ダークポケモンヲツカイナサイ……サン&ムーン 作:ヌオー来訪者
幸い2番道路にポケモンセンターがあったので、センカという名前らしいエーテル財団職員の手当てを医者に頼んだ。
周知の通りポケモンセンターはトレーナー支援設備だ。しかしポケモンのみならず、人間の手当ても受け付けているし、ホテルに比べれば非常に簡素ではあるが宿泊施設や飲食店も配置されている。
センカの怪我は一応先に応急処置で止血していたとは言え所詮素人の真似事だ。プロの処置の方がずっといい。加えて、ルカリオをはじめとするダメージを食らったポケモンの手当てと、落ち着いた場所で彼女に訊きたい事もあった。
しかしアルトはポケモンセンター到着後、待機していたらしい別のエーテル財団職員から数時間ほどの事情聴取を受けさせられた。顔写真をも撮られたのは悪い意味でマークされたのか。スナッチマシンなる危険なマシンを部外者が使えば警戒したくもなるので当然の帰結だろうけれども。
事情聴取から解放された時には日は完全に沈みきっていた。併設された喫茶店の一角のテーブル席に処置を終えたセンカに呼び出され向かい合うように(隣で座るような間柄な訳がないが)座る。センカは左腕に三角巾を下げており、額にも包帯を巻いていたりと見ただけでも痛々しい姿となっていた。足も軽く捻っていたので杖も突いているという有様だ。
医者曰く、リングマにぶん殴られて外傷だけで済んでいる事が奇跡だという。本当に危なかったようだ。最悪内臓をやられても不思議では無かったらしい。
「大丈夫じゃ……無さそうですね」
「いやいや大丈夫大丈夫。それより、ほんとごめんなさい色々負担掛けてしまって……」
アルトはスナッチマシンというこの世界に於いては間違いなく禁断のそれを取り扱えば事情聴取を喰らう言う覚悟はしていたのでほとんど気にしていなかった。それより気になるのはアローラ地方に一体何が起こっているか、と言う事に尽きる。
「いや別に覚悟はしてました。あのまま逃げてたら殺されてるか、被害が別のところに行ってたでしょうしそこら辺はもう良いです」
「……色々訊きたい事あるんじゃないかな。何でも訊いて。出来る限りは答えるつもりだから」
怪我したとはいえ、どうしても弱くは見せたくはないらしく気丈に振る舞って質問に応える姿勢に入り、アルトも姿勢と表情を正し事前に用意した質問のネタを頭の中から引き出した。
「まず一つ。リングマが俺のルカリオを一撃で大ダメージを負わせた技について。あの技はデータに無かった。見るからにルカリオの弱点であるほのお技やじめん技のそれじゃない。ましてやかくとう技があんなドス黒いオーラを出すなんて初めて聞く。あくタイプなら効果はいまひとつ、尚の事効かないハズ……アレは何なんです? ダークポケモンって奴と何か関係が?」
「……それはまずダークポケモンが何なのかについて説明する必要があるわね。ダークポケモン……勿論、デルビルやヘルガーの事では無いのは言うまでもないか。ダークポケモンというのはポケモンを戦闘マシンへと強化措置を行った生物兵器よ」
強化措置、生物兵器。余りにも強烈な単語にアルトは言葉を詰まらせた。ポケモンを兵器として運用する思想自体は存在している。風の噂では古代のポケモンを改造して現代兵器を搭載した兵器に変えられたポケモンもこの世のどこかに存在している事や、太古の戦争の文献を紐解けば分かるものではある。しかしそれでも実際に相対してみるのとでは訳が違う。
センカは話を続ける。
「強化措置を行った事でありとあらゆる感情は抑制され、ポケモンの能力を最大200%にまで引き上げる事が出来る。リングマがそのダークポケモンとしての処置を受けており、今回キミのルカリオを追い詰めたのはそう言った要因もあるし、ダーク技と呼ばれる専用技の存在も大きい」
「……ダーク技?」
心の整理がなんとか付き、声を出す。
センカは頷いた。
「そう。ダークポケモンに強化措置を行った場合専用の技が割り振られる。それがダーク技。見た所リングマが撃ったのはダークラッシュ系統ね。ダーク技は全てのポケモンに効果抜群のダメージが入る。恐らくクリーンヒットしたのもあってキミのルカリオを追い込んだんでしょうね」
「……道理で」
ルカリオが弱いという訳では無い。元々この手持ちの中では最も強い部類だ。だというのに一撃で追い込まれたのはダーク技という特殊な性質を持つ技が原因だという事を突き付けられ、安堵と同時に危機感めいたものを覚えた。……まだあのリングマが最後ではないとしたら今後も脅威となりかねないという事だ。
いずれまた同じようなことが起こるのではないかという懸念がアルトの胸の内にあった。
「ただこれには致命的欠陥があって、リバース状態……所謂暴走状態になってトレーナーの制御から離れる可能性が低確率ながらも存在していると言う点がある。リングマが今回のように暴れていたのはリバース状態でトレーナーの手元から離れてしまったという背景もあると思われるわね。それにポケモンの限界を無視した強化措置だから下手すれば命を落とす可能性や生態系を破壊してしまう事だってあるのも無視出来ないわ。しかもそんなダークポケモンが裏で売買されているらしいのよ」
「やっぱりこれで終わりって訳じゃないんですか」
「そう。寧ろここから始まりかもね。オーレ地方のポケモン総合研究所及び国際警察の協力もあってわたし達エーテル財団開発部が完成に漕ぎつけたスナッチマシンを投入し、実戦投入したのはこれが初めて。わたし達の最終目的はダークポケモンを全て
センカは嘆くように愚痴り、苛立ちに荒れ始めた気をエネココアを一口啜る事で落ち着かせる。
確かに運が悪すぎるにも程がある。出鼻をくじかれた挙句大怪我してしまう憂き目に遭うなどと。些か可哀想に思えたものの、それより先に引っ掛かる単語が一つあった。
「そう言えばスカル団って……なんですか」
「え?」
「え?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔で彼女はフリーズし、質問したアルトも何故そこでフリーズされるのか分からずオウム返しをかまし、お互い何故疑問符を上げたのか理解できずしばしの沈黙が訪れた。そしてアルトが先に我に返った。
「いやスカル団って何なんですかって」
「あー……ホウエンから来たんだっけ……あぁ、そりゃ知らないか」
得心が行き、センカは「そういえばそっか……」と頷いてから、エネココアを一口啜ってから語り始めた。
「大雑把に言うとチンピラと言えばいいのかな……暴走族とかに近い奴。迷惑行為やらかしたり、具体的に言うと標識に落書きしたり標識そのものを盗んだり、人からカツアゲしたり、ヤドンの尻尾を資格も持ってない上に無断かつ強引に引っこ抜いたり」
「うわぁ、随分とはた迷惑なチンピラだ事……」
「中々地味だけど迷惑よ。何せ奪ったポケモンをどっかに売ってるんだから……被害に遭った旅行者とかちょくちょく居るし」
「……アローラの警察は何してはるんですか」
ロケット団を一回り二回り縮小化させてグダつかせたような組織像がアルトの脳裏で構築されていく。とはいえ、あの通行人に大したことは無いという言う辺り現地ではさして危険視はされていないのだろう。とはいえ警察は何をやっているのやら。放置していい事案も無いだろう。
「っと、脱線したから話しを戻すけれどダークポケモンはオーレ地方から入って来た人間が流したものだったりするのよ」
「なんで判るんです」
「ダークポケモンの製造技術はオーレ地方発祥のモノだからよ」
オーレ地方。それは不毛の地としても非常に有名で、広大な砂漠が広がっているような地方だ。アローラ地方とはまさに正反対の地方で、野生のポケモンは一部の場所以外では一切確認されていないような場所だ。ただコロシアムなどポケモンバトルの大会が盛んらしく、基本形式がダブルバトル故、ダブルバトルにおいては右に出るものが居ないとの評判だ。しかし治安も劣悪だという影の部分もある。
「大方ダークポケモンを製造した組織が居場所無くしてアローラに流れたものだとは思うのだけれども」
センカの言うことが真実だとしたらはた迷惑な話だった。
スカル団以上に迷惑だ。暴走したダークポケモンが自然を無為に荒らしまわるのだから迷惑を被る範囲で言えばその組織が製造したダークポケモンの方が上だ。
「これからどうするつもりで?」
ふと、気になったので訊いてみる。
シャドーとやらがどのような組織なのかは知る由もないが、得体の知れなさはあった。ダークポケモンを売って一体何をしようと言うのだろう。
「今後もスナッチを続けていくつもり。一応そう言う仕事だしね」
「その腕でですか……」
「ポケモンバトルの腕はそれなりにあるつもりなんだけど……結構強いと思うのよわたしのニンフィア」
明らかに強がりの笑みを見せてあからさまにズレた回答をしては居るも、三角巾で下げられた左腕が痛々しく映る。そんな腕でスナッチマシンを運用する事自体無茶だ。加えてこのままダークポケモンを野放しにしていれば今後フィールドワークに影響が出かねない。外部からの異物で現在進行形で荒されまくっている生態のレポートをオダマキ博士に提出する気にはなれなかった。
「や、そう言う意味じゃなくて、その左腕でボールを投げるって言うんですかって」
「大丈夫、何とかなる」
そう口だけは雄弁に語る彼女の眼は泳ぎに泳ぎまくっていた。
「もしもの代行とか居ないんですか」
「一応居るけど?」
「じゃぁその人に任せれば良いじゃないですか」
「それはそうなんだけど……」
センカは困ったように作り笑いをする。何故そこで困るのか分からず、アルトは眉を顰める。
「何か問題でも?」
「ううん。何でもない。あまり民間の人を不安がらせる訳にはいかないので話した事については他言無用という事でお願いね……キミは流石に話さなきゃ拙かったけどさ。キャプテンとか島キングはもうその辺は知ってるんだけど。……もう時間だから今日はここで話はお仕舞い。今日は本当にありがとう」
そう言って残ったエネココアを一気に呑み干したセンカは席を立った。流石に正規装着者が大怪我したようでは上層部も多少は焦るだろう。
さて、要点を纏めよう。
このアローラ地方にはダークポケモンなる強化措置されたポケモン何者かによって持ち込まれた。
ダークポケモンとは通常のポケモンの限界以上の力を引き出した戦闘マシンと化したポケモンの事であり、その力こそ凄まじいが、デメリットが幾つかある。
一つ、限界以上の力を常時引き出している為過度な負荷で死に至る危険性があるという事。
二つ、暴走しトレーナーの制御から離れてしまい見境なく破壊活動を始めるという事。この点についてはポケモンのもとの性質は関係ない為温厚なポケモンであろうが暴れ倒す。
状況を重く見たエーテル財団はスナッチマシンを開発。これに対抗した。
ククイ博士やオダマキ博士の言動からして、ダークポケモンがアローラに居る事は知らないの確実だ。現状島キングとキャプテンしか知らない辺りまだ情報開示されている範囲はたかが知れている。とはいえ博士たちを欺けるのは時間の問題だろう。
「にしてもなんか引っ掛かるなぁ……なんかスッキリしないというか」
アルトは長話で冷めた自分のエネココアを啜る。色々説明を受けたのにもかかわらず喉に小骨が引っ掛かっているような気分だった。
◆◆◆
それから5日が経過した。エーテル財団による事情聴取や監視もあり、遠くへは行けず5日丸々無駄にした。
ポケモンセンターに併設された簡易宿泊施設で一夜を明かしたアルトは2番道路の散歩に出かけた。特に行く当てがあった訳では無い。
強化措置を施した生体兵器ダークポケモン。アローラ地方を荒しまわる暴走する個体が未だこのアローラ地方に何匹も居て、各地で暴れ回っているという。ここ、メレメレ島には確認されている持ち主のコントロールから離れた暴走ダークポケモンはまだ居る。そう思うとあまり気が落ち着かなかったし、拘束期間もあってすっかり鈍ってしまった身体に喝を入れたかった。
「……悪いがここからは立ち入り禁止だ」
しばし二番道路をあてもなく歩いているとバリケードが配置されていた。バリケードの前にはエーテル財団の制服を着た職員の男性が数名が見張っていた。
「何があったんですか」
「凶暴化したポケモンの暴れた跡でかなりの数の野生のポケモンたちが傷ついて、道も荒された。まだ凶暴化した奴が残っているかも知れないとの報告もあるので島めぐりでもしているのなら調査と整地が終わるまで少し待ってくれ」
ここから先通る事が無理なら大人しく引き下がるしかないだろう。別にエーテル財団に喧嘩を売りに来た訳でも無く単に散歩しているだけなのだから。バリケードから背を向け他の所へと行こうとした矢先、見張りの男性職員に再び声をかけられた。
「ちょっと待ちたまえ。君もしかして……リングマを捕獲した例のアルトという男か?」
「……そうですが」
「知っているのだろう? この島に起こっている事を」
「ダークポケモン、そしてそれの暴走ですか」
「そうだ。なら通ってくれ。可能であれば君には協力して貰いたいんだが……」
そう言いつつ、職員はバリケードを人が1人程通れるぐらいに開ける。
ここでバリケードの先を通らないという選択肢もある。しかしそれよりも暴走状態のダークポケモンが齎すものについてもう少し知っておきたいという知的好奇心的なものが勝った。百聞は一見に如かず、という奴である。
それに自分とは無関係だとは今更居ないふりをしたりシラを切れなかった。アルトは「考えて置きます」と曖昧な返事をしてから作ってくれたバリケードの隙間を通り抜けた。
バリケードの先をしばらく歩くと、その道は生々しい傷跡が徐々に姿を現していく。
爪が木々の肌を裂き、耐え切れず倒れ伏したものもあれば、倒れ伏すのも時間の問題なまでに傾いた木もある。爪痕の形状からしてスナッチしたリングマがやったのだろう。それが奥へ奥へと進むたびに増えていく。
リングマがここまで破壊魔の如く暴れるなど通常ならおかしな話だ。
胴体に生々しい傷跡を持った野生のガーディが爪痕が付いた木の陰でこちらを睨みつけている。アルトはそれを尻目に奥へと奥へと歩を進めていく。道中、二人組の財団職員が先のガーディより酷い傷を負った野生のポケモンたちを治療している姿も見かけた。その二人は憂鬱げに何かを話しており、アルトは聞き耳を立てた。
「このまま情報を隠ぺいしておくには無理があるよなぁ……少しずつだけどアローラがおかしくなって行ってるのは素人目でも分かるし現地民が気付かない訳がない」
「あぁ。リングマは保護したとはいえ、同様の暴走状態のダークポケモンはアローラ各地に何体も残っていて現在進行形で暴れてるか休眠してるかだものな。その上スナッチマシンの正規装着者が嫌なタイミングでスカル団に絡まれた挙句、ダークポケモンの攻撃で大怪我を負ったって言う」
「オイオイ……スナッチマシンの装着者、まともなの怪我した奴しか居ないって噂なのに大丈夫か……とはいえダークポケモンの存在を公表してしまうとおのずとカプがダークポケモンにやられたなんて結論に至る奴も出てくるからなぁ……」
「カプがアレを放置する訳が無いものな……あれは島に厄を齎すモノだ。それなのにカプが出ずに状況が悪くなっていく一方だとそういう結論に出てもおかしくは無い」
2人の職員の諦観混じりの話し声から察するに事態はかなり深刻のようであった。
カプというのはアローラ地方の守り神とされる伝説のポケモンだ。合計4体おり、アローラ地方4島に1体ずつ配置されている。それらがやられるなどと想像するのも難しい話だが、カプの介入が確認出来ないとされる以上職員たちの言う通りそう言った結論に至ってもおかしくはない話だった。カプが島を破壊して回るダークポケモンなるものを放置するとは到底思えないのだから。
無用な混乱を避ける為の情報隠ぺいだろうけれども、限界は迎えつつあるのは目に見えていた。
「キミなんでいんの」
思考に耽りつつ暫く2番道路閉鎖区域を彷徨っていると、聞き覚えのある声がアルトを我に返らせた。
声の主、センカが不審げにアルトの顔を覗きこむ。怪我せず無事な片手には機能と同じスナッチマシンが入っていると思われるアタッシュケースを提げていた。足はどうやら回復したらしく杖はもう持っていなかった。
「ここ立ち入り禁止じゃなかったっけ」
「職員が通してくれました。大方事情聴取後に撮った写真から知ったんでしょう。スナッチの件も知ってました」
「あー…………」
センカは溜息を吐き額に手を当てる。
明らかに困っている人のそれである反応に、アルトはどうしたものかと立ちすくむ。すると手を降ろしたセンカは辺り一帯の惨状を見渡してから口を開いた。
「この通りダークポケモンが暴れた結果よ。悪い事は言わないからホウエンに帰った方が良いと思う。ただ……しばらく帰れるかどうかは分からないけれど」
彼女なりの気配りなのだろう。しかしアルトとしてはその言葉を素直には受け入れ難いもので、表情がやや苦々しくなる。
「そう言う訳には行くものか、こちとら見習い研究員卒業の為にここに来たんです。それに博士にも機密保持で話せないってんならどう言い訳すりゃいいんですか」
怖気づいて戻ったなどと言い訳すればそれこそ永遠の見習いで終わる。それに一応ホウエンを旅した身、そんな言い訳を成立させるには余りにも苦しい。
「…………」
畳み掛けるように言葉を紡ぐアルトに返す言葉が無くセンカは黙り込む。しかし、この物言いはただの八つ当たりだ。自身の発言を振り返りアルトは慌てて気を落ち着かせ、己の不慮を呪った。
「……すみません、当たってしまいました」
「いいよ……こっちが後手に回っているのもあるし」
続く言葉は無く、両者は黙り込む。センカはアタッシュケースの取手が軋む程に握りしめ、アルトはどうしたものかと途方に暮れる。アルトとしてもダークポケモン関連は迷惑千万も良い所で、生態系の時間による変化とは違い、現在進行形で研究対象を破壊されているのだ。邪魔も良い所だった。
しかしまともなトレーナーがセンカ以外いないらしいという噂を真実とするなら思ったより状況は切迫しているという事だ。こんな状況を打開するには……
「うわぁッ!?」
突如誰かの、悲鳴が二人の耳朶を打つ。咄嗟に声のした方へアルトとセンカが躍り出ると、エーテル財団職員たちが野生と手持ち共々ボロボロの姿で辺り一面に転がっていた。
「な……なにこれ……ッ」
誰も答えてくれないのは分かっているのに口から出てしまうのは人の常らしい。センカは状況を確認するべく倒れた職員たちのもとへと駆け寄り、アルトもそれを追い駆け寄る。
「一体何があったんですかっ」
センカは倒れた職員を抱き起し、揺さぶると職員は弱弱しい動きである方向を指さした。
そこには――
金色一色の、いかにもディスコ辺りで踊り狂ってそうな珍妙奇怪な服装でグラサン。しかも頭には左側が赤く、右側が白いというモンスターボールを思わせる色合いの巨大なアフロが乗っているという、文字にするだけでもおかしな男が、ルンパッパ4匹と、ストリート系ファッションの若者2名引き連れて森の中をムーンウォークしていた。しかも微かではあるが軽快なミュージックが聴こえる。
あまりにもおかしな光景にお互い目を合せてからその男を二度見し、再び顔を見合わせた。
「なんだアレ? 財団の人?」
「あんな不審者財団に見た事ないわよ……!」
センカの返しから察するにあのアフロ男は財団とは無関係、となるとバリケードを強行突破でもしたのか。
倒れた職員が二人の疑問に答えるように絞り出すような声で返した。
「あいつに……やられた。ふざけたナリの癖して強いぞ……しかもあいつ怪我したポケモンを
「……オイオイ何の冗談だ」
あんなふざけた外見の男に職員が悉くやられたという事実に己が耳と目を疑った。とはいえ人間もポケモンも見た目だけで全ては決まらない。一見弱そうなものでも凄まじい力を秘めている事も多々ある。
アフロの男はこちらに気付いたらしくムーンウォークをやめてこちらへと向き、向かって来る。
まずい、逃げろ、とアルトの中のアルトが警笛を鳴らす。関わると絶対碌な事にならないぞ、とも叫んでいる。
しかしアルトの身体は逃げず、センカと職員の前に立ち、男がやってくるのを待っていた。ここで逃げれば倒れた職員はどうなるのか
「そこのキミたち~スナッチマシンを持っているね? 困るんだよね~ボクたちそのマシンの所有者たちに何度も迷惑したからね~」
男が指さした先はセンカの持っていたアタッシュケースだ。スナッチマシン狙い。つまり、スカル団の関係者かもしくはダークポケモンをアローラに流した組織か。確かな事は奴が敵であるという事だ。
アルトは身構えポーチに仕舞った手持ちの入ったボールに手を触れる。すると敵意を察知した男の矛先はアタッシュケースからアルトの方へと変わった。
「そこのキミ~アルトとか言ったね? 悪いけどォ、そのマシンはこのまま放って置く訳にはいかないんだよね~さっき言った通りボクたちの仕事の邪魔を何度もしてきたからさ~痛い目に遭いたくなかったらキミもつまらない事には首を突っ込まないほうがいいよ~」
「ふざけんなマルマイン頭。こちとら俺や現地住民はダークポケモンに迷惑してんだ、ダークポケモンはとっ捕まえて元に戻すというのが道理じゃないのか。普通感謝すれど迷惑はするもんじゃないだろ。……何モンだお前ら」
アフロの男はチッチッと指を振った。
「それはちょっと話せないな~? それに言ったよね~? つまらない事には首を突っ込まない方がいいよ~って」
「生憎首突っ込んで引っ込みが効かなくなりつつあるんでね。毒を食らわば皿までとも言う、お前を縛り上げて色々聞き出してやる。ダークポケモン流した連中側であるって自分から自白しているようなモンだからな」
「言ってくれるね~。ミュージックストーップ~!」
アフロの男は高らかにパチンと指を鳴らして手下と思われる金髪グラサンのストリートファッションの男にラジカセの音を切るよう指示すると、命令通りぷつりと軽快な音楽は途切れた。
「じゃァ力づくで退いて貰うよ~、ミュージックゥ! スタート~!」
「ストップした意味は!?」
ストップした意味はあったのか。アルトの悲鳴混じりのツッコミが虚しく響く。
再びいちから流れ始める軽快なBGMに調子を狂わされ困惑しながらアルトは2個のモンスターボールを取り出した。対しアフロの男は引き連れたルンパッパ2体を前衛に出す。
「おいそこのガキんちょ、ミラーボさんに勝てると思うなよ? 逃げるんなら今のうちだぜ!」
腰巾着ストリートファッション調の男の片割れで金髪グラサンがどや顔気味に挑発する。――曰くあのアフロ男はミラーボという男らしい。
アルトは金髪の警告を無視してリーフィアとグレイシアをボールから出した。
「悪いけどイーブイ系使いにはちょっとばかり恨みがあってね~手加減はしないよ~」
2体を見るや否や、ミラーボの声色が少し変わり険の入ったものとなる。まさに一触即発の空気でリーフィアとグレイシアのアルト側と、ルンパッパ2体のミラーボ側が睨み合う。
そして――
「ルンパッパ、《あまごい》!」
先に沈黙を破ったのはミラーボ側のルンパッパ、かくして戦いの火蓋が切って落とされた。
ルンパッパ(便宜上あまごいを撃ったルンパッパをルンパッパAと呼称する)が吐き出した水色のエネルギーの球体が空高く舞い、パチン、と弾けた。すると中から鉛色の雨雲が止め処なく溢れだし、たちまち大雨が降り出した。
大粒の雨粒がアルトたちの髪と服を濡らしていく。
そんな中でミラーボはコミカルな風貌に見合わぬ邪悪な笑みを浮かべていた。
・ミラーボ
カテゴリ:人物
出典:ポケモンコロシアム、ポケモンXD
コロシアムでは悪の組織シャドーの幹部の一人として主人公の前に立ちふさがった。モンスターボールっぽい色合いのアフロが特徴的で、服装も金色一色の風変りな男。
トロイとヘボイという結構あんまりな名前の部下を引き連れている。
続編のXDではシャドーを脱退したのか追放されたのか不明だが、さすらいのミラーボと肩書が変わり服装も金色から紫にとちょっと地味なものになり、シャドーとは無関係に行動している。
主人公がスナッチし損ねたダークポケモンを回収して戦力にしていた。が、XD主人公に徹底的に邪魔され、集めたダークポケモンは結局全てスナッチされた。
エースポケモンはルンパッパ。
今話で彼が「イーブイ使いにはちょっとばかり恨みがあってね~」と言っていたのはコロシアム主人公の初期手持ちがエーフィとブラッキー、XD主人公はイーブイだった為。ヘボイとトロイ共々アローラ地方に何故か上陸している。その理由は不明。
今回の服装はコロシアム仕様。
・ポケモン総合研究所
出典:ポケモンXD
カテゴリ:地名
XD主人公の家も兼ねている研究所。クレイン所長を筆頭に条件付きではあるがダークポケモンを自動でリライブするシステムの開発や小型スナッチマシンの製造を行った。
・スナッチマシン
出典:ポケモンコロシアム、ポケモンXD
カテゴリ:アイテム
モンスターボールをスナッチボールに改造し、その名の通りポケモンを
本来はシャドーと呼ばれる組織がスナッチ団というポケモン窃盗団に提供したものだったが、スナッチ団団員だったコロシアム主人公が組織を裏切り、マシンを強奪。以降主人公がダークポケモンのスナッチの為に使用した。
続編、XD主人公が使用するスナッチマシンはまた別の物で最初からダークポケモンをスナッチする為の機械としてポケモン総合研究所にて製造された。そのためダークポケモン以外はスナッチ出来ないようにセーフティが掛っている。
本作に於けるスナッチマシンは、ポケモン総合研究所と国際警察の協力と監修のもとでエーテル財団によって製造された物。正規装着者はエーテル財団職員のセンカ。臨時でアルトが使用している。当然通常のポケモンにスナッチマシンは機能しないセーフティが掛っている。
次回、005『踊るアフロに見る阿呆』