか?

 寄るな、自分に触るなと?

 

 「ぁ……」 

 

 いや、どちらにせよ、この泣き疲れかすれた喉では発声できない。

 そもそも、()に選択肢などないのだ。

 

 なぜか、涙は次々と出れど妙に頭は冴えていた。

 青く大きな惑星を前に、全てがどうでもよくなったのかもしれない。

 堕ちる船も近寄る人間も、全て自らの枠から外れたように色を無くしていく。

 

 色とはつまり興味のようなものだ。

 

 たとえば、さっきまで悲しんでいたはずの両親の死が、なぜか遠い過去のように思えたり、どうでもいいような目の前の男が、朝何を食べたのかと疑問に思えたり……壊れたのかもしれない。自分は。

 

 そんな事を考えていた時のことだ。

 

 

 『(こんな小さな子が……ということはあの船には……くそ)』

 

 

 声が聞こえた。

 

 いや、実際に言えば声ではなく、掴み所のない抽象的な意思のようなもの。

 聞こえた方にいた男を見ると、こちらに向かってきていた男の一人で、ヘルメットのむこうでその悲痛な顔を隠そうともしない。

 歴戦の兵士のように無骨な顔をしているくせに、焦ったようにこちらを凝視している。

 

 (この男は優しいんだな)

 

  どうしてか、それはこの男の心の声なのだと直感した。

 それを理解した時、自分の身体全体を包む何かが急速に広がり始めた。

 男の背後にいた、数人の人間の息づかい。残滓のように残った、船の残骸から伝わる人々の思念。

 地球という生存権の器。

 

 「(ああ、綺麗だ)」

 

 目に見えないものは実に美しい。

 まるで全身が世界に溶けだしたような心地よさに、涙の乾いた目を細める。

 

 『(わ、笑った…?この子は……この少女は壊れてしまったのか?)

 ……あと、あと少し頑張ろうな』

 

 その表情のまま優しい声を出す男は、私を掴むとゆっくりと救助船の方へと泳ぎだした。

 

 

 「(大丈夫だよおっさん、ただ見えているだけだからさ)」

 

 男の必死な顔に、小さな安心を感じるとそう微笑んで目を閉じた。

 突然意識のなくなった私に、隊員の男がさらに慌てたのは言うまでもないことだ。

 

  

 

 この事件は両国の間で小さく騒がれた後、次第に忘れさられていくだろう。

 しかし忘れてはならない。

 世界からリーベル家の夫妻が失われた事を、一人の少女が絶望したことを、この日世界に一人の革新を産み出したことを。

 

 

 

 

 

 

 

 ──数日後。

 

 (いたい)(もう助からない……)

 (まま、どこ?)(今から帰るよ)

 (あの子は?無事なんですか?)

 (今は眠っているよ…ほら)(……)

 

 

 

 「(うるさいなあ……)」

 

 「気がついたかい?」

 

 

 白い天井と染みのない白衣が目に映る。

 その白衣の持ち主は優しげな表情を浮かべると、安堵したように張り詰めていた息を吐いた。

 どうやら病室のようだ。

 

 そして、

 

 (ここは地球か?)

 

 はじめは声を出して聞こうとしたものの、未だつぶれた喉が痛むため、やめた。

 ただ、違和感の無い1Gの感覚と、左側にある窓から見える景色にそう思った。

 

 (空に()が無い……)

 

 「どうしたんだい?

 

 ……外が気になるのかな?

 そうか、たしかいままでコロニーに住んでいたんだよね」

 

 なぜか悲しそうな顔をした医師が一人で納得している。

 いや意味が不明なんですけど。

 

 そしてもう一度優しげな表情に戻ると、

 

 「ここは地球だよ

 君の住んでいたコロニーと違って、温度管理も天候管理もなされていない、紛れもない自然の大地だ」

 

 と言った。

 やっぱり地球でしたか、と冷めた感想を抱いていると、医師は側面の窓を開きただ微笑む。

 するととたんに優しい風が入り込み、静かに髪の間を通り抜け、壁面に飾られた小さな花瓶の花を小さく揺らす。

 

 「(ああ、地球の風だ)」

 

 久しぶりの地球は俺を歓迎してくれるようだ。

 それはいいものの、数十年ごしの地球はやはり不器用なようで、通り抜けた髪が少しボサついてしまった。

 それもなんだか嬉しくて、自然と笑みすら浮かんでしまったのだが。

 

 

 『(おお、笑った……あの隊員がこの子は壊れているかも、なんて言うから恐々としていたが……)』

 

 男の『声』を知らない振りしたまま、私は微笑む。

 目に映る景色は何よりも広く暖かい。

 

 「(まるで父さんと母さんみたいだ)」

 

 風の不器用さも、太陽の優しさも、きっと二人の見せたかった地球の暖かさだ。

 失った悲しみを忘れた訳ではない。きっと前世があったからこそ乗り越えられたのだと思う。

 でなければ、あの場で命すら絶ってしまったかもしれない程に絶望したのだ。

 

 「(もう少しがんばろう……)」

 

 全部自分が産まれたせいだからだと叫ぶ『俺』が、母さんと父さんにたしかに愛されていた、生きろと言っていたと叫ぶ『私』が、少しずつ自分の中に溶けていく。

 相反する心はなかなか混ざりあってくれないが、そんなことは後回しだ。

 

 (今はただ地球の歓迎を受け入れていたい)

 

 そんなことを思い、広い空を見つめたあと、また目を閉じた。

 

 

 

 

 




彼女のニュータイプへの覚醒は、『絶望』がトリガーです。
その絶望はもちろん無くなった訳ではありませんが、乗り越えた訳でもありません。
さて、そろそろ彼にスタンバって貰いましょう。

ではありがとうございました。

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