第二次月戦争の跡 アストライアー編   作:まぐねたー

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旅の始まり

8話

 

「もう大丈夫だよ。ここなら絶対安全だよ。食事も寝床も服も用意するから。」

「あ…ありがとうございます。」

 宿舎に部屋と服を用意してあるよ。腕が通らないかもしれないから上は大きめのサイズでさ…質素で…オシャレさせてあげられなくてゴメンね。」

「い、いえ!十分です!」

 自分が17歳という事について食べながら考えていた。

(そんなに若いはずないよ。彼と恋人になったのはいつ?17歳以下で軍に入隊出来るの?…でも学生の頃も軍に入隊した時も思い出せない。なんで?なんで思い出せないの?私が17歳って事もひょっとしたらあり得る…のかな?…思考停止すると魂が移し替えられたんじゃないかと思ってしまう。非科学的な話だけど。)

 ドッグタグと照合する番号も持ってきた上着に書かれていた。

 廊下の30m位先の所で警官達が話していた。

「一週間飲まず食わずで歩いてここまで来たって?」

「人形みたいに綺麗だと思ったけど本当に人形なんじゃ…」

「人形だったらごはん食べないでしょ。」

(わざと聴こえるように話してるの?それとも私の耳が良いのかな?)

 婦警達は怖がって近寄らなかった。しかし警官達もほとんど近寄らなかった。

 

 食べ終えて食器を引き下げた所に所長がやってきた。

「体調はどうかな?ひとまず健康診断させてもらって良いかな?」

「…はい。でも一つ約束して下さい。私のデータを使って彼等を殺さないで。」

(データを取られたら彼等の掃討に利用されるかもしれない。でも信用してもらうにはこれしかない…ごめんね…みんな無事でいて…)

 警官と付き添いで病院で身体測定を行なった。

「記入ミスじゃないの?どれも桁外れ。測定不能がいくつもある。」

「視力7.5?あり得ない。血液も健康そのもの。耳も非常に良いみたいだし。本当に一週間飲まず食わずだったのか?もう回復したって事か?この子が人造人間なのか…女の子でこの数値だったら彼等は、成人男性はどうなるんだ?この子の何倍も強いはずだ。ああ、恐ろしい…」

「血液は流れているけど本当に君は人間なの?」

「は…はい。そのはずです。まさか検尿と検便もやるんですか…?」

「嫌なら良いよ。うーん…もしかして噂の生物兵器?なんか雰囲気似てるもんね。」

「…はい。研究所から逃げて来ました。」

 医者は近寄らなかった。

「データを取るのは初めてなんですね。」

「まあ人造人間なんて絶対ここじゃ逢えないからね。保護されてないから。」

「そうなんですか?」

「そう。保護されるべきだって散々言われてるけどまだ保護出来てない。保護されたと見せかけて殺しに来た奴も居たからね。お互い疑心暗鬼で保護するのは難しいってさ。」

「みんな殺しちゃうんですか?」

「そうなる事もありえる…かもね。」

「…私は殺さないんですか?」

「敵意がないなら殺さないよ。少なくとも俺は。そんな流れにもなってないから大丈夫だよ。それに今研究所は紛争地帯になっちゃったけど、彼等を保護すべきだって声も多いんだよ。俺もそう思うし、社会の一員になって欲しいなぁ。だから俺と付き合わない?」

「ちょっと!私恋人を探してるんですよ!」

「ははっ、冗談冗談。でも俺はいつでもオーケーだからね!」

「冗談になってないじゃないですか!」

「所でその恋人って人造人間?」

「違います。」

「どこで知り合ったの?」

「…覚えてないんです。」

「ええ?まさか妄想恋愛とか?」

「それは絶対にありません!確かに居たんです!」

 

「で、さっき言ってた同じ顔の人が沢山いるって?」

「みんなクローンなんです。」

「そっかそっかー。女の子も沢山いるんだ。」

「はい。」

「…へぇ…囲まれたいなぁ……」

 普通の人間では聴き取れない彼の心の声の漏れが聴こえた。

「ちょっと!」

「え?聴こえた?じゃあ本当に人造人間なんだね。そこで遺伝子操作もされたって感じか。」

「その人造人間って?」

「あの研究所は遺伝子操作を繰り返してクローンを作って…もはや元の人間とはかけ離れた者を造った。だからそう呼んでる人もいる。嫌だったらごめんね?」

「いえ…大丈夫です…その通りですから。」

「君の事なんて呼んだら良い?」

「…えーと………ミ………ミリアムで。」

「ミリアムちゃんかー!」

(やっぱり番号やあだ名よりもこの名前で呼ばれた方が落ち着くな…)

「俺もね、ニュースで研究所の人造人間の死体は見た事あるんだよ。でもみんな男だったから君もそうとは気が付かなかったよ。彼等は君を守ってたんだねぇ。」

 

 新聞を読むと最近誘拐事件や行方不明者が多いらしい事が分かった。

(私も気を付けないと…)

「君追われてるかもしれないんだっけ?気をつけた方が良いかもね。」

「…はい。」

「大丈夫!ここなら24時間君を監視してるからね!俺も君の事見守ってるから。」

「ありがとうございます。」

 

 青空が綺麗な朝、受付に行った。

「あの…散歩に出ても良いですか?」

「外出時間を書いて下さい。夕食までに帰って来て下さいね。」

 回収屋にここから遠くの墜落に見せかけた鉄屑の回収を頼んで僅かな旅費を手に入れた。街で彼の情報を聞き取り調査する事にした。盗んで来たメモリの彼の写真を見せた。しかし明日も明後日も一行に情報は見つからなかった。

 

(3日くらい経ったな。もう検査も済んだし私は信用されてるよね?出て行っても良いよね?彼を探して旅に出たいな…この街じゃもう見つからない…)

 昼食の時間、間を図って所長に相談しに行った。

「あの…私そろそろ出て行っても良いですか?ずっとお世話になるのも悪いし…恋人を探したいんです。」

「出て行くなんてそんな!君は貴重な人材なんだ。あの戦場で交渉材料になるかもしれないし、まだデータを取る必要があるかもしれない。恋人は私達で探すよ。彼の名前は?」

「それは…」

 その名前を口にしてどうなるかをふと考えた。

(ラルフ・カニンガム…職業はセレーネ軍のアインハンダーのパイロット。そこまで情報を探られたら?ここではアインハンダーを憎んでる上層部もきっといる。彼が捕まったら…)

「どうしたの?」

「…自分で確かめに行きたいんです。」

「名前は言えないの?」

「介入して欲しくないんです。」

「それは困ったな…探しに行くなら発信装置とか付けて欲しいな。君を手放す訳には行かないんだよ。」

「通信装置なんて嫌です!」

 

(これからどうしよう?厄介な事になっちゃった。彼らは善意なのに…また閉じ込められちゃった…)

 

「恋人ねぇ…あんなに可愛いのになぁ。助けてあげたいけど、他の男とくっ付くのはやだなぁ…」

 

 中年の部長にこれからの事で重要な話があるからと彼の仕事部屋に呼ばれた。部屋に入ると彼はドアに鍵を掛けた。

「重要な話だからね。」

「話って何ですか?」

「ずっとずーっと見てたけど、もう見てるだけじゃ抑えられなくなっちゃったんだよねぇ。」

「ずっと見てた…?」

「もちろん逃げないように24時間監視してたんだよ。トイレの時も、シャワーの時も。」

「ひっ…」

 一歩近寄られてドアロックを殴って壊し、こじ開けると全力で逃げた。

(もうこんな所には居られない!一刻も早く逃げなきゃ!)

「おいこらどこへ行く!」

「ちょっと、離してよ!な、殴るわよ!?」

「そんな義手でも女の子のパンチじゃ…うぐっ!?」

「きゃあーっ!」

 男達を押しのけて全速力で走った。

「早っ!?あんな重そうな義手付けてるのに!」

 寝室に置いた荷物をひったくる様に取るとドアから飛び出した。

「あれっ?そんなに急いでどうしたの?おーい!どこ行くのー?」

 親しい気さくな警官も無視して走った。また逃げ出す事になった。

「あーあ…あわよくば彼女になってくれると思ったのに…」

 5km近く走った。喉が渇いて喫茶店に入るとそこの女性店員がびっくりして尋ねた。

「まあ。いらっしゃい。どうしたの急いで。」

「それがっ…はぁ…はぁ…」

 取り敢えず水を出してもらった。

「痴漢に襲われそうになったんです!」

「だったら警察に言った方が…」

「警察の痴漢なんです!」

「ええ?まあ田舎だから、警察もろくに仕事してないけど、そこまでとはねぇ。あそこのヘラヘラした警官、パトロールと称してナンパしに行ってるとか聴いたから…」

「人探しの旅なのに警察を頼れないなんて…」

「確かにあなた可愛いもんね。ふふふ。フェロモンでも出てるんじゃない?」

「ふぇ、フェロモンって!そんなの出ても困ります!」

「そうよねぇ。そんなの彼氏の前だけで良いわよねぇ。」

「彼氏…」

「彼氏いるの?」

「戦争で別れちゃって…探してるんです。」

「生きてるの?」

「多分生きてます!最近彼の筆跡で書かれたメモを貰って…」

「彼が死ぬ前に書いたメモじゃないよね?」

「最近書かれた物だって渡した人に言われたんです。」

「でも筆跡だけかぁ…」

「生きてます…きっと。」

「他に手がかりないの?彼を知ってる人とか。」

「ゾードムには居ないと思います。彼、セレーネに居たから…」

「彼はどんな顔なの?」

「あ、そうだ。」

(逃げる時にメモリを盗んできたんだった。)

「これにデータが入ってます。」

「ふーん…これプリントしてあげる。パソコンが無いと見れないんじゃね。」

「ありがとうございます!」

 印刷されたプロフィールの全面を抱きしめた。

(これからお守りにしよう。いつでも見られるようにポケットにしまっておこう。)

 写真切り取ってをじっと眺めていた。

「…ふふ。」

 女性も笑顔をじっと眺めて微笑んでいた。

「ありがとうございます…」

「その人見た事あるかも。」

「えっ!?」

「すっごい背の高いイケメンと一緒にいた様な…そのイケメンばっかり見てたから定かじゃないんだけど。」

「ほんとですか!?でもイケメンって…何で一緒に居たのかな?」

「本当に不釣り合いなくらいイケメンだったわぁ。まさか彼に寝取られてたりして…」

「そんな事!ってラルフがイケメンじゃないみたいに言わないで下さい!」

「ああ、ごめん。私の好みの話。」

(あんまり覚えてなくてもこれも重要な情報だよね!)

「彼はどこに?」

「人を探してるみたいだったよ。旅してるとか…探すの大変かもよ。そう確か次は西の隣町に…」

 これからきっと長い旅になるだろう。それでもようやく希望が見えてきた。

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