ダークポケモンヲツカイナサイ……サン&ムーン   作:ヌオー来訪者

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 本作の時系列は、主人公が旅に出るちょっと前ぐらいの出来事。ちょっと前なので原作本編の話も絡む。
 勿論、コロシアムの続編であるポケモンXDの出来事から結構経っている設定。
 XD→→→現在→SM本編


 タイトルであるものを思い出した方は多分年齢がバレる。


001 海外旅行は気候気温に気を付けろ

「……あぢぃ」

 

 そこまで歩いていない筈なのにそれはそれはとても長い旅路のように思えた。

 アローラという地方はここまで暑いものなのか。

 

 ホウエン地方カイナシティ発、アローラ地方メレメレ島ハウオリシティの船から降りた青年は15分歩いた先に広大な砂漠を横断し切った旅人のような顔をしていた。

 アスファルトの上、フラフラと男は歩き進む。

 

 視界に広がる長大な道路が揺らいで見え、すぐ横を通り過ぎる車たちはもわっとした熱気と排気を残していく。息を吸うと海の匂いが鼻を突く。

 汗が髪を伝い、眼に入りそうな所を首をぶんぶんと振って防ぐ。何者にも遮られる事なくさんさんと降り注ぐ陽光は絶えず青年の肌を服越しに焼き続けていた。

 

 この場に於いて青年はひどく浮いていた。

 浮いていたというのは物理的にでは無い。道行く人々が半袖で薄着なのに対し、青年は黒い長袖シャツに、茶色の長ズボン、その上に軽い紺色の上着を羽織っているという出で立ちだったのだから当然だ。

 言うなれば真夏に秋ごろの服装で歩いているようなものである。

 

「あーくそ。冬だろうになんなんだ……」

 

 はっきり言おう。このアルトという名の青年はアローラ地方を舐めていた。そんなアルトを責めるように肩に掛けたバッグの紐が重々しくのしかかり、陽光は容赦なく肌を苛め続ける。

 

「あ゛っ゛つ゛い゛」

 

 尋常ならざる暑さがアルトの気力を削いで行く。

 最初こそ手持ちのグレイシアに抱き着いて冷気で耐え凌ごうとしたものの、グレイシアはそれを当然の権利の如く拒否。『暑苦しいから触んじゃねぇ』と思春期の娘の如く拒否されたのでご破算だ。

 

――グレイシアさん、体のみならず心まで冷たくなったのか。

 

 同じくイーブイから進化した別の手持ちのリーフィアとは大違いである。あいつはデレデレだというのに。

 こうなれば最早手持ちポケモンの力でクールダウンさせる事は期待出来ない。こまごまと店によって冷房で身体を冷やせば暑さはある程度防げるはずだ。……が、アルトが目指しているのは1番道路ハウオリシティ外れのポケモン研究所である。つまるところ寄れる店は自然と少なくなっていく訳で……

 

「あーもう!」

 

 アルトは一旦荷物を降ろして上着を脱いで腰に巻き、長袖のシャツの腕をまくり、気合いを入れ直す。

 これから数か月間この地方に仕事で滞在するのだ。この暑さに耐えずしてこの先生きのこれない。全身から力を振り絞り、バッグを持ち直しアスファルトを踏み締め走り出した。

 

◆◆◆

 

 30分近くアスファルトの上を疾走し、段差のある逆道を駆け下りた先には砂浜が拡がっていた。そこに幾度となく修繕されたであろうボロボロな木製の小屋が立っている。そこがアルトが目指したポケモン研究所である。

 そんな馬鹿な、と初見は己が目を疑った。しかし目の前の光景は真実であり、看板にはデカデカとポケモン研究所と書かれていた。

 なんでポケモン研究所がこんなにボロボロなのか。疑問は尽きないが内装は割と綺麗でどんな幽霊屋敷なのかと身構えたのは杞憂に終わった。

 

 で、そんなポケモン研究所で待っていたのは屈強な浅黒い肌を風に晒した所謂半裸の上に、白衣を羽織った奇妙な出で立ちの男であった。

 彼の名はククイという。このような出で立ちながらも博士という称号を持っている辺り人は見かけによらないものだ。

 

 体力を使い果たしたアルトはポケモン研究所の応接スペースのソファに座ってぐったりとしていた。ククイ博士は水の入ったコップをアルトの前の机に置く。

 

「大丈夫かい?」

「大丈夫じゃないです。暑かったです」

 

「はははは……今日は一際暑いからね。多分明日には落ち着くとは思うけどね。しかしアルト君その服じゃぁフィールドワーク中に熱中症になって倒れてしまうぞ?」

 

 ククイ博士の言う通りであった。これから草むらだけでは無く洞窟に潜ったり山を登ったり海を渡るであろうことは容易に想像できる。というかフィールドワークというものは得てしてそう言うモノだ。とはいえ比較的温暖なホウエンですら冬らしく寒かったのでアローラの暑さは想定外だった。

 

「肝に銘じます……」

 

 差し出された水を一気に飲み干す。エアコンの冷えた風と、喉の中を流れる冷水が心地よい。飲み干した所でククイ博士が切り出した。

 

「オダマキ博士から話は聞いているよ。何でも、課題を出されたそうじゃないか」

 

「えぇ。これが終われば晴れて見習い卒業って所です。ただ、今回は大規模というか長時間に渡るフィールドワークという形になります。数か月間の滞在は間違いないです」

 

「そうか。アローラにもまだ未知のもの沢山転がっている! もしかしたらぼくたちが見つけられなかったものを見つけられるかもしれないな!」

 

 嬉々とした口調でちょっと大げさな身振り手振りを交えて話すククイ博士の勢いに当てられてアルトもアローラの熱気で萎えかけていた好奇心と気力のようなものが戻って行く。

 アルトは研究者の端くれだ。そう言ったものに対する好奇心の種火を持っていた。

 

 

 この世界にはポケットモンスター縮めてポケモンと呼ばれている不思議な生き物たちが、海、山、平原、森、火山、異次元いたる所に住んでいる。その種類は多種多様で、数は100、200、300、400……その数を知る者はいない。

 人間たちはポケモンと一緒に遊んだり、力を合わせて仕事をしたり、そしてポケモン同士を戦わせ、絆を深めて行ったりしている。科学技術の進歩もポケモン無くしては成し得なかっただろう。

 有史以前からポケモンと人間は共に在ったという伝説すらもあるほどに人間とポケモンは切っても切り離せない存在なのだ。

 しかし未だに人間はポケモンについて分かっていない謎な部分が沢山ある。その謎を解き明かすべく研究を日々続けている者たちがいる。

 アルトやククイ博士もまたその一人である……アルトはまだまだ見習いではあるが。

 

「暫くお世話になります」

 

「あぁ。困った事があったら何でも言ってくれ。出来る事なら力を貸すぜ」

 

 白い歯を見せ爽やかな笑顔でそう言ってのけるククイ博士。

 気持ちのいい性格をしているとの研究者の間では専らの噂だったがまさにその通りのような人物だ。人に好かれやすいオーラがひしひしと出ていた。

 

「所で()()()()はしないのかい?」

 

 ククイ博士の問いにアルトは首を横に振った。

 

「そこまでやり切る時間はちょっと無いと思います。レポート提出期限もありますしフィールドワークに大分時間持って行かれそうなので……資料とかまとめなきゃならない時間もありますから」

 

 アルトも一応トレーナーの心得は持っている。何せ、仕事柄強力な野生のポケモンがうようよ居る地帯に足を踏み入れなければならないなんて事もよくあるのだ。フィールドワークをやる以上自衛手段を持って居なければ命を落とす事だってざらだ。

 ポケモンによって命を落とす……という事例は意外にも沢山あり、帰らぬ人となったフィールドワーカーも割と居る。

 そのためポケモンジムで自衛用のポケモンを鍛える研究者も割と居る。なお、アローラ地方にはその問題のポケモンジムが無い。そう、無いのだ。そのためポケモンリーグも――無い。

 一応鍛える手段が現地のトレーナーと試合したり、野生のポケモンと戦う以外にも存在はする。先ほどククイ博士が言っていた島めぐりというものもその鍛える手段の一つである。元々子供が一人前に成長するために存在する儀式で、11歳以上なら誰でも出来る所謂アローラ地方版ポケモンジムというべきものだ。ジムリーダーの代わりにキャプテンという試練の案内役が配置されている。

 

「そうか、そいつは残念だ。気が向いたらいつでも挑戦してみてくれ。島はいつでも君を待っているぜ」

 

「はい。覚えておきます」

 

 

 アルトはもう11歳をとっくに越しており今年で17だ。挑戦する資格は持っている。しかし残念ながら今回はパスだ。

 

「最近良くない噂を聞く。何やら比較的温厚なはずなのに異常に凶暴化したポケモンが各地を荒しまわっているとね。気を付けてくれ」

 

「凶暴化?」

 

「そう。警察や島のキャプテンが調査に当たっているから恐らくは大丈夫だとは思うけれども、どうもよくない予感がする。先行を取れたときにカウンターが来そうな予感ぐらいにね」

 

 凶暴化したポケモンというのは些か気になる話でアルトは神妙な表情になる。

 元々凶暴なポケモンならいざ知らず、温厚なポケモンが凶暴化するなど余程の事があったのは明白だ。環境破壊か、それとも……

 

「恐らく君なら大丈夫だろう。オダマキ博士から聞くに元々腕の立つポケモントレーナーだったという話も聞くしね」

 

 ククイ博士とオダマキ博士の評価に苦い笑みが出る。

 

「買いかぶり過ぎです。昔の話ですよ、それに俺は()()()()()()ですので」

 

 トレーナーになって目指すものに成れなかったからこそ、今のように研究者の道に走った。とはいえ、それまでの経験が無駄だったとは言いたくはない。研究者を目指したのはそれまでの旅路をきっかけに得たものなのだから。

 

 

「そろそろ俺、行きます。貴重な話有難うございます」

 

 それからククイ博士と数時間ほど研究などの話をした後、そろそろ頃合いだとアルトは立ち上がった。長旅と熱気で奪われた体力はそれなりに取り戻せた。するとククイ博士はアルトを引き留めた。

 

「ちょっと待った。キミに渡したいモノがある。それと……原付の免許持ってるかい?」

 

「……へっ?」

 

◆◆◆

 

 どっどっどっどっどっ……

 

 ノリに乗って吹いてみた口笛は風とエンジンの音にかき消された。

 押し寄せる温い風を浴びながらアルトはククイ博士から借りたスクーターに跨り、長い長い海沿いの道路を引き返すように走る。

 海特有の匂いにも慣れて来た。

 

「……いやーぬっっっるい」

 

 湿気を含んだ風は涼むにはあまりにも温すぎた。一応全力疾走するよりはずっと楽ではある。

 

――ククイ博士……ありがとうッ……!

 

 ククイ博士の厚意に感激しつつ、道路を走っていると間もなくしてハウオリシティの街並みは近づいて来た。当然といえば当然だが走っているよりずっと早い。

 

 今日のスケジュールはハウオリシティに一度引き返してから必要なものを買い揃え、明日から行動開始だ。

 まず予約を取っていたホテルに赴いてチェックインを終え、重い荷物をホテルに置いて、スクーターはホテルの駐輪場に置いて街に出る。

 

 件の凶暴化したポケモンとやらも気掛かりなので心持ち多めの道具を買い揃えておこう。手持ちに不安があるという訳ではないが、また己の不用心で後手に回るというのは避けたい。

 攪乱用の煙玉に餌、予備のライト用電池、やや高級なきずぐすり、モンスターボール……

 それとアローラ地方でやっていくための服。ククイ博士曰く、今日は一際暑かっただけで、明日はまだ抑えめな気温になるらしい。とはいえ今の服装はちょっと辛いものがある。半袖の上着とTシャツを買い、さぁ準備完了だ。

 

 ブティックを出るともう日が暮れかけていた。

 買い物袋を両手にハウオリシティの夜道を歩いていると――

 

 

 後ろの物陰から妙な人の気配を感じた。

 

「YO!YO!YO!」

 

 何故かラップっぽい声と一緒に……




 現在判明しているアルトの手持ち
 グレイシア、リーフィア
 他に手持ちはあるとかなんとか。

 一応主人公の名前は植物由来。アルカネットとかアルストロメリアとか
 名前になりそうな植物を調べたら大分使われてて四苦八苦しました……


 次回、『人は誰もがポケットにモンスターを飼っている』12時に予約投稿予定
 下ネタではない、断じて。
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