第二次月戦争の跡 アストライアー編   作:まぐねたー

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逢いたかった人

 彼女は暗くて狭い路地裏で雨に濡れていた。だけど雨で流しきれない程に涙が止まらなかった。

 これからどうやって生きれば良いか分からなかった。自分は自分じゃなくて、もう一人の自分が彼と暮らしていた。あの造られた青年には「自由に好きな場所で隠れて生きれば良い」と言われたけどもう自分には希望がなくなった。

(どうして生きなきゃいけないの?私が今まで頑張ってきた事は全部無駄だった…?そういえばドッペルゲンガーに会ったら死んでしまうという言い伝えがあったっけ。私は彼女にそっくりじゃないけど、本当に消えてしまいたい。)

 考え込んで3時間ほど経った。

 後ろから肩を掴まれた。ラルフかと思い、振り返って人物を確認する前に組み付かれた。

「きゃああぁぁっ!ー」

 すぐに薬を染み込ませた布を口に当てられた。義手で振り解こうとしたがその組み付いた腕もパワードスーツのようで敵わなかった。何度も必死にもがいて一瞬口を抑えていた手が離れた時にありったけの声を出した。

「誰か…誰か助けてーーーっ!」

「大人しくしろ!くそ、この腕強いな…おい!加勢しろ!」

 口に布を押し当てられたまま後ろから体重をかけられて地面に押し付けられた。そして他の人間が手足を抑えにかかった。生憎背中の機銃は付けていると大抵の服が着れず、街中に紛れ込めないので外していた。

「うるさいな。」

「何だ何だ?」

 野次馬が数人集まった。

「お騒がせしてすみません。今通報された不審なアンドロイドを確保した所でございまして…」

 女が礼儀正しく周囲に説明した。

「よく出来てるなぁ。」

(そうか。やっぱり人間離れしてるからみんなアンドロイドだと思うんだ。)

 私は薬を染み込ませた布を口に当てられても息を止めてもがいていた。すると布を押さえつけていた男がそっと耳打ちした。

「今さっき「助けて」って言ったか?誰が助けに来るんだ?この街の奴らは皆お前の事を信用してない。お前が一番助けて貰いたい男だってそうだ。」

 その言葉を聴いて必死になるのを止めた。

 力が入らなくなって気が遠くなっていった。

 そして彼等の手に落ちた。

 

 袋に入れてトラックでアジトに運ばれ、ベッドの上に寝かされた。朦朧と目が覚めたが息が苦しい。

「取り敢えず危ないから腕と機銃を外して。武器も全部。」

「こいつどこまで機械化されてるんだ?」

 両腕は乱雑に取り外された。機銃の接続部のコードも荒っぽく弄られた。

「痛い…!やめて…!」

「武器を隠し持ってないか念入りにボディチェックしてよね。」

「全部脱がしちまうか。」

「い、嫌…」

「こいつまだうるさいぞ。この薬本当にこいつに効くのか?もっと持ってこい。」

 さっきより強い麻酔薬を染み込ませた布を口に当てられた。

(苦しい…………

……もう……駄目…………

私………ここで………

…死……ぬ…………………………?

………………………………………………………)

 

 薄手のスーツは破かれ、下も脱がされ、裸にされた。

「やっぱりアンドロイドじゃないぞ。人間だ。」

「綺麗な身体だなぁ…へへへ…」

「下手に手出ししないでよ。売れなくなったら困るでしょ。お楽しみは後でね。今後の作戦を立てましょう。」

「へーい…」

 彼らはボロボロのリビングで椅子に座ってコーヒーを飲んだ。

「こいつを殺すか引き渡すかしたら大金が貰えるんだってな。」

「そうだ。だけど可愛いよなぁ。殺すには惜しいな。」

「全く、これだから男は。殺すなら拷問して情報を吐かせましょう?私の鞭でじわじわと甚振りたいわ。可愛いから苛めたくなっちゃう。」

「殺した事にして引き渡したら両方から金が貰えるな。」

「いや、殺した事にして俺らの物にするってのも良いんじゃねーか?」

「良いなぁ、それ。引き渡すよりこいつを使った方が稼げるんじゃないの?死ぬまで働いて貰った方が一時的な収入よりも…」

「いや死体を持って行かないと殺した事にならないだろ。」

 突然一人の男が持っていたマグカップが割れた。

 

「何やってんだ。」

 部屋の入り口に銃を構えたラルフが立っていた。

「げっ…こいつさっきあの女が会いに行ってた手練れとか噂の…」

「ちょっと何で誰も銃持ってないの!?」

「失せろ。」

 彼等は一目散に逃げた。通報はしなかった。彼等を逮捕するよりも優先すべき事があった。

「あいつと一緒にいるせいで俺まで怖がられる様になってしまった…」

 廊下を見渡して半開きになった部屋のドアを勢い良く開けると裸の少女がベッドにうつ伏せになっていた。

(おっと……

 背中からコードが伸びてる。両腕が無い……やっぱり同じタイプか…)

 風邪を引かない様にベッドのシーツで身体を包んだ。

「おい、大丈夫か?何か変な事されてないだろうな?」

 彼女の身を起こして耳元で聞こえる様に叫んだ。

「おい!しっかりしろ!」

 それでも反応はなく、ぐったりとうなだれたままだった。

(まさか…)

 口に手を当てても呼吸が感じられない。首の脈も弱い。

「おい…嘘だろ?」

(麻酔薬の副作用だ…早くなんとかしないと……死ぬな…!)

 腕の中でどんどん弱っていく。携帯電話を取り出して病院に掛けようとしたがふとある考えが頭を過ぎった。

(そういえばこの子もアンドロイドって事になってるんだった。身分証明書もない。とにかくここは危ない。戻って応急処置をしないと。)

 彼女を抱きかかえて空き家を出るとさっきの悪人達がエンディミオンに伸されていた。彼が気付いて振り返った。二人は同時に口を開いた。

「殺したのか?」「死んだのか?」

「…こっちは殺してない。警察に引き渡す。指名手配されてたら金が手に入るしな…」

 彼は不敵に笑った。

「お前そいつらと同じ事言ってるぞ。」

「その女は?」

「まだ死んでないけど、薬を吸い過ぎて弱ってる。早くしないと…」

「俺と比べて随分か弱いんだな。俺と同じ体質なら副作用なんて大した事ないと思うんだが。」

「このままじゃ死ぬかもしれない!急いでるんだ!」

「落ち着け。副作用の致死率は100%じゃない。応急処置をすれば大丈夫だろう。造られた人間だしどうせ仮死状態になるだけだ。」

「話してる場合じゃない。」

(たった一つのちっぽけな命の為に俺は何を焦ってるんだ。何百人も殺した癖に。そんな小娘が死ぬぐらいで動揺するのか?…ああ、自分でも不思議に思うよ。何百人も殺した俺だけど、そんな俺が人を助けようとするなんておかしいかもしれないけど…だけどこれ以上殺したくない!

どうする?俺の泊まっていた場所で人工呼吸でもするか?だけどそうしたらこの子が人間だってバレて色々詮索されるかもしれない…。今この場所も注目が集まりつつある。だったら…)

 自分が居た民宿よりもミリアムの家の方が近い。そっちに駆け込む事にした。

 

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