白金さん、誤字報告ありがとうございます!
ユージオが禁忌を犯した。
俺も他人事ではないのだけど、その衝撃は大きかった。
気になるのはユージオがウンベールの腕を切り落とす前に現れたと言うローブの男。
『選べ。このまま見過ごして後悔するか、その剣を抜いて後悔するか。なにも為せず悔やむよりも、なにかを為して悔やむべきだ。こんな下衆をのさばらせたくないならな』
『お前の剣はお前の心と共にあり、お前の心はお前の意思と共にある。その剣を抜くのなら覚悟を決めろ。この世界と相対する覚悟を』
そう言い放ちライオスを一蹴、ユージオが覚悟を決め剣を抜き放ったときに苦しみ始め
『気付かれたか……金髪優男、黒を頼む』
そう言い残し、窓を破って姿を消したのだと言う。
金髪優男はユージオを指しているなら黒は?
人か物か、あるいは何かの比喩か。
そして
ユージオの幼馴染みと同じ名前の少女。
『言動には気をつけなさい。私には、お前たちの天命の七割までを奪う権利があります』
『メガロス征伐のため雑事に人員を避けないと言うのに余計な手間をかけさせる……』
『メガロスを殺す……?』
『ええ。あの天災を幾度となく退けて来ましたが、それももはや限界に近付きつつあります。五十名はいた整合騎士もメガロスとの戦いの折り、二十名が命を落とし配下の騎士たちも既に千人余りが散りました』
最初こそ捕獲しようと試みたが捕獲隊の全滅という結果に終わり、それから幾度とメガロスと戦闘したものの殺す度に蘇り、その脅威を増しているのだという。
『殺せないメガロスを殺せるのか?』
『死なないのなら死ぬまで殺すだけです』
その時、彼女の瞳に宿っていたのは敵意と殺意を煮詰めたようなドロリと濁った妖しい光だった。
『お前たちをここで殺すのは簡単ですが、メガロス征伐のために戦力は一人でも多い方がいいと判断され、生かすことになりました。よってお前たちには洗礼を受けてもらいます』
ライオスの殺害、ウンベールの傷害により禁忌目録を犯し、洗礼とやらを受けるために独房にユージオと押し込められてしまったけれど大人しく待っているはずがなく、央都へ来てから姿を消していたキャスパーが独房の鍵を持ってきてくれたお陰で無事脱走。
キャスパーの案内に従い、長い螺旋階段を上り終えてから五分ほど走っただろうか、東西に延びる長方形の広場に辿りつくと北側のベンチに白銀の鎧を身にまとった騎士が座っていた。
ゆるく波打つ長髪にやや細めの体躯、左腰にはやや反りのある長剣が携えられている。そして、両の肩当てからは、濃い色のマントが垂れていた。
ひょいっと持ち上げられた右手に光っているのは、ワイングラス。見ればベンチにはボトルも一本置かれている。
「へぇ、俺達にもそのワインを振る舞ってくれるのかな」
「残念ながら、これは君たちのような子供……しかも罪人が口にできるものではないよ。西帝国産、百五十年物だ。香りくらいなら分けてやらないこともないがね」
キリトの物言いに、整合騎士はあくまで穏やかに対応した。ワインを一息に飲み干した騎士は立ち上がると、続けて思わぬ台詞を口にした。
「さすがに、我が師アリス様の慧眼であることよ。囚人の脱走という、万に一つの事態を見事に予期なさるのだから」
「あ……アリス様?我が、師……?」
唖然として繰り返した。
俺の言葉に整合騎士は鷹揚と頷き、気障な台詞を続ける。
「君たちの脱走に備えて一晩ここで過ごせと命じられたものの、正直私もまさかと思っていたからね。一瓶のワインを供に夜明かしするつもりでいたのに、こうして本当に現れるとは」
微笑みながら、騎士はワイングラスをベンチに置いた。空いた右手で長髪を掻き上げ、ほんの少し語気を強める。
「もちろん、すぐに地下牢に戻ってもらうがその前に少々厳しいお仕置きが必要だな。もちろん君たちも覚悟の上だろうね?」
薄い笑みは消えていないのに、長身痩躯のシルエットから圧倒的な闘気が吹き付けてきて、一歩下がりそうになるのを懸命にこらえた。
「なら、もちろんあんたも、俺達が無抵抗にお仕置きを受けるとは思ってないよな」
「ははは、威勢がいいね。まだ学院も卒業してないヒヨコだと聞いたけど、大したものだ。その
騎士の長広舌を聞いた途端、後ろでユージオが軽く息をもらしたが、その反応に注意を向けられなかった。なぜなら小憎らしいほど美声で述べられた台詞にはいくつか重要情報が含まれていたからだ。
まず整合騎士の名前には法則性があることが、これで明らかになった。整合騎士のアリスや《エルドリエ》が個人名。続く《シンセシス》が共通名。そしてラストネームは、名前でなくは番号だ。英語なのでユージオには判らないだろうが、恐らくアリスが三十番目、そしてこのエルドリエが三十一番目―――。
しかも、彼は『ほんのひと月前に召喚された』と言った。召喚という言葉は意味不明だが、エルドリエが最も新しく騎士に任ぜられた人間。しかも少なからぬ数の騎士が人界各地を警護するためにカセドラルから離れ、メガロス征伐のために多くの騎士が徴集されているはずなので、塔内にいる騎士は多くても十数人というところではあるまいか。
だがそんな計算も、眼の前の新米騎士を撃破しなければ、捕らぬ狸の何とやらだ。
左斜め後方に立つユージオに向けて低く囁いた。
「戦うぞ。俺が先に相手するから、ユージオは合図を待っててくれ」
「う、うん。でも……キリト、僕……」
「言ったろ、もう迷ってる場合じゃないんだ。あいつに勝てなきゃ、とてもカセドラルは上れないぞ」
「いや、迷ってるわけじゃなくて、僕、あいつの名前……ううん、後にしよう。了解。だけど無理はしないでね、キリト」
作戦が伝わっているのかやや不安なユージオの反応だが、のんびり打ち合わせをしている暇はない。
二歩前に出て広場のゲートを潜り、右手に巻き付けていた鉄鎖を解いて緩く握った。それを見た騎士は、ほうっというように眉を軽く動かした。
「なるほど、剣もなしにどうするのかと思っていたが、その鎖を武器にするつもりかこれなら、少しは戦いがましい戦いを期待できそうかな?ならば私も剣ではなく、こちらを使うとしよう」
さっと背中から引かれた右手が握りしめるのは、剣帯の後ろ側に留められていたらしい二つ目の武器――純銀の輝きを帯びる、細身の鞭だった。
愕然とする俺の視線の先で、鞭はエルドリエの右手からパラパラと解かれ、蛇のように石畳の上にわだかまった。
見た感じ四メートルほどあるような気がする。それに加え、薔薇の茎のように鋭い棘が螺旋状に生えていた。
「それでは……公理教会と禁忌目録に背いたあげく、牢破りまでしたその覚悟に敬意を表して最初から全力で相手させてもらうよ」
俺たちが反応する間もなく、エルドリエは右手の鞭に左手をかざすと、凛とした声で高らかに叫んだ。
「システム・コール!」
「……まったく。少し目を離せばこっちのコントロールから逃げるなんて……君の精神力を少し見くびってたかな?まぁ、どれだけ足掻いたって君は僕の手のひらの上。それに君の存在がいい具合に人工フラクトライト達に影響してるみたいだし、今回は多目に見てあげるよ」
狂気の笑みを浮かべ嗤う。
「あっちも時間が掛かるみたいだし、面白いものでも用意しておこうかな?SAOサーバーに残ってた没データ」
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「ベクタの家臣にでもしておこうかな?ボスがあのアカウントを使うみたいだし……にしてもダークテリトリーに何か居るみたいなんだよねぇ。人工フラクトライト一人分の空白があるのは分かってるんだけど……」
あとで加筆修正するかもです