第二次月戦争の跡 アストライアー編   作:まぐねたー

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鎖を断ち切って

 兄弟に甘えられない分思いっきり甘やかしてあげた。

 アポロに会いに男子寮に入ると突然後ろから目隠しをされた。

「だーれだ?」

「分かる訳ないでしょ!」

 同じ声の青年が沢山いるし、番号も覚えていない。

「分かるまで離してあーげない。」

「女の身体って柔らかそうだよな。それで鍛えてるのか?触っていい?」

「いやあ!やめて!」

「子供は触り放題じゃないか。何で大人はダメなんだ?」

「それは…大人はやましい事考えてるから!」

「やましいって何スかねぇ?」

「そっ、それは…」

「子供はやましい事考えないの?」

「そうよ!」

「ちょっと!僕のお姉ちゃんだよ!」

 アポロは幼いながらも強い握力で兄の手を引き剥がした。

「いてててて」

「アポロ君!」

「そいつだってやましい事考えてると思うけどなー。絶対自分が男として認められてると思ってるぜ。」

「そんな事…私達は友達だから。ねえ?」

 急にアポロが抱きついた。

「僕お姉ちゃんと結婚するー!」

「えっ!?結婚って!?どこでそんな事覚えたの?」

「辞書に載ってたんだ。結婚ってずっと一緒にいる事だよね?」

「う、うん。そうだけど…結婚は大きくなってからするものよ。」

「僕早く大きくなるよ!大きくなったら結婚してくれる?僕お姉ちゃんとずっと一緒に居たい!」

「んー、結婚は考えておくね…私もずっと一緒に居たいよ。」

「わー!ほんとに!?じゃあずーっと一緒だね!」

(この場所じゃなかったらずっと一緒に居たいけど…早く大きくなるって身長の事だと思ってないよね?)

 アポロが抱いて離さなかった。

「アポロ君、そろそろ…」

「ずっと一緒がいいー!」

「よしよし、ちゃんと勉強したら一緒に遊んであげるから。」

「じゃあ一緒に勉強しよ!」

 図書館で勉強した。二人だと楽しくて遊ぶのを忘れてしまった。

「あ、一緒に遊ぼうと思ったのに…」

「お掃除した後でね。」

「一緒に掃除しよ!」

 

「あそぼー!」

「トレーニングの後で…」

「一緒にやる!」

「アイン君は違うカリキュラムだからね…」

 

「遊ぼうよー!」

「シャワー浴びたら…」

「一緒に浴びる!」

「それはちょっと…」

「しょんぼり…」

 

「一緒に寝ていい?」

「えっ?ダメだよ…女子寮だもん。」

 シーツを頭から被った。

「バレなきゃ大丈夫だよ!」

「…それで大丈夫?」

「お化けだぞ~!あははは!」

(ちょっと甘やかし過ぎてるな…)

 みんなが大体寝静まってから二人でベッドに入った。

「お姉ちゃん。」

「何?」

「僕ね、どうせ死んじゃうんならお姉ちゃんと目一杯遊んでから死にたいんだ。」

「そんな事言わないで。死んじゃ嫌だよ…」

「どんなに頑張ってもダメな気がするんだ。もうズル休み沢山しちゃったもん。」

「アポロ君は大丈夫。手遅れなんて事ない。勉強だって百点満点取ったんでしょ?」

「勉強だけじゃダメだから…」

「私に会いたくて勉強も訓練もしなかったから、不合格で処分されるなんて事になったらさ…私のせいになっちゃうんじゃないかな?」

「ううん…そんな事ない…でも一緒に寝るくらいは良いでしょ?」

「そうね。おやすみ…」

「おやすみ…」

 

「お姉ちゃん。お姉ちゃん、起きて!」

 寝ぼけ眼で仰向けの私をアポロ君が四つん這いで見下ろしていた。

「おはよう。僕たくさん勉強して訓練してお姉ちゃんを一人で守れるくらい強くなる!お姉ちゃんを悲しませない様に絶対死なないよ!」

「うん…頑張ってね…」

 アポロ君はシーツも被らず元気に飛び出して行った。

(頼もしいなアポロ君…将来どれ位強くなるのかな?楽しみだな…あれ?やっぱり他の大人みたいに筋肉バッキバキになっちゃうのかな?)

 

「あ、お前ベッドに居なかったよな。夜どこ行ってたの?」

「お姉ちゃんと一緒に寝てたー!」

「えっ…?お姉ちゃん…!?女と一緒に寝た…!?!?」

「うん。」

「おいおいおい!それは幾ら何でもヤバすぎるぞ!!」

「どうして?悪い事してないよ?」

「どうしてってそれは…!」

(コイツ一番善悪の区別無いからなぁ…)

「規則だから…」

「それは知ってるけど…なんでー?」

「何でも何も…あーもう!

…点呼とか取りやすいからじゃないか?」

「えー、そんなつまんない理由なんだ。

じゃあ一人くらい混じってても問題ないね!」

「大問題だよ!!」

「うわー!逃げろー!」

「待てええぇ!!」

 

「どうしたの?そんなに息切らして?」

「おっお前…ショタコンの…」

「ショタコンじゃないわよ。あの子爪弾きにされてるみたいだし、ほっとけないもの。」

「いや、贔屓しても逆に…」

「無駄なの?」

「俺も一緒に寝たいです…」

「えっなんか言った?」

 アポロ君を見つけて寮に見送った。

 

「アンタ、よくあんな奴と一緒に居られるな。」

 また別の青年が話しかけてきた。

「…は?どういう意味?」

「アンタがアポロって名付けた奴。あいつが嫌われてるのは知ってるだろ。」

「それがどうかしたの?あの子は良い子よ。何も後ろめたい事なんてないわ。」

「嫌われてる理由を知らないだろ?あまり知られてないけどな、アイツは1番大事なものの為なら何をしても良いと思ってる。他の兄弟を蹴落としてもな。アポロって残虐な神なんだろ?良い名前じゃん。」

「何言ってるの?あんな大人しい子が?」

「ここが人間を道具みたいに扱うのが普通だって事をあいつは1番よく分かってる。だから同じ事をする。自分の順位を上げる為に仲間ごと爆破したり、身代りにしたり…施設内でも殺してるって噂もあるぜ。アイツ、前に兄弟に庇われた時に学習しやがった。1番大切なものが他に出来たら、お前も容赦無く切り捨てられるぞ。信じられないなら今度あいつに遊ばせてみると良い。」

 

「アポロ君。一緒にごはん食べよっか。」

「うん!」

 

「お昼休みだから遊ぼうか?」

「やったー!」

「何しよっか?」

「射撃訓練!」

(…ん?それは遊びなの?)

 

 銃を持った瞬間目つきが変わった。

 鋭い銃声が3発なった。

「…たった3発か。」

 雰囲気が全然違う。まるで別人みたいな…まさか本当に二重人格?

「あんな遠くの小さな的にも…!?それに全部頭のど真ん中…」

「ちょっとズレた。視力は8.0位あるからね。全弾真ん中に当てたいんだけど…心臓を狙った方が良いのかな?」

 リロードして全弾放った。

「全弾命中…!?何でそこまで…?」

「ちょっと真ん中から外れた。僕はまだ小さいからそんなに武器を携行出来ない。だから弾の無駄遣いが出来ない。それに、また怪我をしたら治してもらえるか分からない。臓器を移植しても前みたいな出来損ないから貰うから機能が落ちるかも。だから怪我も出来ない。でもキツいとは思ってない。楽しいし。スナイパーライフルのスコープ使わないでどれだけ遠くから頭を撃ち抜けるかとか…レンズに光が反射すると位置がバレちゃうから。」

「アポロ君…」

 振り返って微笑んだ。

「言ったでしょ?僕は絶対死なないって」

 この子が1番まともじゃなかった。でもこの子が悪いんじゃない。ここで産まれて、育って、異常な環境に適応しなきゃいけないのだから心が歪んで当然。育った環境が悪過ぎる…

 

 朝、けたたましいサイレンで目が覚めた。風の無い薄暗い曇りの日。遂にアストライアーに乗って実戦に出る時が来た。敵の方が圧倒的に多い上に、アインハンダーは奇襲特攻型なので多勢に弱い。しかしここで死ぬ訳にはいかない。

 その戦闘機達は第二次月戦争と同じ年代のタイプだった。一度戦った事のあるタイプだ。後続機が作られていなくて良かった。だからと言って勝てる保証はない。弾幕は経験した以上の物だ。初めて戦場に出たから戸惑う事ばかりだ。必死で自分を守った。自分を守るのに手一杯で皆を守る事が出来なかった。対空砲やミサイルに防衛を任せる結果となった。殲滅は免れたが多くの兄弟が死んだ。

「お兄ちゃん…うわああぁん!!」

「何でこんな簡単に死んじまうんだよ…」

「お姉ちゃん…仇を討ってよ!」

 死体の山を目の前にして膝から崩れ落ちた。両手を付いて涙がこぼれた。

「もう止めようよ…命が幾つあっても足りないよ…」

 使える臓器を回収する為に死体を運んで服は血だらけになって洗濯に出さなければならなかった。

(ポケットに何も入ってないよね?)

 ポケットを探ると最初に渡されたメモが入っていた。

(「嘘の記憶に騙されるな。彼等を騙して逃げろ」…そんなのどうやって?逃げるルートなんてどこも監視されてて…そうだ!私には逃げる為の羽根があるじゃない!アストライアーなら!空や機体だったら施設より監視されてない…よね?故障で墜落して死んだ事にすれば良いんだ!)

 

 毎日掃除しながらしらみ潰しに手掛かりを探した。ようやく見つけた資料室にヒュペリオンのデータが大量にあり、ラルフのデータも置かれていた。そこには彼が書いた契約書まで置いてあった。

(あれ?この筆跡って…)

 渡された一枚のメモと見比べた。同じだ。

(アポロ君が心配だけど早く出たい。もっと本当の事を知りたい。私にメモを書いた人にも会わなきゃ。けど外に出てもお金がない。アストライアーのパーツを売って、後は働かないと…大変ね。)

「お姉ちゃん、何してるの?」

「アポロ君!しーっ!この事は内緒だからね。」

「いたずら?怒られちゃうよ。」

「そうね。だから秘密よ?」

「うん!大好きなお姉ちゃんだもん!」

「もう!この子ったら。私も大好きだよ。」

 いつも通り抱き締めた。

(銃を持っていない時だけはただの可愛い子供なのにな。)

「えへへ。僕お姉ちゃんとずっと一緒にいたい!だから死なないように頑張るよ!」

 それを聴いてぎゅうっと胸が締め付けられた。

「…ごめんね。私もうここに居たくないの。

弱い人を殺すようなこんな所は。アポロ君と離れるのは本当に辛いよ。」

「何で?僕とずっと一緒に居たいって言ってくれたのに!」

「それはここから出られたらの話よ。貴方は好きだけどここは嫌いなの。明日にはもう居ないと思う。探したい人が居るの。アポロ君も死にたくなかったら逃げ出さなくちゃ。」

「どうやって?逃げた後どうするの?危ないよ。僕は…誰かを犠牲にしないと生きられないよ…だから行かないで!」

「私、争いは嫌いなの。銃を持った貴方も嫌い。」

「え…」

「銃を持たなくても良い所だってあるのよ。来るなら一緒においで。」

「どうしてそんな事言うの…?僕はまだお姉ちゃんを守れないよ……」

 

 一緒に連れて行きたかったけれどアポロは怖がって載ろうとしなかった。逃げ出す最後の夜、アインハンダーと通信を取る大きなコンピュータの基盤を剥がして積んで真夜中に飛び出した。

(見捨てて逃げてごめん…ごめんね…アポロ君…みんな…)

 冷たい闇夜の中を独り、向かい風を受けてどこまでも飛んで行った。

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