第二次月戦争の跡 アストライアー編   作:まぐねたー

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アストライアー

 (私に腕力以外の取り柄がある所を見せつければ腕を付け替えて貰えるかも。腕力を使わない仕事って何があるんだろう?)

「あの私、他の仕事を探したいんですけど。」

「はあ?何言ってんの?」

「力仕事以外にも出来る事はあります!」

 そして任された仕事は掃除だった。

 大まかな掃除は機械がやってるけど、機械が掃除できない細かな所、機器類や本棚に溜まった埃をふき取った。それに部屋を見回れるから抜け出す経路を探せるかもしれない。

 廊下で大きな窓を見つけるとそこには荒野が広がり山脈が壁の様に連なっていた。

(ここはやっぱり地球?「誰かここから助けてー!」って叫びたいけどそんな事したら目を付けられちゃう。)

 一生懸命部屋を回ってたら中に少年がいた。その少年は他の男子と同じ顔だったが髪はベージュだった。

「あれ?ここまで来たの?ここの区分は男子がやるんだよ?」

「ごめんなさい。その…暇だったから手伝おうかなー、なんて…」

「ふーん。あんたが噂の…よくこっち来るね?ショタコン?」

「ちっ、違っ…あの子は友達で…良いでしょ来ても!」

「他に来てる女子居ないでしょ。あんただけだよ。あんまり関わりあっちゃ駄目って決まりだし。恋愛禁止だし。腑抜けてる間に先越されるし。あーもう機械で掃除してるのに全然綺麗じゃないし…ダメだな。」

 床を拭きながら言った。

(随分潔癖症な人みたい。)

 振り返り、爪先から顔まで私を舐め回すように見つめた。

「な、何?」

「その腕、その機銃、その装備…腕を無くしてもまだ戦えるように扱ってもらえるんだ?腕がなくなったら仕事が出来なくなるから別として、その機銃は自衛の為でしょ?優秀なクローン様がどうしてここに?」

「優秀?そんな事無いわよ。ただ私、やりたくない仕事の為に逃げてるだけだから…」

「そうなんだ。」

「うん…そうだ、この銃寝る時ちょっと邪魔なんだけど。取り外せないの?」

「外せないよ。」

「え?」

「だって神経に繋がってるんだから当たり前じゃん。まあ半分くらいは解体して取り外せるけど。」

「なんで…そこまで…」

「死んでもらいたくないって思われてる。羨ましいよ。ここに敵が攻めてきても生き延びれるじゃん。俺は装備なんか与えられないし。ちょっと触っても良い?」

「良いけど、貴方は戦わないんだ?」

「俺は失敗作だからね。身体が弱いって。生かして貰えるだけで万々歳だよ。」

「そうなんだ…」

(大して弱くは見えない。多分一般人レベルだ。彼に義手を持たれてじっくりと観察されてるけど、この手は温かみを全く感じない。大切な彼が見つかって手を握ってもこの手は何も感じない。酷いよ。こんなのあんまりだよ…)

「でも戦わなくて良いんだ。よくパシられるけどここが一番居心地良いよ。」

「良かったね…でもおかしいよ、こんなの。人間を道具みたいに扱うなんて…」

「道具…?どこが?道具の何が悪いの?食べ物も寝る場所もあるし怪我や病気を治す場所もあるじゃん。産んでもらって、育ててもらったからみんな感謝して役に立てるよう働くってだけ。」

「恩返しって事?そう言ったってその恩はいつになったら返せるの?」

「いつなんてないでしょ。死ぬまで働いたって死んだ所までしか恩は返せないし。返すも何も当然の事なんだって。この腕も君の大切な道具。」

「道具にだって整備して貰ったりとか置き場所があるわよ。道具として丁寧に扱われてるとかじゃなくて、そうじゃなくて…道具は用が済んだら簡単に捨てられちゃうでしょ?でも人間だったらやりたくない事はやらなくて良いっていう権利があるの。」

「そんな権利聞いた事ないね。」

 全然話が通じない。 

「記憶を消されて何をそんなに戸惑ってるか知らないけど、早く慣れた方が良いよ。これが普通なんだから。」

「…そんなの…もう聴きたくない!」

 掃除も手伝わないで部屋から逃げ出した。

 

「…にしても可愛かったな。女子も精巧に作られてるって聞いたけど、あんなに可愛いなんて。すげえ 、俺喋っちゃった…」

「サボるな下っ端。」

 

「お姉ちゃん、最近どう?」

「大変よ。家事は全部私の仕事。機器の整備も、重い荷物のの運搬も。ねえアポロ君、腕力を使わない仕事って何だろうね?」

「僕よく分かんないけど…女の人の仕事って言ったら子供を産む事かな?」

「やだ…!そんなの嫌!」

「どうして?男は戦って死ぬ為に産まれるのに。それに比べて死なないで済むんだよ?」

「うっ…」

「女の人の基本的な役割ってそうだよね?」

「違う…そんなの…」

「あ、他にも仕事はあると思うけどーー

 後ずさって逃げ出した。しかしどこに行っても静かで異常な空間。出口を探し回っても見つからずへたり込んだ。

(ここは兵士の生産場だったんだ。助けて、誰か…

 ラルフ…!

 ああ、ようやく思い出せた。良かった…思い出せない事だらけだけど、思い出せたって事はやっぱり私は彼を愛しているんだ。愛しているから思い出せたんだ。)

「お姉ちゃん!ごめんなさい!ごめんなさい!僕もう二度とあんな事言わないから!」

 追いついてきたアポロが後ろから泣きついた。

「泣かないで。良いのよ、女子寮の事全然知らないもんね。それなのに訊いてごめんね。」

「僕の事嫌いになった?」

「そんな事ないよ。大好きだよ。」

 アポロは涙を見せないように胸に飛び込んだ。熱い涙を肌で感じた。

「こらこら、あんまり女の人の胸に顔を突っ込むもんじゃないわよ?」

「…心臓の音。」

 アポロがぎゅうっと身体を抱きしめた。

「抱きしめてくれないの?」

「この腕じゃ痛いでしょう?それに一人で泣き止まないと一人前になれないんだから。」

「まだ8歳だもん。甘えちゃダメ?僕をこんなに可愛がってくれるのお姉ちゃんだけなんだ。」

「そっか…」

 最上限に優しく抱いた。

「もっと強く…もっと…」

 涙が止まるまできつく抱きしめた。

「もう良い?」

「うん。」

 手を離すと彼の身体には痣が残っていた。

「ああ、痣が…」

「僕平気だよ。いつも訓練で痛い目に遭ってるんだ。」

「でも…」

「抱きしめてくれてありがとう。お姉ちゃん。」

「本当に貴方、優しくって天使みたいだわ!」

 つい思いっきり抱きしめてしまった。

 今日で3日が経過した。

(記憶をリセットされる一週間後までに抜け出さないといけないけど今はちゃんと仕事を選ばなきゃ。非人道的な事をさせられるのは絶対に嫌。女子の仕事は育児をするだけじゃないはず。)

「家事やらせて下さいっ!」

「やだ、あの子ったら…家政婦みたい。」「花嫁修業ってやつかしら?」「自分の立場が分かってるんじゃない?」クスクス…

(気にしない、気にしない!)

「あの子また料理まで作るとか言わないでしょうね。絶対不味いわよ。」

(不味いもの食わせてやるわよ。私の仕事がなくなるじゃない。)

 夕食を作りに調理場に行く。いつも納得のいく味が出せなくて加熱時間や調理方法を弄っていた。

「いつもご苦労様。」

 振り向くと微笑む女性がいた。

(驚いた。優しい人もいるんだ…)

「味見しても良いかな?」

「美味しくないかもしれないけど…どうぞ。」

 小皿を渡すと口に付けて吟味するようにじっくり味わった。

「美味しくなってる!」

「そう?良かった。」

「何だか昔を思い出すなぁ…覚えてる?私達が全員小さい時お母さんが美味しい料理を作ってくれた事。記憶を消しちゃったら思い出せないのかな?」

「お母さん?」

「血の繋がりはないんだけど研究員の人。今はもう居ないけど…」

「そうなんだ…」

「貴方に何か恩返しがしたいな。マッサージしようか?その腕絶対肩凝るよね?」

「ありがとう。いてて…あんまり揉むと揉み返し起きちゃうよ。」

「ごめん。全然やった事ないから。困った事があったら言って欲しいな。」

「優しいのね。」

「お皿洗いは大きくて鋭い爪があるとやりづらいんじゃない?洗濯物は?」

「確かにやりにくいと思うけど右手は爪もないし普通の大きさだから頑張ってみるよ。忙しくて手が回らない時に頼むね。」

「そっか。無理しないでね。皆競い合ってるけど私達は協力しないと生きていけないからね。」

「ねえ、女子の腕力を使わない仕事って何だろう?やっぱり子供を産む事かな…?」

「それもあるけど…免疫力を上げる事とか?」

「それって何?どうやって?」

「ワクチンを射つのよ。免疫力が高ければ子供も強くなるからね。たまに死ぬ人も出る。有志でもあるけど皆やってる。まあ射たない人はカーストが下がる訳だから…」

「え…?死にたくない!」

「一番大事な仕事よ。これが出来ない人は負け犬コースになるよ。」

「分かった。やるわ…使えなかったら処分される可能性だってあるんでしょ?」

「じゃあ免疫力を上げる為にもシャワー浴びよっか。」

 小さなシャワールームに入ると腕を洗う為に義手を外した。外すと二の腕までしか腕はなかった。本当に腕が無いと実感すると涙がこみ上げて来た。

 シャワーを浴びて髪を拭いていると声を掛けられた。

「ねえ、仕事を探しているなら使用期限の過ぎた管理人をゴミに出してくれない?頭の装置は引き抜いてね。」

「…?何?今なんて?」

「管理人をゴミに出しといて。1階の監視室ね。」

 訳の分からないまま監視室に行くと少し嫌な臭いがした。画面を見ている男性を回り込んで見てみると腕が壊死していた。

「ひっ…」

 こちらの事は気にもせず死んだ目で画面を見つめていた。

「…?なんだ?何しに来た?」

「あの…えっと…」

 何もしないで帰る訳には行かない。勇気を振り絞って彼の腕を握った。

「ついて来て下さい。」

 フラフラと歩く男性をゴミ処理場まで連れて行くと中に入れて自分は入らず入り口の前に立った。

「こっちを向いて。」

 男性が振り向くと思いっきり首を掴んだ。

「やめろ…まだ死にたくない…」

「貴方はもう死んでるのよ…」

 もう一方の手で額に付いた装置を無理矢理引き抜いた。死んだ男性を部屋に放り込んだ。

 

「ねえ、何なのあれ?どうして管理人がゾンビになってるの?」

「ここを襲って来た人間をね、洗脳して使役してるの。気付かなかったの?多くの管理人や研究員が逃げたから人手が足りないの。あの装置で本部から細かい所まで命令を受けているから彼等の技術力は心配しなくていいわよ。」

「何それ…何で?」

「外の世界で私達の味方は死体だけよ。」

 後ろから別の女性も答えた。

「何故か?私達は完璧を目指して作られている。価値があるから。元々は実験材料の為に作られてたけど、戦争で資金が溜まったから質を重視するようになった。それにゲノム兵にすればもっと儲かる。だから強化してる。価値なんてよく分かんないけど。研究の為に莫大な金が必要だった。戦争で儲けてもまだ足りなくて、ある研究員が失敗作達の臓器を闇市に流した。機械化の技術が進む中でも臓器移植を望む声は多かった。流されたそれらの臓器はどれも良質で闇市の何人かが不審に思った。彼らはもっと手に入れる為に出所を調べてここにやって来た。奴らが秘密をバラされたくなかったらもっと寄越すようにと言った。裏社会の人間に目をつけられてしまった。失敗作は無くなり渡す物は無くなった。ある日何人かが金目の物を目当てにここを襲いにやって来た。試作品達は彼等を返り討ちにした。しかし逃げた一人が「バケモノを作っている研究施設がある」と政府軍に連絡した。秘密裏に危険な生物兵器を作っていると認識され掃討対象になった。それからはここに来る奴らは3種類だ。殺しに来る奴、便乗して奪いに来る奴、「保護する」と嘘を吐く奴。一番多いのは嘘吐きだ。絶対に騙されちゃダメだ。信じちゃダメだ。騙されて殺された兄弟もいるんだ。」

「ここだって臓器売買に実験材料にゲノム兵だなんて…そんなの保護じゃない…」

「?その為に作られたんだ。当たり前だよ。保護するにしても利益がなきゃ存続出来ないよ。」

 

 次の日、回される仕事が多い気がしたがいつも命令する彼女は顔色が悪そうだった。

 次の検診で彼女は重病だと判断された。仕事から帰ると研究員に隔離室へ連れて行かれる所だった。

「こんなの…こんなの間違いよ!誰か私に毒を盛ったでしょ!絶対そうよ!」

 必死の叫び声が聞こえると彼女達は嬉しそうに囁いた。

「良い気味よ。いつも人に命令して怠けてばかりだから身体が弱くなったのよ。」

「そんな事をする性格と頭の悪さも加味したら生きてる価値ないわよねぇ。」

 (沢山虐めを受けて来たのに胸糞悪い。結局これも虐めじゃない。)

 

 私は上官に訊いた。

「女子の仕事には戦闘訓練もありますよね?」

「防衛の仕事ならあるにはあるが…しかし男子の方が…」

「私の身体は戦えるように作り直されたんですよね?それにパイロットだったら肉体の弱さは関係ありません。」

「分かった。そんなに載りたいならテストしてやる。それまでに練習しておけ。」

「刺激的で楽しそう。私もやろうかな。」

「やれるもんならやってみなさいよ。」

「チッ、ガキの癖に生意気ね。私だって子供なんか産みたくないんだから。アンタ男の子好きなんでしょ?」

(好きなのはあの子だけというか…メモを渡した彼の事やここの事を知る為に仲良くしてるんだけど、すっかり懐かれちゃった。)

 狙撃の訓練もしてどんな種類が使えるか試していた。義手はかなり強いみたいでどんなに重くても反動があっても軽減して片腕で撃てた。ちょっと後ろに下がってしまうけど両手に対戦車ライフルでも扱える。選んだ機体も二丁の武器を同時に扱うから似たような感じで応用できそうな気がした。

 それから死ぬ気で練習して戦闘機に載る資格を勝ち取った。幸い才能があったらしい。

「お前はアストライアーの…」

「あ、アストライアーのお姉ちゃんだ。」

「おい、アストライアー!こっちに来い!」

 兄弟、姉妹、上官からも私はアストライアーと呼ばれるようになった。

理由を訊いたら機体のパーツの一部だから、両腕とも義手で重火器を扱えるから似ていると言われた。機体の方が大事の様だ。記憶の上書きは中止になった。優秀な人材になったから記憶を消して訓練の経験まで忘れてしまうのを避ける為に。でも番号で呼ばれるよりマシだ 。ようやく覚えやすい名前が貰えた。

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