なので、USUMのストーリーとは噛み合わない描写などがあるのでご了承ください。
USUMで最遅ツンデツンデ厳選のためにジャッジ機能開放するためにタマゴ孵化しててふと思い出したのでpixivから引っ張り出してきました。
「私…カントーへ行くんです」
「え…」
―今日はお泊まり会をしましょう!―そんな言葉につられて、リーリエと一緒ロフトで寝ていた私にその言葉は突きつけられた。
その言葉を聞いた時の私はどんな顔をしていたのだろうか?驚愕?悲しみ?それとも…無表情?
いいや、きっといつもみたいにただ曖昧に笑っていたのだろう。それが私なのだから。
「そう、なんだ…」
「そう、なんです」
それっきり会話が途切れる。元々私は人付き合いが得意ではない。それどころかポケモンとの付き合いすら得意ではなく、結局博士からもらったモクロー以外は手持ちに入れなかったくらいだ。
それでも、今だけはこのまま会話を終わらせたくなかった。
「じゃあ、さ。少し、出かけたい所があるんだけど…」
「こんな夜中にですか?」
「うん、こんな夜中だから」
そういって、彼女を連れ出す。どこに行くかも決めてないけど、それでも行かなくちゃという気持ちになったから。
「なんだかロマンチックですね」
だから、そういって笑うあなたをいっそ攫ってしまえればと思ってしまったのも仕方ないのかもしれない。
ほしぐもちゃんに乗っての旅路はあっという間だった。本来ならリザードン以外での空を飛ぶは禁止なのだが、こんな月夜にほしぐもちゃんを見つけられるとも思わない。
よしんばバレたとしても、それがどうしたという話だ。私にとってリーリエとのこの逢瀬以上に優先すべきことなどないのだから。
空の上で、ほしぐもちゃんの背中の上でリーリエからカントー行きへの話を聞いた。ルザミーネさんのこと。そしてトレーナーになろうという決意のこと。
その決意を聞いた時、私の心が酷くいたんだのは気のせいではないのだろう。彼女はもう、私なしでも歩いていける存在になったのだ…。
そんな話をしている内に、気がつけばポニ島までやってきた私達をほしぐもちゃんはとある場所へと降ろした。
「ここは…」
「うん、月輪の祭壇…私と、リーリエが初めて一緒に何かをしたところ」
そうして訪れたのがここだった。自分でもなぜここに来たのかはわからない。ただ、ほしぐもちゃんがここに連れてきてくれたことだけは分かる。だって、私は何も指示をしていないのだから。
ここに何があるというの?そう目で問いかけて見てもほしぐもちゃんは知らんぷりだ。きっと、この先に進まないといけないのだろう。
「なんだか、つい先日のことなのに一昔前のように思えますね」
いつの間にか祭壇の中央へと立っていたリーリエがそう呟く。
「そうだね…」
つい先日まではそうだった。リーリエと一緒に旅をして、リーリエと一緒におしゃべりをして、リーリエと一緒に…
そんな日々がずっと続くものだと思っていた。
でも、それももう過去になろうとしている。これからの未来に彼女はいないのだから。
「私、あなたと出会えて良かったです。あなたと旅を出来て、あなたと色んな物を見て、感じて、経験できて」
やめて、リーリエ…それ以上言わないで…
そんな私の気持ちとは裏腹に、彼女はあくまで真摯に、私の目を見つめて話しかけてくる。
まるで、私の笑顔の仮面を見透かされているようで、いつもの私でいられなくなってしまう。
「だから、あなたとの旅の思い出を糧にして」
…やめて
まだ私は耐えられている。まだ、笑顔の仮面は剥がれてない。
「これからは、あなたに頼らないで」
…やめて!
これ以上、もう耐えられそうにない。今にも、彼女を抱きしめて攫ってしまいそうで。
「マヒナーペ!!!」
「…え?」
そんな私にとっての極限状態を打ち破ったのはほしぐもちゃんの鳴き声だった。
そして、その横に現れた次元の裂け目―ウルトラホール―。
「ほしぐもちゃん?それに、それってウルトラホールじゃ…」
リーリエの声が震えている。母親が一度飲み込まれたのだ、トラウマになっていてもおかしくないだろう。
こちらに寄り添ってくる彼女をギュッと抱きしめてやればそっと抱きしめ返してくる。
「大丈夫、私がいるから」
その言葉で彼女の震えが少し収まった。
彼女は今、私を必要としている。私は、必要とされているんだ。彼女に、リーリエに。
昏い考えが浮かび上がってくる。このままずっと抱きしめていた。このままあの裂け目の中に二人きりで逃げてしまいたい。
「あ、ありがとうございますミツキさん」
「ん。落ち着いた?ほしぐもちゃんがいるんだしきっと大丈夫だよ」
「そうですね…えへへ、ありがとうございます」
そうはにかんで彼女は私から体を離した。少し名残惜しいが、間近にウルトラホールが空いたこの状況でのんびりするわけにもいかない。
改めて、ほしぐもちゃんと向き合って問いかける。
「あなたが、これを生み出したの?」
ほしぐもちゃんは肯定も否定もしなかった。おそらく、ほしぐもちゃんが自分で生み出したわけではないけど無関係でもないって所かな?
「…悪いものじゃないんだよね?」
その問いかけに静かに頷く。この子がこう言っているならきっとそうなのだろう。
そして、私たちにまるで裂け目に入れというかのように翼を動かす。
「入れ…ということなんでしょうか?」
リーリエはまだ少し怖そうだ。母親を救うために勇気を振り絞って一度は入ったとはいえ、今回は事情が違う。勇気も準備も何もない状況だ。
だからこそ、愛おしい。私に縋るしかない彼女が。私を必要としてくれる彼女が。私だけを見てくれる彼女が。
「大丈夫、二人でならどんなことがあっても乗り越えられる」
「ミヅキさん…はい、そうですね!」
そう、”二人”ならどんなことがあったって大丈夫。そう確信して私たちは手を繋いで裂け目へと乗り込んだ。
[newpage]
「ここは…?」
裂け目を通り抜けた先は、どこか見たことの在る遺跡の入口だった。
「それに、さっきまで夜…でしたよね?これ、どう見てもお昼なんじゃ…」
そう、今私達の頭上からは燦々と日光が照らしている。先程までは真夜中だったというのに。
リーリエと二人であーでもないこーでもないと言い合う。
「あ!思い出しました!ここ、日輪の遺跡です!って、ほしぐもちゃん待ってくださいよー!」
しかし、結論に至ってすぐに先へと言ってしまったほしぐもちゃんに気がつく。少しくらい待ってくれてもいいのではないだろうか…。
ここがどこかなんて迷っている間もなく、遺跡の奥へと進んでいくほしぐもちゃんを二人して追いかける。
「あ!ミヅキさん!光が見えますよ!外です!」
そうして、たどり着いたのは湖の上の祭壇だった。
「あ、あそこ!あれって…」
そこにいたのは何度も見慣れた、だけど今や見るはずのなかったコスモッグだった。
その隣ではほしぐもちゃんがじっと私の目を見つめてくる。まるで、私が何を考えているのか見透かしているかのように。
「ほしぐもちゃん…ではないですよね?」
コスモッグとその隣に並び立つルナアーラの姿を何度も見返しながらリーリエがそう呟く。
しかし、ほしぐもちゃんはそれに答えることなくただこちらを見つめるばかりだ。
「ほしぐもちゃん、私達を連れてきたのはこの子のためなんだね?」
ある種の確信をもってそう問いかける。あの子を見たときから浮かび上がった考え。きっと、誰にも賛同されないであろう後ろ向きな考え。ただそのことだけを考えながら。
「マヒナペーア」
ほしぐもちゃんは肯定するかのように一泣きすると、コスモッグをこちらへと促した。
「うわぁ、なんだかほしぐもちゃんの小さいころをおもいだしちゃいます!」
リーリエが抱きかかえるとコスモッグは嬉しそうにキュイキュイと身を震わせる。どうやら、心配はなさそうだ。
「ねえ、リーリエ。その子をあなたの旅に連れて行ってあげたら?」
「え?」
そう提案してみるとリーリエはまるでツツケラがポケマメ鉄砲でも食らったような顔をして呆けた。そんな顔も可愛らしい…。
っと、そんなこと考えてる場合じゃない。大事な話だ。
「うん。リーリエはトレーナーになるんでしょ?なら、その子を今度はあなたが守ってあげて?生まれたばかりのその子には私なんかよりもこれから旅立つリーリエのほうが相応しいだろうから」
嘘だ。そういう気持ちが無いわけではない。でも、本当の気持ちはこんな綺麗事じゃないのに。私は何を言っているんだろう。
「私が…この子を…」
リーリエは呆然とコスモッグを見つめている。いきなり言われても決心はつかないか…もうひと押しかな?
「それでね、いつか…いつかこの子がほしぐもちゃんみたいに育った時。また、アローラに来て私に見せて、私と勝負をしよう」
「私が…ミヅキさんと勝負…」
「さあ、ボールを構えて。これが旅立つリーリエに贈る私からの祝福」
そう言ってリーリエの手にモンスターボールを握らせる。後は、リーリエ次第だ。
「私の…私の初めてのポケモンさんになってくれますか?」
震える声でそう問いかけるリーリエにコスモッグはただ、モンスターボールに擦り寄ることで答えを示した。そして、ボールから光が放たれコスモッグを捕まえる。
「おめでとう。リーリエ」
「ありがとうございます、ミヅキさん。あなたからの贈り物でカントーでもきっと、頑張れます」
こちらに振り向いたリーリエは先程までの震えていた、私に縋っていたリーリエとはまるで違う、決意に満ちた瞳でそう私に述べた。
「いつも、いつもあなたは私を見守ってくれた。まるでお月さまみたいで、それがすごく安心できたんです。でも、これからは…」
そう言って涙ぐむリーリエに私はいつものように曖昧な笑みで返すのだった。
[newpage]
「行っちゃったね」
リーリエから貰ったピッピ人形を抱きしめながらそう呟く。
「……」
ほしぐもちゃんは私の言葉に何も返さない。
「ね、良かったのほしぐもちゃん。私の考えてること、分かってたんでしょう?」
その言葉にもほしぐもちゃんは何も返さない。ただ、悠然と私を見つめるだけだ。
決して責めているわけではない。けれど、いっそ責めてもらったほうが開き直れた。そんな居心地の悪さを覚えてしまう。
「やっぱり、ほしぐもちゃんにはバレバレかぁ…」
「なんで止めてくれなかったの?…なんて、言う権利は私には無いよね」
ねえ、リーリエ気づいてる?それは祝福なんかじゃないって事に。呪いだってことに。
きっと、あなたは素晴らしいトレーナーになれる。その時、あなたの隣にはきっと進化したコスモッグがいる。
そしたら、あなたはなんて考える?きっと、約束したから私にあわなくちゃって考えるはず。あなたは優しいから。きっと、私に会いに来てくれる。
どんなに離れても、いずれきっと、私を必要としてくれる呪い。
ううん、それだけじゃない。私はもっと醜いから。
そうして、私と勝負をしに来たあなたを打ちのめして、再び私を必要とさせようとしているの。
あなたの自信を砕いて、もう一回私に依存させようと。
ねえ、リーリエ。どんなに綺麗に照らしているお月さまでもね。
裏側は真っ暗闇なんだよ?