ダークポケモンヲツカイナサイ……サン&ムーン 作:ヌオー来訪者
ツヨクナリタインダロウ?
ツカイナサイ……
「おめーよー! そのアタッシュケースを寄越せよー!」
追われていた女性は昨日見た二人組に似た衣装をした男たちに囲まれていた。
昨日見た時より増えている、……ヒトという性質上増殖したとは考えにくいので元々そういう集団だったのだろう。結束を明確化しているように見える。
「……駄目です! これは渡せません! これはポケモンを救うための……!」
白服の女性は抱えたアタッシュケースを抱えて離さない。今度の標的はポケモンではないらしい。
カクレオンの道案内を受けて現地に辿り着いたアルトは「お疲れ」と言いカクレオンをボールに引っ込めた。今、この瞬間どうすれば良いかは決まっている。
「おーいそこのラッパー軍団。ちょっとこれはヤな感じだぞ。女の人囲い込んでカツアゲしちゃって……」
「ゲェッ!? お前昨日のスカした盆踊りヤロー!?」
アルトの乱入にアタッシュケースを持った女性を取り囲んでいた男たちの一人が関羽でも見たかのようなする。中に一人昨日会った奴もいたようだ。殆ど同じ服装をしているものだから全然判別がつかないが。
というか盆踊りで覚えられたとは何たる屈辱。一時の勢いに身を任せるものじゃなかった。昨日の自分は暑さで脳みそがやられていたに違いない。振り返ってみれば本当に馬鹿だった。
「悪かったな盆踊りで! ジョウト生まれで悪かったなァ!」
「別にジョウト生まれなのを馬鹿にしてねぇよ!? 良いじゃねぇかジョウト!」
一般通行人の逆ギレと至極真っ当なカツアゲラッパーのツッコミ。アルトは気を取り直し咳払いした。一応助けに来たつもりなのに何故そっちのけでカツアゲラッパーと漫才をやっているのか。
「……で、またカツアゲか」
「カツアゲ? 違うぜ! こりゃビジネス! あのアタッシュケースを奪えってな!」
人からモノ強奪するビジネスとは何なんだ。かつてカントー地方を荒しまわっていたロケット団めいた物言いに、アルトの立ち位置は決まった。
「どんな理由であれ――それが許される訳ないだろ。っていうかバックの有無対象関係なく普通にカツアゲじゃねぇかコラ」
取り出した2個のボールに、5人のカツアゲラッパーも1個ずつ手持ちのボールをポケットから取り出す。5対2の不利な構図に、アルトは舌打ちする。
流石にこちらも対抗して5体呼び出して同時に指示するという芸当は無理だ。
トリプルバトルなる芸当は人生で碌にやった事はないし、ダブルバトルなら辛うじてよくやった程度だ。
「袋叩きだァァァァァァァァッ!」
スカル団が5体――ズバット、ヤブクロン、アーボ、ヤングース、ヤトウモリ。殆ど毒の多種多様なポケモンの群れで一斉に飛び掛かり、アルトはグレイシアとルカリオで迎え撃つ。
戦いは数だと誰かが言った。先日、瞬殺したとはいえ相手はこちらの手のうちを知っているハズ。あまりグズグズしてはいられない。速攻でカタをつける。
「ルカリオ、バレットパンチを! 離脱後グレイシアは吹雪ッ!」
指示通りルカリオが先に地面を蹴り、一気に押し寄せる5体の軍勢を弾丸の如く勢いですれ違いざまにバレットパンチで殴る。それは一瞬の出来事で反撃の間も相手ポケモンたちには与えない。一気に5体も殴らせたのでそこまで深手にはなってはいないが本命はこの後だ。
ルカリオがバレットパンチの勢いのままに離脱した直後グレイシアがその技の名の通り吹雪を吐き出し、5体とも次々と冷たさに耐えられず目を回し気絶した。
「っし! ……まだやるかお前ら」
それは一方的な試合だった。吹雪で一気に倒された5人のカツアゲラッパーたちは顔面蒼白になる。
ポケモンのパワーと反応速度の差で勝負が決まったようなものだ。練度の差が露骨に出ていた。
「俺ら逃げるッスカ!? さよなら告げるっスカ!?」
「おう。追わないから帰っ……!?」
横から得も言われぬ威圧感がアルトの肌を刺した。鳥肌が立つ。背筋が危険を察知して凍り付く。アルトは先ほどまで紡いでいた言葉をぶつ切りにし、サッと圧のした方を向く。……誰だ。
威圧感を感じたのは人気のない森の中。ずしり、ずしりと地面を踏み締める重い音が徐々に近づいてくる。そして――
「――リ、リングマ……だと」
威圧感の持ち主――とうみんポケモンのリングマが現れた。森を出てアルトたちを一瞥するや否や威嚇ともとれるような雄叫びを上げた。咄嗟に7人とも耳を塞ぎ、鼓膜を守る。
地を割かんばかりの獰猛な雄叫びにピリピリと、肌が僅かに痺れる。本能が危険を察知したか心臓が早鳴る。
逃げなければ――殺られる。
「リ……リングマって……まさか」
白服の女性がポケットから取り出した眼鏡を掛ける。こんな状況で悠長に眼鏡を掛けている事を不思議に思ったが、今はそれどころでは無い。リングマは黒いオーラを出した右腕で、リングマらしからぬ機動力でルカリオに肉迫し、一撃を入れると敢え無く咄嗟に防御姿勢に入っていたルカリオが吹っ飛ばされた。
「なッ!?」
ルカリオは鋼と格闘タイプ。対するリングマはノーマルタイプ。相性は非常に悪くルカリオの方が圧倒的に有利な筈が、こうも簡単に吹っ飛ばした事にアルトは己が目を疑った。だが眼前で起こっている出来事は現実だ。
ルカリオとグレイシアがリングマとやりあっている内に、自衛能力を喪った5人を逃がさなければ拙い。
「お前ら逃げ……あっ」
カツアゲラッパー5人組は既に豆粒になるぐらいまで遠くまで逃げていた。速い。
手間こそ省けたが、何だか複雑な気分だ。後は悠長に眼鏡を掛けてリングマを見ている白服の女性だった。
「貴女も逃げるんですよ……!」
アルトが女性の腕を掴むと、女性はそれを振りほどいた。
「駄目……! この仔は放っておけない!」
「何言ってんだ! やられますよ!」
仕方ない、とアルトは捕獲用のボールを取り出し、暴れ狂うリングマを睨む。
この凶暴化はおろか、ルカリオを一撃で吹っ飛ばしたリングマは捕獲して原因を探るなりしておきたい。女性はそれを見て口を開いた。
「ただのボールじゃ役に立たないわよ」
「ただのボールって……」
彼女は嘘や冗談で言っている風には見えなかった。
ボールを棄てるつもりで投げてみたものの、捕獲機能が発動しないままリングマの身体にこつん、と当たってから地面に落ちた。確かに本当だった。
投げた事は無いが人の持っているポケモンにモンスターボールを投げてもセーフティが作動して捕獲機能が発動しないのは有名な話だ。
まさかあれは人が持っているポケモンだとでもいうのか。
女性はアタッシュケースを地面に置き、カチャカチャとロックを外し開く。ケースの中には灰色の鈍い光沢を放つ機械とユーザーズガイドが入っていた。
見た所腕に取り付ける、騎士や武士が腕に取り付けるような手甲を思わせる機械だった。手甲から伸びているケーブルと思しきパーツは肩に付けるパーツまで伸びていた。
そんな機械でどうしようって言うのか。
「――ッ」
既にリングマはグレイシアをも跳ね除けていた。吹雪を喰らい脚元が凍りつくものの、それを力づくで解除しこちらにのしのしと迫っていた。咄嗟にアタッシュケースを漁る職員がそれに反応する事は叶わず。
「ぶっ!?」
リングマの衝動のまま、一方的に薙ぎ払われた。女性は悲鳴を上げるより先に身体はルカリオよりも簡単に木の葉の如く吹っ飛び木に衝突する。女性を吹っ飛ばした次の標的はアルトだ。咄嗟の反応でリングマの巨体を掻い潜り事なきを得るも、やはりギリギリで耳元で風を切る音がして、己が身の危険をひしひしと感じた。
あんなものを貰ったら確かに無事では済まない。
「――ッ」
グレイシアとルカリオが
とはいえ、先ほどリングマに直接殴られた彼女が気になって駆け出した。
「ちょっと大丈夫か!」
木に凭れるように倒れた女性は手に持っていた手甲型の機械を左腕に嵌めようとしている。……しかしそれを見過ごす事は出来なかった。何せ彼女の身体はリングマの一撃を喰らってその純白の衣装を血に染めていた。褐色の肌にも血が伝い、機械を取り付ける為の左腕はもろにに喰らった所為で血だらけだ。そんな腕でどうにかなるとは到底思えなかった。
「逃げて。あいつは倒しますから……」
「倒すだけじゃ……駄目。あのまま放って置けば生態系も、リングマ自身も……」
無理に立ち上がろうとする彼女の姿にアルトは苛立った。何が彼女をそうさせるのか。それを放置して勝手にやらせるほどアルトとて薄情でもない。
「その機械でどうしようって言うんだ! 何が出来るって言うんだ!」
苛立ちと怒りのままに叫ぶ。
「スナッチ……」
「スナッチ?」
あの最新型ゲーム機スイッチ……じゃなくてスナッチ。snatch。意味はひったくる、強奪する。
あまり聞こえの良い単語では無かった。アルトは顔を顰める。カツアゲラッパーからすれば必涎のアイテムかもしれない。
「今のリングマは普通じゃない……このまま放って置けばリングマ自身にも負担が掛って死んでしまう。限界まで暴れ狂い続けるから他のポケモンも自然も不用意に傷付く。だから……そうなる前にこれを使ってスナッチを……捕獲しないと」
「その腕でボールを投げるって。いやどう見ても無理でしょう……」
「無理でもやるのよ……! それが、あの仔を助ける事に繋がるなら私は……! あぅっ!?」
額に脂汗を浮かべ、フラフラと歩きはじめるものの痛みで脚を止める。アルトはそれでも行こうとする彼女の右肩を掴んだ。振りほどけるほどの体力は無いらしく、そこから一歩も前へと進めなかった。
「何が貴女を駆り立てるのかは知らない。でも今の貴女を行かせる訳にはいかない。だからソイツの使い方を教えてください。……俺が、俺が行きます」
今この瞬間、彼女がやろうとしている事には嘘は無い。スナッチという単語が未だ脳裏に引っ掛かり続けていたが、リングマを救おうという意志はきっと本物だ。そう信じてみたかった。
「スイッチを入れて」
左腕に取り付いた手甲型の機械――その名もスナッチマシン。運よくアルトの手のサイズが合っていた。ここでサイズが合わなければ目も当てられないので少し安堵しつつ、指示通りに起動の手順を踏んでいく。
《ready》
低い電子音が鳴り、起動したように手の甲に嵌められた丸いクリアパーツが黄色に点灯する。
「ボールを持って5秒経てばスナッチボールは完成する……本来ならわたしたちエーテル財団がやるべき事なのに通りすがりのポケモントレーナーに全部任せてしまう形になって……我ながらほんと情けない話よ」
エーテル財団。ラジオのニュースで聴く限りポケモン保護を行っている団体だとか。虐待されたポケモンや絶滅危惧種の保護活動を主としている。
彼女をそうさせる意味が分かり腑に落ちた気がした。
「せめてこれだけでも。ニンフィア、お願い」
木に凭れ、せめてこれだけはとボールを投げむすびつきポケモンのニンフィアを呼び出す。イーブイから進化する数多くの分岐の一つ。ポケモンに好かれてなければニンフィアに進化したりはしない一匹だ。
ニンフィアはアルトを見上げて、鳴く。アルトは無言で頷き返した。
「まずポケモンを……リングマを弱らせて!」
既に消耗戦と化していた。
異様に強いリングマの猛攻はグレイシアをも疲弊させ、ルカリオは既に戦闘不能寸前になるまでグレイシアを庇うように立ち回っていた。
「ルカリオ、戻れ……! 行けリーフィア!」
ルカリオは即座にモンスターボールに戻し、リーフィアを入れ替わりに呼び出す。3体のイーブイの進化形が揃い、揃いも揃って鳴き声を上げた。
「ニンフィアって攻撃は出来ますよね?」
一応確認するように訊くと、エーテル財団職員の女性はこくりと頷いた。
「ムーンフォース、ハイパーボイスが撃てるわ……!」
「……リーフィア、もろに当てなくて良いからリーフブレードで攻撃しつつかく乱を。グレイシアはリングマの腕を狙って冷凍ビーム。ニンフィアはリングマの動きが鈍った所を狙ってハイパーボイス」
それぞれに指示を飛ばすとこの中で最もスピードのあるリーフィアが真っ先にリングマに飛び掛かり、リングマの攻撃を避けつつ、尻尾を自然の刃と変え、リーフブレードを掠めるように当てていく。
そして遠距離から隙を狙うようにグレイシアが冷凍ビームでリングマの腕を狙って狙撃。徐々にリングマの腕が凍り付いて行き、その重さに耐えられず攻撃が大振りになり、隙が増えていく。
既にルカリオとグレイシアが相当ダメージを与えていたので案外簡単に狙い通りに事が進んだ。グレイシアはルカリオがやられた事に腹を据えかねていたのか冷凍ビームの威力が心なしか上がっているように見えた。
そして一頻りリーフブレードで刻んだリーフィアが離脱した所を狙って、トドメのニンフィアのハイパーボイス。ニンフィアから吐き出される振動波を受け、リングマのダメージは限界点を迎えた。腕にこびり付いた氷は砕け、どさりと重く倒れ込む。
――勝った!
「空のボールを持って!」
言う通り、捕獲用の空のボールを左手で持つと、肩部パーツから伸びるケーブルに何かしらのエネルギーが走り、手の甲に入って行く。するとランプが黄色からに緑色に切り替わった。
《Full Charge》
「投げて!」
「行けよ……スナッチボールッ!!!」
地面を踏み締め、臍に力を入れる。左手に持ったボールが砕けんばかりの力を込めて握りしめ大きく振りかぶって――投げた。
ボールが一直線にリングマ目掛けて飛んで行き、命中前にボールが開き手を思わせるエネルギー波がリングマの身体を持って行くように掻っ攫い、ボールの中に納まった。
先程の騒ぎが嘘のようにボールは地面に転がり、ゆらり、ゆらりと動く。恐らく内部でリングマが抵抗している証拠だ。1分に渡る抵抗の末――
――やってしまった。
スナッチボールは制止した。これでもう捕獲は出来ただろうが、ポケモントレーナーとしては間違いなく最低の行為ではある。一応リングマやこの地の生態系を救うという大義名分こそあるがやや後ろめたいものは確かにあった。
アルトは制止したボールを拾い上げ、ぼんやりと左腕に付いた灰色の機械を見る。スナッチマシン……これは危険過ぎる機械だ。
これが量産、悪用されようならこの世界は瞬く間に大変な事になってしまう。
「ねぇキミ! ……ありがと」
でも。しかし。それでも。
エーテル財団職員の女性が優し気に微笑み、感謝してくれたのも確かで後ろめたさと達成感の入り混じった、それはとても複雑な気分であった。
ポケモンたちをボールに仕舞って、空のアタッシュケースも回収し彼女の止血などの応急処置をしてから背負い、スクーターのもとまで歩きながら、本当にこれでいいのかと思い悩む。
そこに答えは無い。堂々巡りの悩みだ。思春期男子特有の背負った所で女性の柔らかさにおどつくような余裕も無かった。
「キミは悪い事してないからね……悪いのはダークポケモンなんてものを売ってそれの誘惑に負けて買った人だから……」
「……」
ダークポケモンとは何なのか。恐らくヘルガーとかデルビルの事ではないんだろうなと、気負っている事を察した彼女の慰めの言葉を耳にしながら沈みゆく夕日を見て思った。
エーテル財団女職員は褐色可愛い。ツリー仕様はもっとかわいい
補足ですが、アルトはジョウト生まれホウエン育ち。つまりRSE主人公に近い境遇となっています。
ダークポケモンってなんぞやって方向けの説明は追々します。
実はリングマって本来図鑑説明ではそこまで凶暴な要素は見ないんですよね……縄張りを作りはしますけれど。素の危険度ではヌイコグマとかキテルグマの方が多分上じゃないかな、と(今回のリングマは暴走していたので素の性質がどうあれ関係は無いです)
7世代に新規テキストがあったら変わっていたのでしょうか……まさかUSMになっても全国図鑑無いままとは思いもしませんでしたけど仮に実装されても新規テキストが入る保証もありませんし。
※ここからはコロシアムシリーズ既プレイまたは知っている方向けのメタ説明。
本作のダークポケモンは技術の進歩でコロシアム及び、XD時代より強化されています。かがくのちからってすげー!
全能力2段上昇というと言い過ぎかもしれませんがそれくらいだと思うと良いかも。
その代償にポケモンに与える負荷は尋常では無く最悪死に至る可能性があるとかないとか。その上暴走する危険性もあり、今回のリングマのように暴れまわる可能性があります。
ルカリオが一発で大ダメージを喰らったのは当然XDの仕様。
下手な腕前では恐らくスナッチは困難なレベル
一体誰がダークポケモンをばら撒いたんでしょうかね……(すっとぼけ)