孤高のプリマドンナ   作:駄蛇

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全然更新できてないのでせめてこっちだけでも……
ひっさびさの更新です


第三幕:風変わりな店

 メルトリリスの指示に従ってイギリス風の街に戻ってきたものの、指示が曖昧過ぎて早速手詰まりだった。

 彼女のような機動力もないため探すとなると効率的に行う必要があるのに、その基準となる情報が少なすぎる。

 この街がサーヴァントによって造られているというのであれば、シンプルに考えるとこの町にの中心部にいるんだろうか?

「まあ、そうだとしても中心部がわからないんだけどね……」

 喉の方はもうほぼ復活したといってもいい。これなら普通の会話も問題なさそうかな。少し喉の奥に違和感があるが、それはここの空気が悪いせいだと思う。

 ……さっきより霧が濃くなった気がしないでもないけど。

『彼』からもらったブレスレットで周囲を索敵してみるが、さきほどの空間で待機しているメルトリリスの反応が索敵範囲ぎりぎりにヒットした以外は特に何もないようだ。エネミーがいないという意味でもあるのでそれはそれでうれしいけど、これでは何も発展しない。

「……高いところに上ってみようかな」

 イギリス風の街並みということで、あの有名な時計塔がないかしばらく歩いてみたがそれらしきものはない。ここがロンドンではないのか、はたまた固有結界だから正確なイギリスの街並みではないのかまではさすがにわからないが……

 メルトリリスは屋上からの探索はオススメできないと言っていたが、このまま地上を闇雲に歩き回るよりはマシかもしれない。ひとまず手ごろな高さの年季の入った建物を見つけ、屋上へと向かおうとする。

 そして、その行動がこの世界観の謎を紐解くきっかけとなった。

「……………………」

 中に入ると目の前の光景に思わず立ち止まってしまった。

 そこにはなんの変哲も無いエスカレーターが設置され、一階から二階、二階から三階……と続いてる。さらに天井はエスカレーターを中心に吹き抜けになっているという、よく見るショッピングモールの構造だ。特におかしいところはない。

 だが、その状況自体が異常なのだ。

 たしか、エスカレーターの原理がつくられたのは19世紀の中頃だが、作られたのは19世紀の終わりごろのはず。一応時期は産業革命と被ってはいるし、産業革命が終わった後もすぐにこのイギリス風の街並みが変わるとは思えない。

 でもエスカレーターが発明されたのはアメリカでありイギリスではない。普及までの期間を考えても、この年季の入った建物がエスカレーターありきの構造で建造される前に導入されたとは考えにくい。

 極めつけに、このエスカレーターは『蒸気機関』で稼働しているように見える。知識不足の可能性を否定しきれないが、そんなエスカレーターがあったなど聞いたことがない。

 よくわからない焦燥感に駆られ、あたりを見回す。先ほどまでは特に気にしていなかった風景でも、一つ違和感を起点に、その感覚は雪だるま式に大きくなってくる。

「……技術が発達し過ぎている?」

 思わず自分の口から漏れた言葉に耳を疑ったがそうとしか思えない。いや、技術が発達しすぎてるんじゃない。風景が古すぎるんだ。

 ここはまるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のようだった。

 不意にここが誰かの心象風景を具現化した固有結界の中だと思い出す。まるでSF作品の一種であるスチームパンクを再現したかのような世界を夢見たサーヴァント、そうなると自ずと候補は絞れてくる。

 これは思わぬことろで一歩前進したといえよう。あとはサーヴァントを探せば必要最低限のノルマは達成だ。

「まあ、それが一番大変そうだけど……」

 念のためブレスレットで周囲を索敵してみるが、ある程度歩き進めたせいでメルトリリスの反応すらなくなってしまった。

 屋上にも上ってみるが、彼女の言っていたとおり霧が濃くて何かを探すというのにはかなり不向きな環境だった。

 ただ無駄だったわけではない。

 屋上にたどり着いた直後は10メートル程度先を見るのがやっとだったのが、運良く霧が晴れ始めたことで視界がさっきよりも断然クリアになったのだ。

 そしてこの街並みの中で一番大きく、そして煙が絶え間なく吐き出している建物を発見することができた。

 かなり目を惹く建物なのにメルトリリスが探索中に見つけられなかったのは、もしかすると霧が濃すぎて隠れていたのかもしれない。

 何はともあれ、目下の目標はあそこにたどり着くことになるだろう。問題はどうやって行くかだが……

「地道に歩くしかない、よね」

 人という生き物は孤独になると独り言が多くなるらしい。思考を声に出しながらもう一度だけ意識をブレスレットに集中させる。

 ついさっき索敵したばかりだから、変化などあるはずがない……はずだった。

「えっ、え……え?」

 一瞬何かの勘違いかと思ったが違う。正体はわからないが、高速でこちらに接近する存在を感知した。

 エネミーの反応ではない。どちらかというとメルトリリスのそれに近い。でも彼女自身ではない。

「ということは……」

 程なくして『それ』は上空からゆっくりと現れた。霧に包まれた街並みにさらに蒸気を排出し、ほとんど何も見えない状況だというのに嫌という程存在を放つ黒い巨体。

 あたり一面真っ白な濃霧の中で目のようなものが赤く光り、こちらをまっすぐと捉えている。

 目の前にして嫌でもわかる。目の前にいるのはサーヴァントだ。

 そして、メルトリリスが各世界にサーヴァントは一人と言っていたということは、目の前にいるのがこの世界の主……!

「そう警戒しなくてもいい。このムーンセルに追われる者に遣わされた少女よ」

「なんで知って……っ!?」

「特に驚くことではない。この街は私の身体も同然である。であるならば、この街のことは誰よりも把握していてもなんら不思議ではない」

 目の前のサーヴァントらしき巨体は不自然に反響した声で語る。その様子に敵対の様子はない。

「私がメルトリリスの指示でここを調べているって知っているのに、何もして来ないんですか?」

「無論あの少女は撃退する。私はそのためにムーンセルに呼ばれたのだからな。だが、君は違う。君は指示されてここにいるだけであり、ここに直接害を及ぼすつもりはないのであろう?

 私はこの戦いに関係ないものはできる限り保護して回っている。君がよければあの少女から守ることもやぶさかではないが?」

 言いながら黒い巨体がの身体が動く。よく見えないけど、おそらくこちらに手を差し伸べているのだと思う。

 彼(でいいのだろうか?)の言うとおり、メルトリリスに指示されたということ以外に私がこの街に危害を加える理由はない。メルトリリスと目の前にいるサーヴァントが戦ってどちらが勝つかはわからないけど、ひとまず身の安全が保障されるのは間違いなくこの提案を飲むべきだと思う。

 でも……

「それでも私は彼女と一緒にいたい」

「彼女の危険性は君も薄々気づているはずだが?」

「それは、もちろん。

 身の安全を最優先に考えると、ひとまずこの案に乗っておくのが正しいってことも。

 でも、なぜか彼女を裏切るようなことはしたくないの。

 よくわからない痛みが胸の内側を走るというか……」

「ふむ、ならば私から言うことはない。

 あの少女に伝えるといい。『私は街の中央にある一番大きな建物で待つ』とな」

 霧が濃くて姿は見えないが、目の前でこちらに背を向けたのはわかった。

 見逃してくれるだけでなく、メルトリリスが求めてる情報までくれる心遣いに頭が上がらない。

「ありが――」

 ガシャッ、と金属同士が擦れる音に反射的に振り返る。

 霧が濃くてよく見えないが、忘れない。忘れられるはずがない。ほんの数時間前に聞いたその音に全身の毛が逆立った。

 

 ――逃げないと。

 

 そう身体に言い聞かせるも、硬直してしまった身体はそう簡単には動いてくれない。

 音はすぐそこまで迫っている。もう逃げられない。

 死を悟った瞬間、超重量の何かが私のすぐ上を通り過ぎた。続いて聞こえてきたのは、ベコッと金属のへしゃげる音。

 遅れて凄まじい風圧があたりの霧をなぎ払い、屋上一体の景色が鮮明になった。

 恐る恐る目を開けると、目の前にはグシャグシャのスクラップと化したエネミーが二体ほど。

 もしやと思い後ろを振り返る。まず目の前に広がったのは黒色の壁……と見間違えるほどの巨体。黒い鎧に全身を包み込み、ドリルと棍棒が組み合わさったような巨大な得物を握り、その頭部は赤い単眼が怪しげに光っている。

 これって……

「ロボだこれ!?」

「ロボではない。私の固有結界を鎧として構成し直した蒸気機関である!」

 なぜか私の評価が癇に障ったらしく強く否定された。

 口部分から蒸気を激しく吹きながらも、エネミーへの迎撃は的確に行う鋼鉄の巨人。

 しかし、このエネミーはメルトリリスを倒すために派遣されたものではなかっただろうか……?

「これ、同士討ちじゃないの?」

「少し前まではたしかに同じ敵を討つ協力者ではあったが、どういうわけか数日前から所構わずNPCを襲い始めたのだ。

 以前はこの街にもNPCが普通に暮らしていたのだが、エネミーが暴走し始めてからはさっき言った巨大な建造物内で集団生活を強いられている状態だ」

 原因は不明ということだが、ムーンセルによって生み出された存在が、同じくムーンセルが生み出したNPCを襲うメリットはないはず。

 もしかすると、メルトリリスがムーンセルの一部を掌握した影響が出ているのかもしれない。

「うむ、少し数が多いか。

 君をあの月の反逆者の仲間として本格的に認識したのかもしれない。

 本当は君を月の反逆者の元へ送り返す予定であったが、これでは難しいだろう。

 一度私の拠点へと避難するとしよう」

「え!?」

 思わぬ提案に素っ頓狂な声で返す。見逃されるだけならまだしも、まさか助けてくれるとは思っていなかった。

 いやまあ、すでにこうして迫るエネミーから助けてもらっているわけだが……

「驚くことでもあるまい。

 帰りが遅ければ月の反逆者も君を探しに来るかも知れん。

 そのときに合流するのでも問題ないだろう」

 いうが早く、鋼鉄の巨人は鈍器を虚空へ仕舞うと私の身体を軽々と抱え上げる。

 一体どうするつもりかと尋ねようとし、不意に脳裏をよぎった。

 彼はここへどのようにして現れただろうか……?

「ちょ、ちょっと待って!

 まさか、まさかだよね!?」

「しっかり掴まっていなさい。私も注意はするが完璧ではない」

 こちらの制止も虚しく、巨体の背面で蒸気が大量に噴出し始める。

 それはさながら、ロケットの発射前のような状況。であれば、次に起こることは容易に想像がついた。

 ふわりと妙な浮遊感の後、容赦なく頭から押さえつけられる風圧にたまらず目をつぶる。

 次に目を開けると、ビルの屋上から見えていた風景がいつのまにか眼下に広がっていた。ざっと見積もっても地上から数百メートル上空にいる。

「し、死ぬ! これ絶対死ぬってぇぇぇぇぇぇ――――!」

 私の情けない声が、ロンドン風の街並みに響き渡る。

 

 

「――い、生きた心地がしなかった……」

 空を飛ぶという幼いころならば誰しも夢見るだろう出来事を体験しての感想としては夢も希望もないものだったが、事実なのだから大目に見て欲しい。

 そもそも、抱えられているとはいえ落下の可能性がある状態で落ちたら即終了となれば、呑気に空の旅を楽しめというほうが土台無理な話である。

 荒れた息を十分な時間を使って整え、改めて自分のいる場所を確認する。

 鋼鉄の巨人に連れられて降り立ったのは、先ほど何度も話題に上がった巨大な建造物の屋上であった。

 随所に張り巡らされたパイプ、つぎはぎのように鉄板を重ねて増築したような壁、煙突からは際限なく水蒸気が吹き出している。

 万人が想像するスチームパンクの世界そのもののような光景だった。

 腕輪の力で周囲の生体反応を探知してみると、あまりの反応の多さに少し頭がくらっときた。

 街中のNPCを一カ所に集めたというのは本当らしい。

「ここがあなたの拠点?」

「うむ。この街の動力源でありあらゆるものの要であり、私の力が最も色濃く及ぶ場所である。

 ゆえにムーンセルの機能よりも私の力が優先され、あらゆるところで発生するエネミーもこの周辺からは発生しない」

 なるほど、それが本当であればNPCも神出鬼没なエネミーの発生に怯える必要もない。

 NPCをここに集めた理由がわかった気がする。

「あの、助けてもらったことは感謝してるけど、本当に私を助けてよかったの?」

「問題ない。むしろ戦闘能力のない少女をあの場に放っておく方が私には我慢できなかったのでな」

 赤く光る目を伏せ気味に鋼鉄の巨人は口から少し蒸気を吐いた。ため息の代わりだろうか?

 何にせよ、目の前にいるこのサーヴァントは非常に紳士的な性格であることは十分にわかった。

 ならばここは謝罪より感謝するほうが相手のためかな。

「ありがとう。えっと……そういえばあなたの名前は? 私は櫛波湊人」

「……ふむ、本来真名は語るべきではないのだろうが、相手に名乗られたのであればこちらも返すのが礼儀であるな」

 鋼鉄の巨体がゆっくりとこちらに振り返る。

「私の名はチャールズ・バベッジ。ひとたび死して空想世界として共にある蒸気王である」

 チャールズ・バベッジ……

 その名前は聞いたことがある。そして、このスチームパンクの世界にようやく合点がいった。

 数学者であり機械設計者。

 蒸気機関を使った「階差機関」「解析機関」を考案し、しかしオーバーテクノロジーゆえに完成せず果てた天才。

 記憶が正しければ、現在の技術をもってしても未だに階差機関の一部しか再現が出来ていないほどだとか。

『コンピューターの父』とまで称される彼が、まさかサーヴァントとして現界する際にこのような姿になっているとは思いもしなかった。

「さて、このまま屋上にいれば飛行型のエネミーが再び襲ってくる可能性もある。ひとまず中に入ったほうがいい。

 それから、君が今日休む部屋を用意しよう」

「え!? そんな、助けてもらっただけでも十分なのに部屋なんて……っ」

 屋上から移動しようとする巨人改めバベッジを慌てて追いかけようとするも、急に視界がぐらつき膝から力が抜けた。

「――その身体ではエネミーの索敵をかいくぐり外の世界へ行くのは不可能であろう」

 顔から床にダイブする直前、滑るように移動して来たバベッジに抱えられる。

 思い返せば、あの謎の空間で男とも女ともとれる不思議な『彼』に出会ってからたぶん一日も経っていない。

 気が休まる暇もなかったから忘れていたけど、かなりのハードスケジュールだ。

 表裏なしの親切で言っているだろう彼の提案を無下にするのもなんだか悪い気がするし、素直に行為に甘えさせてもらおう。

「じゃ、じゃあお願い……」

「うむ、承知した」

 言うが早くバベッジは私を頭に乗せて、滑るように屋上を移動していく。

 ……たしかに彼のゴツゴツとした巨体の中で、一番安定するのは円柱状になっている頭頂部だとは思うのだが、ここに人を乗せて問題ないのだろうか……? まあ問題ないのだろう。

 それにしても、普段と違う目線の高さというのは新鮮だった。

 そして壁際にあった巨大なコンテナのような物の中に入ると、ゆっくりと扉が閉まり始めた。

 閉じ込められるかと一瞬警戒したのもつかの間、続いて軽い振動、そして次に僅かな浮遊感と、これがエレベーターで降下中なのだと理解した。

 当時の人力を使わないエレベーターは技術的にはかなり荒削りで安全装置などもなかったと聞くけど、たぶんそれはこの世界には適応されない。その証拠に滑らかに速度を上げつつ降下していく。

 エレベーターの広さはコンテナと見間違うほどだけど、高さはバベッジの身長に合わせているのか、彼の頭に乗ったままだとかなり圧迫感があった。

 それを察したのか、少しだけ蒸気を排出しながらバベッジは申し訳なさそうに語る。

「狭いと思うがしばらく我慢してほしい。

 今の私よりも巨体の生物はそうそういないため、高さはギリギリで設計してしまったのだ。

 もし狭ければ、もう一度抱えるのでも構わないが?」

「あ、いや大丈夫だよ?」

 低いといっても人一人分のスペースなら十分ある。

 あと、ロボみたいな体格をしている人の頭に乗るなどそうそうできる体験でないので、ここぞとばかりに堪能しておきたいと思ってみたり……

「バベッジ専用ってことはパイプとかの修繕のためとか?」

「否、配管の方は問題ないが、屋上からエネミーが攻めて来た際に私や警備部隊が屋上に向かう際に使っているのだ」

 警備部隊? と尋ねようとしたところでエレベーターが緩やかに速度を落としはじめ、停止した。

「……わぁ」

 ゴリゴリと金属同士が擦れる音を立てながら扉が開くと、目の前の光景に思わず声が漏れた。

 蒸気が伝うパイプとつぎはぎの壁だけで構成された牢獄のような空間。

 そこに所狭しと、バベッジよりは小さいが彼に似た大小さまざま機械が隊列を組んで待機していた。

「ヘルタースケルター。

 私の肉体を解析し、量産用に改良したこの世界の警備部隊である!」

「へ、へぇ……」

 私から尋ねる前にバベッジは自ら目の前の機械の説明をする。心なしか胸を張り、自分の成果物を自信満々に披露する子供のようにテンションが上がっている気がする。

 けど、たしかヘルタースケルターとは『慌てふためいて』や『混乱している』のような意味だった気が……

 警備部隊にそんな名前をつけていいのかどうか?

「まあ、本人が満足そうならいいのかな……」

「ここにいるのは非常事態に備えて待機させてあるもので、稼働中のものはこの建物の入口など各所に常駐させてある。

 ランダム出現程度のエネミーであれば建物に入る前に容易に撃退できるだろう」

 試しにブレスレットの力で確認してみると、たしかに目の前にいる反応と同じものが建物内でたくさん徘徊しているみたいだ。

「ここをまっすぐ抜けた先にあるエレベーターが居住区へと繋がっている。

 部屋はもう用意させてあるからゆっくり休むと――」

 へルタースケルターに囲まれた通路を抜けている途中、突然警報が鳴り始めた。

「な、何!?」

「警備システムが作動したらしい。

 ……私である。状況は?」

 落ち着いた様子でバベッジは最寄りの壁に備え付けられていたボタンを押し、どこかと連絡を取り始める。

『上空から15体ほど攻勢エネミーがこちらへ侵攻しています。

 地上からの侵攻は確認できません』

「……ふむ、了解した。

 ではマニュアル通り、君達は自室で待機しておきなさい」

『わかりました』

 通信が切れ、少し間があってからバベッジの赤い瞳が閉じられ、小さく蒸気を排出する。

 会って間もないが、彼の表情のパターンは非常にわかりやすい。

 そして少し間があってから、頭の上に乗っている私を下ろしながら状況を説明してくれる。

「どうやらエネミーの襲撃のようだ」

「もしかして、私のせい?」

「なんとも言えない。このような小規模の襲撃は一日に最低一回はあるのでな。

 私はここにあるヘルタースケルターとともに屋上へ迎撃に向かう。

 代わりに小型のヘルタースケルターを君の案内役兼護衛にするのでそれで許してほしい」

「大丈夫だから心配しないで。

 むしろここまでしてもらって、こっちがお礼を言うべきなのに」

「承知した。迎撃が終わり次第、一度君の部屋に伺う予定だ」

 その言葉を最後にバベッジは振り返り、屋上へと続くエレベーターへ向かう。

 そしてその後を追うように、待機状態だったヘルタースケルターのうち比較的大型のものが起動して動き始めた。

 十数体ほどの、私よりも大きな機械たちが隊列を組んで移動する光景は小規模とは言え圧巻の一言だ。

 そしてバベッジと同じようにエレベーターへ乗り込むと、硬いもの同士が擦れる音とともに扉が閉まった。

 その光景を見送ったのに、私の服の裾を控えめに引っ張る影が一つ。

 見れば先程バベッジとともにエレベーターへと向かったのとは別の、一番小さいヘルタースケルターだった。

「君がバベッジの言ってた案内役?」

 少し腰を落として目線を合わせながら尋ねると、その言葉に目の前のヘルタースケルターは首部分のモーターを駆動させて何度も頷く。

 ……見た目が私よりも小さいのも相まって不覚にも可愛いと思ってしまった。

「じゃあよろしくね」

 もう一度大きく頷いた小さいヘルタースケルターは勢いよく振り返っ……たかと思えば、少し勢いがつきすぎたのか一回転してもう一度私と向かい合う形になった。

「えっと、大丈夫?」

 思わず心配になるが改めて振り返ると、今度は問題なく居住区へと続くエレベーターへと移動していく。

「……やっぱりかわいい」

 わざとなのか偶然なのか、全ての個体共通なのかあの個体だけおかしいのか、これだけではよくわからないけど、保護欲をくすぐるあの挙動は反則だと思う。

 どうにかバベッジにお願いして、心の癒し要員として一体ぐらい貰えないだろうか……


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